2006年度事業報告(案)
北朝鮮による7月のミサイル発射実験、10月の核実験実施表明という重大な局面を受け、核をめぐる世界情勢はいっそう深刻化した。北朝鮮やイランの拡散問題に対する国際社会の非難と圧力が強まる一方で、多国間交渉の進展に明るい展望は見えず、核兵器廃絶に向けた核保有国の核軍縮努力は遅々として進んでいない。それどころか、新世代の核開発計画を含む、核兵器永続化を目論む核兵器国の姿勢があらためて浮き彫りとなり、米印原子力協力などNPT体制の空洞化につながる動きが顕在化した。
日本国内においては、人々の持つ不安感・危機感を煽る形で、軍事依存の流れが強まっていった。多くの市民・自治体の声を無視した米軍基地再編・強化、米軍と自衛隊の一体化の動きが具体化し、ミサイル防衛の構築が一気に加速し、防衛庁が省に昇格した。また、政府与党内からは敵基地攻撃や核武装に関する発言が相次ぐなど、憲法の平和主義の根幹を揺さぶる事態が続出した。
こうした状況を背景に、一般市民の平和や安全保障に関する関心が高まっていることを見逃すことはできない。信頼できる情報・分析をタイムリーに提供し、「軍事によらない安全保障体制の構築」に向けた具体的構想とプロセスを市民の視点で提起するという、ピースデポの役割はますます重要であり、一年を通じてその真価が問われ続けた。
この一年においては、緊縮財政に基づく組織体制の抜本的見直しの必要性から、事務局体制は大きく変化を遂げた。2006年3月には常勤スタッフ1人体制(実質的には1.2人)に移行し、これにともなって事務局機能の重点化・効率化を図ることに取り組んだ。その中で、会員・読者・支持者との協働体制の活用により事務所の人的体制の薄さを補い、より安定した将来体制へと繋げる努力が行われた。
また、2005年度までの反省を踏まえ、財政状況に関する日常的なチェック機能を強化するために、湯浅副代表を委員長とする「運営委員会」が設立された。委員会は、ほぼ隔月のペースで計6回開催され一定の成果をあげた。
年度の後半に入り、新規事業の立ち上げにともない財政的見通しがつき、同時に業務拡大への対処が困難なことから、新たに研究及び事務をオールラウンドに担当する常勤スタッフ一人の採用に踏み切る決断を行った。公募を11月に開始し、12月に採用予定者を確定した。
2006年は「ひとつの力」キャンペーンの一部として、初めて「一人紹介」キャンペーンに取り組んだ年である。会員増加の数の上では目標に達しなかったが、減少を続けていた会員数が初めて10数名の実質増を記録した。問題意識をもって努力することの重要性を確認するなど、貴重な具体的な経験と教訓を残した。
前述したような情勢、とりわけ北朝鮮の核をめぐる状況のなかで、ピースデポは東北アジア非核地帯の緊急性・重要性を訴え、さまざまな機会をとらえて構想の具体化に向けた活動に取り組んだ。バンクーバーでの世界平和フォーラムや長崎での地球市民集会における訴えはその一例である。こうした活動は、庭野平和財団の活動助成に大きく助けられた。また、トヨタ財団助成研究などによる蓄積が活用された。
米軍再編で市民や自治体が基地問題への関心を高めたが、ピースデポは米軍再編の背景を情報と分析で明らかにし、この問題が東北アジアの平和構想と不可分であることを強調した。そして、地域ベースで精力的に活動する団体と連携し、「自治体と平和」という切り口から市民・自治体と東北アジアの間に橋をかける新しい事業の展開を開始した。
§2 事業プログラム
(1)核廃絶世論形成に向けた取り組みの強化
「核兵器・核実験モニター」「イアブック」の発刊に加え、メーリングリストやホームページを通じて、情報発信活動を継続した。
広島、長崎、首都圏の市民団体による外務省要請などの活動が継続的に実施されたが、ピースデポは情報面で貢献するとともに、各地を繋げるコーディネーション機能を果たした。5月には米国の信頼性代替弾頭(RRW)計画に対する日本政府の見解を質し、また9月及び10月には国連総会第一委員会に関連して核軍縮に関連した申し入れを行った。
北朝鮮、イラン、米印原子力協力などの情勢に関連して、マスメディアが不拡散の側面のみから報道する傾向に対して、ピースデポは核軍縮の緊急性を強調する世論形成に力点を置いた。その観点から、ブリックス報告書の意義を強調し、イギリスの反核運動に注目した。
(2)「東北アジア地域安全保障の枠組み」研究成果の活用と展開
東北アジア非核地帯構想を日韓の市民社会に広げていくという庭野平和財団助成プロジェクト「東北アジア非核地帯構想などの日韓市民への普及活動」は2006年にも継続された。世界各国から5千人にも及ぶ市民、NGO、政府・自治体関係者らが集まった「世界平和フォーラム(WPF)」(6月、バンクーバー)において、ピースデポは非核地帯をテーマとする2つのワークショップを共催した。日韓の研究者が参加したワークショップ「核の緊張関係から協調的安全保障へ:東北アジア非核地帯」において、ピースデポは、平和ネットワーク(韓国)、太平洋軍備撤廃運動(PCDS、カナダ)との協力のもと、東北アジア非核地帯の設立を6か国協議参加国に要請する日韓英3か国語の「国際オンライン署名」の開始を発表した。その後、この取り組みはメーリングリスト等を通じて国内外に紹介され、現在までに261(日)、450(英、韓は一緒)の署名が集まっているが、さらなる協力の呼びかけが必要である。
10月に長崎で開催された「第3回核兵器廃絶―地球市民集会ナガサキ」においても、ピースデポは東北アジア非核地帯構想の訴えを行った。梅林代表が起草者の一人であった「長崎アピール」においても、東北アジア非核地帯設立とそれに向けた市民・自治体の協力の必要性が盛り込まれた。
2005年10月に完了した財団法人トヨタ財団の助成研究プロジェクト「市民社会が構想する北東アジア安全保障の枠組み」の研究成果をまとめた包括的な提言冊子(日)と一般向けのダイジェスト版冊子(日・英)の普及に引き続き取り組んだ。とりわけ、ダイジェスト版冊子(日)「<脱軍備>で平和と安全を」は、ピースデポ理事やスタッフが講師をつとめた集会・勉強会の資料としてしばしば活用されているほか、夏の広島、長崎での一連のイベント等、さまざまな機会において関心ある市民に広く販売された。
(3)核兵器・核実験モニターの発行
6回の合併号を含め、249・50合併号から270号まで、予定通り計18回発行した。特集の組み方やレイアウトの工夫を重ね、読者の立場に立った親しみやすい誌面づくりを心がけた。2005年に開始した土山秀夫さんの連載エッセイやインタビュー企画の取り組みは今年においても継続された。また、「追跡:原子力空母」「米軍再編」「安全保障と市民自治」などのテーマを、一貫性のある不定期のシリーズとして掲載していくなどの工夫も続けられている。
(4)イアブック「核軍縮・平和」の発行と販路の拡大
2005年版に引き続き、06年版も高文研と発売元契約を結び、2000部を発行した。昨年の反省を踏まえ、内容の充実を図る一方、製作コストを抑える努力を念頭においた編集を心がけた。表紙デザインもより魅力あるものに一新した。あわせて、発行日を昨年よりも約1ヶ月前倒しとなる7月10日とした。これは、夏のイベントの事前学習資料として活用の機会が増えることを目指している。
06年版のピースデポ直接販売分の売上実績は06年末時点で882部である。これまでと同様に、日本非核宣言自治体協議会に加盟全自治体への配布用として購入していただいた。このほかにも感謝すべき100部の大口購入があった。基本的には「集会売り」などの地道な販売努力が売上の中心を占めた。今後の課題として、公立図書館など新たな販路の開拓や10部程度をまとめて預け売りができる協力者の確保があげられている。
商業出版ルートによる売上については、2006年末までに400部を計上しているが実績の締めには時間がかかる。(2005年版の商業出版ルートでの売上実績については、2006年に入ってからの調整を経て500部→350部となった。)
梅林代表を委員長とする「刊行委員会」は、刊行委員と執筆者の役割の明確化を含む刊行体制の改善について協議し2007年の準備に入っている。
(5)「ブックレット」の作成
2006年度事業計画の策定段階においては、モニターに掲載した記事・資料を再編集した「ピースデポ・ブックレット」のタイムリーな発行を計画していた。しかしその後、岩波書店とのあいだで「米軍再編」をテーマにしたブックレット刊行の話が進み、財政的及び人的体制を検討した結果、梅林代表が岩波ブックレットを執筆することとなった。ブックレットは5月30日に発行された。ピースデポは1300冊を割引で買い取り、当初計画以上の収入を得つつある。
(6)ピースデポ奨励研究員の公募
今後の研究活動を担う次世代の研究者・活動家の育成を目的とするユニークな奨励研究員制度を設けた。3月に奨励研究員1名(任期一年間)の一般公募を行い、選考の結果、大学院生の山口響さんが5月1日より奨励研究員として活動を開始している。主研究テーマは米印原子力協力問題、サブテーマはイランの核問題である。山口さんの研究成果は、「核兵器・核実験モニター」誌上にて継続的に発表されているほか、07年度にピースデポ・ワーキングペーパーとしてもまとめられる予定である。
(7)核軍縮・議員活動の支援
これまでに引き続き、核軍縮に関心を持つ超党派の議員連盟「核軍縮議員ネットワーク(PNND)・日本」の活性化を支援する活動に取り組んだ。PNND活動に関連した業務を行うために、ピースデポ事務所にボランティアが支える「PNNDサポート事務所」をおくという体制が確立された。現在は、学生ボランティア1名が週に一度来所している。10月には、ニュージーランドのゴフ軍縮・軍備管理大臣の東京招聘にあたっての調整活動を行った。また、12月6日に計画されていた東北アジア非核化をテーマにした日韓議員ラウンド・テーブルの企画及び準備に、ピースデポは精力的に取り組んだが、韓国の議員の直前キャンセルによって残念ながら中止となった。
8月22日には、民主党の核軍縮促進議員連盟が発足した。梅林代表と高原理事が設立総会で講演を行った。
(8)日本の安全保障政策についての独自調査
調査は精力的に行なわれ、多大な成果を上げた。とりわけ、7月の北朝鮮ミサイル発射時の米海軍イージス艦の動きに関する調査は、これらの艦船が北朝鮮の長距離ミサイルに対する米本土防衛をシナリオとして行動していたことを明らかにした。この事実は「朝日新聞」「毎日新聞」など各紙に大きく報道された。さらに、原子力空母の母港問題に関する委託調査では、「原子力空母の横須賀母港を考える横須賀市民の会」の呉東代表の渡米調査に同行するとともに、米議会の動向、安全性問題などの調査・分析に貢献した。いずれも調査は継続されている。
(9)執筆、講演、出演、取材への協力
多くの機会に実行された。
(10)海外活動への派遣
6月にバンクーバーで開催された世界平和フォーラムに、インターンとしてこれまで2年以上にわたりピースデポに関わってきた大学生の塚田晋一郎さんを派遣した。帰国後、塚田さんは、ワークショップの企画運営、インタビュー等におけるカメラマン、データ整理などの事務補助などを通じて、ピースデポの事業に積極的な貢献を行っている。また、07年度からはイアブック刊行委員として執筆・編集に携わることになっている。
(11)公開講演会・セミナー等の開催
梅林代表を座長とし、ピースデポの調査研究活動の向上につながるような場を目指した「平和フロンティア講座」は引き続き開催された。9月に開催された第3回講座「北朝鮮のミサイル発射実験を考える」は、タイムリーなテーマ設定が功を奏し、多くの参加者で賑わった。
若手のボランティアが中心を担った初心者向けワークショップは、人的体制の困難さから今年度は開催できなかった。
(12)ウェブサイトの充実
日本語ページにおいては、個々のページでURLが表示されないといった技術的問題を解決するための抜本的な作り直しを行った。英語ページにおいても同様の作業が必要であり、07年初頭に完成予定である。内容面では、日常的な更新は行われているが、既存資料のウェブ上での利用を容易にするような改善は未だ十分ではない。また、ウェブ活用についてタイムリーな周知・宣伝を行うことも今後の課題である。
(13)その他、必要な事項
「必要に応じた緊急プロジェクト」として、自治体の平和政策に関する調査委託を受けた。
§3 組織体制の整備
(1) スタッフ新体制
緊縮財政に伴って、2006年3月から常勤スタッフ2人体制(実質的には2.4人)から1人体制(同1.2人)へと移行した。会計業務に特化したパートタイムが週1回勤務した。常勤スタッフは一部の研究業務を除き、事務局長として事務全体の統括を担い、運営・財政に関わる全般的な業務に多くの時間を集中させた。
こうした人員削減に伴うさまざまな困難を乗り越えていく際に、多くのボランティアの協力を得られたことは幸いであった。また、調査・研究機関としてのピースデポのクオリティを維持していくことにおいて、奨励研究員の貢献は不可欠であった。しかし一方で、常勤スタッフ1人体制での限界も明らかになった。
前述した通り、年度半ばにおいて、新規委託事業などによる必要性が生じるとともに、財政的な見通しが付いたため、調査・研究活動、渉外活動、資金調達、運営・財政事務といったオールラウンドで活躍する新しい常勤研究スタッフの公募に踏み切ることとなった。10月に公募が行われ、12月に氷熊克哉さんを採用した。新スタッフは、07年1月から勤務を開始する。
(2)運営委員会と将来計画委員会の設立
事業計画と予算の進捗について年間を通じてフォローすることを目的として、運営委員会(委員長:湯浅副代表)が設立された。担当理事と事務局長で構成される。メールや電話での意見交換のほか、2006年度を通して計6回の会議を重ね、中間的な財政状況の点検と改善に向けた提案を継続的に行ってきた。運営の安定化に向けた基盤作りに大きく貢献したといえる。
また、「将来計画委員会」として、長期的視野に立ったピースデポ組織・事業運営の検討の場が計画されていたが、この形では実現せず課題を残した。
(3)会員、モニター購読者の拡大:数値目標の設定
(5)で後述するように、会員・購読者の正味40人増を目標に、「一人紹介キャンペーン」を2006年3月に開始した。このような取り組みの結果、新規入会者・購読者の合計は72名となったが、目標の90名増には満たなかった。逆に59名の退会者が出て、結果的には13名の増となった。とはいえ、減少が続いていたなかでは、5年ぶりに正味増に転じた意義は大きい(例えば、2005年には、目標20名の正味増を掲げたが、結果は36名減であった。
04、05年度との比較による会員・購読者の推移は次の通りである。
|
|
2004年度末 |
2005年度末 |
増減 |
2006年度末 |
増減 |
|
会員総数 |
491 |
484 |
△7 |
498 |
+14 |
|
正会員個人 |
201 |
193 |
△8 |
212 |
+19 |
|
正会員団体 |
7 |
8 |
+1 |
10 |
+2 |
|
賛助会員 |
172 |
181 |
+9 |
190 |
+9 |
|
割引会員 |
108 |
99 |
△9 |
81 |
△18 |
|
賛助特別会員 |
3 |
3 |
− |
5 |
+2 |
|
モニター購読者 |
203 |
174 |
△29 |
172 |
△2 |
総会で団体会員を開拓するのが有効であるとの意見が出され、それを意識した努力が行われ、一部成果があった。今後、引き続いて努力することが有効である。
(4)イアブック、ブックレットの販路分析と拡大
過去にイアブックやピースデポ書籍を購入した個人・団体に対して、集中的な販売促進のアプローチを行ったが、販路分析には至らなかった。方法論も含めて再検討の必要がある。
(5)人的ネットワークの拡充・活性化に向けた施策
◎一人紹介キャンペーン:前述の通り、ようやく懸案の会員・購読者の「一人紹介キャンペーン」を3月に開始することができた。2005年に立ち上げた「ひとつの力」キャンペーンの流れへの理解を促すような打ち出し方を心がけた。ピースデポの理念や活動を紹介したカラーパンフレットを作成し、「一人紹介キャンペーン」の告知とともに会員に配布し、活用を呼びかけた。
◎会員のデータ・ベース:電子メールによる情報の一斉送信のためのシステムを整備した。しかし、十分な活用にはまだ至っていない。
◎スキルバンク:翻訳依頼などに活用されているが、まだ十分に活用しているとはいえない。
◎「読者の声」ハガキ(受取人払い):二度発送したが、反応は極めて少ない。
(6)ボランティア、インターンなどの参加拡大
前述したとおり、学生インターン1名が定期的に来所し、イベントの企画・運営、事務や資料整理等で活躍している。PNND支援のために週1回定期的に学生ボランティア1名が事務所で活動している。月2回の発送作業には、2〜5名のボランティアが常時参加している。また、これまでに引き続き原稿執筆・翻訳・日誌作成などにも多くのボランティアの協力を得ている。セミナー等のイベント開催の際には、随時相当数のボランティアが流動的に参加しており、過去一年においては、若い学生ボランティアの数が著しく増加した。
前述の「スキルバンク」を通じて、新しい層のボランティアとの関係が築かれつつある。また、ホームページのボランティア募集に反応し、海外在住の日本人からも翻訳ボランティアの申し出が来るなど、「顔の見えない」新しい層との出会いもある。今後、こうした人的ネットワークのさらなる活用が事務局の課題である。
(7)企業・個人寄付金、独創的企画による助成金の開拓
前年度に引き続き、庭野平和財団から助成金(100万円)が得られた。テーマは「東北アジア非核地帯構想などの日韓市民への普及活動」である。
新規の創造的な企画を提案し、寄付金や助成金を得るための努力を強化することは、ピースデポの最重要課題の一つとしてあげられている。しかし、2006年においては、人的体制の問題もあり、そのような取り組みに、スタッフが積極的に着手することはできなかった。7月には、理事数名と事務局長による「プロジェクト会議」が開催され、問題の所在を確認するとともに、いくつかの具体的なプロジェクトについて検討した。引き続いてピースデポの重要な課題である。
――以上。