2003年度事業報告(案)
§1 概観
2003年は平和を願う日本の民衆にとって大きな試練の年であった。それは今もつづいている。国際法と国際世論に逆らう米英のイラク戦争と日本政府の支持、有事三法の成立、自衛隊のイラク派兵。この息を呑むような流れの中で、市民の間には「平和とは何か、安全保障とは何か」という問いが広がりつつある。市民の手による平和のためのシンクタンク=ピースデポの存在意義がますます問われる時代が始まっている。このような時代の要請を踏まえつつ、ピースデポの一年を振り返る。
2003年度の課題は、2002年度に中期ビジョン委員会において出されたピースデポの「中期ビジョン」の展開を点検し実現可能な改善策を模索、着実に実行に移していくことであった。専務理事を中心とする理事会と事務局の新体制が一定軌道に乗ったことをはじめ、その努力は実を結びつつある。一方、新規会員獲得が既存会員の休眠化によって相殺されたり、出版物の販売が伸び悩むなど、組織の求心性と、会員との接点における日常的活動に多くの課題を残している。あらためて痛感したのは、ピースデポの志を実現するためには、現状の常勤スタッフ二人体制では不十分であり、2002年に三人体制を復元することが急務であるという事実であった。この復元のためには、何よりも会員の拡大を中核とする大衆的支持基盤の拡充が必要であることは言うまでもない。この「卵と鶏」的状況を解決するための決定的な対策はいまだ見出されていない。「中期ビジョン委員会」を中心とした継続的な努力が求められている。
組織面での脆弱性を認識しつつも、ピースデポに対する社会的期待と評価がますます高まっていることを実感した一年であった。ピースデポ自身もその社会的要請のこたえるべく奮闘し、成果をあげた。2002年度に始まったトヨタ財団助成研究「市民社会が構想する北東アジア安全保障の枠組み」を中核に据え、「軍事力によらない安全保障体制をいかに東北アジアに構築するのか」という問題意識にたった調査・研究活動を精力的に行った。同プロジェクトの一環として国内外での公開セミナーを数次にわたり開催した。また、研究成果は、「核兵器・核実験モニター」の紙面やワーキングペーパー、パンフレット、投稿などの形で精力的に公表した。一方、この研究活動を密接に連携して、「核兵器・核実験モニター」は、創刊200号を記念して、12月に編集体制を強化するとともに紙面を一新した。また今年度は休刊した「イヤーブック」の新しい刊行体制を準備した。「核軍縮・日本の成績表」に引き続き取り組み、核軍縮という課題への市民の参画の拡大に貢献した。一方、宜野湾市の「結(ゆい)の風ネットワーク」からの委託を受けて沖縄の米軍基地に焦点を当てた新たな調査活動を立ち上げた。
§2 事業プログラム
A.新プログラム
ピースデポ代表がプロジェクト代表となり、理事の多くが参加するとともに、国内、国外の専門家が共同研究者として参加して、2002年10月から2004年9月の予定で実行されているプロジェクトが本格化した。研究テーマ及びテーマ・コーディネーター(TC)は以下に示すとおりである。それぞれのテーマについて次のとおり研究会等を開催した。研究成果は随時「核兵器・核実験モニター」の記事や雑誌投稿、パンフレット発行などの形で報告・発表した。 (添付資料1「研究活動経過報告書及び中間会計報告書」参照)
<テーマ及び活動経過>
構想会議 2002年12月7日
第2年次構想会議 2003年12月6日
テーマ@ 北東アジア非核地帯(TC:梅林宏道)
*公開セミナー(2003年7月):金子熊夫氏、梅林宏道
*ジュネーブ・ワークショップ「戦争ではなく非核地帯を!北朝鮮のNPT脱退危機における東北アジア」(4月30日)。韓国のNGO「韓半島平和市民ネットワーク」と共催。記録をパンフレット(暫定版)として発行。
*韓国で共同研究者との会議(10月20日〜23日):梅林と中村が訪韓。
テーマA 北東アジア専守防衛地帯(TC:田巻一彦、協力:湯浅一郎)
*第1回研究会「国会論議などにみる<専守防衛>の形成過程」(講師:前田哲男理事)
*第2回(3月8日)、第3回4月13日、第4回(6月15日・講師:孫占坤氏・明治学院大学):93年国連報告書“Study on Defensive Security
Concepts and Policies”等をテキストとした概念整理。
*公開セミナー「ニュージーランドはなぜ戦闘機を全廃したのか」(講師ディック・ジェントルズ(ニュージーランド元国防副長官)、前田理事、田巻理事、鈴木伶子氏(日本キリスト教協議会議長)
:10月11日(東京) 13日(呉) 14日(広島)
:In-depthミーティング(1月12日)
:国会議員へのブリーフィング・国会図書館へのブリーフィング(10月16日)
テーマB 地域的なミサイル制限機構(TC:黒崎輝)
*研究会「北東アジアのミサイルの現状と制限機構」(9月20日)
*ワーキング・データベースの作成
テーマC アセアン地域フォーラム(ARF)の活用(TC:梅林宏道)
公開セミナー「アセアン地域フォーラム(ARF)と北東アジア」(6月6日)
講師:パティ・ウィリス氏(PCDS)、首藤理事
In-depthミーティング:パティ・ウィリス氏、首藤理事
(2)「核兵器・核実験モニター」の紙面刷新
(「北東アジア地域安保」に関する新メディアの発行)
「中期ビジョン委員会中間報告」(2002年)の4本柱の第1に掲げられた事業である。具体化するにあたっては、コンセプト、想定する読者層、発行体制、形態などを慎重に検討した。その結果、「新メディア」ではなく、「核兵器・核実験モニター」の新装という形をとることとし、創刊200号記念特大号として12月15日、新装版を発行した。共同編集責任者に田巻専務理事が加わった。タイトルは、従来の「核兵器・核実験モニター」を継承しつつ、題字に「軍事力によらない安全保障体制の構築をめざして」という副題を加えた。ここには信頼性をもってカバーできる情報ウィングを広げるピースデポの意欲が投影されている。また題字・レイアウトを大幅に刷新し、より親しみやすい紙面づくりを目指す。着手したばかりの事業であり、全体としての成果はまだ見えていないが、記者会見をしたところ、神奈川、長崎、沖縄で報道され、関心と期待の大きさを知ることができた。(1)の研究プロジェクトと密接に連動しつつ、東アジアの平和建設について「現状に根ざし現状を打開する」対抗構想に貢献する重要なメディアとして、読者層の拡大を図っていく。会員各位のご意見と拡販へのご協力をお願いしたい。
2003年11月から2004年2月末までの予定で、「入会金無料キャンペーン」を実施している。
「中期ビジョン」の2番目の柱に位置づけられた事業である。従来のイヤブック「核軍縮と非核自治体」の読者を確保しつつ、守備範囲をより広く自治体と平和・地域安全保障との接点に存在するさまざまな事象に広げることによって、新たな読者層の獲得を目指す。タイトルを「核軍縮・平和・自治体」に改題する。また、新たに「日米安保と自衛隊」(仮称)というセクションを設ける計画である。トピックスとしては、基地と自治体、自衛隊の海外派遣、国内の平和問題などを取り上げる。より充実した内容と編集体制の確立のために「刊行委員会」を設立した。12月7日には第1回刊行委員会を開催し、企画内容や執筆分担を検討した。版型を従来のA4版からA5版に変えるとともに、レイアウトを工夫して、より親しみやすい体裁にし、近い将来には書店に並べられるような定番出版物とすることを目指す。7月初旬発刊の予定である。「新モニター」とあわせて、会員各位のご意見と拡販へのご協力をお願いする次第である。
(4)第2回核兵器廃絶―地球市民集会ナガサキへの協力(11月23日〜24日)
梅林代表が副実行委員長をつとめ、海外ゲスト招請に関する助言の役割を果たすとともに、梅林代表、田巻理事が分科会のコーディネータを勤め、事務局スタッフの中村がパネリストとして参加した。NGO展示コーナーには2日間パネルを展示し、入会勧誘や書籍の販売を行った。パネル、書籍とも集会内容に密接に関連する時宜を得た内容であり好評であった。道原理事、津留理事の他、事務局スタッフ、ボランティアとピースデポあげての取り組みであった。新規入会者獲得はならなかったが、ピースデポの活動を市民に印象づけるという意味で総体として有意義な取り組みであった。集会は2005年NPT再検討会議に向けたキャンペーンの開始を告げるなど、とても前向きで意欲あふれる内容であった。
(5)「核兵器・核実験モニター」合本Vの発行
事務局体制の縮小やモニター改装などに追われて、年内発行ができなかったが、2004年最初の事業として1月22日に発刊した。
(1)「核兵器・核実験モニター」の月2回発行
3回の合併号を含め、178号から200号まで、20回発行した。12月15日には創刊200号を迎えた。
(2)「核軍縮・日本の成績表−NPT(13+2)項目に関する評価
昨年につづき、会員篤志家からのカンパを受けることができたことに加え、2003年度「市民社会チャレンジ基金」(神奈川ネットワーク運動)に採択され助成金を受けることができた。これらの助けを借りて、2003年もフォルダー入りの成績表キットを1000部(日本語800部、英語200部)作成することができた。「市民社会の関与」の促進強化をはかる意味から、2002年度に全国4ヶ所で開いた「各地評価会議」を、2003年度は全国8ヶ所に拡大した。共催団体には広島、長崎、藤沢、函館などで自治体の平和行政に日常的に関与してきた市民団体が含まれている。4月に完成した「成績表」は、外務大臣に提出。また英語版はジュネーブのNPT再検討準備委員会で配布した。日本非核宣言自治体協議会には初めて300部をまとめて購入していただけた。また、核軍縮議員ネットワークの全議員(60人)にも配布した。市民、自治体、国のそれぞれのレベルで、核軍縮問題で市民関与を拡大する具体的な道筋をつけることができた。
(3)核軍縮議員ネットワーク(PNND)支援
「地球市民集会ナガサキ」の分科会のひとつはPNNDをテーマとするものであった(コーディネーター:梅林代表)。11月7日から9日にかけてバンクーバーで初めて開かれた国際核軍縮議員ネットワーク会議には、総選挙の時期と重なり議員は参加できなかったが、梅林代表が出席し、PNND・日本代表の鈴木恒夫議員のメッセージを代読した。
194号(9月1日号)から、PDF版の発信を開始した。新規会員はペーパーメディアとPDF版のどちらかを選択できる。また既存会員も、希望があればPDF版に移行できるという形をとった。現在、11名がPDF版を受信している。新規会員の獲得という面では、まだ成果にはつながっていない。
2002年に出版した「核兵器撤廃への道」(かもがわ出版)、「ミサイル防衛−大いなる幻想」(高文研)、「米国・核態勢の見直し(NPR)」(ピースデポブックレット)の販売の努力をし、次のとおりの成果を上げた。数字は販売部数、( )内は、現段階でピースデポにとって採算をとる上で販売必要な部数である。
・核兵器撤廃への道 94冊(600冊)
・「ミサイル防衛」 118冊(350冊)
・「米国・核態勢の見直し」 847冊(目標達成):うち日本非核宣言自治体協議会が「成績表」とのセットで330部購入。田巻理事が講演先で販売400冊。
調査は継続されているが、ワーキングペーパー発行は不達成であった。
梅林代表を中心に継続した。調査の中間的な報告を明治学院大学のシンポジウムと同大学発行の「PRIME」に発表した。
空母随伴艦ファイフの91年から97年にかけての「司令官年次報告」と「航海日誌」を米国情報公開制度を通して入手、梅林代表が分析し、この期間に同艦が595発のトマホークをほとんど横須賀基地において積み込み、積み下ろししていたことをつきとめた。9月12日にプレス発表、「神奈川新聞」など各紙に大きく取り上げられた。横須賀が、北朝鮮の「ノドン」とほぼ同じ射程距離を持つ巡航ミサイルを日常的に扱う基地であることは、国際的にも重大な意味を持つことを明らかにした。調査結果を2004年2月にワーキングペーパーとしてまとめる予定である。
多くの機会に実行された。
4月から5月にかけてジュネーブで開催されたNPT再検討会議準備委員会に、竹峰誠一郎さんを派遣した。その後、竹峰さんは、本総会の協賛事業である「ビキニ水爆被災50周年研究集会」の主軸を担い、ピースデポに貢献している。
総会記念講演会(2月22日・高槻市)のほか、前記トヨタ・プロジェクト関連のセミナー、研究会を精力的に開催した。「核軍縮・日本の成績表」各地評価会議も前記のとおり開催した。10月11日に東京で開催した公開セミナー「ニュージーランドはなぜ戦闘機を撤廃したのか」には、100名近くの市民が参加、活発な議論が繰り広げられた。一方、このセミナーには10名を越えるボランティアの参画を得たが、その人たちの熱意を継続的な力としていくような構えがピースデポとしてとれなかったという反省が残った。
上記韓国からのインターン・李さんの尽力により韓国語ウェッブサイトを立ち上げることができた。「核兵器・核実験モニター」のバックナンバーを拡充した。その他については、とくに大きな進展はない。
C.関心を継続し、発展の機会を模索するプロジェクト
第4回総会においては(1)子供のための「平和読本」(2)展示用ポスター、平和運動グッズの収集、整理(3)政党の平和政策データベース(4)日本への核兵器持込国内議論データベースを、課題として設定したが、大きな進展はなかった。
(1)米軍海外基地動向調査プロジェクト=Ginowan Project
事業計画にはなかった新規事業。4月27日の宜野湾市長選で当選、就任した伊波洋一氏の後援団体である「結(ゆい)の風ネットワーク」から、海外軍事基地に関する米国政府及び議会等の動向に係る客観的情報、資料の収集・分析を受託した(8月1日〜12月31日)。自治体の基地行政をサポートするきわめて実践的な調査活動である。梅林代表が中心となり、PCDSのパティ・ウィリス氏(カナダ在住)の協力を得て、豊富な事実情報を蓄積・提供した。この調査活動は、沖縄の基地削減努力に具体的な貢献をしつつある。
(2)韓国からのインターンの受け入れ
8月から10月にかけて、韓国から李俊揆(イ・ジュンギュ)さんを迎え梅林代表のもとにインターン活動を行った。8月には広島を訪れ被爆の日の当地の雰囲気に触れるとともに、市民活動家との交流の機会を持った。韓国語のホームページ立ち上げ、「東北アジア非核地帯」にかかわる文献翻訳や、在韓米軍基地の調査などでピースデポの活動に尽力してもらえた。帰国後もピースデポと韓国のNGOを結ぶ接点として活躍している。立正佼成会の「一食(いちじき)平和基金」の助成を受けることができた。
§3.組織体制の整備
メールを活用した意見交換や、随時のフェース・トゥ・フェースの会談という形で、中期ビジョンの現状のチェックや必要な改訂を検討した。その結果のエッセンスは上記事業活動に反映されている。
田巻理事が、専務理事に就任し非常勤で日常運営の統括を担うという過渡的体制をとった。専務理事は、最低週1回(夜間)は事務所に出勤し、(常勤2人+パートタイマー1人)というスタッフの現状を補完するべく活動し、徐々に成果を上げている。また、道原理事が人事担当理事に就任した。一方、中期ビジョン委員会と専務理事は、常勤スタッフ3人体制への移行シナリオを検討し、2004年度事業計画に盛り込んだ。
2002年度との比較による会員などのデータは次のとおりである。
|
|
2002年末 |
2003年度末 |
増減 |
|
会員総数 |
539 |
538 |
△1 |
|
正会員個人 |
207 |
215 |
8 |
|
正会員団体 |
7 |
8 |
1 |
|
賛助会員 |
202 |
194 |
△8 |
|
割引会員 |
121 |
118 |
△3 |
|
賛助特別会員 |
2 |
3 |
1 |
|
モニター購読者 |
232 |
209 |
△23 |
会員においては、新規入会者は入会者42名と、目標の20名増を超過達成したものの、43人の退会者によって相殺されてしまった。また、モニター購読者は新規購読7名に対して購読中止30人であった。購読中止者の中には5年間未納による購読中止処理が10人含まれている。2003年度末の購読者209人の中には、「誌代切れ」10人が含まれている。背景には、発足当時の「第一世代」の会員・読者の高齢化などがあると考えられる。会員の新規開拓と既存会員のフォローを強化する必要がある。
日本語版は4月1日と、11月15日の二回発行した。英語版は7月15日に第8号を発行した。
前記のように韓国からインターンとして李さんを受け入れることができた。調査活動や韓国語ウェッブサイトの作成に貢献した。国内ではフェリス女子学院大学から、インターン1名が定期的に来所し、セミナー開催に関連した事務や資料整理などで活躍してくれている。
一方、月2回の発送作業は、2〜5名のボランティアが常時参加している。シニアの力に負うところが多い。また、翻訳・原稿執筆などにも多くのボランティアの協力を得ている。
(6)企業・個人寄付、活動の包括的助成をする助成金の開拓
以下の新たな助成金を得ることができた:
・立正佼成会一食平和基金:60万円(韓国からのインターン受け入れ)
・横浜市市民活動推進助成金(家賃助成):40万円
・神奈川ネットワーク運動「市民社会チャレンジ基金」:100万円(
2002年度助成決定の一部。「核軍縮:日本の成績表」)
・「核軍縮:日本の成績表」への大口カンパ(2002年からの継続)
・一般使途への大口カンパ2件。