■ 書評



2001年1月14日(日)、朝日新聞読書ページ掲載
「悪魔学」の空虚さ

中川謙(論説副主幹)

『検証「核抑止論」−−現代の裸の王様』
(R・D・グリーン著、梅林宏道ほか訳)
高文研・1,500円+税




 「思考停止」という用語があって、平和を重視する論などによく投げつけられる。
ところがこの語を多用する人の方こそ、核の存在には思考をやめているように見えてならない。
 核を支える「抑止論」を「中毒症」と断じたのが本書である。なるほど、中毒ならまともな思考ができるはずもない。英海軍で核攻撃機に乗務した経験のある著者が、この論の空虚な実相を描き出している。
 その骨格は実は意外と単純である。相手が核で攻撃してきたら核で報復する。それが怖いからお互いに使用を控える、という理屈。
 ここに問題が生まれる。本当に使えない核なら、抑止の効果もおぼつかない。見かけだけでも使えるようにと、保有国が量質にわたる核軍縮を始める。本書は世界の現状をそう描く。
 この矛盾の輪を覆い隠すのには、仕掛けが要る。相互確証破壊、柔軟反応、存在論的抑止。やたら難解な核概念もその一つだろう。それは「神学」というより「悪魔学」、と説く著者の指摘に素直に納得する。
 「それでも大戦後、核戦争はなかったではないか」と言い張るのが、抑止論者である。それにも本書は、キューバ危機、湾岸戦争を引き合いに、核が「抑止」より「挑発」に働いてきたことを例証してみせる。
 多くの人に、核を思考する意味を教える本である。(なかがわ・ゆづる)





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