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■防衛庁リスト問題
ピースデポのめざす『7本の柱』の一つに、「防衛・外交に関する行政の情報公開の前進」が掲げられており、情報公開法を活用しての調査活動は、ピースデポの根幹をなす事業の一つです。このたび明らかになった防衛庁作成の情報公開請求者リストについて、以下の論説が、朝日新聞「視点」(2002年6月1日)に掲載されました。
「防衛庁リスト 未熟な人権意識 改革せよ」
梅林宏道 (ピースデポ代表)
(2002年6月1日 『朝日新聞』 「視点」)
防衛庁が、情報公開法に基づく文書開示請求者のリストを作成し、庁内で配布していたことが暴露された。リストには、請求者の住所、氏名だけではなく、請求理由や思想傾向を推測させる情報が調査され、追加されていたという。
この法律を活用してきた私自身の名前も、間違いなく、そこにリストアップされていたであろう。怒りやあきれ果てたという感情と同時に、日本の民主主義がいまだ揺籃期にあるという苦い現実を改めて噛みしめることになった。
この事件は三重の意味で問題の深刻さを私たちに告知している。
第一に、行政機関において市民を思想・信条によって区別しないというもっとも初歩的な人権感覚さえ普及していないことが分かった。これは同時に、人権を恣意的に解釈してはばからない体質が、行政権力の中にあることを物語っている。
現在国会で審議中の「個人情報保護法案」に即して言うならば、法が行政権力の都合によって運用される危険が大きいこと、したがって、権力批判が確固として保証されることが極めて重要であることを意味するだろう。
第二の重要問題は、今回の不正が、情報公開法という、まさに市民が行政を監視し、行政の民主化を強めるための法律を舞台にして行われた点にある。しかも、リスト作成者は元情報公開室担当者であるという。リストの利用者も情報公開担当者たちであるらしい。
情報公開法の担当者が、その法律の精神をまったく理解していなかったことが判明した。
第三に、今回の事件は、強大な武装集団を文民統制する中枢であるはずの防衛庁において発生した。
リストの作成者や受領者は、三佐(少佐)や二佐(中佐)と伝えられるから、前線では隊長、幕僚では中堅幹部である。それらは、部下に対して文民統制の基本である人権や民主主義の考え方を垂訓できる能力がたたき込まれていなければならない地位である。
事件は、そのような階級の人間に人権感覚が皆無に近いことを示した。
私たちは、たまたま例外的な事件に出くわしたのだろうか。いや、私はむしろ、今でも私たちが日常に接している「お上」意識が、この事件に再現されていると考える。
中央官吏の多くは、市民を治めるべき対象と考えている。彼らの権力の源が市民に発しているという根本思想がどれほどの官吏の身についているだろうか。
私は、十数年前、情報公開先進国である米国の情報自由法を使い初めたが、そのときのカルチャー・ショックを今でも記憶している。米議会が発行した市民向けマニュアルは次のような趣旨の宣言から始まっていた。
「政府のもつ情報は人民のものである。国の機能は、社会に役立つように情報を保管することである。」
実際、この原理に合致した担当者の具体的な応対に接して、私は目からうろこが落ちる思いを何度もすることになった。
もし、防衛庁の役人がこのような確固とした教育を受けていたならば、今回の思想調査まがいの事件は発生し得なかったであろう。
情報公開制度は、このような基本認識における文化革命を伴って初めて、民主主義への一里塚となる。
私は、今回の事件によって、市民が誕生したばかりの日本の情報公開法を忌避することを虞れる。事件の徹底した調査と公開、関係者の処分はもちろん、背景にある行政官の未熟な人権意識の徹底した改革が行われなければならない。
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