■ 日米安保



INSS特別報告 2000年10月11日

国防大学・国家戦略研究所(INSS)

『米国と日本:成熟したパートナーシップへ』(抄訳)



 米国の安全保障政策に影響力のある国防大学・国家戦略研究所(INSS)から、米国の次期政権がめざすべき日米関係について注目すべき報告書が出たので、その一部分を訳出した。INSSは毎年「戦略評価」と題する年鑑を発行していることで著名である。
 報告書は、次の構成になっている。
●この報告について ●冷戦後の漂流 ●政治 ●安全保障 ●諜報 ●経済関係 ●外交 ●結論
 この他に「安全保障」の部分に「沖縄」と題する「囲み」記事がある。
 本号では、このうち「この報告について」の報告書の性格を説明している部分と、「安全保障」の節の全体を訳出した。
 「安全保障」について、集団的自衛の解禁、PKFの解禁、有事立法の制定、防衛産業・技術の戦略的同盟、など日本のタブーに挑戦する提案を次々と行っている。
 今ある防衛能力を前提とした「防衛協力」の次元から「共同防衛計画」の次元へ、つまり「計画」の段階から日本と共同で行う次元へと、新ガイドラインで作られた地平を押し上げようという考えは、米国の専門家のほぼ共通の認識になっていると言ってよいであろう。そのために、障害となっている日本のシステムに手を加えようという意図が、この報告書にはある。
 米英同盟関係と同様な同盟関係をアジアに築こうという発想は、彼らの思考パターンからすれば自然の成り行きである。しかし、これは日本の憲法体系と本質的に相容れない。ますます、彼らのイメージする「当たり前の国」へと、日本を変質させる圧力となるであろう。
 彼らにはない価値観と外交戦略をもった国のイメージを、はっきりと提示する必要がある。その価値観でもって、これらシンクタンク・エリートと正面から対峙することが求められている。(梅林宏道)


米国と日本:成熟したパートナーシップへ
(述べられている内容は、国防大学、国防省、その他いかなる政府機関や非政府組織の意見や結論を代表するものではない。)

この報告について
 次の報告は、日米関係に関する民主・共和両党研究グループの全員一致の見解である。これは、政治文書ではなく研究グループ構成員の見解を反映したものに過ぎない。これは、グループが、米国にとって極めて重要だと考えるアジア関係に、一貫性と戦略的方向性を注入しようとする一つの試みに過ぎない。
 研究グループの構成員は、次の通りである。リチャード・L・アーミテージ(アーミテージ協会)、ダン・E・ゴブ(W.V.ロス・ジュニア上院議員事務所)、クルト・M・キャンベル(戦略国際研究センター)、マイケル・J・グリーン(外交関係評議会)、ケント・M・ハリントン(ハリントン・グループ)、フランク・ジャヌジ(上院外交関係委員会・少数党スタッフ)、ジェームス・A・ケリー(戦略国際研究センター・太平洋フォーラム)、エドワード・J・リンカーン(ブルッキングス研究所)、ロバート・A・マニング(外交関係評議会)、ケビン・J・ネスラー(スコークロフト・グループ)、ジョセフ・S・ナイ・ジュニア(ハーバード大学JFK政府スクール)、トーケル・L・パターソン(ジェオインサイト)、ジェームス・J・プルジスタップ(国防大学・国家戦略研究所)、ロビン・H・サコダ(サコダ協会)、バーバラ・P・ワナー(フレンチ・アンド・カンパニー)、ポール・D・ウォルフビッツ(ジョン・ホプキンス大学ポール・ニッツ高等国際研究スクール)

安全保障
 アジアにおける利害関係は極めて大きいことを考えると、米国と日本が21世紀の日米関係に関して共通の感じ方とアプローチを発展させることが急務である。アジアにおける紛争の可能性は、日米の目に見える、そして本当の防衛関係によって劇的に低下している。日本が提供する基地の使用によって、米国は太平洋からペルシャ湾に至る安全保障環境に影響を与えることが可能になっている。日米防衛協力の新ガイドラインは、共同防衛計画の基礎であるが、太平洋をまたぐ同盟における日本の役割の基底と考えるべきものであって、天井ではない。冷戦後の地域情勢の不確実性を考えると、2国間防衛計画へのこれまで以上のダイナミックなアプローチが必要になっている。
 日本の集団自衛の禁止は、同盟国としての協力に制約となっている。この制約を除去することによって、より緊密で効率の高い防衛協力が可能になるであろう。これは、日本国民のみがなしうる決定である。米国は、日本の安全保障政策の性格を形成する日本国内の決定を尊重してきた。これからもそうするべきである。しかしワシントンは、日本がより大きな貢献をし、より対等な同盟パートナーになろうと望むことを、はっきりと歓迎すべきである。
 われわれは、米英関係が同盟関係の模範であると考える。このような関係は、次のような要素を必要とする。

◆防衛約束の再確認。米国は日本、および尖閣諸島を含む日本の行政管轄下にある区域の防衛約束を再確認しなければならない。
◆日米防衛協力の新ガイドラインの勤勉な実行。それには有事立法の制定が含まれる。
◆日米の陸海空・三軍すべての強力な協力。日米は、施設利用における従来以上の共同、訓練活動の一体化のために努力すべきである。また、1981年に合意した軍隊の役割と任務の見直しと更新を行うべきである。両国は、旧いパターンを踏襲するのではなく現実を反映した訓練に努力を傾注すべきである。両国はまた、昔からの脅威はもちろんのこと、国際テロや国境を越えた犯罪など将来の新しい事態に対していかに相互援助するか、さらに平和維持や平和実現でいかに協力するかを、明確にすべきである。
◆平和維持任務や人道的救助任務への全面参加。日本は1992年に自らに課した抑制を、他の平和維持国に負担を与えないよう、除去する必要があるであろう。
◆汎用性、移動性、柔軟性、分散性、および延命性の特徴を備えた軍構成の開発。いかなる手直しも人工的な数合わせであってはならず、地域の安全保障環境を反映するものでなければならない。この過程が進行するとき、軍構成の変更は協議と対話を通して行われなければならず、相互に合意可能なものでなければならない。米国は、日本列島における部隊配置を再編する際、技術変化や地域の情勢変化の機会をとらえるべきである。能力が維持される限り、米国は米軍の日本における足跡を小さくするよう努力すべきである。このことは、米軍基地の集約や1996年のSACO合意事項の実行を含む。
◆米国の防衛技術の日本への優先的利用許可。防衛技術は、同盟関係全体の不可欠の要素と考えなければならない。米国は、米国の防衛産業に対して、日本の会社と戦略的同盟を結び、先端の軍事技術や両用技術の双方向の流れを容易にするよう奨励すべきである。
◆日米ミサイル防衛協力の範囲を拡大すること。

 われわれが主張している日本の役割の拡大にともなって、米国においても、日本においても健全な論争が起こるであろう。そのとき米政府や議会は、日本の政策がいつも米国の政策と同じではないことを認めなければならないであろう。「負担の分担(バードンシェアリング)」から「権力の分担(パワーシェアリング)」に進化すべきときである。これは、次期大統領がこれを実現するために相当な時間をかける必要があることを意味する。

沖縄
 在日米軍の多く−−約75%−−が、沖縄に集中している。その理由は、安全保障問題では距離が重要だからである。沖縄は、太平洋と東シナ海の境界に位置し、韓国、台湾、南シナ海からわずか1時間の飛行距離にある。
 嘉手納米空軍基地は、地域全体への米国の力の投射の鍵を握る連結点となる。それはまた、日本防衛にとっても極めて重要である。沖縄にいる第V海兵遠征軍は、地域に発生する諸問題に迅速に対応する、自力継戦能力をもった陸海空の前線部隊を供給する。その任務の範囲は、非戦闘員の避難から侵略を撃退する大規模陣形を可能にする切り込み部隊としての役割に至るものである。
 しかしまた、沖縄への米軍の過度な集中は、日本に対して明らかに負担をもたらしている。負担は、たとえば訓練の制約などに起因して、より不明確だが米国にも現れている。作戦テンポの激しさや若年年齢構成のために、海兵隊は沖縄(日本最南端の県)における米軍削減を望む日本の世論の矢面に立たされている。
 海兵隊の側は、よき隣人であるための努力をしている。しかし、基地周辺が浸食されることによって海兵隊に課せられる制約が増加し、出動準備態勢や訓練に不都合が生じてきている。米軍人員による不祥事の統計の数字は激減しているものの、現在の政治環境のもとでは、実際に起こる極めて不幸な事件のエピソードへの注目が、先鋭に拡大される。
 1996年、SACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)合意は、沖縄の米軍基地の再編、統合、削減を呼びかけた。日米両国は、普天間海兵隊航空基地を含む11施設、約5000ヘクタールの米軍基地を削減するSACO合意を完全実施しなければならない。
 われわれが、SACOは重要な第4の目的を掲げるべきであったと考える。つまり、アジア太平洋全域への分散である。軍事的な観点からは、米軍は地域全体にわたって広範囲で柔軟なアクセスを確保することが重要である。しかし、政治的な観点からは、米軍のプレゼンスが持続可能であり信頼性のあるものであるためには、沖縄の負担を軽くすることが必須である。米国の日本における軍構成についての考察は、SACO合意で留まるものであってはならない。米国は、海兵隊の、より広範囲で柔軟な配備と訓練の選択肢を、地域全体で考えるべきである。(訳:梅林宏道)



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