核兵器・核実験モニター バックナンバー

【日誌】核・ミサイル/沖縄(16年3月6日~3月20日)

公開日:2017.07.24

DPRK=朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)/ICJ=国際司法裁判所/SPEEDI=緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム


●3月7日 米韓合同軍事演習が開始。韓国各地で4月30日まで。史上最大規模とされる。DPRK国防委は声明で米韓を強く非難。
●3月7日 核実験場となったマーシャル諸島共和国が核保有国をNPT6条など違反でICJに提訴した訴訟の口頭弁論開始。16日まで。
●3月8日 韓国政府が対DPRK独自制裁を発表。金融制裁と海運規制の強化など。
●3月8、9日 イランが弾道ミサイル計2発の発射実験。ミサイルにはイスラエルの破壊を呼びかける文言の記載。
●3月9日 金正恩DPRK第1書記、「核弾頭を軽量化し、弾道ロケットに適した標準化、規格化を実現」と述べる(朝鮮中央通信)。
●3月9日 大津地裁、住民29人の申立を認め、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働差止の仮処分決定。関電は3号機の停止作業へ。
●3月9日 海自、潜水艦「はくりゅう」を4月に豪州シドニーに派遣し豪州の海・空軍と合同訓練を行うと発表。
●3月9日 米戦略軍が、核兵器搭載可能なB2ステルス爆撃機3機をアジア太平洋地域に配備と判明。DPRKけん制の狙い。
●3月10日 DPRK軍、南部サッカンモルから北東へスカッド短距離弾道ミサイル2発を発射。飛行距離約500kmで日本海に落下。
●3月10日 DPRK祖国平和統一委、韓国独自制裁受け報道官談話。経済協力や交流事業と関連したすべての合意の無効を宣言。
●3月10日 米大統領選のトランプ共和党候補、社会保障制度維持のため外国の駐留米軍経費など見直す考えを示す。
●3月12日 米韓両軍が韓国・浦項での上陸訓練を報道陣に公開。約1万7千人が参加。
●3月14日 ジュネーブ国連欧州本部で国連主導のシリア和平協議が再開。アサド政権存続めぐる対立で協議難航の見通し。
●3月14日 プーチン露大統領、シリア駐留のロシア軍の主力部隊の撤退を15日から始めるよう指示。完了時期示さず。
●3月15日 朝鮮中央通信、長距離弾道ミサイルに必要な大気圏再突入に関する環境模擬試験に成功と報じる。
●3月15日 安倍首相が官邸でルア東ティモール大統領と会談。南シナ海情勢に「深刻な懸念」表明する共同声明を発表。
●3月16日 原子力規制委、SPEEDIの計算結果に信頼性なしと断言、これに基づいて避難方向を決めるのは弊害ありとの見解。
●3月16日 米が対DPRK新制裁。金正恩体制と関係のある17個人・団体と20隻の船舶を新たな制裁対象に。
●3月17日付 防衛省、陸自オスプレイの佐賀空港配備計画で、15年度予算のうち45億円を16年度に繰越、佐賀配備で調整継続へ。
●3月17日 日本などの核燃料サイクル政策につき米国務省次官補、米上院外交委の公聴会で「経済的合理性なく撤退が望ましい」。
●3月18日 DPRK、西岸の粛川から日本海へ弾道ミサイル2発発射。1発目は日本の防空識別圏内に落下、2発目は空中で爆発の模様。
●3月18日 ベルギー検察当局、15年11月パリ同時多発テロの実行犯の1人サラ・アブデスラム容疑者を拘束と発表。
●3月18日 国連安保理、DPRKによる相次ぐミサイル発射を強く非難し深刻な懸念を表明する報道機関向け声明を発表。
●3月18日 米比両政府、ワシントンDCで戦略対話。比国内5基地の米軍による共同使用で合意。南シナ海進出の中国に対抗。
●3月20日付 中国の国際貿易港・営口港が、DPRKの全船舶の入港禁止措置を始めたと判明。国連安保理制裁決議より厳しい措置。

沖縄

●3月7日 国交省、翁長知事の辺野古埋立て承認取消し是正を指示。文書到着後、1週間以内に国地方係争委への申し出を求める。
●3月7日 中谷防衛相、シアー米国防次官補と会談。辺野古代執行訴訟和解を説明。
●3月8日 国の是正指示に対する不服申し出は「審査対象」。係争委・小早川委員長、「国の関与に当たる」との認識示す。
●3月9日 参院沖縄選挙区に元宜野湾市長・伊波氏の擁立決定。県政与党・経済界・労働団体が支援。
●3月10日 名護市・県への「ふるさと納税」増加。名護市へは、15年度・約2億5778万円(前年比約12倍)。反基地姿勢が後押し。
●3月11日 防衛省、17年2月末に使用期限を迎える伊江島補助飛行場など県内8施設を駐留軍用地特措法に基づき使用認定。
●3月13日 キャンプ・シュワブ所属米海軍一等兵を準強姦容疑で緊急逮捕。那覇市内のホテルで女性に暴行。
●3月13日 ヘリ基地反対協、機動隊の撤退・油防止膜などの撤去を求める声明発表。是正指示などを受け、国の動きをけん制。
●3月14日 県、国交省の辺野古埋立て承認取消しの是正指示を受け、国地方係争委に審査申し出。「法令違反ない」と主張。
●3月15日 ネラー海兵隊総司令官、「1年は工事中断」と証言。米上院軍事委。
●3月15日 浦添市、牧港補給基地近くで捕獲したハブ、ネズミからPCB・DDTを検出と発表。15年9月~12月に調査。
●3月16日 国交省、県の指摘を受け是正指示に理由を追加し再提出。
●3月16日 沖縄戦被害国家賠償訴訟判決。那覇地裁、大戦時には法規定がなかったとし、民間被害に対する国の賠償責任認めず。
●3月17日 在沖米4軍、すべての兵士を対象に「那覇オフリミッツ」を発令中。期間未定。
●3月18日 石垣市議会、市民が提出した自衛隊配備中止を求める請願・陳情を否決。配備推進の請願は継続審議へ。
●3月19日 石嶺読谷村長、牧港補給地区倉庫群の読谷移転で説明会開催。移転受入れ・交付金受取りは「基地容認ではない」と強調。
●3月20日 辺野古移設計画に疑問を呈する意見書、39地方議会で可決。沖縄以外では8都道府県23議会。共同通信調査。

くわしく

【特別連載エッセー「被爆地の一角から」95】    
「知る権利を阻害させてはならない」土山秀夫

公開日:2017.07.24

 不幸にして筆者の杞憂は杞憂で終わらなかった。発端は昨年の春のことだった。自民党の調査会がNHKの「クローズアップ現代」とテレビ朝日の「報道ステーション」が事実に反する放送を行ったとして、両局の幹部を呼びつけて事情聴取したことに始まる。
 党調査会は、NHKと日本民間放送連盟でつくる「放送倫理・番組向上機構」(BPO)が自主的に判断するのも待たず、しかもBPOを信用しないのか、政府がBPOに関与する必要性にまで言及するに至っては、時の政権がテレビ局を委縮させる行為と受け取られても致し方あるまい。この直後に招かれた講演会で、筆者はテレビ界がまさかこのまま黙認するはずはなく、放送内容の是非とは別に、堂々と見解を表明するだろうと述べた。
 ところが期待は完全に裏切られた。NHKもテレビ朝日の幹部もひたすら行き過ぎがあったと陳謝し、他局もメディアとしての危機意識を共有する動きをみせようとはしなかった。――そして、この伏線がやがて今国会における高市早苗総務大臣の高飛車な発言へと結実していく。「政治的に公平でない番組を繰り返し流した場合、時の総務大臣の判断で放送局に電波停止を命じることもあり得る」と度重なる野党議員の質問に対して譲ろうとはしなかった。だがどう見てもこの点は高市大臣の越権的発言としか思われない。成り立ちからして放送法第4条1項(番組編集準則)は、表現の自由の保障のもとで放送局の自律的判断に委ねた倫理規定であって、行政介入の根拠になる法規範とは先ず考えられないからだ。
 筆者がこうした経緯にこだわるのには訳がある。5年前まで某民放局の番組審議会委員長を過去20年以上務め、つぶさにテレビ界の流れを学んできた経験のためである。番組審議会(番審)というのは、ほぼ毎月1回、予め局側の提示した課題番組(中央のキー局が製作した作品が主で、時に地方局独自の作品もある)について、10名内外の委員が1人ずついろいろな角度から局側への質問を交えて批評を述べる。また残りの時間は放送全般について委員の注文や要望を聞く。この民放では当時年に2回、全国の委員長が一堂に会する代表者会議が開かれ、テレビの在り方に関する忌憚のない意見交換が行われていた。番審の議事録は全て総務省やキー局に提出され、次回審議ではキー局からの回答が寄せられる仕組みになっている。代表者会議の記録はBPOにも提出され、一般の個人あるいは団体から寄せられる苦情と共に、例えばテレビ番組のやらせ、改ざん、捏造などの指摘の中からBPOとして取り上げ、審理すべきか否かを選別するのに大いに役立っているという。
 それにしても自民党は安倍晋三首相をはじめとして、戦前回帰型の思考の持ち主が目立っている。憲法9条の改定が党是となっているばかりか、基本的人権や報道、表現の自由などに対しても何かと公の前には一定の制約を設けようとする本音がチラつく。テレビやインターネットのなかった戦前のマスコミの世界は、国家権力にとって今より遥かに取り締まりが容易だったことは疑いない。唯一の電波であるラジオは、NHKが唯一の国営機関だっただけに、政府に都合のいい報道のみを流させることは容易だった。残るは新聞と雑誌だ。反政府的や反戦的記事、共産主義や無政府主義にかぶれた記事の掲載があると、社の幹部が呼び出され、編集意図の事情聴取や執筆者が危険人物であることを警告する。
 編集者が怯んで次回から自主規制すればそれでよし。気骨ある出版人が更に同様の行為に及ぶと、今度は言論統制の本性を現わして弾圧に掛かり、最悪の場合は、国の権限下にある用紙の配給を断つと通告されるのだ。今回の高市大臣の「電波停止」は、正にこれに匹敵するメディアへの“死刑宣告”以外の何ものでもない。

くわしく

【ピースデポ第17回総会記念講演会 抄録①】  
講演「日米関係と日本の核政策―歴史からの問い」(上)    西崎 文子(東京大学大学院総合文化研究科教授)

公開日:2017.07.24

2016年アメリカ大統領予備選挙から見えるもの

 アメリカでは今、大統領選挙がニュースを賑わせています。共和党は「悪名高き」トランプ、ティーパーティ運動のクルーズ、穏健派と言われるルビオ、こういった方々が乱立して、どちらかというと品の悪い選挙戦を戦っています。ジェブ・ブッシュは今日、サウスキャロライナで苦戦し撤退の姿勢を明らかにしました。他方、民主党はヒラリー・クリントンが確実と言われていましたが、ふたを開けてみるとサンダーズがクリントンを追い上げている。
 ここで私が問題にしたいのは、こういった候補が掲げる外交政策は一体どういったものなのかということです。特に核軍縮とか軍事力によらない平和を求める人にとって、彼らはどういう役割を果たすのか。
 共和党はトランプがイスラム教徒を入国させないとか、ヒスパニックに対しても非常に差別的な排他的な言葉を重ねていますし、クルーズはISIS(イスラミック・ステート)を絨毯爆撃すると言って憚らない。ルビオや撤退したブッシュも姿勢としては非常にタカ派です。彼らの外交のアドバイザーはそろって、ウォルフォビッツとかクリストルとか、いわゆる「ネオコン」の人たちなのです。
 民主党では、クリントンは第一期オバマ政権の国務長官を務めたのでオバマと比較的近いのですが、オバマ大統領よりは軍事力を行使することに積極的です。シリアの反政府勢力への武器援助を率先して主張していたことからも、それは明らかですし、キッシンジャーと意外に近く、彼のアドバイスを受けていることも、やや彼女がタカ派に近いことを窺わせます。サンダーズはベトナム反戦時代の人でして、イラク戦争にも反対していますし、民主党の「ハト派」に属しますが、しかし、彼はそれゆえに外交に関しては弱いとの批判を受けている。
 こういった状況を見ていて、アメリカが一体どういうふうに2017年以降、変化していくかを考えると、けっして明るい状況ではない。こういった国と日本が「血の同盟」を結ぶようになっていく、それでいいのか、という疑問が生まれてくるわけです。

オバマ政権の特殊性

 翻ってこの8年間のオバマの対外政策は、アメリカ外交の中ではかなり特異でした。
 それは第一には「外交」の重視に見られます。特にアメリカの場合、軍事力行使と外交重視はほとんど反比例の関係にあります。オバマは軍事力の行使に慎重な態度を取っていたからこそ、どうしても外交に頼らざるを得ない。それを支えたのはクリントンでしたし、今でいえばケリーである。ケリーの外交力はかなり評価していいかと思います。その結果として、シリアについてもロシアとの外交努力が重ねられています。それからもちろん、イランに関する核協議、キューバとの国交回復といった成果が確かにオバマ政権の時代には出ている。
 ただ、彼は非常にプラグマティックな面もありまして、例えば積極的にドローン攻撃をしていますし、NSA(米国家安全保障局)を使っての情報戦に関しても非常に強硬です。
 そして「核兵器のない世界」については、今となっては完全に失速してしまいました。彼はプラハ演説の時も「核兵器のない世界」の構想を打ち上げましたが、その裏には核抑止論を担保していた。それが8年後になって核抑止論への固執があらわになってきているのは事実でしょう。その背景には大国間関係、特にロシアとの関係の悪化、さらには北朝鮮の核実験を初めとする攻撃的な姿勢がある。特に東アジアに関してはそう言えると思うのですが、核抑止論というのは手軽なわけですね。さきほど軍事と外交が反比例すると言いましたが、ある意味、力の誇示は手軽である。だからそれに頼ってしまう。特に国内政治的にはそうだと思うのですが、オバマ大統領も核兵器のない世界を掲げて、じりじりと外交努力をしていくのは、かなりしんどい話であることは間違いありません。その中でロシアや北朝鮮が攻撃的な姿勢に出た時に、一番短期的に結果が出せる、あるいは日本や周辺諸国を安心させられるのは、核抑止論であると。そういったことからまた核抑止論が大手を振っているのが今の状況ではないかと思います。

歴史の問題――アメリカの場合

 このようにアメリカでは、オバマ政権期のやや特徴的な外交があったとはいえ、どうしても軍事力の行使、あるいは「マッチョな」姿勢に行きついてしまう。なぜなのか。今日はこれに関して歴史からの説明をしたいと思います。
①短い記憶
 その一つは「短い記憶」という特徴です。特にこの間の選挙戦などを見て衝撃的なのは、アメリカの政治もメディアも、極めて短期的な記憶の上で動いている。イラク戦争がその典型ではないかと思います。2008年の選挙のときはイラク戦争が1つの大きな争点だった。クリントンはイラク戦争を支持したというのでかなり批判を浴びました。2012年の選挙はオバマ再選が1つの道筋でしたから、それはあまり問題にならなかった。今年の選挙はどうかというと、これは話題にはなるのですがまじめに議論されることはほとんどありません。例えばリタイアしたジェブ・ブッシュは「2003年の状況に自分が置かれたとして、イラク戦争を始めたか」という質問に対して二転三転、まともに答えられない。しかも、お兄さんのジョージ・Wをトランプなどが攻撃すると、「自分の家族に対する攻撃は堪えられない」と問題を矮小化してしまう。
 大きな問題は、短い記憶しかない結果、イラク戦争はもちろんですが、イラクがどうして今こういう状況になっているのか、どうしてISISがこれほど大手を振っているのか、といったことに対する現実認識ができないということです。
 トランプが典型ですが、彼はイスラム教徒を締め出せばアメリカは安全だと言うわけですけれど、ではアメリカが今まで中東世界で何をやっていたのかに関しては何の理解も示そうとはしない。そういった短い記憶の中でメディアそして政治が動いているというのが、「ネオコンが穏健派と言われるような」状況に陥っている1つの理由かと思います。
②冷戦の終わり方の問題
 もう一つの答えは、冷戦と冷戦の終焉に対する解釈のあり方にあると考えます。
 冷戦の終焉が非常にドラマチックだったこともあり、冷戦後のアメリカには一つの冷戦史の「正統派解釈」が根を下ろします。端的に言えば、冷戦は西側、特にアメリカの完全な勝利と捉えるものです。実際に東欧諸国は社会主義から資本主義化そして民主主義化しましたし、ソ連も解体した。それは翻ってアメリカが政治・経済・軍事、そして道義的にも優越していたことの証明だという解釈が、普通になっていったわけです。
 問題はそこにはとどまらず、冷戦時代に取られたアメリカの政策がほとんど正しかったという議論につながっていく。同盟政策、核抑止論、諜報活動、これらは冷戦時代のアメリカが盛んにやってきたことですが、これらが冷戦の勝利をもたらす役割を果たしたとの解釈が成り立ってしまう。今、同盟、特に日米同盟を公共財だと主張する議論がありますが、そういった見方も次第に定着した。NATOにしても公共財であるという見方です。そして、アメリカの大統領の中で誰が偉かったかというと、トルーマンが冷戦初期に決然とソ連に対して冷戦政策を取ったというので、歴史的評価ではかなり高い位置を占める。そしてレーガンが、冷戦終結を導いたというので根強い人気を、特に一般の人たちの間では誇っている。
 こういった冷戦「勝利」言説、そして冷戦政策への肯定的な見方にくっついてきたのが、「アメリカが例外的な存在である」という考え方です。90年代から、アメリカは「自分たちは必要不可欠の国家である」とか、中国に対して「あなた方は歴史の間違った側に立っている」といった発言を大統領や国務長官が行ってきた国ですが、もともと例外主義的な考え方が強いアメリカが、それが冷戦の終焉であたかも事実であるという解釈を持つようになってしまう。
問題なのは、冷戦政策の中で行われた負のもの―ベトナム戦争をはじめ、世界各地でのCIA工作、イランでの政府転覆活動、あるいは中南米諸国に対する介入―が、大きな流れの中では大した問題ではないと、脇に置かれるか忘却されてしまう。私はイラク戦争でもう一度ベトナムの時のように深い反省がアメリカ社会の中で出てくるだろうと期待したわけですが、それは結局起こりませんでした。今度の選挙戦を見ているとそれは本当にわかります。ジョージ・W・ブッシュを批判するのは「いけないこと」だという風潮が明らかに窺われます。
 このような歴史認識の中で、アメリカが本当に核軍縮や核廃絶に真剣に取り組むことができるのか。残念ながら疑問に思わざるを得ません。

歴史の問題――日本の場合

 翻って日本はどうか。日本の対外政策にとって重要なのは、敗戦という「不名誉」な歴史をどう解釈し、折り合いをつけるかだろうと思います。
①安倍談話の歴史認識
 その意味で、昨年8月の安倍談話は非常に興味深いものでした。安倍首相と彼のコアな支持者は日本の戦争を美化する修正主義的な歴史を語りたかったのだろうと思いますが、それは安保法制の反対運動の中で叶いませんでした。代わって出てきたのは、羅列的な、教科書的な歴史叙述だった。しかし、安倍談話を私は繰り返し読んだのですが、結局これは何を伝えたかったのか、つかみきれません。
 その大きな理由は、日本が敗戦に至った道筋がどうしても書ききれていない、ということだろうと思います。それはある意味で当然のことで、日本が明治以降、真っ先に近代化を成し遂げ、欧米による植民地化を避けることができた、その誇らしい歴史があって、国際連盟にも常任理事国として登場するようになる。この文脈で安倍首相は、「日露戦争がアジアやアフリカの人を勇気づけた」と言ったわけです。そうだとすれば、日露戦争の裏で日本が韓国併合を進めていったことは語りえません。それから、第一次大戦で日本がヨーロッパと肩を並べることになったのを誇るとすれば、日本が大戦中に中華民国に対華21か条要求をつきつけたことも語りえないわけです。
 そういった歴史観の中ですと、日本が戦争を1930年代・40年代に進めていく理由としては、世界恐慌が発生して、ブロック経済になって、日本は孤立感を強めて、道を誤って力による現状変更をしてしまった、という程度の説明しかできず、日本がどうしてアジアへの侵略を進めたかの筋道立った説明はできない。これが、安倍談話が分かりにくい大きな理由ではないかと思います。
②戦後の歴史
 そうやって安倍談話では曖昧にされた「敗戦」の意味ですが、一般的に戦後日本の歴史解釈の中では、「敗戦という「不名誉な歴史」について二つの解釈があったと言っていいかと思います。
 ⅰ)一つは、「敗北」とか「不名誉」の源泉は、1945年8月までの軍国主義であり侵略の歴史にあったという考え方に支えられた解釈です。したがって、この不名誉な歴史を克服するには、日本国憲法の平和主義を活性化して、それによって「国際社会において名誉ある地位を占めたいと思う」という言葉を実現していく。
 ⅱ)もう一つの解釈は、これが昨今強まってきていると思うのですが、「不名誉」は敗北にあるとする考え方だといえます。戦争の原因は安倍談話に見られるようにあまりよくわからない。しかし、とにかく「不名誉」なのは、敗北し、占領され、占領下に憲法まで制定されてしまったことにある。したがって、「敗北」を克服し名誉を挽回するには、憲法を改正し、国軍を作り、国連憲章の敵国条項を撤廃しなければいけないと。
 ここに敗北の根本的な原因、そして何が「不名誉」か、の考え方の違いが存在しています。ⅱ)の考え方については、しばしば、アメリカに対する態度があいまい、両義的だとの指摘がされてきました。つまり、一方では敗北を強いたアメリカからの自立を求め―憲法改正もその一つですが―、他方では日米安保によりかかって日本の軍備増強を進めて行く。しかし、私は、この矛盾が解消されてしまう可能性もなきにしもあらずだと思います。というのも、日本は今まで「不名誉」を挽回するため強国の後ろ盾が必要で、その役割をアメリカに果たしてもらってきた。しかし、もしアメリカの地位が昨今言われるように世界の中で低下するのであれば、日本は「アメリカの影」から抜け出そうとするのではないかと思うわけです。
 先ほどの冷戦の「勝利」もそうですが、日本の「敗戦」は日本の歴史をリセットする役割を果たしました。ⅱ)の人たちからすると、1回敗北してリセットされたのをもう1回リセットしなおすことで、日本が「敗戦」という「不名誉」な歴史を克服できると考えているのだと思います。
 ただ、実はⅰ)の人たちにとっても、リセットの誘惑は強いと思います。もし日本国憲法を非常に大切に思う人たちが、アジアに対する戦争責任を十分問わないまま、日本が「平和国家」だと主張することがあるとすれば、それは、リセットの誘惑にかられて、戦前と戦後、戦争と戦後のつながりを軽視してしまうことになります。私としては、歴史をリセットするのは非常に危険なことだと主張したいと思います。
(次号に続く。まとめ:ピースデポ)

くわしく

【国連核軍縮公開作業部会への私たちの提案】  
「使用禁止」から「包括的禁止」にすすむ段階的アプローチを   ――核兵器依存・非核兵器国に貢献の道

公開日:2017.07.24

2016年2月22日から26日にかけてジュネーブで開催された「多国間軍縮交渉を前進させる」ための公開作業部会(OEWG)第1会期の議論については、議長のタニ・トングファクディ大使(タイ)が整理中であり、4月の第3週までに報告される。今後、5月(第2会期)、8月(第3会期)と議論が深化され、秋の国連総会に勧告を含む報告が行われる。ピースデポも、日本市民として如何にしてOEWGに貢献するのかを考えてきた。ここで示されるような内容を、機会が許されれば第2会期で「作業文書」として提出したいと考えている。


核軍縮のための具体的で実現
可能な法的措置の探求

Ⅰ はじめに

(1)「具体的」の意味を考える
 OEWGの第1のマンデート(任務)は「核兵器のない世界の達成と維持のために締結される必要のある具体的で効果的な法的措置、法的条項および規範について、実質的に議論すること」1にある。
 ここでいう「具体的」(concrete)は、次のような2つの意味を含むと理解するべきである。①法的措置の内容が特定されている(specific)こと、②実現可能性がある(feasible)こと、である。このうち、実現可能性の考察においては、予見しうる時間枠の中で進展をもたらしうること、実現への妥当な最初の担い手(イニシエーター)が予見しうること、が主要な要件として考慮されるべきであろう。
 特定性と実現可能性が「具体性」として要求される理由は、2016年OEWGが設立されるに至った経過を想起すると明らかである。すでに2000年NPT再検討会議において、核兵器国は「保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束」を行った2。2010年NPT再検討会議においては、すべての締約国が「核兵器のない世界という目標に完全に合致した政策をとる」3、「核兵器のない世界を達成し維持するために必要な枠組みを達成するために特別の努力を払う」4と誓約した。そのような総論的合意がありながらも、核軍縮に具体的な進展はなく、逆に核兵器国において保有核兵器の近代化が公然と進行した。核兵器国に近い将来に核兵器を放棄する兆しが見えない。2015年NPT再検討会議では、このような核軍縮の行き詰まりを打開する要求が高まり、最終文書による合意はできなかったものの、核兵器のない世界の達成と維持に必要とされる法的条項などの効果的措置を熟議するための公開作業部会を設立すべきとの勧告が最終文書案に登場した。それを受けて、同年秋の国連総会は、決議70/33において今回のOEWGを設置することを決定したのである。今回のOEWGはこのような差し迫った認識によって支えられている以上、部会に求められる具体的な措置とは、内容が特定されているのみならず実現可能なもの、すなわち特定性と実現可能性を含めた具体性を有するものであって、現状を変える潜在力を有するものでなければならないであろう。
 このように考えたとき、例えば包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効や、兵器用核分裂物質生産禁止条約(FMCT)の交渉は、それを繰り返すだけでは、今回求められている具体的で有効な法的措置とは言えないと考えられる。いずれも特定された内容をもち(specific)、核兵器のない世界にとって必要不可欠な法的措置であることに異論はないものの、過去20年間の経過を考えれば、実現可能性という要件を満たすような具体性をもたないからである。
 
(2)核軍縮における倫理的側面
 核軍縮の行き詰まりを打開する近年における努力の柱の一つは、いわゆる「人道イニシャチブ」と呼ばれるものであった。3回の国際会議の開催を含むこのイニシャチブは、核兵器使用がもたらす壊滅的な人道上の結末について、共通の認識を深めかつ広げることに貢献した。3回の会議をとおして、「核兵器爆発がもたらす短・中・長期的結末が、従来の認識よりもはるかに甚大であること、また、国境での封じ込めが不可能であり、地域的、ひいては地球規模の影響をもたらし、人類の生存さえ脅かしうるものであること」5が再確認された。このような認識は、核兵器国や後述する核依存・非核兵器国も同意している。ある核兵器国代表は、核兵器は「安全保障の問題でもあり人道上の問題でもある」6と述べ、核依存・非核兵器国の多くが参加した共同声明も「核兵器使用の人道上の結末を強調することに異論はない」と述べている7。ここで共有されているのは、必要以上の破壊力や無差別性に起因する、核兵器が本来的に持つ非倫理性の認識である。
 多国間協議による核軍縮努力においてはもう一つの倫理的側面が認識されなければならない。NPT第6条は、締約国に核軍縮への「誠実な交渉」を求めている8。これは多様な政治環境に置かれている諸国による、平等で独立した主権を重んじた交渉の結果が、締約国の良心を前提にした合意となって現れていることを示す文言である。「誠実さ」の倫理性の一つの形は、軍縮を前進させるために「自分自身が率先して行う」締約国の姿勢として現れる。米大統領の2009年プラハ演説が期待と支持の広がりを生み出したのは、自国の「行動する道義的責任」を語り、自国だけでは成就できない困難な事業について「しかし我々は先導できる。スタートを切ることができる」と述べた倫理性に負うところが大きいであろう9。この倫理的側面の回復が核軍縮交渉の行き詰まりの打開のために必要である。
 以上のような具体性と倫理性の認識に立って、私たちは以下の提案を行う。

 
Ⅱ 包括的核兵器禁止条約(CNWC)  への段階的アプローチ

(1)段階的アプローチ
 包括的核兵器禁止条約(CNWC)は検証制度を伴う包括的な条約として、核兵器のない世界の達成と維持のためには必ず必要となる条約である。また、CNWCは核兵器国も同意し締約国となる普遍性が求められる法的文書である。国連事務総長の2008年の5項目提案などによってハイライトされ、その重要性が認識される一方、度重なる国連総会決議にも拘わらず、その交渉開始へのハードルは高いままに留まっている。そんな中で、最近の簡易型核兵器禁止条約(NBT)の提案を契機として法的枠組みについての多様な見解が現れることになった。「人道イニシャチブ」がこの議論の活性化に大きく貢献した。多様な意見交換が行われた結果として、私たちはCNWCという目標を見失わない形で、それへの「段階的アプローチ」10を構想することが可能になった。
 私たちは、前記の「具体性」と「倫理性」の原則にたって、「核兵器の使用を禁止する条約」(以下「使用禁止条約」)を、NBTやCNWCとの関連性を考慮しながらも、独立して追求する意義をもつ第一段階における法的措置であると考え、それを先行的に締結することを提案する。このアプローチは、以下に述べるように、NBTやCNWCに向かう過程において「具体性」とりわけ「実現可能性」の観点から使用禁止がもつユニークな利点を活用することができる。また、その実現によって、第一段階に続く第二段階以後への眺望を開くことが期待できる。
 使用禁止条約を独立して先行させる理由は、核兵器の「使用」と、「保有」や「備蓄」との間に画然とした違いがあると認められるからである。「使用」には相手国に「壊滅的な人道上の結末」をもたらさんとする使用する側の意図が存在し、その結末は、どれだけ限定的な使用であっても、人間の健康や地球環境、社会・経済システムに壊滅的な長期にわたる被害をもたらす。しかし、これらの性質は「保有」や「備蓄」にはない。
 
(2)「使用禁止条約」への新しい考察
 「使用禁止条約」は長く国連総会で議論されてきたテーマであり、「核兵器使用禁止条約(CPUNW)」の名を冠した国連総会決議は1982年に登場して以来35年の歴史を持つ11。その間に冷戦の終結やNPTの無期限延長を含め、国際関係も核軍縮交渉の歴史も大きな変遷を遂げた。しかも、今回のOEWGで検討すべき法的措置に求められる「具体性」や「倫理性」の原則に照らしたとき、CPUNW決議によって使用禁止条約をめざすことには、次のような難点がある。まず、CPUNW決議が、機能不全に陥って久しいCD(ジュネーブ軍縮会議)での交渉を求め続けていることは、具体性とりわけ実現可能性における困難がある。また、NPT外の核兵器保有国であるインドが推進してきた同決議案の論理は「他の国が使用を禁止すれば自らも使用しない」というものであり、今日の核軍縮交渉の行き詰まりを打開する上で求められている倫理性の点において疑問がもたれる。よって本論では、同決議とは別の論理と主体を明確にすることによって、「使用禁止条約」の実現について新しい考察を加える。
 新たな考察によって指摘されるもっとも重要な点は、非核兵器地帯の構成国が「使用禁止条約」の制定を求める特別の資格を持っているという点である。これらの国々は、NPTよりも厳しい内容をもった地域条約によって法的拘束力をもって非核兵器国の地位を選択した。協調的な安全保障制度の第一歩として核兵器に依存しない地帯を形成したこれらの国々は、その地位にふさわしい要求として、核兵器国から法的拘束力のある安全の保証を得るための議定書を定めて核兵器国にそれへの加盟を求めている。
 しかし、核兵器の使用は国境と時間を越えて壊滅的被害をもたらすという近年の更新された知見によれば、そのような国々でも、地帯外で起こった核兵器の使用による被害からは自由ではない。したがって、これらの国々は、核兵器使用のグローバルな禁止を要求する道義的な資格をもっていると言えるであろう。本論では、非核兵器地帯の構成国が使用禁止条約のイニシャチブを担うアプローチを論理化して、新しい精神を持った「核兵器使用禁止条約」を提案する。
 このようにして成立する「使用禁止条約」が核兵器国によって支持され、核兵器が使用されなくなる可能性は低いと考えられるかもしれない。そうであったとしても、非核兵器地帯条約加盟国が地帯内に対してのみならず、グローバルな「使用禁止条約」を制定して核兵器国に順守を要求することは、非核兵器地帯を設立した目的の延長線上において追求されるべき、当然の法的要請であると認められる。
 もちろん、「使用禁止条約」でもたらされる安全の恩恵は非核兵器地帯の構成国に限定されるものではなく、地球上のすべての国民がその恩恵に浴する。したがって、その恩恵を自覚するすべての国が、このような条約の制定のイニシエーターとなる資格がある。もちろん、同条約への加盟も勧奨される。非核兵器地帯構成国の適格性を強調するのは、多国間軍縮交渉におけるイニシエーターの倫理上の立場が重要な意味をもつと考えられるからである。
 
(3)部分的措置
 核兵器が実際に使用されていない「使用の威嚇」だけでは「壊滅的な人道上の結末」は引き起こされない。だが使用禁止条約においては、「使用の威嚇」は「使用」と同じく禁止対象とされるべきである。なぜなら、国連憲章が「武力による威嚇」と「武力の行使」を同列に慎むべきものとしている(第2条3)ことに現れているように、条約によって違法化された「使用」という行為を示唆して「威嚇」することは、「使用」そのものと同様に違法とみなされるべきだからである。
 CNWCが制定されるまでの「使用禁止条約」はあくまでも部分的な法的措置である。核保有国が「使用禁止条約」を支持し締約国となる可能性が高くない現状においては、まず、2000年のNPT再検討会議の最終合意文書以来繰り返し確認されているように、「核兵器の使用または使用の威嚇を防止する唯一の絶対的な保証は、核兵器の完全廃棄である」12との基本認識の妥当性は失われない。また、核兵器保有国が「使用禁止条約」に参加したとしても、核兵器が存在する限り、事故、過失などによる意図されない核爆発のリスクは消滅しない。つまり、使用禁止条約によっても核兵器の完全廃棄を確実にするCNWCの追求は引き続き緊急課題であり続ける。
 このように「使用禁止条約」は部分的措置ではあるが、それを達成することによってCNWCへの新しい眺望を得ることができるような第一段階の措置である。とはいえ、その措置は、「使用」と「使用の威嚇」に限定することによって、「保有」や「備蓄」などの規制においては必要とされる検証システムに関する複雑な交渉を回避し、比較的短期間で実現が可能と考えられるので、核軍縮をめぐる状況に、変化を生み出す。

Ⅲ 使用禁止条約と
核兵器に依存する非核兵器国

(1)核依存・非核兵器国の核軍縮における役割
 核兵器のない世界の達成のためには、すべての国の努力が必要であることは当然であるが、2013年OEWG報告書が「国々には異なる役割や機能がある」13と述べたように、それぞれの国にとって貢献すべき効果的な分野や方法が存在するであろう。核兵器国が核軍縮を進めるべき当事国であることは論を待たないが、核兵器のない世界に向かう過程において非核兵器国が果たすべき役割を具体的に論じることの重要さを指摘する論調を、2013年OEWG報告書において窺うことができる。同報告書は、非核兵器国が「グローバルな核軍縮を促進する役割を担っている」との見解が共有されたと述べている14
 核兵器との関係において、国は次の4つに類型化することができる。①NPT下の核兵器国、②NPT外の核保有国、③核兵器に依存する非核兵器国(以下「核依存・非核兵器国」)、そして④非核兵器地帯を構成する非核兵器国、である。核抑止力が、核兵器を使用する意図と態勢を維持することに基礎をおいている以上、前述したように、①または②の国家は本論の趣旨における使用禁止条約に参加することは期待できない。④非核兵器地帯構成国が使用禁止条約の成立において果たしうる重要な役割については第Ⅱ章ですでに述べたとおりである。ここでは③核依存・非核兵器国が「使用禁止条約」に関して果たしうる役割を検討する。
 核依存・非核兵器国は、核兵器国との軍事同盟の関係にある国々である。北大西洋条約機構(NATO)、アジア太平洋における米国との二国間条約、集団的安全保障条約(タシケント条約)機構(CSTO)15等に参加する非核兵器国が該当する。これらの国々における核兵器への依存の具体的内容は必ずしも明らかではないが、核兵器の非核国への配備や作戦分担まで踏み込んだ協力関係や配備なしの拡大核抑止力に限定した協力関係など多岐にわたっている。これらの国々は多くの場合、自国の安全保障の重要な部分を核兵器国のもつ核抑止力に依存しており、逆に核兵器国は、核保有をつづける重要な理由の一つに「同盟上の義務の履行」を公然と掲げている16。したがって、核依存・非核兵器国が核兵器に依存する政策を変更することは、核兵器国の核軍縮に直接的に貢献する。

(2) 安全保障政策上の核兵器の役割の低減
 このように、核依存・非核兵器国が自国の安全保障政策における核兵器の役割を低減するために行動することが、核兵器国の核軍縮に貢献することは、核軍縮の多国間協議の場ですでに論じられてきた。NPT再検討プロセスにおいて、核兵器の「役割の低減」を行いその履行状況を報告することが、2010年までは核兵器国に対して求められてきた17。しかし、この要求は核兵器国だけではなく核兵器国と同盟関係にある国々にも適用されるべきであるという主張がその後提起された。2013年OEWGにおいても、この議論が行われたことが報告されている18。これらの結果、2015NPT再検討会議の最終文書案では、この要求はすべての関係国に要請された19
 核依存・非核兵器国の「使用禁止条約」に対する態度は、このような「自国の安全保障政策における核兵器の役割をいかに低減するか」という課題の下に検討されるべきであろう。核依存・非核兵器国にとって、包括的な核兵器禁止条約(CNWC)や簡易型核兵器禁止条約(NBT)に対する支持・参加と「使用禁止条約」に対する支持・参加との間に、核兵器依存政策と矛盾するという点において大きな差はないであろう。しかし、核兵器国にとっては、前者と後者の条約の間に自国の雇用や産業を含む社会・経済に及ぼす直接的な影響において、大きな違いが発生する。したがって、この点を考慮すると、核依存・非核兵器国は、核兵器依存を無くす方向へ政策転換を図る第一歩として「使用禁止条約」への参加を考慮することが、よりハードルの低い選択となる。

(3)核依存・非核兵器国の「使用禁止条約」へのアプローチ
 「使用禁止条約」への支持・参加を追求する核依存・非核兵器国のアプローチは、それぞれの国の置かれた多様な地域的安全保障環境、歴史的・文化的背景、宗教的背景などを反映して、異なったものになるであろう。非核兵器地帯設立に向かうことが適切なケースもあろうし、使用禁止条約への直接的な参加を核兵器国との同盟関係を壊さずに追求できるケースもあり得る。いずれの場合においても、核軍縮の行き詰まりを打開するために具体性と倫理性の原則に立って緊急に取り組むことが求められる。
 核兵器国と軍事同盟関係にある非核兵器国がすべて核依存・非核兵器国ではない。軍事同盟下の非核国であっても核兵器の役割を排除し核兵器を厳しく否定する政策を選択している国は、すでに存在する。中央アジア非核兵器地帯条約や東南アジア非核兵器地帯条約に加盟するいくつかの非核兵器国がそれである。それらの国は、非核兵器地帯条約によって核兵器に依存しない地域的な協調的安全保障の仕組みの下にあり、Ⅱ章で述べたように、使用禁止条約に参加するのに障害がないどころか、提案国の役割を担うのにふさわしい条件を備えている。この事実は、核依存・非核兵器国は、非核兵器地帯の設立を追求することによって使用禁止条約に参加する道を開くことができることを示している。
 この文脈において、北東アジアと東欧地域の非核兵器地帯化が検討されるべきである。北東アジアは戦争被爆を経験した被爆者が、国境を越えて今なお生活している地域である。また、朝鮮戦争の停戦以来の軍事的緊張が続く中で、核兵器使用の危険が現在も目に見えて存在している地域である。この地域の核依存・非核兵器国は北東アジア非核地帯設立の目標を掲げることによって「使用禁止条約」の推進に貢献することができる。一方、NATOは一日も早く全体として非核化されるべきであるが、それとは別に適切な地域における非核兵器地帯を先行して設立することが可能である。とりわけロシアと接する東欧地域における非核兵器地帯の設立はヨーロッパの緊張緩和に大きく貢献する。この地域の非核兵器国にイニシャチブが生まれ「使用禁止条約」への支持・参加国が生まれれば、その意義は極めて大きい。
 ヨーロッパのNATO加盟国においては、「使用禁止条約」への別のアプローチの可能性も考えることができる。ヨーロッパは繰り返される戦争の惨禍の経験から国際赤十字運動を生んだ歴史があり、その運動は今日の「人道アプローチ」創出の原動力となった20。また、ローマ法王の国連総会演説21に現れたような、国連憲章との整合性という根源的なところから核兵器を否定する宗教的リーダーシップも存在する。これらの倫理性の基盤をもつ世論の圧力によって、NATO加盟の非核兵器国が使用禁止条約への参加を決定する道筋がありうるであろう。NATO加盟の非核兵器国が「使用禁止条約」を巡って多様な対応を示すことによって、新しい変化が始まることが期待される。
 第Ⅱ章の最後のパラグラフにおいて、「使用禁止条約」が第1段階における部分的措置であることを強調した。NBTやCNWCに至る第2段階以後の過程の眺望は、とりわけ本章(第Ⅲ章)に述べた核依存・非核兵器国が「使用禁止条約」にどのように対応するかによって、さまざまな形で開けて行くと期待される。NBTやCNWCを推進するための努力が、同時並行的に継続されるべきことは言うまでもない。(田巻一彦、梅林宏道)


1 国連総会決議「多国間核軍縮交渉を前進させる」(70/33)。
2 2000年NPT再検討会議最終文書、第1部「第6条及び前文第8~12節」、第15節。NPT/CONF. 2000/28
3 2010年NPT再検討会議最終文書・第1巻第1部「結論ならびに今後の行動に向けた勧告」、行動1。NPT/CONF.2010/50(vol.I)
4 同・Bⅲ。
5 国連総会決議「核兵器の禁止と廃絶に向けた人道の誓約」(70/48)前文。
6 2010年NPT再検討会議、主委員会Ⅰ・下部機関Ⅰ、ロバート・ウッド米軍縮会議特別代表の声明、15年5月8日。
7 第70回国連総会第1委員会、27か国共同声明、15年11月2日。
8 NPT第6条「核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行う。」
9 「核保有国として、核兵器を使用した唯一の国として、米国には行動する道義的責任がある。我々だけではこの努力を成功に導くことはできない。しかし我々は先導できる。スタートを切ることができる。」(バラク・オバマ、09年4月5日、プラハ)
10 CNWCについてモデルNWC(以下「モデル条約」)が専門家グループによって作成され、国連文書(A/62/650)及び2013年OEWGの作業文書(A/AC.281/WP.7)となっている。モデル条約も「段階的」プロセスを提案しているが、ここでの「段階的アプローチ」とは異なる意味で使われている。モデル条約の場合は、核保有国の核兵器の廃棄を、警戒態勢の解除、配備の中止、弾頭の運搬手段からの除去、弾頭の無能化、ピットの除去と解体、核物質の国際管理下への提出、という段階を経て行うという意味である。
11 決議はインドによって提案された。最初の決議はA/RES/37/100C(1982年)であり、最新の決議はA/RES/70/62(2015年)。
12 2000年NPT再検討会議最終文書・第1部「1995年再検討・延長会議の決定を考慮した条約運用の再検討」第Ⅶ条、NPT/CONF.2000/28 (Parts I and II)、及び(2010年NPT再検討会議最終文書「結論ならびに今後の行動に向けた勧告」1.C.i、NPT/CONF.2010/50(vol.I)。
13 「核兵器のない世界の達成と維持のための多国間軍縮交渉の前進に向けた国連公開作業部会報告書」、第41節、13年10月9日、A/68/514。
14 同第42節。
15 集団的安全保障条約(CST)第4条。同条約は94年、アルメニア、カザフスタン、キルギスタン、ロシア、タジキスタン及びウズベキスタンの6か国によって発効され、94年にアゼルバイジャン、グルジア(現ジョージア)及びベラルーシが追加加盟した。しかし99年の延長議定書にアゼルバイジャン、グルジア、ウズベキスタンが署名せずに離脱、現在の加盟国は6か国である。02年には集団的安全保障条約機構(CSTO)憲章及びCSTO地位協定が調印され、集団的な執行体制などを整えた。
16 たとえば米国は、「同盟国やパートナーに安心を提供する」ことを核兵器政策の主要な目標の一つと再確認している。米国「核態勢の見直し(NPR)」(2010年4月)
17 2010年NPT再検討会議最終文書・第1巻第1部「結論ならびに今後の行動に向けた勧告」、行動5。NPT/CONF.2010/50(vol.I)
18 文献13、第44節。
19 「154-7 会議はすべての関係国が次の再検討サイクルを通して、軍事及び安全保障上の概念、ドクトリン、政策を、それらにおける核兵器の役割及び重要性をさらに縮小するという見地から検討しつづけることを要請する。」NPT/CONF.2015/WP.58
20 たとえば、2010年4月、NPT再検討会議の直前にヤコブ・ケレンベルガー総裁がジュネーブで行った演説が会議に大きな影響を与えた。www.icrc.org/web/eng/siteeng0.nsf/html/nuclear-weapons-statement-200410
21 フランシスコ法王の国連総会での演説、2015年9月。 
www.holyseemission.org/contents//statements/statements-56054736193b87.20279259.php

くわしく