■ 核兵器・核軍縮



NPT再検討会議とは
−−5年毎に訪れる核兵器廃絶交渉


梅林宏道(ピースデポ) 2000.2.1 (『核兵器・核実験モニター』第106/7、108号より)


 4月24日から5月19日まで、ニューヨークの国連本部で第6回目のNPT再検討会議が開催される。20世紀中に核兵器廃絶の見通しを得ようとする市民にとって、きわめて重要な会議となる。背景となる基本問題を解説する。

NPTってどんな条約?
 「核兵器の不拡散に関する条約」を略してNPT(英文では"Treaty on the Non-Prolifera- tion of Nuclear Weapons")、あるいは核不拡散条約と言う。1968年に成立し、70年3月5日に発効した。日本は70年2月3日に署名したが、批准したのは76年6月8日である。
 条約は、発効後25年の後に、有効期間について再検討することを定めていたが、25年後の1995年に開かれた再検討・延長会議において、NPTは無期限に延長された。
 「拡散」に当たる英語は、"Proliferation"であり、本来の意味は「繁殖」「増殖」である。つまりNPTは、核兵器の増殖をくい止めるための条約である。そのために、核兵器を持たない国(NPTでは「非核兵器国」と呼ぶ)に対しては、核兵器を開発や取得して保有することを禁止し、これを遵守していることを証明するために、国際原子力機関(IAEA)の査察を受けること(「保障措置」という)を義務づけている。いっぽう、核兵器を持つ国(NPTでは「核兵器国」と呼ぶ)に対しては、非核兵器国に核兵器を与えたり、核兵器の開発を助けたりすることを禁じるとともに、自らがもっている核兵器を撤廃するために「誠実に交渉する」ことを義務づけている。

NPTは、なぜ大切?
 しばしば指摘されるように、NPTには重大な欠陥がある。まず、条約の差別性が指摘される。この条約では1967年1月1日まえに、核実験を済ませた国を核兵器国と定義し、それ以外の国を非核兵器国と定義している。そして、非核兵器国には、核兵器を持たないよう厳密に検証システムを定めているにもかかわらず、核兵器国の軍縮義務(第6条)は、「誠実に交渉を行う」という精神条項に留まっている。執行機関を定めていない。 NPTのもう一つの重大な欠陥は、「原子力の平和利用」に対する積極推進の立場である。原子力エネルギーの安全性や環境への影響に関する議論をさておくとして、NPTの目指す核兵器の拡散の立場だけから考えても、「原子力の平和利用」の技術の拡散は、まちがいなく核兵器の拡散の道を広げる。NPTは自己矛盾に陥っていると言える。
 このような欠点があるにもかかわらず、NPTは核兵器国に核軍縮義務(第6条)を課した唯一の国際条約であり、他の条約にはない極めて重要な役割をもっている。しかも、185カ国(98年12月3日現在)という軍備管理・軍縮条約のなかで最大数の加盟国を誇っている。(ただし、インド、パキスタン、イスラエルは加盟していない。)
 1996年7月8日に出された国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見によって、NPT第6条の重要性はいっそう増大した。この意見のなかで、裁判官は全員一致で「すべての側面での核軍縮に導く交渉を誠実に行い、かつ完結させる義務が存在する」と、条文のいっそうの明確な解釈を与えたのである。つまり、単に「誠実に交渉する」だけでは不十分で、「完結させる義務」があると、国連の最高の法的機関が確認した。

再検討会議とは
 NPTは、条約が実行されるよう点検するために、5年ごとに再検討会議を開催できることを規定している。これまで、1975、80、85、90、95年と5回の再検討会議が行われてきた。検討は、大別して三つの問題群(クラスター)で行われる。核軍縮、核の安全性(不拡散の保障措置)、原子力の平和利用の三つである。
 第6条問題は、核軍縮のクラスターで議論される。再検討会議のもっとも重要な部分であると言ってよい。すべての核兵器保有国がNPTに加盟しているから、このことは次のことを意味する。
 「NPT再検討会議は、核兵器国に核兵器廃絶義務の履行を求めることができる5年ごとの国家間会議である。」
 これまで、再検討会議でメキシコ、南アフリカ、マレーシア、インドネシア、などの非同盟運動(NAM)が中心となって、核兵器国の義務違反を厳しく追及してきた。残念ながら、日本政府はこれまで積極的な役割を果たしてこなかった。

95年延長会議のポイント
 今年の4〜5月開催の再検討会議の重要ポイントを理解するためには、まず前回の95年再検討・延長会議の結論を知っておく必要がある。
 このとき、核兵器国は核軍縮義務を怠っているとして、多くの非核兵器国から厳しい批判を受けた。そして、NPTが無期限に延長することに加盟国が合意すると同時に、核軍縮の前進のためにいくつかの条件が付けられることになった。条件は、三つの決定と一つの決議文として採択された。決定1は再検討過程の強化、決定2は核不拡散と核軍縮に対する原則と目標、決定3はNPTの無期限延長、に関するものであり、決議は中東に関するものである。決定3以外には法的拘束力はないが、政治的、道義的な拘束を受ける、とされる。
 決定1の再検討過程の強化によって、2000年会議の前に97,98、99年の3回にわたって準備委員会が開催された。準備委員会は単に議事運営の準備をするだけではなく、実質内容についての議論を深める場として定義されていた。しかし実際には、核兵器国は内容議論をするのに熱心ではなく、議論の内容にほとんど前進なく終わった。
 決定2には、いくつかの具体的な課題が掲げられた。
 @包括的核実験禁止条約(CTBT)を96年中に締結すること。それまでに核実験を最大限自制すること。
 Aカットオフ条約(兵器用核物質の生産禁止条約)の即時交渉開始と早期締結。
 B核兵器の究極的廃絶に向かって核兵器を削減するための、体系的かつ前進的な努力。
 C非核地帯の拡大、核兵器国の協力
 D法的拘束力のある文書の作成の可能性も含めて、核兵器の使用や使用の威嚇から非核兵器国の安全の保障。
 中東決議とは、イスラエル以外の中東諸国の強い要求で採択されたもので、中東に非大量破壊兵器地帯を創設すること、すべてのNPT未加盟国(実際にはイスラエルのみ)の加盟などを求めたものである。
 会議の後、議長を務めたスリランカのダナパラ大使(現在、軍縮担当の国連事務次長)は、もし核軍縮が進まなければ、NPTからの脱退国が相継ぐ可能性があると、危機感を述べている。メキシコは、核兵器国が核兵器独占の態度を続ければ、メキシコはNPTを脱退せざるをえないと、再検討・延長会議後に開かれた世界法廷の聴聞会の場で述べている。

2000年再検討会議の特徴は?
 5年ごとに再検討会議がもたれてきたことは、すでに説明したが、これまでになかった今年の会議の三つの特徴に注目しよう。
 第一。NPT無期限延長の条件として、95年に再検討過程の強化が合意されたが、その一環として、再検討会議の役割が鮮明にされた。2000年会議は、その後開かれる初めての会議である。
 NPT条約では、「(条約)前文の目的の実現及びこの条約の規定の遵守を確保するようにこの条約の運用を検討する」(第8条3)と再検討会議の目的を定めている。95年の決定によって、それは次のように明確化された。
 まず、「再検討会議は過去を振り返るだけでなく、将来について議論すべきである」と合意した。具体的には「条約に基づく締約国の義務の履行状況など、再検討の対象期間の業績を評価し」「将来前進が図られるべき分野とそのための手段を具体的に明らかにする」ことが合意されたのである。これを、核軍縮を求める第6条に当てはめれば、2000年会議は「核軍縮が過去5年間どれだけ前進したかを評価し、それが満足すべきものでないとするならば、将来前進すべき具体的目標を明確にする」ための場とならなければならない。
 それだけではない。95年の再検討過程の強化の決定は、さらに「義務履行を強化する」ために「具体的に何ができるかを検討すべきである」と定めた。つまり、目標が明らかにされるだけではなくて、それが言葉だけに終わらないようにする方策についても、議論すべきことが合意されたのである。
 「無期限延長」の代価として、再検討を厳しくしようとした意図を汲むことができるであろう。
 もちろん、核兵器国の誠意がなければこのような言葉もむなしく無視される。この危惧に関連して、今年の会議の第二の特徴がある。それは、勇気づけられる特徴である。
 第二。2000年会議は新アジェンダ連合(NAC)が登場して初めての再検討会議である。新アジェンダ連合は、その声明の趣旨からして、核兵器国に第6条遵守を迫る連合であるといっても過言ではない。最初は、2000年再検討会議の第2回準備会(98年)に旗揚げする予定であったが、遅れて印パの核実験直後に旗揚げした(98年6月8日)。したがって、新アジェンダ連合は、強い意志をもって再検討会議に臨もうとしており、核兵器国の安易な乗り切りを許さない、一つの指導的勢力になると思われる。
 新アジェンダ連合の一員であるニュージーランドに核兵器禁止に熱心な労働党政権が誕生したことも、これにプラスの要素として加わる。新アジェンダ連合の方針については後に改めて触れる。
 第三。インド、パキスタンの核実験後初めての再検討会議となる。両国はいずれもNPT未締約国であるが、すべての国の加盟を目指してきたNPT締約国会議としては、両国に対して非核兵器国として加盟を求め続けることになるであろうが、注視が必要である。中東諸国が要求し続けているイスラエルの加盟問題にも影を落とす問題である。これに関連して、朝鮮民主主義人民共和国の条約上の地位についても、注目したい。

2000年会議のポイント1
過去5年間の総括は?

 2000年会議の展開を予想することは簡単ではない。しかし、まず95年以後の5年間をどう総括するかが論戦の的となるであろう。
 (上)で紹介した五つの項目について、ふり返っておこう。
 @包括的核実験禁止条約(CTBT)の96年中締結という目標は一応達成された。しかし、発効に必要な44カ国のうち26カ国しか批准しておらず(99年10月19日現在)、発効の見通しがまったく立っていない。最大核保有国の米ロとも批准していないことは、厳しく非難されるであろう。米上院の批准否決は、挑発的な愚挙であった。
 もう一点、重要なことは、CTBT発効まで核実験を「最大限抑制する」という95年の決定を、中国とフランスが破ったことである。決定直後から始まった両国の「駆け込み核実験」は、会議の権威を傷つけた暴挙として、総括される必要がある。
 Aカットオフ条約(兵器用核物質の生産禁止条約)の即時交渉開始と早期締結を求める決定は、履行されなかった。ジュネーブ軍縮会議(CD)でいったんは交渉のための特別委員会が設立されたものの、実質討議に入る前にとん挫したままである。1月18日に今年のCD第1会期が始まったが、空気は暗いという。
 B「核兵器の究極的廃絶に向かって核兵器を削減するための、体系的かつ前進的な努力」も履行されなかった。信頼されている米国のNRDC(天然資源保護評議会)の調査をもとにすると、作戦配備されている核弾頭数の94年末から98年末にかけての変化は次のようになる。
 米:8,720→8,370
 ロ:11,000→9,870
 仏:480→450
 中:430→400
 英:200→185
 99年末のデータはまだ公表されていないが、大きな変化はないと考えられる。つまり、過去5年間、とても「体系的かつ前進的な努力」があったとは言えない。
 しかも、NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大とコソボ軍事介入、米国の弾道ミサイル防衛計画という横暴とも言える政策によって、米ロ間の戦略兵器削減交渉が行き詰まっていることが、衆目の認めるところとなっている。
 C非核地帯の拡大に関しては、95年以来一定の前進があった言えるかもしれない。東南アジア非核地帯化条約が成立し(95.12.15)、発効した(97.3.27)。また、アフリカ非核地帯条約が成立した(96.4.11)。中央アジア非核地帯の成立をめざす動きが活発化している。
 しかし、95年決定で最優先課題と指摘された中東・非大量破壊兵器地帯の設置に関しては何の前進もなかった。また、95年決定において要請された核兵器国の議定書署名への協力もまた進んでいない。東南アジア非核地帯条約ではとくにそうである。
 非核地帯の問題は、イスラエルのNPT加盟を要求した95年会議の中東決議がないがしろにされてきたこととも重なって、2000年会議でアラブ諸国の強い反発を生むことになるであろう。
 D核兵器の使用や使用の威嚇に対する非核兵器国の安全保障の問題についても、実質的な進展は何もなかった。CDに特別委員会が設置されたことはあったが、継続的なとり組みにならなかった。
 このように、概して言えば、激論の末に、条件つきで無期限延長されたはずのNPTは、この5年間、核兵器国によって何の誠意ある扱いも受けずに放置されてきたと言わざるをえないであろう。

2000年会議のポイント2
NACは?

 NAC(新アジェンダ連合)は怒っている。2000年会議に向かう最後の準備会となった99年5月の第3回準備委員会で、NACは熱のこもった共同声明を出した(全訳:本誌96・97号)。
 「すべての展開を考慮すると、NPTのすべての義務を履行する努力のペースはにぶい、という明白な結論を下さざるをえません。」
 「条約上の義務とは、第6条の義務と1995年の『原則と目標』(95年の決定2のこと)にしたがって核兵器を全面的に廃絶するという急を要する義務であると、核兵器国が考えている証拠が見あたらないことは、深刻に憂慮すべき事態です。」
 「究極的な核兵器の廃絶という期限のない目標を復唱するだけでは、2000年にはもはや不十分であります。核兵器の全廃を迅速に遂行するという、明白であいまいさのない誓約を確保しなければなりません。」
 この熱のこもった声明の全文をぜひ読んで頂きたい。多くの市民の共感を呼ぶであろう。
 昨年12月に採択された国連総会における「新アジェンダ決議」は、99年再検討会議に向かって、95年の決定と決議の「完全履行」を求めるという、98年版の決議よりも厳しい表現をとった。その意味は、残された時間が短いなかで強い決意を促すとともに、これらが達成されなかった暁には、2000年会議がより厳しい『原則と目標』の内容と実施方法の設定へと導かれることへの伏線としたと考えられる。

2000年会議のポイント3
日本政府は?

 NACは昨秋の国連総会で日本政府のNPTに臨む態度を批判した。NAC決議への日本の賛同を求めているNACは、日本と対立することは避けていたが、NPTへの態度についてだけは、めずらしく例外としたと思われる。
 日本提案のいわゆる「究極的廃絶決議」は、2000年会議について次のように述べている。
 「1995年NPT再検討・延長会議において採択された決定および決議を再確認し、1995年以来の成果の再検討に基づき、核不拡散・核軍縮のための更新された目標に関する合意への到達に向け、努力を強化するよう求める。」
 NACの批判内容は、「95年の決定・決議は、再確認するようなものではなく、完全履行を求めるべきものである。日本決議は95年決定・決議の性格をあいまいにしようとしている」というものである。単なる言葉尻ではなく、この問題に臨む厳しさの違いが、両者の表現の違いに反映している。
 公平に他の国の態度と比較するとき、日本政府の2000年会議への姿勢は、もっとも保守的な側に属しているわけではけっしてない。2000年会議を「死活的重要」と位置づけ、95年の繰り返しではなく「更新された目標」を生み出すことを求めているのである。
 フランスは、現在の目標すら達成できないのであるから、新しいものを作る必要はないという態度を示している。米国は同様な態度を示しながらも、「更新された目標」を求める日本決議に賛成をした。このような状況を考慮すると、日本政府の積極姿勢は、一定の役割を果たしていると言えるであろう。
 しかし、日本政府からは、過去5年間の経過を厳正に評価する態度が見られない。その結果、新アジェンダ連合の足を引っ張る役割を果たす危険がある。「新アジェンダ決議」に棄権した理由を説明した林暘軍縮大使は、「核軍縮の進行速度はとても満足できるものではない」と新アジェンダ連合に同調しつつ、「核兵器国に対して対立的な姿勢をとるのは建設的ではない」と述べている(99年11月国連第一委員会)。厳正な評価を下すことが、対立することにならない道を探る積極性と勇気に欠けているのが、日本政府の現状である。
 このままでは、NPT再検討会議を核兵器廃絶の好機にして欲しいと願う、多くの市民の声を、日本政府が反映できそうにない。

市民はどうする?
 まず、勇気を得るために「リーチング・クリティカル・ウイル」というホームページをのぞいて見よう。
 http://www.reachingcriticalwill.org/
 これは、「平和と自由のための国際女性連盟」(WILPF)が2000年再検討会議のために作ったホームページである。残念ながら英語であるが、とりあえずは雰囲気に触れるだけで構わない。資料、解説、おしゃべり、アートと門戸を広げ、実にエネルギッシュな活動があることを知ることができる。2000年会議を契機に核兵器禁止の波を作ろうという意欲が伝わってくる。
 次に、小さくても仲間と学習会を組織しよう。微力ながら、ピースデポも可能なお手伝いができるかもしれない。
 そして、日本政府を動かすために何ができるか考えよう。日本政府だけが対象ではない。核保有国政府へのアクション、新アジェンダ連合の激励、なども考えられる。
 「核兵器廃絶のための地球ネットワーク・アボリション2000」は、NPT再検討会議のためのとり組みを開始するために3月1日〜8日を地球行動週間にしようと提案している。
 いま、20世紀の終わりに、2000年会議に要求するもっとも平易な市民の要求は、「核兵器禁止のための交渉を初めよ」となるのではないだろうか。しかし、これを結論とするのではなく、もっと多様な市民の「ざわめき」のなかから、新しいものが生まれることも期待したい。



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