■NGO意見表明■

2003年4月30日、NPT再検討準備委員会、ジュネーブ
(NPT再検討準備委員会におけるNGO意見表明のセッションにおいて、日本のNGOをとして初めて梅林宏道が意見発表する内容です。梅林が起草し、NGO間で回覧、修正されたものです。情勢の推移により部分的な文言の変更がありえます。原文は英語。)


DPRK(朝鮮民主主義人民共和国)のNPT脱退危機と東北アジア非核地帯---梅林宏道


 議長、各国代表、友人の皆さん。
 朝鮮民主主義人民共和国(DPRK、北朝鮮)の核不拡散条約(NPT)からの事実上の脱退は、心が痛む遺憾なできごとことであります。事実上の脱退はNPT史上初めてのことです。NPTは、国際司法裁判所(ICJ)が1996年の勧告的意見で述べたように、「あらゆる分野における核軍縮を導く交渉を完結させる」ことを、すべての加盟国に対して義務づけており、多国間の枠組みによる核軍縮へのかけがえのない基礎となっています。私たちは、DPRKがNPTからの脱退を再考し、NPTに合致した手段を通じて核兵器のない世界を実現しようとする人類の奮闘に再び合流するよう、心から要請します。

 DPRKのNPT脱退宣言に至る最近の経過をつぶさに観察するとき、私たちは、国際社会に誠意が支配しなければ、条約がいかに脆いものであるかを思い知らされます。2003年1月10日の北朝鮮のNPT脱退宣言は、国家の「主権と安全は米国のDPRKに対する悪意ある敵対政策のために深刻に害されようとしている...」、「ブッシュ政権が登場してから、米国はDPRKを悪の枢軸の一つに数え、その体制に反対する政策を採用している...」と述べています。この声明は、その内容に同意するか否かにかかわらず、NPTという条約が、一国の安全保障全体の文脈の中に置かれていることを明白に示しています。米国大統領による有名な「悪の枢軸」演説が行われた僅か15か月前の米朝共同コミュニケを想起したいと思います。2000年10月12日に出されたそのコミュニケでは、両国は蜜月にあるかのように、次のように宣言しました。「いずれの側も相手に敵意を抱かない。そして両政府は、過去の敵対関係を清算して新しい関係を築くために今後全力を尽くすことを誓約する。」その後の15か月の間に、米朝関係に重要な問題は何一つ起こっておらず、起こったのは米国における政権の交代だけであります。その後の米朝関係の悪化を見るとき、私たちは、いやしくも信頼できる国際関係が成立するためには、最低限、独立国間の合意事項の連続性が保証されなければならないことを、再確認する必要があります。

 NPTからの脱退宣言にもかかわらず、DPRKは、「少なくとも現段階」では非核兵器国に留まることを公式に誓約しました。脱退声明のなかで、「NPTから脱退するが、我々に核兵器を生産する意図はない。現段階における我々の核活動は平和目的だけに限られるであろう」と北朝鮮は述べています。このような状況の下で、一方では北朝鮮にNPTへの復帰を求め続けると同時に、東北アジアにおける核の不安定化を封じ込めるために東北アジア非核地帯を設置することが、ますます緊急の課題になっています。トラテロルコ条約が、1998年にブラジル−−核技術をもった地域の大国でした−−がNPTに加盟するまで、非核ラテン・アメリカを確保してきたことを私たちは想起すべきであります。実際には、東北アジア地域においては非核地帯はさらに大きな意味を持っています。

 各国代表の皆さん。
 東北アジアは特別の地域であることを想起していただきたいと思います。そこでは、広島、長崎で数十万の日本人と十万人の朝鮮人が被爆したのです。朝鮮人の多くは、日本の植民地支配下で強制的に日本に連れて来られた人たちでした。当然ながら、この地域の人たちは壊滅した市街と、57年間にわたって被爆者とその子孫が被った苦しみを目撃してきました。それによって核兵器が何たるかを知っています。このような類例のない歴史を持つ地域において、核兵器の拡散が起ころうとしているのです。これは、この地域における安保政策や慣習がまったく失敗であったことを意味しています。被爆の歴史にもかかわらず、政府は核兵器の非人道性について地域的な規範を確立することに失敗しました。それどころか、政府は核兵器でお互いに脅迫し合っているのです。

 日本の一市民として、私は日本政府の責任に触れないわけにはゆきません。広島、長崎が人間に及ぼした結末を知りながら、日本はなぜ米国の核兵器の傘に依存しているのかと問われたとき、日本の市民は世界の人々に何と応えればよいのでしょうか。日本は、平壌を第3の広島、長崎にすると脅すことによって自国の安全を確保しようとしているのでしょうか。被爆者が発してきたもっとも重要なメッセージは「これ以上被爆者を作るな!」でした。私たちは、日本が国連総会に提出している「核兵器の完全廃棄への道程」決議を歓迎します。また、完全廃棄にはステップ・バイ・ステップのアプローチが必要だということにも同意します。だとすれば、日本政府は、日本がどのように米国の核抑止力から脱却しようとしているのかを示すべきです。それは、2000年NPT再検討会議で日本自身も誓約した13項目合意の一つを順守することでもあります。その項目は「核兵器が使用される危険を最小限に押さえるとともに、核兵器の完全廃棄の過程を促進するために、安全保障政策における核兵器の役割を縮小する」と述べています。私たちは、非核地帯が、この目標に向かう真の一歩になると信じます。

 各国代表の皆さん。
 現在の北東アジアにおける安全保障の基本構造は極めて単純であります。地域外の超大国、つまり米国との軍事同盟関係によって二つのブロックに分断されているのです。この地域に前方展開する10万人の米軍が、常に地域安保の方程式における鍵となる因子でした。そのため、あらゆる安保議論が最初から軍事の言葉で語られてきました。最新の例は、米国のミサイル防衛計画が引き起こしているミサイルとミサイル防衛のいたちごっこです。私たちは、このような「平和の文化」ならぬ「武器の文化」を拒否し、克服しなければなりません。この地域の政府も市民も、この地域の安全保障を協調的な対話をとおして建設する責任があるのは、地域の市民自身であるという原則にもどる必要があります。非核地帯はそのための有力な第一歩となります。

 東北アジア非核地帯に関して、私たちは、関係国がすでに宣言している公式政策に基礎を置く現実的なシナリオを提案しています。それは、三つの非核国、つまり韓国、北朝鮮、日本が非核地帯の中核の国となり、中国、ロシア、米国の核兵器国が支援国として非核地帯を構成するものです。このようなスリー・プラス・スリー体制は、1992年の南北朝鮮による朝鮮半島非核化共同宣言と、以前からの日本の非核三原則を基礎に築くことができます。これらの政策によって、三か国は地帯内において核兵器の実験、製造、保有、配備などをしないという条項に同意できるはずです。日本の巨大なプルトニウム貯蔵を目前にして、南北朝鮮は朝鮮半島だけの非核化に慎重にならざるを得ないことを考えると、三か国が一つの検証体制に組み込まれることが不可欠であります。その意味で、非核朝鮮半島はその範囲を拡大し、日本を単一の制度に組み込む必要があるでしょう。

 スリー・プラス・スリー体制において、三つの核兵器国は、非核地帯に対して核攻撃や核攻撃の威嚇を行わないという法的拘束力のある安全の保証を与えることが要求される。このような保証は、1995年の国連安保理決議984を含めて、三か国の政策と対立するものではありません。中国は、無条件の安全の保証を与えているという点において、より厳密な政策を持っています。また、1998年、2002年のNPT再検討準備委員会の米国の主席代表であったノーマン・ウルフ大使が、1998年に消極的安全保証について次のように述べたことを想起しておきます。「我々は、非核地帯が関与する地域的アプローチが、この(法的拘束力のある消極的安全保証)分野において前進を遂げるための最善の機会を与えてくれると信じている。」その上米国は、1994年の枠組み合意において、他の条項が履行されたときには、「米国は、米国による核兵器の使用や使用の威嚇を行わないという公式の保証を北朝鮮に与える」という内容に署名しました。現時点では、この枠組み合意は有効では無くなっていますが、この最近の前例は、ある条件下で米国が安全の保証を誓約する用意があることを示している点で重要な意味があります。また、中国とロシアによる法的拘束力のある安全の保証は、日本が主張するところの核の脅威から日本を解放し、したがって米国の核抑止力への依存から日本を解放することになります。

 朝鮮半島の平和的な統一を確認した2000年6月の歴史的な南北首脳会談から2年経って、東北アジアではもう一つの歴史的な首脳会談が行われました。2002年9月に日本の小泉純一郎首相とDPRKの金正日・国防委員会議長が、平壌宣言に署名をしたのです。宣言においては、両国は、「(地域の諸国が)地域の信頼醸成を図るための枠組みを整備して行くことが重要であるとの認識を一にした」と述べています。三か国による東北アジア非核地帯についての交渉は、これら最近の首脳会談によって作られた基礎を固めることのできる現実的な手段であると私たちは信じます。

 結論として、準備委員会に対して次の勧告を行って私の発表を終えたいと思います。

  1. 準備委員会が、北朝鮮に対してNPTへの明確な復帰を要請するとともに、核問題を含む地域の安全保障問題の解決のために、東北アジア三か国−−韓国、北朝鮮、日本−−に対して、核保有国による法的拘束力のある安全の保証条項を備えた非核地帯を確立するため、交渉を開始するよう奨励すること。
  2. 東北アジア諸国及び中国、ロシア、米国など他の関係国の間の建設的な協議が進展するよう、ASEAN地域フォーラム(ARF)−−アジア太平洋の唯一の安全保障問題に関する多国間地域フォーラム−−が調停の役割を果たすことを期待します。そのために、来るべき6月18日にカンボジアで開催されるARFを最大限活用するよう、準備委員会はASEANの指導者たちに要請して下さい。これら六か国はすべてはARF参加国です。
  3. 米国に対して、北朝鮮を含めた国を名指しして先制攻撃対象にした危険な核政策の撤回を要求すること。それは、NPT下で得られる安全の保証を台なしにするのみならず、不必要な緊張と猜疑を生みだし、国際平和と安全保障に対する大きな脅威を生みだしています。

 ご静聴ありがとう御座いました。(以上)




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