
第53回国連総会での日本の軍縮方針演説 第53回国連総会第一委員会での林暘軍縮大使の演説 (全17節からなる。うち4節を除いて全文を掲載する。) 1998年10月13日 ニューヨーク 議長、まずはじめに、日本代表団を代表して貴殿の第53国連総会第一委員会議長就任に対し心からお祝い申し上げます。貴殿の軍縮問題の外交経験と外交技術、そして軍縮問題に関する知識は、−−その質の高さはジュネーブ軍縮会議(CD)において十分に明らかにされたのですが−−、当委員会において我々を実のある議論へ導く大きな助けになるでしょう。我々の目の前にある諸課題は今年特に重要性をもつものであり、貴殿が当委員会を成功裡の終了へと導くために、わが国代表団の完全なる支持と協力を保証いたします。 議長、冷戦終結後、国際社会は国際の平和と安全のための新世界秩序の設立という困難な課題に直面しています。我々は完全なる成功にはいたっていませんが、我々の誠実で精力的な努力が、化学兵器禁止条約(CWC)、包括的核実験禁止条約(CTBT)、対人地雷禁止オタワ条約などのいくつかの実を結んだことは、注目すべきことです。条約交渉とその締結が重要であることはもちろんですが、同様にそれらの条約が普遍的な加盟を得て、効果的かつ完全に履行されることも重要であります。我々は、そうでない状態に満足したり甘んじたりすべきではありません。 また、CDが再び活性化して、非核兵器国に核兵器の使用や威嚇をおこなわないことを保証する効果的な国際的とり決め(NSA)に関する特別委員会、および、核兵器およびその他の核爆発装置用の核分裂物質の生産を禁止する条約に関する特別的委員会を設置したこともまた、注目に値することであります。CDはまた、今年6人の特別コーディネーターを任命しました。各コーディネーターのもとでCDがおこなっている実質的で建設的な議論を、我々は評価するものです。 議長、軍縮分野での確かな達成がこれまで得られてきた一方で、インドとパキスタンは核実験を実施し世界に衝撃を与えました。この核実験は、軍縮と不拡散への国際的努力にまっ向から逆らうものでした。 日本の小渕総理大臣は、国連総会での最近の演説において、このことが不拡散体制に対するきわめて重大な挑戦であると述べました。不拡散体制の強化がきわめて重要であることを強調しつつ、彼は以下の5つの目標が緊急に注目されるべきであると指摘しました。 ●第一に、NPTへの普遍的な加盟。 ●第二に、不拡散を保証するための、核兵器やミサイルに関する備品、材料および技術の厳格な輸出管理。 ●第三に、CTBTを普遍的に支えることによる、これ以上の核実験の防止。 ●第四に、核兵器国による核軍縮のいま以上の前進。 ●第五に、核分裂物質生産禁止条約(FMCT)交渉の早期完結。 議長、日本は最近の核実験はきわめて真剣な問題であると受けとめています。それは、NPTへの挑戦を投げかけており、NPTの基盤そのものを崩しかねないものだからです。我々は、NPTが世界的な核軍縮および核不拡攻の基本的な枠組みであると考えています。このような背景に反して、条約の非加盟国であるインドとパキスタンによる最近の核実験は、国際社会への大胆な挑戦であります。NPT締約国は、一方では、非核兵器国が核兵器を開発するといういかなる意図も放棄することによって、他方では、核兵器国が核兵器の削減および究極的な廃棄をおこなうことによって、核兵器の廃棄を誓約しています。すなわち、NPTとは、核兵器国が永続的に核兵器を保有することが許容され、他の国には核兵器の保有が禁止されている、というような枠組みではありません。187もの国々がこの考えに承諾しており、その結果NPTは世界中の条約の中でもっとも多くの参加国を得ているのです。 以上の観点から、日本は、核実験を既成事実と受けとめてそれに応じて行動すべきであるという考え方を、決して支持することはできません。むしろ我々は、核実験後に採択された安全保障理事会決議1172がきわめて重要であると考えます。日本政府はまた、P5やG8の声明という形で国際社会が発した、強力で明確なメッセージを歓迎します。 議長、ではここで、我が国政府が不拡散を強化し核軍縮を促進するためにとってきたイニシャチブについて説明させていただきます。 第一に、核実験の直後に、当時の外務大臣であった小渕現総理大臣は、インドとパキスタンに核兵器計画を放棄させるための実現可能な措置を考えるとともに、世界的な不拡散体制を強化し核軍縮を促進する適切な方法を検討するための国際フォーラムを、緊急に設立することを提案しました。続いて、そのフォーラムは「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」と名付けられ、その第1回会合は、世界中からの多くのすぐれた政府関係者と研究者双方からなる専門家の参加を得て、8月に開催されました。このフォーラムは、将来の核不拡散と核軍縮への努力のための指針として活用可能な、具体的で建設的な勧告を含む報告を提出する予定です。 第二に、日本政府は第一委員会のこの会期中に、核軍縮に関する決議を提出いたします。日本政府は、核兵器の究極的な廃絶に関する決議案を、1994年に初めて提出しました。これは、加盟国の大多数の一員として核兵器廃棄の明確な誓約を示すとともに、翌年の(NPT)再検討・延長会議に向けて好ましい土台を準備するものでした。1995年のこの会議において採択された「核不拡散と核軍縮のための原則と目標」は、その内容を反映して、国際社会の共通の目標としての「核兵器の究極的な廃絶」に明確に言及しました。以来毎年提出しているこれに続く決議は、国連加盟国の圧倒的多数の支持により採択されてきており、昨年には、すべての核兵器国が支持しました。このような実績を基にして、日本政府は今年新しい決議を上程するつもりです。それは、核兵器のない世界という目標への世界的な誓約を得ることを目的としています。 議長、この目標は広く共有されてはいますが、その達成に向けた方法や措置に関する意見には相違がみられます。日本政府は核軍縮を達成するために、具体的で現実的な措置をとるという「ステップ・バイ・ステップ」の方法を提唱してきました。このような観点からは、CTBTに続く次の段階は、1995年の「原則と目標」に記されているように、核兵器およびその他の核爆発装置用の核分裂物質の生産を禁止する条約とするべきであります。 日本は、CDでのこの問題に関する特別委員会の設置の決定を歓迎します。この特別委員会は、今年は交渉開始はできませんでしたが、CDは来年の会期で早期に同委員会を再設置し、実質的な交渉ができるかぎり早く開始されるようにすべきです。 核分裂物質条約の義務範囲(スコープ)や構成についてはこれから交渉されるべきですが、日本は、核分裂物質の生産の禁止は、核軍縮と核不拡散の双方への重要な措置として働くであろうと確信してます。 核分裂物質生産禁止条約の交渉の中で出されるさまざまな問題の中で、どのように貯蔵物質をとり扱うかという問題は、もっとも議論の分かれるところの一つでしょう。日本は、貯蔵核分裂物質の問題は放置することのできない大きな問題であると確信しており、それをとり扱うもっとも適切な方法について、集中的に審議することを求めます。 貯蔵の問題に加えて、これから解決されなければならないいくつかの技術的問題があるでしょう。この点については、日本政府は今年5月にジュネーブで「カットオフ条約の技術的側面」に関するセミナーを開催しました。我々は、同じ目的で他の国々がとったイニシャチブを歓迎したいと思います。日本政府は、核エネルギーの平和利用の分野において幅広い知識と経験をもっており、この問題の交渉に建設的な貢献を続けていきます。 議長、核分裂物質条約が多国間でとるべき次の措置ではあることは疑いのないところですが、それはもちろん、最終の措置ではありません。核分裂物質の生産を禁止するという発想が、実際に交渉が始まるところへと進展するまでに数十年を要したいう事実を考慮するならば、FMCTに続くべき実現可能な一つまたは複数の措置についての審議が開始されることは、時期尚早ではまったくないと我々は考えます。この見地から、CDが、議長団の協議を通じて、核軍縮に関する諸問題をどうとり扱うかについて真剣に議論をおこなったことは注目されるべきことです。日本政府は、これに続くCD議長団のこの問題での努力を高く評価するとともに、これらの協議が、核軍縮の促進への多国間でとるべき追加的な措置を議論する適切で効果的なしくみを、早期につくり出すことを望んでいます。 議長、核軍縮は国際社会全体で共有されるべき責務であります。しかしながら、核兵器国が主要な責任を負うべきであることは否定できません。この意味で、二つの最大の核兵器国である合衆国とロシア連邦による核削減措置は、もっとも重要であります。日本は、この両国がこんにちまでに達成したことがらを評価するとともに、START?の早期発効と、できるかぎり早期のSTART?交渉の開始を求めます。 いくつかの核兵器国が、最近多くの核軍縮措置を実施してきたことは注目されるべきです。連合王国の「戦略国防見直し」のイニシャチブはその一例です。核兵器国が一方的に保有核兵器を削減するいかなる措置も歓迎されるものであり、それは他の核兵器国によるさらなる核軍縮措置へとつながる環境を生みだすものです。 さらに言及するに値する措置は、合衆国とロシア連邦の間で結ばれた、余剰プルトニウムの管理と廃棄に関する協定です。この決定は、確かによい方向へ向かうものと言えます。 それにもかかわらず、過去数年間の核軍縮の前進は遅々としており、国際社会の期待にこたえるものになっていません。核軍縮への努力が加速され、増強されることが真に望まれるところです。 核軍縮は全世界に影響を及ぼす問題であるため、非核兵器国は、この分野でなされる前進と努力について情報を得る正当な権利をもっています。日本は、そのために核兵器国がNPT再検討会議第2回準備委員会においておこなった努力を歓迎するとともに、そのような努力の重要性を今後も強調していきます。 議長、ここでNPT再検討過程に移らせていただきます。 NPTがこれまでもそして今後も核軍縮の土台であることは、我々の長い間の固い確信です。この条約の普遍性と完全履行は、NPT体制を強化するためには欠くことのできないものです。普遍性に向けた重要な一歩が、ブラジルの加盟によってなされました。これにより、締約国の数は187に増えました。 完全履行の確保について言えば、条約無期限延長の決定の一部として合意された「強化されたNPT再検討過程」を活用していくことが適切です。条約の不明確な延長決定の一第2回準備委員会が実質的な課題について一つも報告書を採択するのことができなかったことは、残念なことでした。現在の履行状態は、1995年に表明された期待にはるかに及ばないものです。 2000年の再検討会議はきわめて重要であります。それは、無期限延長の決定後はじめて、条約の履行状態を評価する機会となるからです。NPTの目標を達成するためには、我々は将来への視野と同様に歴史への認識をもつ必要があります。次回再検討会議は新たな千年期がまさに開かれんとするときに開催されるのですから、2000年会議は、21世紀における核不拡散と核軍縮に向けた我々の熱望を明確に表すのにまさに時宜を得たものであるということを指摘したいと思います。 議長、ここで、CTBTについて手短に触れさせていただきたいと思います。 私は、この問題に関してパキスタン首相とインド首相が国連総会で最近おこなった演説に注目するものです。演説は、いくつかのあいまいな点を含んではいましたが、前進への確実な歩みであったと我々は考えています。演説での言葉が具体的な行動に反映されることを願いつつ、日本政府は、インド、パキスタンおよび朝鮮民主主義人民共和国に対してCTBTの署名と批准をおこなうことを強く要求するとともに、他の未批准国にはその批准を強く要求し、それらを通じてできる限り早く条約が発効することを求めます。 もしも残念ながら、条約が署名のために開放されてから3年たっても発効されない場合には、目標達成のためのもっとも早く実現可能な手段を促進するために、1999年に会議が召集される必要があります。 (中略:ここで、「対人地雷」、「小火器」、「通常兵器の情報公開」、「生物兵器」の4項目について各1節ずつが当てられている。) 議長、国際社会が平和と安全を維持し確実にするよう努力している中で、アジアにおいてこのような国際的努力に反する行為がおこなわれたことは遺憾であります。 最近朝鮮民主主義人民共和国が発射したミサイルは、それが人工衛星を軌道に乗せる試みであったかどうかを問わず、北東アジアの安全保障にとって重大な懸念をひき起こしたのみならず、我々にあらためて、大量破壊兵器とその運搬手段の拡散に対する懸念を抱かせたのであります。 議長、演説を終える前に私は、国連アジア太平洋平和軍縮センターの役割に対して感謝の意を表したいと思います。同センターは、軍縮と地域の安定のための「カトマンズ・プロセス」で知られるような、多くの事業に積極的にとり組んでいます。そして、核不拡散と核軍縮に焦点を当てた議論をおこなうために、来月長崎で国連軍縮会議を開催することを計画しています。私はこれらの活動が継続され、より一層促進されることを期待しています。 議長、私はここで、軍縮は着実で具体的な措置をとっていくことによってのみ達成され得る、という日本政府の固い確信をくり返し述べたいと思います。 我々は、軍縮という高尚な目的を心に留めておかなければならない一方で、我々が現実的であるべきことは、それに劣らないほど重要であるのです。このことは、我々が軍縮という課題にとり組むときの指針となるでしょう。我々は現在どこにいて、最終目標がなんであり、次の最も良い段階は何であるべきか、という視点を保ちつつ、課題にとり組んでいく必要があるのです。今年の第一委員会において、建設的で実のある議論が、今述べたような方法で進められていくことが、私の心からの希望であります。日本政府としては、我々の共通目標の達成に寄与するために、あらゆる努力を行なうつもりであります。 議長、ありがとうございました。 |
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