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■ 核兵器・核軍縮 解説:スターウォーズの行方(U) −−NMD:物理学者の論争 白鳥紀一(物理学者、ピースデポ助言者) アメリカのブッシュ共和党新政権は、チェイニー副大統領、パウエル国務長官、ラムズフェルド国防長官を指名して、宇宙における軍事力の増強を中心とした、力の政策を推進する構えを鮮明にした。ラムズフェルドは四半世紀前のフォード政権での国防長官であるだけでなく、最近では議会共和党のシンクタンクで国土ミサイル防衛(NMD)計画を強く推進してきた中心人物である。このような状況を見越したわけではないだろうが、アメリカ物理学会の機関誌「フィジックス・ツデイ」は 2000年12月号でシドニー・ドレルの編集によって「物理学と国家の安全」という特集を組んだ。その中のNMDに関する論文を、ほぼそのまま以下に紹介する。L.グロンルンド、G.N.ルイス、D.C.ライトの3人の著者はMIT(マサチューセッツ工科大学)の「安全保障研究プログラム」の研究員(1人は副室長)で、そのうち2人は「憂慮する科学者同盟」に属している。彼らは、これまでその現実性を批判して計画を実行させなかったことについて、物理学者の果たした役割に誇りを持っているようである。(白鳥紀一) L.グロンルンド G.N.ルイス D.C.ライト 1. 三度目の試み 現在計画されているNMDは、核兵器・化学兵器・生物兵器を搭載した比較的小規模(数十程度)の大陸間弾道弾(ICBM)による攻撃からアメリカ全土(50州)を守ろうとするものである。 このような計画が議論になるのは、これで三度目である。最初は50年代から60年代にかけてで、当時は対弾道ミサイル(ABM)と呼ばれ、核兵器を搭載したミサイルを用いる計画だった。(略) 次の計画が、レーガン大統領が1983年に打ち出した有名な戦略防衛構想(SDI)である。これは、現実化していない技術も含めて、地上と宇宙空間に多重防衛網を配備してソ連の核攻撃からアメリカ全土を防衛しようというものだった。(略) 1995年に共和党が議会の多数を握ると、NMD計画がまた推進されるようになった。98年にラムズフェルドによる報告書(アメリカに対する無警告かつ小規模なミサイル攻撃が、これまで考えられたより早く、あり得る、というもの)が提出され、かつ北朝鮮によるミサイルの発射実験が行われると、クリントン政権は2003年までにNMDを配備するかどうかの決定を2000年夏までに行う、とした。配備目標期日は現在、2005年と考えられている。 NMDのシステムはいろいろ考えられる。(略)ここでは、クリントン政権の計画について技術的な検討を述べる。 計画の中心は、迎撃ミサイルから大気圏外迎撃体を打ち出し、弾道飛行段階の敵方ミサイルに衝突させて破壊しようというものである。そのために、赤外線の受動的検知器(レーダーと違って、こちらからは光を出さない。可視光線の検知器も検討されているが、まだ配備されていない)で敵方ミサイルの軌道を検知して迎撃体の軌道を修正する。一つのミサイルに対して複数の迎撃体を打ち上げる。敵方ミサイルの軌道の検出には、地上のXバンド位相アレーレーダーと改良した早期警戒レーダーが用いられる。Xバンドレーダーは、NMDのために必要な高分解能を実現するために開発された。早期警戒レーダーは世界中に5基(中央アラスカ・カリフォルニア・マサチューセッツ・グリーンランド・イギリス)設置されているが、現状では分解能が十分でない。しかしソフトの改善で利用できるとされる。 現在の計画では、最初はアラスカ中央に100機の迎撃ミサイルを配備する。Xバンドレーダーはアリューシャン西端に置く。これで北朝鮮・中国からのミサイルの検知ができる。その他のルートは早期警戒レーダーで対応するが、性能が十分でないために、北朝鮮・中国からの(対抗装備のない)ミサイルは数十機に対応できるのに対して、中東からのものは5機程度という。2010年に予定される配備完成時には、Xバンドレーダーをさらに8基増やし、250機の迎撃ミサイルをアラスカと北ダコタに置く計画で、そうなると対抗装備のある数十機のミサイル攻撃に対抗できるという。 計画には、飛行物体の軌道測定用の赤外線と可視光線センサーを積んだ、24基の低高度偵察衛星も含まれる。 2. 攻撃ミサイル側の対抗技術 NMDシステムを構築するには、技術的・工学的に課題が多い。だからこそ多数回のテストが計画されている。これまで3回のテストで、2回失敗した。しかし、時間はかかっても、テストはうまく行くようになるだろう。しかしそれは、実戦での成功を保証しない。攻撃側は装備されたNMDに対して対抗装備を作ることができるので、すべての可能性を考えなければならない防御側より優位にある。従って対抗装備の作成は、北朝鮮でも技術的に可能と考えられる。NMDの可能性の議論では、仮想敵国がどんな対抗装備を何時つけるか、それはどのくらい効果的か、が中心の問題となる。98年のラムズフェルド報告の後で出たアメリカの情報機関の報告書も対抗技術について述べているが、詳細を明らかにしていないので議論の役に立たない。「憂慮する科学者同盟」とMITの安全保障問題プログラムでは、最近この問題について委員会を作って、原理的な(従ってしばしば秘密にされているNMDシステムの詳細に関係しない)検討を行った。座長はアメリカ物理学会会長を務めたことのあるアンドリュー・セスラーで、11人の物理学者と工学者が参加し、2000年4月に高度技術がなくとも可能な3種類の対抗技術について報告書を出した。 ● 生物兵器ならば、弾道飛行段階に入ったときに100以上の小さな容器に分けてしまうことができる。そうすると、現在考えられているNMDでは対抗できない。これは、広い範囲に生物兵器を散布するのにも有効である。こうしても、再突入時の発熱や兵器の有効性に重大な問題が生ずるとは考えられない。 ● アルミニウムで表面を覆ったマイラー(プラスチックスの一種)の気球を沢山用意し、その中の1つに核弾頭を入れる。これは大気圏外での迎撃に対して有効である。攻撃ミサイルの重量をほとんど増やすことなく、迎撃ミサイルから核弾頭を隠すことができる。 ● 核弾頭の外殻を二重にして液体窒素を入れて温度を下げると、計画されている赤外領域のセンサーの効率を百万分の一程度に下げてしまうことができる。Xバンドレーダーは有効だが、迎撃体の誘導ができなくなる。 このような技術は、北朝鮮やイランのような国でも可能であり、NMDを無効化することができるだろう、というのが結論である。 3. 何を検証するのか こうして、NMDシステムの技術的信頼性が問題になった。しかし、政治的な議論の場で現実の信頼性をどう議論したらいいのか。一つの解は、客観的で現実的なテストであろう。しかし、どのようなテストをし、結果がどうだったら「確信」が得られるのか。NMDのテストでは、「おとり」の識別のテストも行われた。しかしそれは、あまり現実的なものではない。模擬弾頭とおとりとは形も、赤外特性もレーダーの反射能も違う。何よりも防衛側がそのことを知っている。NMD担当部局から完全に独立した組織を作って、仮想敵国と同程度の技術水準で対抗技術を開発し、それに対して迎撃テストをすれば、現実的なテストができるかも知れない。アメリカ物理学会は、配備決定の前に現実的なテストをすべきだ、という立場をとっている。これは一般常識と一致していると思われる。しかし実際には、実戦テストどころか開発テスト完了以前に、配備の決定がされようとしている。ミサイル攻撃の可能性があるから、また、難点は配備してから改良すればよい、というのである。しかし、比較的簡単な手段で対抗できるというのは、ミサイル防衛という考え方自体に疑問がある、ということである。 さらに、政治に関わる者が確信を持つというのはどういうことか、という問題がある。外交努力を含めて他のあらゆる手段が失敗したときの準備、というのならば、それほど高い確信度は必要がないかも知れない。しかし、NMDを推進している人々は、クリントン政権のコーエン国防長官を含めて(ブッシュ政権はさらに強くそう考えている − 白鳥注)、アメリカが世界中で行動の自由を保持するために、たとえば北朝鮮が韓国へのアメリカの介入を抑止しようとしてミサイル攻撃の可能性が出てきたときそれを妨げるために、NMDが必要だとしている。もしそうであれば、たとえば95%程度の信頼性が必要とされよう。しかしそのような信頼性をテストすることはできない。であれば、いったい信頼性はどの程度までテストすることができるか。そしてそれは挙げられている政策目標とつじつまがあっているのか、という疑問が生じる。 4. 配備は国の安全を保障するか ここまで述べたことは、NMDがどの程度国の安全を向上させるか、という問題であった。しかし、配備が安全保障をどの程度損なうか、という問題も政治的な議論を引き起こす。よく知られているように、ロシアも中国もNMDの配備に反対している。情報局も、アメリカのNMD配備に対して中国は核戦力の増強に走り、それはインドとパキスタンの核戦力増強に拍車をかけるだろう、ロシアは軍縮協定から手を引いて、現在単一核弾頭を装備している核兵器を多核弾頭に置き換えるだろう、と予想している。さらにクリントン政権はロシアに対して、アメリカがNMDを配備してもロシアは1000基以上の核兵器搭載弾道ミサイルを、アメリカの攻撃に対して直ちに対応できる警戒状態で保持できる、といったとされる。これは、事故による、あるいはロシア政府の方針によらない偶発的な、ミサイル攻撃の可能性を高める。 NMDに対抗する技術開発が比較的簡単にできるのならば、ロシアや中国は何故強硬に配備に反対するのだろうか。科学者はNMDシステムが脆弱だと知っていても、政治・軍事面の指導者たちは、アメリカの政治家がそんな脆弱なシ ステムに莫大な予算を投じるとは考えないだろう。またアメリカの外交方針は、システムの本当の性能ではなく、アメリカの政治家がシステムをどう評価しているかによって、決定されると考えるだろう。とくに中国は、現在保有している核兵器(2ダースほどの単一核弾頭ミサイル)がまさにNMD計画の対象サイズであるから、その指導者は彼らのミサイルが確実にアメリカ本土を攻撃できる、という保証を求めるだろう。またロシアの指導者は、アメリカの第一撃を生き残った彼らのミサイルがNMDによって無効化されることをおそれるだろう。しかし、彼らが一番恐れているのは、いったん開始されたNMDが止まらなくなることだろう。システムができ上がれば、その規模は迎撃ミサイルを増やすことによって比較的簡単にいくらでも拡張することができる。 5. 別の解は? 対抗技術の可能性、国際的な反応、実験の失敗などはNMD計画に対する反対を強めた。今の計画のように弾道飛行段階でなく、打ち上げ段階で防衛するとすれば、対抗技術の可能性はかなり小さくなる。またそんなシステムは国の大きいロシアや中国には適用できないから、その意味で安全保障を損なうことが少ないと考えられる。しかしその場合には、判断するための時間が短いとか、迎撃ミサイル発射の問題とか、新たに考察すべき問題がある。たとえばアメリカと北朝鮮との間の政治的な状況が変化すれば、アメリカに対するミサイル攻撃の脅威も減ってNMDシステム配備の必要性についても別の判断が可能となろう。偶発的なミサイル発射の可能性を減らし、他国のミサイル開発に歯止めをかけるための技術的な方法を含めて、ミサイル攻撃に対する別の解を提示するのは科学者の役割である。 ▲ページの先頭に戻る |
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