■ 日米安保



アジアの安全保障の現在の枠組みとオルタナティブ

梅林宏道 2000.7.1
(「民衆の安全保障・沖縄国際フォーラム」におけるスピーチ)



§伝統的枠組み

 東アジアの安全保障の枠組みは、極めて異常な一つの特徴をもっている。それは、この地域に領土をもっておらず、太平洋の対岸にあるに過ぎない一つの大国、すなわち米国の軍事力が強烈な存在と影響力をもっていることである。第二次世界大戦で形成された米軍の前進配備とそのインフラストラクチャーが、55年後の現在もこの地域の伝統的な意味における「安全保障」の骨格を形成している。
 この形態は、安全保障についての非軍事化(信頼醸成、予防外交)や地域協力化に向かおうとする世界的な趨勢に桎梏となり、障害となっている。のみならず、シビリアン・コントロールの概念と対になって、市民社会の軍事化を世界的な規範に押し広げる傾向を強化している。NATO(北大西洋条約機構)と並んで、いわゆるグローバリゼーションの軍事的な側面を拡大する核となっている。

(1)米国との2国間軍事同盟
 アジア太平洋地域には、米国を扇の要とする4つのアクティブな軍事同盟が存在をしている。米国とフィリピンの間には米比相互防衛条約(1952年)と米比訪問軍協定(1999年)、米国とオーストラリアの間にはANZUS条約(1952年、ニュージーランドとの関係は1986年に凍結)、米国と韓国の間には米韓相互防衛条約(1954年)、米国と日本の間には日米相互協力及び安全保障条約(1960年、以下、日米安保条約)がある。
 なかでも、日米安保条約は、その条約の明文を超えて、米国に対してアジア太平洋全域への米軍展開の前進拠点を与える戦略的要石の役割を果たしている。米国とオーストラリアの共同軍事演習は、日本を母港とする米第7艦隊なしには日常化できない。フィリピンへの米訪問軍とは、ほとんどの場合、日本からの、あるいは日本を経由しての訪問軍である。在韓米軍への海軍、海兵隊の寄与は、大部分日本を拠点に行われる。1996年の「日米安保共同宣言−−21世紀に向けての同盟」は、この到達点を確認するとともに、将来に向けた政治的な基礎を敷いた。たとえば、共同宣言は、日米安保条約がカバーすべき領域の広がりを次のように表現した。
 「首相と大統領は、日米安保条約が日米同盟関係の中核であり、世界的な問題についての日米協力の基盤たる相互信頼関係の土台となっていることを認識した。」
 沖縄における少女レイプ事件によって、「世界的な問題」という言葉でカムフラージュされることになった真意は、カムフラージュされる以前に完成されていた宣言草案の次の一文からより明確になる。
 「首相と大統領は、日米の安全保障パートナーシップが保有する世界的な機能が、重要性を増していることを強調した。」
 つまり、日米安保条約が、条約の明文にあるような「極東」という範囲に限定されることなく、世界的な問題にとり組む機能を果たすことを確認したかったのである。

(2)在日米軍と沖縄の基地
 アジア太平洋10万人体制と言われる米軍の最近の実数は、92,000人から98人を変動している。海軍、海兵隊の移動兵力のうち日本を母港にしている兵力以外の、文字どおり通過ないし短期配備の移動兵力を除くと、約9万人が西太平洋に前進駐留している。うち、6割弱が日本、約4割が韓国に駐留し、合わせると98%以上が日本と韓国に駐留している形となる。フィリピンから米軍が全面撤退したとき(1992年)以来、この分布も数字も基本的に変わらない。10万人体制という言葉は、1995年のいわゆるナイ報告で人口に膾炙するようになったが、実際には、すでに実行されてきた冷戦後の米軍再編の当時の姿の継続の宣言であった。その意味では、70年代に始まり80年代初頭に常態化したインド洋への日常的展開の形(ポスト・ベトナム)が、アジア太平洋米軍の基本的な概念を表現していると言える。兵力と多少の分布を変えながら、今日まで基本形を継続している。
 ここで、中心となる在韓米軍と在日米軍が、実は基本的に性格を異にする軍隊であることに注意を向けたい。このことは、沖縄の海兵隊の駐留目的に関する最近の論争のなかで、とりわけ明確にされてきた。
 沖縄駐留の経験のあるR・K・ドブソン海兵隊中佐は、1996年、在韓米軍の主力部隊である陸軍を引き合いに出しながら、沖縄の海兵隊について次のように述べた。
 「韓国の米陸軍が、そこ(朝鮮半島)での大型地域紛争に焦点を当てているのに対して、沖縄にいる海兵隊は、戦域司令官が前触れの短い危機に対応する任務のためにすぐに使えるものである。そのことをよく示す例として、1995年2月、当時沖縄に配備されていた私の大隊の一部が、第2次国連ソマリア活動(UNOSOMU)要員のソマリア撤退を水陸両用作戦によって援助したことが挙げられる。」(米海軍協会『プロシーディングス』、96年6月)
 つまり、在韓米軍が朝鮮有事という明確な目的をもった駐留軍であるのに対して、沖縄の海兵隊は、限定した地域や目的をもたず、いかなる要請にも急派できる汎用軍として前進駐留しているのである。沖縄サミットを意識して、ごく最近、米太平洋海兵隊・東アジア担当将校ニューシャム少佐(予備役)が、「日本に海兵隊2万人が必要である」と題する論文を同じ雑誌に書いたが、そこでも同趣旨が述べられた。南北朝鮮の首脳会談以前に書かれたものであるが、それは「朝鮮半島に平和が訪れたとき、在日米海兵隊の必要性はますますはっきりする」と言う。
 「(日本の)海兵空地任務部隊(MAGTF、海兵隊の通常の部隊編成)は、地域の総司令官が運用できる、戦域のどこにでも直ぐに派遣可能な唯一の陸海空の結合部隊である。朝鮮半島の諸問題が最終的に解決し、そこに駐留している米陸軍の相当部分が撤退する可能性があるが、そのとき、このことがますますはっきりするであろう。」(米海軍協会『プロシーディングス』、2000年6月)
 日本を母港にする軍艦を入れて計算するとき、在日米軍の構成部隊の大きさの順は、海軍、海兵隊、空軍、陸軍の順となる。海軍の中心部隊である空母任務部隊が、インド洋、アラビア海展開を主要任務としていること、空軍の戦闘機がシンガポールやサウジアラビアへの駐留部隊にローテーションを組んで参加していること、などから明らかなように、海兵隊について述べられているアジア太平洋全域に展開する汎用部隊としての性格は、在日米軍の全体に言えることである。
 このように、米軍を扇の要として東アジア、さらにはアジア太平洋地域の伝統的安全保障の枠組みが形成されているとすれば、その要のピンの役割を在日米軍と米軍基地が果たしている。さらに、その中心に沖縄がある。沖縄で起きている基地問題は、この伝統的枠組みと民衆的権利と民主主義との衝突の姿である。

(3)米国防省の「軍事問題革命(RMA)」
 米軍自身、この枠組みの維持に不安を抱いている。米軍の前進駐留は、他の国家主権との調整が必要となるが、民衆の主権への自覚と民主主義の前進が誰の目にも明かな歴史の流れであるなかで、伝統的枠組みは現状維持が困難になっている。ペンタゴンの当事者、米国防長官官房・国際安全保障問題アジア太平洋部長ワラス・C・グレグソン海兵隊少将と日本担当部長ロビン・S・サコダ海兵隊中佐との連名の論文は次のように言う。
 「ガイドラインの改訂が(日米の)同盟の将来にとってもっとも重要な展開である、と考える人々もいる。実際には、今後50年の同盟を強化するのに同じくらい重要なもう一つの分野がある。それは沖縄の基地問題である。・・・
 冷戦後、我々が直面している問題は、我々の協調的安保戦略を壊しかねないような文化的、政治的悪影響を生みだすことなく、海外プレゼンスをいかに維持するかということである。在日米軍基地は、ただ一つの問題という訳では決してないが、唯一もっとも目に見えている問題である。フィリピンの訪問軍協定(ビジッティング・フォース・アグリーメント)が批准されるかどうか確かではない。すぐ隣に脅威を抱えている韓国の同志たちも、演習場や基地周辺住民に与える我々の影響について心配し始めている。政治的配慮のためにインドネシアでの訓練ができない。オーストラリアでは環境問題などが浮上している。タイは事前集積船の母港を拒否する決定をせざるをえなかった。このような新たな環境において、我々はどのようにして仮想敵に対して危険な存在であり、かつ友邦にとって優しい存在であり続けるのだろうか。・・・
 海兵隊は、成り行き上、日本における基地問題、ひいてはアジアにおける基地問題にとっての先端部隊に選ばれたのかも知れない。」(『マリンコー・ガゼット』1999年4月)
 直視せざるを得ない海外基地維持の困難性についての認識は、彼らに二つの方向の解決策を模索させている。一つは、受け入れ国市民の理解を得るための活動の強化であり、もう一つは前進基地への依存を軽減する軍事概念の開発と実践である。これらの実態を解説するのは本稿のテーマではないが、伝統的思考の枠内で進行している後者の動向を知ることは、民衆側からのオルタナティブを構想するために必要である。この問題は、米国防省の21世紀戦略の中心である軍事システムの超近代化の一部であるとともに、現在の国際的安全保障問題のもっともホットな問題である米国の弾道ミサイル防衛(BMD)計画とも密接に関係している。
 21世紀における米国の軍事的優位を維持するために、いま国防省は新しい軍事作戦概念の開発と実験に取りかかっている。彼らはそれを「軍事問題革命(RMA)」と名づけている。RMAを貫いているものは、米国が世界の最先端にあると自負している「情報技術(IT)」の優位と、歴史上かつてなかった電子的ネットワーク化と高速輸送分野での先端技術を、米国の軍事的優位に直結させるように最大活用しようという思想である。国防省は、1.分散した部隊の統合的機動展開、2.リアルタイムの戦績評価を伴う精密交戦、3.味方陣営の完全防護、4.機能的、効率的、精密な兵站能力、の4分野で作戦概念の革命を図っているが、陸、海、空、海兵各軍が新概念の開発とその実験に取りかかっている。
 その方向は、人工衛星を経由して、分散した部隊の戦闘制御システムがリアルタイムで情報と判断を共有できることを目指すことによって、これまでよりも多くの兵力を「海に」分散配置し、「海から」投入し、「海を通して」補給することを可能にするように見える。その分、前進配備に伴う国家主権との摩擦は軽減するであろう。
 しかし、この革命は明かな矛盾のなかにある。第一に、RAMは、米国の孤立化を伴うものであっては元も子もない。軍事的同盟と軍事的敵対の関係で発想している以上、同盟国との相互運用性や相互依存性は同盟の証として維持される必要がある。つまり、一定水準の寄港、補給、共同演習などの関係は市民との接点を持ちながら維持され続けなければならないのである。第二に、すべての技術がそうであるように軍事技術は対抗勢力との競争のなかに置かれ、革命的概念は急速に平準化する。その過程で精密な複合システム特有の脆弱性が露呈され、攻撃の可能性に曝されることになる。ここに、新たな管理、保安、防衛の義務が同盟国に要求され、新たな摩擦の領域が誕生する。たとえば通信活動の領域で「何のための軍事同盟か」の問いが繰り返されることになる。

(4)焦眉の問題としてのミサイル防衛
 米国のBMDは、RMAの有力な一分野であることは明かであろう。それは米国土にミサイル防衛の障壁を築く国土ミサイル防衛(NMD)と前進配備された米軍や同盟国にミサイル防衛の障壁を築く戦域ミサイル防衛(TMD)という、相互に連関する二つの計画からなっている。冷戦後、大きなリストラを強いられた軍需産業の救済事業として、軍産複合体からの強い圧力を受けながら巨大投資が行われている。
 ミサイル防衛に関するもっとも切実な焦眉の問題は、米国が「能力T」のNMDの配備が近々決定しようとしていることである。決定されると、米ロ間のABM条約(対弾道ミサイルシステム制限条約)が崩壊し、米ロ、米中、米朝を巻き込んだ外交、防衛の緊張と敵対の出口のないエスカレーションが予想される。冷戦後、曲がりなりにも進行した核軍縮の流れは停止し、核兵器の再開発競争が始まる可能性がある。それは、宇宙軍拡のパンドラの箱を開けることになるであろう。米国とロシアがABMで手を結ぶ可能性はあるが、その場合は、米ロ関係のみならず中ロ関係も危機にさらされる。東アジアでは、台湾問題、朝鮮半島問題と日米のTMD共同開発問題が直結して、緊張が高まる。
 ミサイル防衛問題は、軍事力による安全保障への伝統的アプローチが、たとえ「防衛的」であっても、いかに緊張の激化を生むかを示している。NMD配備決定阻止の声が世界中で急速に高まっているが、安全保障のオルタナティブを構想する前提として、このような反動的動向へのタイムリーな抵抗の必要性を、本稿でも強く指摘しておきたい。


§ASEAN地域フォーラム(ARF)

 米軍を扇の要とする軍事的枠組みとは、一線を画す機構としてASEAN地域フォーラム(ARF)がある。それは、1994年7月に発足したアジア太平洋地域で唯一の安全保障問題に関する政府間協議機関である。東南アジア諸国連合(ASEAN)に事務局が置かれ、大国ではないASEAN諸国がリードしている点でユニークな多国間安保フォーラムとなっている。現在、21カ国とEUが参加しており、そのなかには米国、ロシア、中国、日本、インドなどが含まれている。今年7月27日に開催される第7回会議には、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮、DPRK)が初めて参加する。

(1)基本概念
 第1回会議の議長声明は、ARFのめざす安全保障について「経済的、社会的側面を含む包括的な安全保障概念の研究」を次回議長に託した。それを受けて、第2回会議の議長声明は、「目標と期待」を述べる節において、次のようにARFにおける安全保障観を述べた。
 「ARFは、包括的安全保障の概念には、軍事的側面のみではなく政治的、経済的、社会的、その他の問題を含むと認識する。」
 このように、例えば人権や、環境などへの直接的言及を避けながらも、「社会的」問題という表現によって、少なくとも言葉のうえで、「民衆の安全保障」にとどきうる視野をもってARFの安全保障の概念を規定した。
 第2回会議の議長声明はまた、ARFの発展について3段階進化論を述べた。つまり、
 第1段階:信頼醸成の推進
 第2段階:予防外交の開発
 第3段階:紛争へのアプローチの努力
の3段階である。しかし、議長声明に至る経過をみると、とりあえず3段階論を採用したものの、その内容は曖昧にしか合意されなかったことがわかる。とくに、第3段階に関する表現は不可解であり、協議が継続中と発表された。事前の高級事務レベルでは、進化論はもっと明快であった。第1段階は「信頼醸成措置の推進」であり、それが第2段階で「予防外交機構の開発」を行い、第3段階で「紛争解決機構の開発」に至る。そこには、ARFを実質的な地域安全保障機構へと発展させる構想をうかがうことができた。しかし、報道によると、中国が制度化された機構(「小さな国連」と表現)を作ることに強い警戒感を示した。とりわけ強制力を伴う「紛争解決機構」をめざす合意は形成されなかった。「紛争へのアプローチの努力」という議長声明の曖昧な言葉はこのような事情を反映している。
 ARFは、現在、第2段階の予防外交の開発段階に入ったと認識されている。しかし、政治的には、予防外交とは何かという定義をめぐって、コンセンサスを形成する作業が始まったばかりである。
 ARFは、現在1年に1日、外相レベルの会議が開かれる1日イベントに過ぎない。その準備のために高級事務レベル会議が開かれ、また、信頼醸成、捜索・救助、災害援助、PKOなどとテーマを定めた政府代表や専門家によるセミナーや会議でなどが、会議と会議のあいだに行われている。とくに、ARFは、トラックUの協議(シンクタンク、大学の専門家、国際機関職員や政府官僚の個人資格による参加者が、政策提起を作成するための会議)を尊重しているのが特徴である。
 事務はASEAN事務局が預かり、当分は固有の事務局を置かない方針をもっている。ここにも、制度化を嫌う参加国があることを反映した慎重さが現れている。

(2)発展の経過、北朝鮮の参加
 これまでの経過のなかで、注目すべきいくつかの発展があった。参加国の拡大の問題、人権と民主主義の問題、それに関連する柔軟関与の原則の問題、米国と中国の姿勢の問題などである。
 ARFへの参加国の基準については、第3回会議(96年)で一応の整理がなされた。つまり、主権国家であること、ARFの主要目的に同意するとともに、参加以前の過去のARFの決定や声明に同意すること、東北アジア、東南アジア、オセアニアの平和と安全保障に深い関係をもっていることが、新規に参加する国の条件となった。そして、参加国の全会一致の同意があること、参加の拡大は漸進的に行うことが、受け入れプロセスに関する政策となった。
 筆者の属するPCDSは、当初からDPRKの不参加という状況の改善をARFに要求してきた。それは、地域に存在するすべての当事国が無条件に参加できることが、ARFが地域安全保障の協議の場となるための最低限の必要条件であるからである。DPRKは、少なくとも95年までは、ARFへの参加を希望していた。そのときに、北朝鮮の参加を強く擁護することこそが、日本外交がなすべきことであった。にもかかわらず、日本政府は、その後のARFを不在である北朝鮮を非難し包囲する場として利用してきた。もっとも顕著であったのは、第6回会議で「出席した各国大臣は、1998年8月のペイロード打ち上げや他のミサイル関連の活動が、朝鮮半島や地域の安定にとって深刻な結果をもたらすと、憂慮を表明した」(「議長声明」第12項)という文言の採択に向かって攻勢的に動いたことである。参加条件からすれば、北朝鮮はこの文章に同意しなければ、加盟できないハードルを作ったことになる。
 今回の北朝鮮のARF加盟の意向は、北朝鮮とフィリピンの間の国交樹立についての話し合いのなかで、今年4月、フィリピン政府に伝えられた。ARFに正式に提出された参加申請は、5月19日のARF高級事務レベル協議で承認された。正式には、7月27日の外相会議で承認されることになる。日本政府は、今回の北朝鮮の加盟を歓迎するとしているが、後手に回った外交という印象はまぬがれない。今後、ARFが北朝鮮をも含む多国間協議の場となったとき、改めて日本の外交姿勢が問われるであろう。
 民主的選挙における国民民主連盟(NLD)の圧勝を踏みにじった、ミャンマー(ビルマ)の軍事政権のASEAN参加をめぐって、西側とASEAN諸国とのあいだに厳しい対立があった。PCDSは、ミャンマーの民主化をARFの議題とすることを条件として、やはり、全員参加の原則を維持すべきであるという立場をとった。
 ビルマ問題に限らず、市民の政治的自由や民主的権利の保証が、地域安全保障の確立にとって不可欠であるという議論が、ARFの発足当初からメディアやNGOによって指摘されてきた。「他国の内政に口を出さない」というASEAN諸国のタブーを破ることなしには、ARFがこの問題にとり組むことができない。第5回会議において、フィリピンがこの方向に慎重な一歩を踏み出そうとした。内政不干渉の原則を変えないながらも、他国の状況に言及することを可能にする「柔軟関与の原則」の示唆がそれである。この極めて注意深い一歩すらも、まだ確かなものになっていない。99年9月の東チモールの事態に、ARFやASEANが、有効な対応を何一つできなかったことは、この弱点を明かな形で露呈することになった。
 二国間軍事同盟に基づく米軍の前進配備こそ、地域安全保障の実態をなすという米国は、ARFをそれを補完する協議機関と位置づけている。「われわれの視野からすれば、(ARFのような)多国間フォーラムは、この地域における米国の二国間同盟を補完するものであって、それに置き換わるものではない。」(95年「東アジア太平洋戦略」)。しかし、この基本的立場は変わらないものの、米国のARFへの重点の置き方は、ARFが定着するにつれて増加していることを指摘しておきたい。98年の「東アジア太平洋戦略」は、多国間フォーラムにより多くのページを割き、次のように書いている。
 「米国は、この地域における堅固な二国間関係と継続する米軍のプレゼンスの上に築かれた、これらすべての多国間機構は、将来の地域問題において、ますます重要な役割を果たすであろうと考えている。」
 いっぽう、すでに触れたように、中国はARFが発展して制度化されてゆくことに、もっとも保守的な立場をとり続けている。「ARFは単に意見交換の場として存続するべきである」というのが、現在までの中国の立場である。台湾問題への干渉を警戒していると考えられる。

(3)手つかずの課題
 ARFが、当面予防外交の面でいかなる役割を発揮できるかが問われることになる。朝鮮半島、南沙諸島、インドネシア、南アジアなど、試される問題は多い。
 これらフラッシュ・ポイントとは別に、地域の軍事的エスカレーションへの歯止め、軍縮の流れの形成という面で、ARFはやるべき仕事にほとんど手を着けていない。まず、焦眉の問題としては、すでに触れたミサイル防衛、とりわけTMD問題は、まさにARFの議題であり、活発な議論が形成されなければならない。また、地域的視野に立ったときの軍事費の削減問題や兵器貿易の制限も議題にならなければならない。


§新しい枠組みへの基礎作業

 NGOや民衆組織の活発な関与なしに、アジアにおける民衆の安全保障を実現するための新しい枠組みを形成できないことは言うまでもない。地域安全保障への民衆のとり組みには、大別して三つの範疇がある。1.TMD開発、配備の阻止など、軍事力に頼る伝統的枠組みの強化に抵抗し、軍縮への流れを強めること、2.民衆の安全保障の観点から、ARFなど政府間の多国間協議の場へのNGOの関与を強めること、3.非核地帯、ミサイル禁止地帯など、新しい地域的、あるいはサブ地域的枠組みを創設すること。

(1)共通の安全保障への協調的アプローチ
 地域的な民衆の安全保障の枠組みの構築に必要な原理は、「共通の安全保障」への「協調的アプローチ」である。地域における関係国家や当事者、とりわけ緊張関係にあるすべての当事者の安全が共通に確保されるような措置やシステム、つまり「共通の安全保障」が追求されなければならない。たとえば、TMDの配備は、一方の陣営の安全の追求が他方の陣営の不安全を助長するものであるから、「共通の安全保障」とは言えない。さらに、相互の脅威が解消されるには、懸念を取り除くための協議や検証のための制度を準備しなければならない。つまり、「協調的アプローチ」が必要である。非難や一方的対抗手段によっては、脅威は増幅されることはあっても解消されることはない。「協調的アプローチ」には、すべての関係者が無条件に参加できる恒常的で機能的な協議の場が確保されていることが、極めて有効である。ARFは、そのような場となる可能性を秘めてはいるが、まだ約束されていない。
 共通の安全保障への協調的アプローチが実現し、維持されていくためには、国益追求の原理をこえ、同時に専門性を備えたNGO活動の役割が極めて大きい。

(2)世論の結集軸としての核兵器廃絶
 民衆の安全保障の枠組み構築へのアプローチは多様である。災害救助、人道支援などのNGO活動や、過去の国家犯罪を裁き補償するためのNGO活動は、安全保障の出発点となる信頼醸成に大きな貢献をしている。ここでは、直接に軍縮と信頼醸成・予防外交につながるNGO活動として、核軍縮・核兵器廃絶運動がもっている意味を指摘し、いくつかの具体的な提案をすることにする。
 核兵器廃絶を求める国際的世論は極めて強い。米国、イギリスにおける最近の世論調査でも、87%の市民が、核兵器が彼らの安全を損なっていると考え、核兵器禁止条約の交渉を求めている。しかし、米政府は核兵器は国家安全保障の核心であるとの考えを、繰り返し表明している。NATOの東方拡大やコソボ空爆は、ロシアに国家安全保障の核兵器への依存度を強めさせている。米国のBMD、TMD計画は、まちがいなく中国の核兵器の近代化を加速させるだろうと考えられている。
 つまり、核兵器は軍事力による伝統的安全保障観と民衆の安全保障観が真っ向から対立している分野である。国際的なNGO活動が、核兵器廃絶の闘争に勝利することは、民衆の安全保障の構築に向けてかけがえのない跳躍台を確保することを意味するであろう。
 アジアにおいて、この分野でいくつかの具体的なアプローチが考えられる。
 a.東南アジア非核地帯議定書への核兵器国の参加を求める
   現在の障害を分析し、NGOからの反論が準備される必要がある。
 b.東南アジア非核地帯の西方拡大と北方浸透
   インド・パキスタンの核開発を抑制させる力として、東南アジア非核地帯をバングラデシュ、スリランカに西方拡大する運動を起こす。東南アジア非核地帯と近接する中国の領土から核兵器を除去する信頼醸成措置を議定する運動を起こす。
 c.東北アジア非核地帯設立運動
   南北朝鮮非核化宣言(1992年)と日本の非核三原則を基礎とし、相互検証システムを備えた三ヶ国非核化条約を作る。条約には、核兵器国の条約遵守、非核地帯への核攻撃や攻撃の威嚇を禁止する議定書を付与する。
 d.二国間防衛条約への非核議定書の要求
   日米安保条約、米韓相互防衛条約、米比相互防衛条約に非核議定書を要求する。少なくとも、二国間の安全保障協力から核兵器への依存を排除する。すでに非核憲法をもつフィリピンの場合、論理的帰結としてこのような議定書を作ることが考えやすい。できれば、国際的に大きな影響力がある。

(3)米軍は不安定要因である
 米軍の前進配備は、アジアの「民衆の安全保障」構築の努力を分断し、障害となる存在である。軍事力による伝統的安全保障の実行主体として、民衆にとってより安心で永続性のある「共通の安全保障」を壊し、「協調的アプローチ」を歪曲する大きな力を発揮している。その意味で、米軍が「善良なブローカー」として「地域の安定化要因」であるという認識は誤りである。米軍は地域の不安定要因である。
 東アジアに優勢である「米軍のプレゼンスは安定要因」という認識を覆すための、大きな構想の国際的活動が求められている。たとえば、米軍のプレゼンスがもたらしてたものの歴史的検証、米国の国益追求の二重基準の実態暴露、進行中の軍事活動や計画されている軍拡がもたらす被害や悪影響についての予測などを通して、国際機関やメディアに対してインパクトをもち、優勢になっている「ものの考え方」そのものに挑戦するような活動が構想される必要がある。
 沖縄の基地問題は、このような構想の必要性と重要な手がかりとを、同時に提示している。

(梅林宏道:太平洋軍備撤廃運動(PCDS)国際コーディネーター、ピースデポ代表) 



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