■ 日米安保 米「軍事における革命」と私たち −−脱軍事のビジョンを急ごう −−安保体制下の日本に迫る危険な二者択一 梅林宏道 2001.1.15 (『核兵器・核実験モニター』130/131合併号より) 米国で進行している「軍事における革命」(RMA=Revolution in Military Affairs)は、世界に大きな影響をもたらそうとしている。それは、21世紀の人類に覆い被さる暗雲であると言って間違いない。情報技術の全面的な軍事利用が、新しい戦争概念を作り出し、それが実行されつつある。それは、経済のグローバル化が生み出している別の側面でもある。同盟国は、RMAに従属するのか、独自システムを作るのか、という岐路に立つだろう。軍事によらない安全保障システムの具体的なビジョンと実践を急がなければならない。 「軍事における革命」(RMA) 日本の防衛白書(2000年版)の用語解説によれば、RMAとは「技術進歩などの変化により、軍事作戦や戦争そのものに生ずる大きな変革のこと」である。革命という言葉が急激な印象を与えるとするとそうではない。10年〜20年の時間枠で起ころうとしている。しかしその深甚さにおいて、革命という言葉は決して誇大ではないであろう。ちなみに、1999年版の防衛白書は、RMAを「軍事革命」という不適切な訳し方をしていた。それは、米国で進行するRMAの重要性について、一年前まで認識を欠いていたことの現れと思われる。簡略化して言う場合は別として、繁用される用語としては、「軍事革命」では誤解を与える。 最初RMAは、進行している状況を説明し、多分に予感を表現する言葉として米国防報告に登場した(95年)。やがて、それは明確な政策の言葉に変貌した(97年頃)。そして、今や組織改編を伴いながら、実験から実施へと移行する例が続々と登場している。 米国防省の説明によれば、「歴史的には、新技術の軍事システムへの導入が、革新的な作戦概念や組織再編と結合し、軍事作戦の性格や運営の根本的転換にいたるとき、RMAが起こる。」(95年「米国防報告」)そして、20世紀に経験したRMAの実例として、戦略爆撃、電撃戦、空母航空攻撃、水陸両用戦、戦略核兵器、ステルス技術などの名前を挙げている。 これらの例と比較するとき、RMAの影響の地球的な広がりにおいて、今回のRMAは核兵器の登場に匹敵するような意味を持つように思われる。しかし、それは、軍事的な破壊力の大きさのような尺度では計ることができない、地球全体を米国の監獄にするような変化を予感させる。同時に、それは情報戦争(相手の情報機能を壊す)であるとか、宇宙戦争であるとか、これまでとは異質の戦争の引き金を引く危険性がある。 多様な紛争と精密攻撃 狭い意味において考えるとき、米国の今日のRMAを導いている背景には、大別して二つの要因がある。 一つは、冷戦後の紛争の多様性である。予測不可能な時と場所において、さまざまな形の武力紛争が発生する。冷戦時代のような正規軍的発想では対処できない場面が、多く予想される。このような安保環境の変化に対応する軍事体制の変化が求められる。 もう一つは、情報技術(IT)の急速な進歩である。これによって、軍事における「指揮、管制、通信、コンピューター、情報、監視、偵察」(C4ISR)が、飛躍的に向上した。その結果、戦争の様式が一変する。「長距離の精密攻撃兵器が、有効なセンサーと指揮・管制システムと結合して戦争の大部分を占めるようになるだろう。敵と接近するのではなく、望ましい作戦様式は敵を遠方から破壊することになるだろう。」(96年「米国防報告」) ここで見えてくる戦争の形は、ケース・バイ・ケースで種類の違う敵を、ハイテク精密兵器で攻撃するという、どちらかというと特殊部隊作戦を大規模の電子ネットワークを利用して実行するようなものである。 統合ビジョン 戦場において情報が決定的に、重要な役割を果たすとき、その情報を収集し、処理し、配布するシステムは地球規模に張り巡らされた構造物となる。これは、単に空軍であるとか、海軍とかに属する構造物ではなく、米軍全体が共有すべき構造物である。 そうすると、これまでのように、陸軍、海軍、海兵隊、空軍の各軍が、大規模戦闘で総司令官のもとに協力し合うという統合(ジョイント)概念ではなく、小規模戦闘でも、常に各軍が統合している作戦概念と組織体制が必要となる。各軍が集めた情報は総司令官のもとに統合されるのではなく、現場司令官もリアルタイムで共有する。むしろ、統合作戦こそ通常の戦闘の基礎的構成単位であるという考えが導入されなければならない。 このこと自身、軍隊に対して革命的な変化を要求する。軍隊世界は、それぞれの軍が閥を作り、競い合いながら、特有の軍気質を形成してきた長い歴史があるからである。 統合化への動きは、少ない兵員と国防費の中で、軍の無駄を省き効率化を図るという要請からも促進された。 したがって、米国のRMAは作戦の統合化を並行させて進行した。1996年7月に発表された「統合ビジョン2010」は、統合参謀長会議が作成したRMAを踏まえた作戦概念の教科書である。 統合化は、陸・海・空・海兵の各軍をなくそうというのではない。むしろ、競争させて、各軍を主人公にした統合概念の創出を促している。 2000年5月には、「統合ビジョン2010」を改訂した統合「ビジョン2020」を発表した。 グローバル化 さらに大きな視野で見るとき、経済のグローバル化が、二つの意味でRMAの背景にある。 経済が急速にグローバル化し、地球のすみずみまで米国の利害が浸透した。紛れもなく、米国は一国民国家などではなく新しい帝国である。しかし、大きな未開拓市場のある地域には、地域で影響力を持つ米国の非友好国が君臨する。しばしば引用されるのは、インド、イラン、中国、南アフリカなどである。 従来の軍事を至上とする安保観に立つならば、その地球規模のインフラストラクチャーを守る仕事ができるのは、米軍だけである。これは、米国だけではなくて、グローバル化を追求するヨーロッパや日本の認識でもある。 グローバル経済のインフラを守るという要請が、多様な紛争に迅速かつ精密に対処するRMAを突き動かした。 しかし、グローバル化は同時に、情報技術(IT)のグローバル化をも意味する。飽くなき企業活動は、友好国・非友好国の区別無く、情報技術を市場に出す。ほとんどの情報技術は軍民両用技術である。そして、多くの場合、民生技術の方が先行している。 「今日、軍用装置が商業的に入手できるものよりはるかに優れているものがあるにはある。しかし、多くの防衛システムは商業システムより遅れている。(その理由は、軍の調達業務が遅いこと、軍用の仕様に改造する必要があることによる。)・・・多くの地域で、敵国が持っているドルは、国防省が同じドルで買うことができる性能と同じか、それ以上の性能を買うことができる。」(1998「戦略評価」、米国防大学・国家戦略研究所) したがって、情報技術の体系的な軍事利用を促進するRMAは、米国の安保戦略にとって不可欠なものであった。 艦隊戦実験(FBE)デルタ 米国で進行するRMAと新しい作戦概念や組織概念は、その同盟国にも深刻な影響をもたらすであろう。 日米安保体制について考えるために、RMAの一つの具体例を挙げておこう。 1998年10月〜11月、「艦隊戦実験デルタ」と呼ばれる新作戦概念の実験が、横須賀に司令部をおく第7艦隊を中心に行われた。 新しい戦闘システムのマスター器が旗艦ブルーリッジに設置され、空母、水陸両用艦、トマホーク発射艦にサブシステムが設置された。軍艦は、編隊を組むのではなく分散した場所でリアルタイムに海軍の新作戦概念である「ネットワーク中心戦争」に参加する。それだけではない。在韓米軍陸軍の野戦部隊、在韓米空軍にもサブシステムが置かれた。韓国軍も参加した。そして、南北の軍事境界線に終結した朝鮮民主主義共和国(北朝鮮)の野砲や多連装ロケット発射機を鎮圧したり、南部後方に海から侵入する北朝鮮工作部隊を撃退する実験を、横須賀にいながらのブルーリッジが指揮した。 ネットワークされた陸・海・空・海兵すべての統合部隊が、リアルタイムの電子情報で結ばれ、最適兵器を選択して集中的な精密攻撃をかける戦争である。 この戦い方においては、前方、後方概念がほとんど無意味になるだろう。また、日本を拠点にした直接攻撃が許されるかどうかといった議論も、大切だが実効を伴わない議論になってしまう。 同盟国との矛盾 RMAによって、独自の新作戦概念を築くことによって、米軍は同盟国との関係において明かな矛盾に直面している。 米軍のみが突出して強力な部隊になるとともに、相互運用性に問題が生じる。 97年の米国「四半期防衛見直し」(QDR)の責任者であったJ・P・ホワイト元米国防副長官は、すでにNATO諸国と格差がつきすぎていると、RMAを論じたある本で指摘している。 「米国の国防関係者が、NATOの関係者や友人と非公式に会ったとき、しばしば欧州と米国の軍隊の戦闘能力の不釣り合いが増大していることが話題に上る。嘆かわしい問題だが、だれも行動を起こそうとしないのは、不幸なことである。」(1999年) 米国は、RMAで米軍の優位を確保しながらも、同盟国との協力なしにはグローバル化の時代の世界戦略は成り立たないと、考えている。共和党に唯我独尊の孤立主義の傾向があるが、経済のグローバル化とは、米経済の相互依存性の増大を意味することを考えると、孤立主義が勢いを増すのは困難であろう。 また、米国単独の軍事介入は国際世論を納得させられない。 「多国籍軍や同盟軍で行動することは、一連の行動の正統性を高め、必要資源を追加することになり、その結果、米国は単独で政治的、軍事的、財政的負担を背負う必要が無くなる。しかし、有効な多国籍軍を形成し、維持することは、戦略レベルにおける政策調整から、戦術レベルにおける多様な部隊の間の相互運用性に至るまで、相当な課題を背負うことになる。」(1999「米国防報告」) しかし、財政力と蓄積において、トータルな意味で同盟国が、米国と対等になるのは、極めて困難であると思われる。 日米安保の行く末−−集団的自衛権 自衛隊は、米軍の補完部隊として形成されてきた。米国からの装備購入圧力も加わって、米軍との相互運用性を大きな考慮の要素として装備を選択している。 RMAが進行したとき、この延長線上に予想される日米安保体制の姿は、自衛隊が米軍にますます従属して組み込まれる姿であろう。日米両軍は、高度に統合されて行く。 米軍は、従属関係があからさまになることを嫌う。同盟国が自負を失わず志気を維持できるような君臨の仕方を探している。たとえば、大きな情報の傘と地域的な自由な戦闘空間を米軍が保証し、その中で同盟国が存分に「自律的」に戦えるような仕組みである。 しかし、それでも本質は変わらない。日米安保体制の場合、憲法が禁じる集団的自衛行動の問題が、大きな障害となる。米軍の情報格子を活用した新作戦概念の一部を自衛隊が担ったとき、自衛隊の情報もリアルタイムでその格子を走り巡る。戦域内の米軍を防衛するのに、自衛隊の回路を断つことは不可能であろう。 このことは、TMD(地域ミサイル防衛)で具体的に問われようとしている。本誌127号で訳出した米専門家グループの報告は、この事態を予測し、日本に集団的自衛の解禁を主張したのである。 これを避ける道は、自衛隊が独自情報網を構築し、従属的でない自衛隊のRMAを追求する道である。 しかしこの道は、それ自身でアジアの緊張を高める。日本の防衛費は、桁違いに増大する。 米国のRMAの一部を担うか、独自のRMAかという選択ほど、夢のない陳腐な選択肢はない。 脱軍備の強力なビジョン RMAに活用される情報技術は、脱軍備のための技術にもなりうる。協調的安全保障の仕組みの相互検証システムにもなりうるのである。 軍事力の崇拝者が、21世紀の地球をハイテク戦場に仕立て上げようとしているとき、平和運動は脱軍備のシステム作りを声高に主張すべきである。東北アジア非核地帯、東アジア・ミサイル制限地帯などが手がかりになる。 ▲ページの先頭に戻る |
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