核兵器・核実験モニター バックナンバー

【日誌】核・ミサイル/沖縄(16年4月21日~5月20日)

公開日:2017.07.17

DPRK=朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)/IS=「イスラム国」/NATO=北大西洋条約機構/OEWG=公開作業部会/SLBM=潜水艦発射弾道ミサイル


●4月21日 李DPRK外相が国連本部の会合で演説、「米国が朝鮮半島で軍事演習する状況下では核に頼らざるを得ない」。
●4月23日 DPRKが東岸の日本海上でSLBMとみられる飛翔体1発を発射、失敗か。
●4月23日 李DPRK外相、AP通信のインタビューで「米国が米韓合同軍事演習をやめればDPRKも新たな核実験を止める用意あり」。
●4月24日 金正恩DPRK第1書記、SLBMの水中試験発射を現地指導し「成功」と述べる。
●4月24日 オバマ米大統領、DPRK外相の「合同軍事演習止めれば核実験中止」との言を「真剣に受け止めない」と退ける。
●4月24日 米韓合同軍事演習「フォウル・イーグル」終了(3月7日から)。
●4月24日 国連安保理、DPRKのSLBM試験発射につき、06年以降の一連の決議への「深刻な違反」と非難する報道機関向け声明。
●4月26日 ターンブル豪首相、次期潜水艦12隻を仏政府系軍事企業に発注と発表。日本は落選。
●4月26日 海自大型護衛艦「いせ」が比スービック港に初寄港。同港は対中国を念頭に比軍が南シナ海防衛拠点として再整備中。
●4月26日 安倍内閣、特定秘密保護法運用状況の年次報告書を国会に提出。具体的件名公表されず。
●4月26日 市民ら約500人が安保関連法違憲訴訟を東京地裁に提起。自衛隊出動の差止訴訟と精神的苦痛による国賠訴訟。福島地裁いわき支部にも約200人が同法違憲訴訟提起。
●4月28日付 中国軍が整備を進めてきた共産党中央軍事委直轄「統合作戦指揮センター」が北京市西部に完成と判明。
●4月28日 DPRKが東岸沿い元山付近から中距離弾道ミサイル「ムスダン」と推定される飛翔体、計2発を発射。いずれも失敗か。
●4月30日 岸田外相が北京で中国の李克強首相、王毅外相と会談。核・ミサイル開発のDPRKに双方懸念。南シナ海問題では溝。
●5月2日 ジュネーブで国連核軍縮OEWG第2会期が開幕。13日まで。(本号参照)
●5月2日 中谷防衛相、ガズミン比国防相と電話協議し海自の中古練習機貸与で合意。防衛装備移転三原則下、初の自衛隊機貸与。
●5月3日付 朝日新聞の憲法世論調査。9条「変えないほうがよい」68%(15年63%)、「変えるほうがよい」27%(15年29%)。
●5月6日 DPRK労働党大会。党規約改正を行い、核戦力増強と経済建設を同時に進める並進路線を盛り込む。
●5月12日 プーチン露大統領、ルーマニアでNATOミサイル防衛運用が始まったことを受け、対抗措置を示唆。
●5月16日付 6月末ハワイ沖で行われる日米ミサイル防衛合同演習に韓国が初参加へ。
●5月16日付 インドネシア軍、南沙諸島の南にある自国領のナトゥナ諸島で潜水艦基地建設を計画していることが明らかに。
●5月19日 安保法廃止署名1,200万筆の一部を4野党議員に提出。

沖縄

●4月22日付 14年8月以降、辺野古崎付近の藻場でジュゴン食み跡確認されず。海上作業開始が影響与えた可能性。
●4月22日 翁長知事、係争処理委で意見陳述。辺野古埋立て承認取消の正当性を主張。
新基地建設を「壮大な愚行」と批判。
●4月23日 環境省、生物多様性保護のための重要海域図を公表。名護市辺野古沖・沖縄市泡瀬沖・那覇空港沖含み県内大半を指定。
●4月26日 おおさか維新が主張する鹿児島県馬毛島への普天間飛行場一時移転案、所有者が政府に契約条件を提示。
●4月26日 佐喜真宜野湾市長訪米。米政府高官らと会談し、普天間飛行場の早期返還求める。「5年以内運用停止」は要請せず。
●4月29日 在沖米軍基地周辺校の空調維持費補助を一部廃止。沖縄防衛局、14日付で県教育庁へ通知。16年度以降設計分から。
●4月30日 辺野古沿岸部で立入禁止区域を示すフロート・オイルフェンスの撤去開始。
●5月2日 辺野古基金寄付金総額5億6千万円を突破。今後、「辺野古訴訟支援研究会」へ800万円の支援も。
●5月2日 米軍牧港補給地区周辺の底質調査で小湾川河口の地下排水溝直下地点から1㎏あたり510㎎の鉛を検出。県が調査へ。
●5月2日 陸自第15旅団・米海兵隊、10日・11日にキャンプ瑞慶覧で共同警備訓練。県内では初実施。
●5月4日 県議選立候補予定者70人へ政策アンケート。「9条堅持」75.7%、「普天間県内移設反対」58.6%。(琉球新報)
●5月6日 鳩山元首相、翁長知事と面談。普天間県外移設の取組みについて提言。
●5月6日 AV8Bハリアー戦闘機、米ノースカロライナ州で墜落。沖縄でも同型機が飛来し、伊江島で離着陸訓練を実施。
●5月8日付 米国防省、メルビン元国防長官在任時代の歴史記録書に沖縄の日本復帰後も「核を再持ち込みする権利を維持」と明記。
●5月9日 空調補助費廃止問題。県内では計108校・施設が対象に(15年度実績計2億1800万円)。県教育庁が撤回求める方針。
●5月11日 北部訓練場ヘリパッド新設事業で新たに2か所のヘリパッド建設工事の入札公告。工期は17年9月30日。
●5月13日付 防衛省、12年7月26日の日米合同委員会でオスプレイ運用制約の「形骸化」を米へ提案。内部文書で判明。
●5月15日 辺野古基地建設警備業務、14年6月~16年12月で165億円以上に。2社が独占。超過勤務や残業代不払いの問題も。
●5月18日 訪米中の翁長知事、普天間返還合意時の駐日大使モンデール氏と会談。辺野古移設計画の見直しを訴える。
●5月19日 県警、元海兵隊員を死体遺棄容疑で緊急逮捕。4月下旬にうるま市で行方不明になっていた女性会社員の遺体を発見。
●5月19日 辺野古海上警備請負会社、残業代2年分支払いを全社員に通達。16日に沖縄労働基準監督署が是正勧告。
●5月20日 ニコルソン在沖米四軍調整官・エレンライク在沖米総領事、県庁を訪問。米軍属による女性死体遺棄事件で謝罪。

くわしく

【連載「いま語る」65】  「自分の信仰の根本に立って行動することが一番」   小橋孝一さん(「北東アジア非核兵器地帯・宗教者声明」呼びかけ人、牧師)

公開日:2017.07.17

 小学校2年生の時に、戦争が終わりました。学校では、二度と戦争はしないということで憲法9条ができたと教えてもらいました。子どもながらに日本はガラッと変わるんだと思いました。高校生になり教会に通い、牧師となり、半世紀以上、聖書にもとづいて命や平和の大切さを伝えてきました。
 安倍政権が集団的自衛権の行使を可能とすることを含めた安保法制を強行成立させ、日本を「戦争する国」にしようとしていることは、自分の人生が全部ひっくり返されることになり、絶対に受け入れることはできません。この3月、戦争法は施行されてしまいましたが、あくまでも廃止を求めて行動していきます。日本は、戦争の悲惨さは学んだけれど、アジアを侵略したという加害者としての認識が浅いので、再び「戦争する国」になろうとする動きが出てくるのだと思います。
 そうした中、2月12日、キリスト教や仏教を含む日本の宗教者4人が呼びかけ人となり、北東アジア非核兵器地帯の設立を求める宗教者の声明を発表しました。私は、キリスト者の立場から、この趣旨に賛同し、呼びかけ人に加わりました。それぞれの宗教が自分の信仰の根本に立って考え、行動することが一番力になる。そしてそれらが一緒に力を合わせてやっていけるということが、このキャンペーンの大きな趣旨であろうと思います。
 キリスト者の立場から言うと、イエス様が自分が捕らえられるときに、弟子に向かって「剣(つるぎ)をさやに納めなさい。剣を取るものは剣によって滅びる」と言われた(新約聖書マタイによる福音書26章52節)。核兵器は究極の暴力、剣だと思うが、核兵器を取る者は核兵器によって滅びるというのは、歴然と今われわれの目の前にある事態です。要するに核兵器に依存して核兵器を相手に突きつける、それが平和を維持する手段だということはもはや言えない。2千年前にイエス様がおっしゃったように、核兵器を取ってそれによって身を守ろうというようなことは、自らを滅ぼす道なんです。これが、今の状況の中にイエス様が語りかけてくださっている声だと私は思っています。そのイエス様の考え、方針に従って、北東アジア非核兵器地帯を支持する宗教者声明の取組みを進めていきたいと思います。
 一方、その立場から北東アジアの平和を考えてみたい。例えて言えば、ピストルを抜いて今にも撃つぞという構えを持っている者たちがズラッといる。その真ん中にピストルを持っていない者がいて、こんなにピストルを突きつけられるのならば、自分もピストルを持たなきゃいけない。そう思ってピストルを造ろうとすると、それを平和を乱す国だとかいろんなことを言われて、いろんな手段で制裁を加えられるという状況です。ピストルを突きつけている側が、自分たちがピストルを突きつけていることを念頭に置かないで、「あそこはピストルを造ろうとしている。けしからん、危ないということを、自分の後ろにいる者たちに宣伝しているというふうなことではないか。北東アジアの軍事的な緊張関係の構造は、単純化して言えばそういうことになる。
 その上で、大切なことは、ピストルを造らせないためには、ピストルを突きつけている側が、少なくともピストルをしまわなきゃいかん。もうこのピストルは、絶対あなたには向けないということを宣言して、そしてこのピストルは徐々に廃棄していくということを明言して、その方向に動き出したときに、ピストルを造らなきゃいけないと必死になっている者も、もうピストルを造らなくても大丈夫かなということになるのではないか。そうしないでおいて、経済制裁だけを加えたってだめですよ。「言うことを聞かないなら飢え死にさせるぞ」。しかし、「欲しがりません勝つまでは」の精神が浸透していれば、飢えを我慢するということになりかねない。
 まず自分たちがピストルを持ったり、ピストルで脅かすことをやめるということ。そうでなければ、ピストルを造ることをやめさせることはできない。イエス様がおっしゃるように、剣を取る者は剣によって滅びる。結局、ピストルを突きつけている側も、そのピストルによって自らが滅んでしまう。日本の国を守ろうとすれば、日本が核兵器に依存することをまずやめる。それ以外に日本の国の滅びをまぬがれる方法はないのです。宗教者声明の見出しは、「私たち日本の宗教者は、日本が『核の傘』依存を止め、北東アジア非核兵器地帯の設立に向かうことを求めます」となっています。まさに、私の考えそのものです。
(談。まとめ:湯浅一郎、写真:荒井摂子)

くわしく

<資料>国会議員の質問主意書と政府答弁書(2016年、1973年)

公開日:2017.07.17

【資料1】
平成二十八年三月二十三日提出質問第二〇四号

内閣法制局長官による核兵器使用に係る発言に関する質問主意書
提出者  鈴木貴子

 本年三月十八日参議院予算委員会に於ける、内閣法制局長官の「憲法上、あらゆる種類の核兵器の使用がおよそ禁止されているというふうには考えていない」との発言を踏まえ、以下質問する。
一 先の内閣法制局長官の発言は、日本政府による核兵器の使用は憲法上禁止されていない、即ち日本政府による核兵器の使用は憲法上認められているとの見解か確認を求める。
二 過去の質問主意書に対する答弁書及び委員会に於ける政府答弁により、日本政府による核兵器の保有は憲法上禁止されていない、即ち日本政府による核兵器の保有は憲法上認められているとの見解を示されているが、改めて確認を求める。
三 日本国憲法第九十八条に「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」とあるが、核兵器不拡散条約の締結国である日本政府として、日本国憲法と日本国が締結した核兵器不拡散条約、どちらが優位に立つか説明を求める。
 右質問する。
――――――――――
平成二十八年四月一日受領
答弁第二〇四号

  内閣衆質一九〇第二〇四号
  平成二十八年四月一日
内閣総理大臣臨時代理
国務大臣 麻生太郎

    衆議院議長 大島理森 殿

衆議院議員鈴木貴子君提出内閣法制局長官による核兵器使用に係る発言に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員鈴木貴子君提出内閣法制局長官による核兵器使用に係る発言に関する質問に対する答弁書

一及び二について

 我が国は、いわゆる非核三原則により、憲法上は保有することを禁ぜられていないものを含めて政策上の方針として一切の核兵器を保有しないという原則を堅持している。また、原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)において、原子力利用は平和の目的に限り行う旨が規定され、さらに、我が国は、核兵器の不拡散に関する条約(昭和五十一年条約第六号)上の非核兵器国として、核兵器等の受領、製造等を行わない義務を負っており、我が国は一切の核兵器を保有し得ないこととしているところである。
 その上で、従来から、政府は、憲法第九条と核兵器との関係についての純法理的な問題として、我が国には固有の自衛権があり、自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法第九条第二項によっても禁止されているわけではなく、したがって、核兵器であっても、仮にそのような限度にとどまるものがあるとすれば、それを保有することは、必ずしも憲法の禁止するところではないが、他方、右の限度を超える核兵器の保有は、憲法上許されないものであり、このことは核兵器の使用についても妥当すると解しているところであり、平成二十八年三月十八日の参議院予算委員会における横畠内閣法制局長官の答弁もこの趣旨を述べたものである。

三について

 一及び二についてで述べたとおり、純法理的な問題として、憲法第九条は、一切の核兵器の保有及び使用をおよそ禁止しているわけではないと解されるが、その保有及び使用を義務付けているというものでないことは当然であるから、核兵器を保有及び使用しないこととする政策的選択を行うことは憲法上何ら否定されていないのであり、現に我が国は、そうした政策的選択の下に、非核三原則を堅持し、更に原子力基本法及び核兵器の不拡散に関する条約により一切の核兵器を保有し得ないこととしているところであって、憲法と核兵器の不拡散に関する条約との間に、お尋ねのような効力の優劣関係を論ずるべき抵触の問題は存在しない。

(強調:編集部)

くわしく

【政府の「核兵器合憲論」を糺す】  「自衛の範囲内ならば核兵器を持てる」――政府が再び答弁書  なぜ「全面違憲論」に立てないのか

公開日:2017.07.17

 今年3月18日の参議院予算委員会で、横畠裕介内閣法制局長官は参議院議員白眞勲氏(民主)の質問に答えて、「憲法は、防衛のための必要最小限の範囲内ならば核兵器の使用も禁じていない」という趣旨の答弁を行った。これに対し、3月23日に衆議院議員鈴木貴子氏(無所属)、同日に同じく逢坂誠二氏(民主党(のちに民進党)・無所属クラブ)、そして4月7日に前出の白氏(民進党。国会質問時は民主党)が相次いで政府見解を明確にすべく質問主意書を提出、閣議決定を経た答弁書が提出された。資料1(10ページ)に鈴木氏の質問主意書と答弁書の全文を示す。答弁書は、「我が国には固有の自衛権があり、自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法第九条第二項によっても禁止されているわけではなく、したがって、核兵器であっても、仮にそのような限度にとどまるものがあるとすれば、それを保有することは、必ずしも憲法の禁止するところではないと述べた。他の2つの質問主意書への答弁書も基本的に同じ内容であった。
 核兵器の保有を「自衛の限度内であれば合憲」とする政府見解が示されたのはこれが初めてではない。資料2(10ページ)に示す、1973年の第71回国会に第2次田中内閣が提出した「答弁書」(質問者は衆議院議員永末英一氏(民社))が最初の事例であった。同答弁書は、「普通に核兵器といわれているものは、他国に脅威を与えるような攻撃的核兵器を指していると考えられるので、保有すれば憲法に違反する」という原則を示しつつ、自衛の限度内の核兵器であれば、その保有は憲法に反しないとしている。すなわち、政府の見解は、43年前も今日も変わっていないのである。
 「必要最小限度の実力」あるいは「自衛の限度内」の核兵器というとき、政府はどのような兵器を念頭に置いているのであろうか。世界の核兵器廃絶世論がそうであるように、憲法第9条は核兵器を「カテゴリーとして否定」していると言えるはずである。現内閣を含む歴代内閣はこのような憲法解釈をしても政策論としての非核三原則を越えて核保有することはないと明言している。その言葉に偽りがないならば、現状では法的拘束力のない非核三原則の法制化が少なくとも提議されてしかるべきである。(山口大輔)

くわしく

<資料>ピースデポ作業文書(全文)

公開日:2017.07.15

【資料】作業文書「核軍縮のための具体的で実現可能な法的措置の探求」
“Quest of Legal Measures with Specificity and Feasibility for Nuclear Disarmament”
NPO法人ピースデポ
国連総会「公開作業部会:多国間核軍縮交渉を前進させる」(ジュネーブ) 
2016年4月27日 A/AC.286/NGO/5


Ⅰ はじめに

(1) 「具体的」の意味を考える
1.OEWGの第1のマンデート(任務)は「核兵器のない世界の達成と維持のために締結される必要のある具体的で効果的な法的措置、法的条項および規範について、実質的に議論すること」1にある。ここでいう「具体的」(concrete)は、次のような2つの意味を含むと理解するべきである。①法的措置の内容が特定されている(specific)こと、②実現可能性がある(feasible)こと、である。このうち、実現可能性の考察においては、予見しうる時間枠の中で進展をもたらしうること、実現への妥当な最初の担い手(イニシエーター)が予見しうること、が主要な要件として考慮されるべきであろう。

2.特定性と実現可能性が「具体性」として要求される理由は、2016年OEWGが設立されるに至った経過を想起すると明らかである。すでに2000年NPT再検討会議において、核兵器国は「保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束」を行った2。2010年NPT再検討会議においては、すべての締約国が「核兵器のない世界という目標に完全に合致した政策をとる」3、「核兵器のない世界を達成し維持するために必要な枠組みを達成するために特別の努力を払う」4と誓約した。そのような総論的合意がありながらも、核軍縮に具体的な進展はなく、逆に核兵器国において保有核兵器の近代化が公然と進行した。核兵器国に近い将来に核兵器を放棄する兆しが見えない。2015年NPT再検討会議では、このような核軍縮の行き詰まりを打開する要求が高まり、最終文書による合意はできなかったものの、核兵器のない世界の達成と維持に必要とされる法的条項などの効果的措置を熟議するための公開作業部会を設立すべきとの勧告が最終文書案に登場した。それを受けて、同年秋の国連総会は、決議70/33において今回のOEWGを設置することを決定したのである。今回のOEWGはこのような差し迫った認識によって支えられている以上、部会に求められる具体的な措置とは、内容が特定されているのみならず実現可能なもの、すなわち特定性と実現可能性を含めた具体性を有するものであって、現状を変える潜在力を有するものでなければならないであろう。

(2) 核軍縮における倫理的側面
3.核軍縮の行き詰まりを打開する近年における努力の柱の一つは、いわゆる「人道イニシャチブ」と呼ばれるものであった。3回の国際会議の開催を含むこのイニシャチブは、核兵器使用がもたらす壊滅的な人道上の結末について、共通の認識を深めかつ広げることに貢献した。3回の会議をとおして、「核兵器爆発がもたらす短・中・長期的結末が、従来の認識よりもはるかに甚大であること、また、国境での封じ込めが不可能であり、地域的、ひいては地球規模の影響をもたらし、人類の生存さえ脅かしうるものであること」5が再確認された。このような認識は、核兵器国や核依存・非核兵器国も同意している。(核依存・非核兵器国については後述する。)ある核兵器国は「核兵器使用の深刻な結末を全面的に理解しており、使用の防止を最優先課題としてきた」と述べ6、核依存・非核兵器国の多くが参加した共同声明も「核兵器爆発による甚大な人道的結末は明白であり、議論の余地がない」と述べている7。ここで共有されているのは、国際人道法において禁止されるべき必要以上の破壊力や無差別性などの特性を有する核兵器が本来的に持つ非倫理的性質についての認識である。

4.多国間協議による核軍縮努力においてはもう一つの倫理的側面が認識されなければならない。NPT第6条は、締約国に核軍縮への「誠実な交渉」を求めている。これは多様な政治環境に置かれている諸国による、平等で独立した主権を重んじた交渉の結果が、締約国の良心を前提にした合意となって現れていることを示す文言である。「誠実さ」の倫理性の一つの形は、軍縮を前進させるために「自分自身が率先して行う」締約国の姿勢として現れる。米大統領の2009年プラハ演説が期待と支持の広がりを生み出したのは、自国の「行動する道義的責任」を語り、自国だけでは成就できない困難な事業について「しかし我々は先導できる。スタートを切ることができる」8と述べた倫理性に負うところが大きいであろう。この倫理的側面の回復が核軍縮交渉の行き詰まりの打開のために必要である。

5.以上のような具体性と倫理性の認識に立って、私たちは以下の提案を行う。

 
Ⅱ 包括的核兵器禁止条約(CNWC)への段階的アプローチ

(1) 段階的アプローチ
6.包括的核兵器禁止条約(CNWC)は検証制度を伴う包括的な条約として、核兵器のない世界の達成と維持のためには必ず必要となる条約である。また、CNWCは核兵器国も同意し締約国となる普遍性が求められる法的文書である。国連事務総長の2008年の5項目提案などによってハイライトされ、その重要性が認識される一方、度重なる国連総会決議にも拘わらず、その交渉開始へのハードルは高いままに留まっている。そんな中で、法的枠組みについて、新アジェンダ連合が整理した9ように、CNWCの他にも、簡易型核兵器禁止条約(NBT)、枠組み協定、混合型の協定など多様な選択肢が登場するようになった。「人道イニシャチブ」がこの議論の活性化に大きく貢献した。多様な意見交換が行われた結果として、私たちはCNWCという目標を見失わない形で、それへの「段階的アプローチ」を構想することが可能になった。

7.私たちは、前記の「具体性」と「倫理性」の原則にたって、「核兵器の使用を禁止する条約」(以下「使用禁止条約」)を、NBTやCNWCとの関連性を考慮しながらも、独立して追求する意義をもつ第一段階における法的措置であると考え、それを先行的に締結することを提案する。このアプローチは、以下に述べるように、NBTやCNWCに向かう過程において「具体性」とりわけ「実現可能性」の観点から使用禁止がもつユニークな利点を活用することができる。また、その実現によって、第一段階に続く第二段階以後への眺望を開くことが期待できる。

8.使用禁止条約を独立して先行させる理由は、核兵器の「使用」と、「保有」や「備蓄」との間に画然とした違いがあると認められるからである。「使用」には相手国に「壊滅的な人道上の結末」をもたらさんとする使用する側の意図が存在し、その結末は、どれだけ限定的な使用であっても、人間の健康や地球環境、社会・経済システムに壊滅的な長期にわたる被害をもたらす。しかし、これらの性質は「保有」や「備蓄」にはない。
 
(2) 「使用禁止条約」への新しい考察
9.「使用禁止条約」は長く国連総会で議論されてきたテーマであり、「核兵器使用禁止条約(CPUNW)」の名を冠した国連総会決議は1982年に登場して以来35年の歴史を持つ10。その間に冷戦の終結やNPTの無期限延長を含め、国際関係も核軍縮交渉の歴史も大きな変遷を遂げた。しかも、今回のOEWGで検討すべき法的措置に求められる「具体性」や「倫理性」の原則に照らしたとき、CPUNW決議によって使用禁止条約をめざすことには、次のような難点がある。まず、CPUNW決議が、機能不全に陥って久しいCD(ジュネーブ軍縮会議)での交渉を求め続けていることは、具体性とりわけ実現可能性における困難がある。また、NPT外の核兵器保有国であるインドが推進してきた同決議案の論理は「他の国が使用を禁止すれば自らも使用しない」というものであり、今日の核軍縮交渉の行き詰まりを打開する上で求められている倫理性の原則の点において疑問がもたれる。よって本論では、同決議とは別の論理と主体を明確にすることによって、「使用禁止条約」の実現について新しい考察を加える。

10.新たな考察によって指摘されるもっとも重要な点は、非核兵器地帯の構成国が「使用禁止条約」の制定を求める特別の資格を持っているという点である。これらの国々は、NPTよりも厳しい内容をもった地域条約によって法的拘束力をもって非核兵器国の地位を選択した。協調的な安全保障制度の第一歩として核兵器に依存しない地帯を形成したこれらの国々は、その地位にふさわしい要求として、核兵器国から法的拘束力のある安全の保証を得るための議定書を定めて核兵器国にそれへの加盟を求めている。

11.しかし、核兵器の使用は国境と時間を越えて壊滅的被害をもたらすという近年の更新された知見によれば、そのような国々でも、地帯外で起こった核兵器の使用による被害からは自由ではない。したがって、これらの国々は、核兵器使用のグローバルな禁止を要求する道義的な資格をもっていると言えるであろう。本論では、非核兵器地帯の構成国が使用禁止条約のイニシャチブを担うアプローチを論理化して、新しい精神を持った「核兵器使用禁止条約」を提案する。

12.このようにして成立する「使用禁止条約」が核兵器国によって支持され、核兵器が使用されなくなる可能性は低いと考えられるかもしれない。そうであったとしても、非核兵器地帯条約加盟国が地帯内に対してのみならず、グローバルな「使用禁止条約」を制定して核兵器国に順守を要求することは、非核兵器地帯を設立した目的の延長線上において追求されるべき、当然の法的要請であると認められる。

13.もちろん、「使用禁止条約」でもたらされる安全の恩恵は非核兵器地帯の構成国に限定されるものではなく、地球上のすべての国民がその恩恵に浴する。したがって、その恩恵を自覚するすべての国が、このような条約の制定のイニシエーターとなる資格がある。もちろん、同条約への加盟も勧奨される。非核兵器地帯構成国の適格性を強調するのは、多国間軍縮交渉におけるイニシエーターの倫理上の立場が、困難な現在においては、重要な意味をもつと考えられるからである。
 
(3) 部分的措置
14.核兵器が実際に使用されていない「使用の威嚇」だけでは「壊滅的な人道上の結末」は引き起こされない。だが使用禁止条約においては、「使用の威嚇」は「使用」と同じく禁止対象とされるべきである。なぜなら、国連憲章が「武力による威嚇」と「武力の行使」を同列に慎むべきものとしている(第2条4項)ことに現れているように、条約によって違法化された「使用」という行為を示唆して「威嚇」することは、「使用」そのものと同様に違法とみなされるべきだからである。

15.CNWCが制定されるまでの「使用禁止条約」はあくまでも部分的な法的措置である。核保有国が「使用禁止条約」を支持し締約国となる可能性が高くない現状においては、2000年のNPT再検討会議の最終合意文書以来繰り返し確認されているように、「核兵器の使用または使用の威嚇を防止する唯一の絶対的な保証は、核兵器の完全廃棄である」11との基本認識の妥当性は失われない。また、核兵器保有国が「使用禁止条約」に参加したとしても、核兵器が存在する限り、事故、過失などによる意図されない核爆発のリスクは消滅しない。つまり、使用禁止条約によっても核兵器の完全廃棄を確実にするCNWCの追求は引き続き緊急課題であり続ける。

16.このように「使用禁止条約」は部分的措置ではあるが、それを達成することによってCNWCへの新しい眺望を得ることができるような重要な第一段階の措置である。とはいえ、その措置は、「使用」と「使用の威嚇」に限定することによって、「保有」や「備蓄」などの規制においては必要とされる検証システムに関する複雑な交渉を回避し、比較的短期間で実現が可能と考えられるので、核軍縮をめぐる状況に、変化を生み出す。

Ⅲ 使用禁止条約と核兵器に依存する非核兵器国

(1) 核依存・非核兵器国の核軍縮における役割
17.核兵器のない世界の達成のためには、すべての国の努力が必要であることは当然であるが、2013年OEWG報告書が「国々には異なる役割や機能がある」12と述べたように、それぞれの国にとって貢献すべき効果的な分野や方法が存在するであろう。核兵器国が核軍縮を進めるべき当事国であることは論を待たないが、核兵器のない世界に向かう過程において非核兵器国が果たすべき役割を具体的に論じることの重要さを指摘する論調を、2013年OEWG報告書において窺うことができる。同報告書は、非核兵器国が「グローバルな核軍縮を促進する役割を担っている」との見解が共有されたと述べている13

18.核兵器との関係において、国は次の4つに類型化することができる。①NPT下の核兵器国、②NPT外の核保有国、③核兵器に依存する非核兵器国(以下「核依存・非核兵器国」)、そして④非核兵器地帯を構成する非核兵器国、である。核抑止力が、核兵器を使用する意図と態勢を維持することに基礎をおいている以上、前述したように、①または②の国家は本論の趣旨における使用禁止条約に参加することは期待できない。④非核兵器地帯構成国が使用禁止条約の成立において果たしうる重要な役割については第Ⅱ章ですでに述べたとおりである。ここでは③核依存・非核兵器国が「使用禁止条約」に関して果たしうる役割を検討する。

19.核依存・非核兵器国は、核兵器国との軍事同盟の関係にある国々である。北大西洋条約機構(NATO)、アジア太平洋における米国との二国間条約、集団的安全保障条約(タシケント条約)機構(CSTO)等に参加する非核兵器国が該当する。これらの国々における核兵器への依存の具体的内容は必ずしも明らかではないが、核兵器の非核兵器国への配備や作戦分担まで踏み込んだ協力関係や配備なしの拡大核抑止力に限定した協力関係など多岐にわたっている。これらの国々は多くの場合、自国の安全保障の重要な部分を核兵器国のもつ核抑止力に依存しており、逆に核兵器国は、核保有をつづける重要な理由の一つに「同盟上の義務の履行」を公然と掲げている14。したがって、核依存・非核兵器国が核兵器に依存する政策を変更することは、核兵器国の核軍縮に直接的に貢献する。

(2) 安全保障政策上の核兵器の役割の低減
20.このように、核依存・非核兵器国が自国の安全保障政策における核兵器の役割を低減するために行動することが、核兵器国の核軍縮に貢献することは、核軍縮の多国間協議の場ですでに論じられてきた。NPT再検討プロセスにおいて、核兵器の「役割の低減」を行いその履行状況を報告することが、2010年までは核兵器国に対して求められてきた15。しかし、この要求は核兵器国だけではなく核兵器国と同盟関係にある国々にも適用されるべきであるという主張がその後提起された。2013年OEWGにおいても、この議論が行われたことが報告されている16。これらの結果、2015NPT再検討会議の最終文書案では、この要求はすべての関係国に要請された17

21.核依存・非核兵器国の「使用禁止条約」に対する態度は、このような「自国の安全保障政策における核兵器の役割をいかに低減するか」という課題の下に検討されるべきであろう。核依存・非核兵器国にとって、包括的な核兵器禁止条約(CNWC)や簡易型核兵器禁止条約(NBT)に対する支持・参加と「使用禁止条約」に対する支持・参加との間に、核兵器依存政策と矛盾するという点において大きな差はないであろう。しかし、核兵器国にとっては、前者と後者の条約の間に自国の雇用や産業を含む社会・経済に及ぼす直接的な影響において、大きな違いが発生する。したがって、この点を考慮すると、核依存・非核兵器国は、核兵器依存を無くす方向へ政策転換を図る第一歩として「使用禁止条約」への参加を考慮することが、よりハードルの低い選択となる。

(3) 核依存・非核兵器国の「使用禁止条約」へのアプローチ
22.「使用禁止条約」への支持・参加を追求する核依存・非核兵器国のアプローチは、それぞれの国の置かれた多様な地域的安全保障環境、歴史的・文化的背景、宗教的背景などを反映して、異なったものになるであろう。非核兵器地帯設立に向かうことが適切なケースもあろうし、使用禁止条約への直接的な参加を核兵器国との同盟関係を壊さずに追求できるケースもあり得る。いずれの場合においても、核軍縮の行き詰まりを打開するために具体性と倫理性の原則に立って緊急に取り組むことが求められる。

23.核兵器国と軍事同盟関係にある非核兵器国がすべて核依存・非核兵器国ではない。軍事同盟下の非核兵器国であっても核兵器の役割を排除し核兵器を厳しく否定する政策を選択している国は、すでに存在する。中央アジア非核兵器地帯条約や東南アジア非核兵器地帯条約に加盟するいくつかの非核兵器国がそれである。それらの国は、非核兵器地帯条約によって核兵器に依存しない地域的な協調的安全保障の仕組みの下にあり、Ⅱ章で述べたように、使用禁止条約に参加するのに障害がないどころか、提案国の役割を担うのにふさわしい条件を備えている。この事実は、核依存・非核兵器国は、非核兵器地帯の設立を追求することによって使用禁止条約に参加する道を開くことができることを示している。

24.この文脈において、北東アジアと東欧地域の非核兵器地帯化が検討されるべきである。北東アジアは戦争被爆を経験した被爆者が、国境を越えて今なお生活している地域である。また、1953年における朝鮮戦争の停戦以来の軍事的緊張が続く中で、核兵器使用の危険が現在も目に見えて存在している地域である。この地域の核依存・非核兵器国は北東アジア非核兵器地帯設立の目標を掲げることによって「使用禁止条約」の推進に貢献することができる。一方、NATOは一日も早く全体として非核化されるべきであるが、それとは別に適切な地域における非核兵器地帯を先行して設立することが可能である。とりわけロシアと接する東欧地域における非核兵器地帯の設立はヨーロッパの緊張緩和に大きく貢献する。この地域の非核兵器国にイニシャチブが生まれ「使用禁止条約」への支持・参加国が生まれれば、その意義は極めて大きい。

25.ヨーロッパのNATO加盟国においては、「使用禁止条約」への別のアプローチの可能性も考えることができる。ヨーロッパは繰り返される戦争の惨禍の経験から国際赤十字運動を生んだ歴史があり、その運動は今日の「人道アプローチ」創出の原動力となった。また、ローマ法王の国連総会演説18に現れたような、国連憲章との整合性という根源的なところから核兵器を否定する宗教的リーダーシップも存在する。これらの倫理性の基盤をもつ世論の圧力によって、NATO加盟の非核兵器国が使用禁止条約への参加を決定する道筋がありうるであろう。NATO加盟の非核兵器国が「使用禁止条約」を巡って多様な対応を示すことによって、新しい変化が始まることが期待される。

26.第Ⅱ章の最後のパラグラフにおいて、「使用禁止条約」が第1段階における部分的措置であることを強調した。NBTやCNWCに至る第2段階以後の過程の眺望は、とりわけ本章(第Ⅲ章)に述べた核依存・非核兵器国が「使用禁止条約」にどのように対応するかによって、さまざまな形で開けて行くと期待される。NBTやCNWCを推進するための努力が、同時並行的に継続されるべきことは言うまでもない。

1 A/RES/70/33
2 NPT/CONF.2000/28, P.14
3 NPT/CONF.2010/50 (vol. I), P.20
4 同上。
5 A/RES/70/48の前文。
6 米国務省報道官室、2014年11月7日。http://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2014/11/233868.htm
7 第70回国連総会第1委員会、「核兵器の人道上の影響に関する3決議についての27か国を代表したオーストラリアによる投票前の共同声明」、2015年11月2日。
 http://reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/1com/1com15/statements/2November_Australia-27.pdf
8 米大統領のプラハ演説、2009年4月5日。
9 NPT/CONF.2015/PC.III/WP.18、2014年4月2日。
10 最初の決議:A/RES/37/100C(1982)、また最新の決議:A/RES/70/62(2015)
11 NPT/CONF.2000/28 (Parts I and II)、P.15、及びNPT/CONF.2010/50 (vol.I)、P.21。
12 A/68/514、第41節、2013年10月9日。
13 A/68/514、第42節、2013年10月9日。
14 例えば米国の「核態勢見直し」、2010年4月。
15 NPT/CONF.2010/50 (vol. I)、P.21。
16 A/68/514、第44節、2013年10月9日。
17 NPT/CONF.2015/WP.58、第154節第7項、P.22。
18 国連総会におけるローマ法王の演説。2015年9月25日。
http://statements.unmeetings.org/media2/7651291/pope-francis-eng-.pdf
(正文は英語)

くわしく

【OEWG参加報告】  国連「核軍縮」公開作業部会(OEWG)第2会期がジュネーブで開催  ピースデポは作業文書を提出、代表と事務局長が参加・発言

公開日:2017.07.15

 「多国間核軍縮交渉を前進させる」ための国連公開作業部会の第2会期が、5月2~4日、9~13日にスイス・ジュネーブの国連欧州本部で開かれた。「核兵器のない世界の達成と維持のために締結される必要のある具体的で効果的な法的措置、法的条項および規範について実質的に議論」1すべく、80か国あまり2の政府代表のほか、国際機関、学術研究機関、NGO計90組織あまり3が一堂に会した。ピースデポからは作業文書(6~9ページ資料)を提出したほか、代表と事務局長が会期後半の5月9~13日に参加した。

政府代表とNGOが同じ場で議論

 「市民社会代表の参加や貢献を伴って招集され」る4公開作業部会には、NGOは事前登録すれば比較的容易に参加でき、作業文書も提出すれば「原則として受理される」(事務局担当者の話)。
 会議場は、壇上の議長やパネリストの席を中心にして扇形に机が並んでおり、内側が各国政府代表、外側がNGOなどの席となっていた。
 会議は各日とも午前10時に開会し、午後1時から3時まで2時間の休憩をはさんで午後6時まで行われた。「法的措置の要素」「交渉前進の方途」などのテーマに沿って壇上のパネリストが問題提起をしたあと、フロアから、パネリストへの質問や意見を含め、各テーマに関連する発言を行う。ただし、フロア発言は必ずしもテーマに厳密に沿ったものとは限らなかった5
 発言希望者は予め議長のタニ・トングファクディ大使(タイ)に発言を申し出る。ただしNGOなど市民社会代表は、国連が窓口に指名したWILPF(婦人国際平和自由連盟)の担当者に発言希望の時間帯を事前に伝えておけば、それが議長にも伝わる仕組みとなっていた。議長の采配により、複数の国と複数のNGOとが交互に発言する形で会議は進行した。

「作業文書」と「北東アジア非核兵器地帯」で2回発言(ピースデポ)

 ピースデポは2度にわたり発言した6
 1回目は5月11日(水)、自身が提出した作業文書のポイントを紹介する発言を行った。まず、核軍縮をめぐる膠着状態を打破し現状に変化を起こしたいと願って作業文書を提出した旨を一言述べた。その上で、包括的核兵器禁止条約への第1段階の措置として「使用禁止条約」を提起し、使用と使用の威嚇を、保有や備蓄と独立して禁止することが可能であることおよびその意義を述べた。また、その際に非核国(「非核兵器地帯条約」締約国と核依存国の双方)が積極的な役割を果たしうるとした。
 2回目の発言は13日(金)、北東アジア非核兵器地帯構想について行った。会議では、非核兵器地帯条約締約国の視点から核兵器禁止条約交渉の早期開始を提言する作業文書(A/AC.286/W.34)が提出されたほか、「非核兵器地帯がまだない地域への新たな設置が必要」との発言が複数の政府代表からなされ、他方で、日本や韓国の代表は北東アジアの安全保障環境を理由に核兵器依存からの脱却が難しいとの趣旨の発言を行っていた。これらを受けて、核兵器依存から脱却するための構想が日本の市民社会で育まれていることを知ってもらおうと発言したものである。

核兵器「禁止」をめぐる溝

 以下、第2会期後半の議論を傍聴しての印象を簡単に記しておきたい。
 出席した国々は、核兵器のない世界をめざすべきという点では一致していたと言ってよい。しかし、そこに至る道筋と時間軸をめぐっては、各国は大きく2つに分かれていた。すなわち、①「核兵器を禁止する法的拘束力ある法的文書」の交渉開始を早急に始めるべきとする国々と、②核兵器禁止に向けた交渉開始は時期尚早であり、核保有国を交えてCTBT発効・FMCT交渉など既定の措置の実行に注力すべきとする核依存国、という従来からあった分岐である。互いの主張は平行線をたどり、溝は容易には埋めがたいとの印象を残した。
 埋めがたい溝を象徴していたのが、前者の急先鋒たるメキシコと後者の代表格である日本のやりとりだった。メキシコ代表が「この部屋は現状を変えようとする者と守ろうとする者に分かれている。核依存国の『前進的(漸進的)アプローチ』(progressive approach)は何も新しくない。彼らの狙いは現状維持だ」と核依存国を批判すれば、日本代表が「現状維持派と改革派という単純な二分法を私は受け入れない。核軍縮過程はジグザグだ」と応じるなど、両者の応酬が随所で聞かれた。
 その一方で、発言をよく聴いていると各「派」内でも微妙な温度差が感じられたほか、互いに歩み寄ろうとする姿勢が窺える発言もなくはなかった。例えば「禁止推進派」のオーストリアは「禁止自体に反対の国はなく、禁止をすべき時期に意見の相違があるに過ぎない」と、主張の違いを際立たせたメキシコとは異なるトーンの発言をした。核依存国のオランダは「我が国議会は核兵器禁止を含む核軍縮の効果的措置に取り組む意思を表明した」と述べ、「違いに焦点を当てず共通点を見出す努力をすべき」などとした。スウェーデンは、新たな法的措置はNPT体制を弱体化させるとの慎重派からの批判を念頭に、NPT第6条の追加議定書の導入を提案した。こうした議論が今後、膠着状態の打開につながるのか、興味がもたれる。

今後に向けて

 今会期については、第1会期後に作成されたような「まとめ文書」は出されず、その代わり国連総会第1委員会に提出される「勧告を含む報告書」の草案たたき台(ゼロ・ドラフト)が7月末~8月初めに議長より発表されるという。8月の第3会期では、この「報告書」の取りまとめに向けて議論が行われる。その採択方式をめぐっては、日本などが核兵器国を含む全会一致方式を強く主張したものの、全会一致か多数決か結論は出なかった。
 会期最終日の13日、議長から第3会期の日程が提案された。8月5日(金)、16日(火)と17日(水)の午後、19日(金)に全体会を開く予定で、必要に応じ、8月8~19日の期間内に若干の非公式協議も行う計画という。
 各国政府とNGOによる議論の内容については次号で詳報する。(荒井摂子)

1 国連総会決議70/33主文2節
2 国連事務局発行の名簿(A/AC.286/CRP.1、16年5月13日)に掲載されているのは46か国だが、会場の政府代表席にあった国名の札は80を超えた。
3 注2の名簿(A/AC.286/CRP.1)による。
4 国連総会決議70/33主文5節
5 テーマやパネリスト名は第2会期の日程表(A/AC.286/WP.21/Rev.1)に記載されている。
6 発言原稿(英文)はWILPF(リーチング・クリティカル・ウィル)ウェブサイト内に掲載されている。
  www.reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/ oewg/2016/may/statements

くわしく

【資料】 オバマ米大統領の広島訪問に際し、日米両首脳にNGOが要請書 「核兵器のない世界を実現するために 言葉だけでなく、真の行動をとることを求めます」(核兵器廃絶日本NGO・市民連絡会)

公開日:2017.07.15

アメリカ合衆国大統領 バラク・オバマ様
日本国総理大臣 安倍晋三様

核兵器のない世界を実現するために
言葉だけでなく、真の行動をとることを求めます

 来る5月27日、G7伊勢志摩サミットの機会に、オバマ大統領が被爆地広島を訪問されることに対して、私たちは心より敬意を表します。私たちはこの機会に、日米両首脳に対して、71年前の核兵器の使用によってもたらされた未曾有の非人間的体験を直視し、核兵器のない世界の実現に向けた真の行動をとることを求めます。米国大統領の初の広島訪問という歴史的な機会を、ただの修辞だけに終わらせてはなりません。私たちは日米両政府に、以下の行動を誓約するよう求めます。

1.核兵器の非人道性についての認識をはっきりと示し、核に依存した安全保障政策から決別してください
●被爆者の生の声に耳を傾け、無差別大量殺戮をもたらした原爆投下は歴史的な間違いであったとする認識、いかなる核兵器の使用も壊滅的で非人道的な結末をもたらすという認識、そしてそのような破滅を決してくり返してはならないという強い決意を明確に打ち出してください。

●核兵器のない世界のための法的措置に関する国連作業部会(OEWG)は、核兵器を禁止して廃絶する普遍的な法的枠組みを作るための重要な場です。米国は、作業部会に参加してください。日本は、核兵器禁止条約の交渉開始を支持し、積極的かつ建設的な役割を果たしてください。

●日米両政府は、核兵器によらない安全保障の構築に向けて行動を開始してください。安全保障政策における核兵器の役割の縮小は、オバマ大統領がプラハ演説で掲げた重要な課題です。しかし米国の政策はいまだ不十分であり、日本はまだほとんど何も取り組んでいません。

2.北東アジアに非核・平和の秩序をもたらす努力を強めてください
●北朝鮮が核ミサイル開発を続けていることに対して、制裁手段や軍事的威嚇に頼るのでなく、非核兵器地帯の設置を含め、北東アジア地域に非核・平和の秩序をもたらすような外交努力を進めてください。中国との軍縮対話の促進も重要な課題です。

3.核拡散や核テロにつながる核物質を管理すると共に、これらを防止する政策を強化してください
●プルトニウムと高濃縮ウランの最小化と管理強化は、世界的な核不拡散・核セキュリティ上の緊急課題です。日本が約48トンという大量のプルトニウムを利用目的の説明のつかないまま保有していることは深刻な問題です。青森県六ヶ所村の再処理工場の運転凍結を含め、日米両政府はこの問題に協力して取り組むべきです。

2016年5月24日
核兵器廃絶日本NGO・市民連絡会
共同世話人
 川崎哲(ピースボート)
 田中熙巳(日本原水爆被害者団体協議会)
 朝長万左男(核兵器廃絶地球市民長崎集会実行委員会)
 内藤雅義(日本反核法律家協会)
 森瀧春子(核兵器廃絶をめざすヒロシマの会)

連絡先 03-3363-7561(ピースボート)

くわしく

【寄稿】  マーシャル「核ゼロ裁判」と核軍縮交渉   ――山田寿則(明治大学兼任講師/国際反核法律家協会(IALANA)理事)

公開日:2017.07.15

本年(2016年)3月7日から16日まで国際司法裁判所(ICJ)においてマーシャル訴訟(核ゼロ裁判)の管轄権および受理可能性に関する審理の口頭弁論が行われた。2014年4月24日のマーシャル諸島共和国(RMI)による提訴の時点でRMIの訴状は公開されていたが、その他の訴訟書面はこの口頭弁論の際に開示された。提訴からおよそ2年を経過して、ようやくこの訴訟の全容が明らかとなった。マーシャル訴訟(核ゼロ裁判)は現在英国、インドおよびパキスタンをそれぞれ被告とする3事件につき手続が進行中である。


これまでの経緯と裁判の仕組み

 RMIは核保有9か国(米ロ英仏中、インド、パキスタン、イスラエルおよび北朝鮮)それぞれを相手取り核軍縮交渉義務の不履行を根拠に提訴していた1が、実際には英印パを被告とする3つの事件についてのみ手続が進行している。国際社会において国家は自らの同意なく国際裁判に応じる義務を一般に負っていない(応訴義務の不在)。このため原告と被告の双方が裁判の開始に同意することが必要となる。ICJには、裁判をより容易にする工夫として、諸国が予めICJの裁判権を受諾する宣言(強制管轄権受諾宣言)を出して裁判の開始に事前同意を与えておく制度がある。これによって、この宣言を出している国同士の関係では応訴義務が生じる。英印パおよびRMIはこの宣言を出しているので、RMIの一方的提訴により上記のように裁判が開始された。残りの6か国は現在このような宣言を出していないので、この6か国が任意で応訴しない限り裁判は始まらない。
 ICJの審理2も国内裁判と同様に書面手続と口頭手続の2つからなる。まず原告と被告がその主張を書面(申述書と答弁書)で交換し、次に法廷における弁論へと進む。弁論の終結後に判決が出る。しかし、実際の裁判では直ちに訴えの中身(本案)の審理に入ることは例外的であり、ICJの管轄権の存否や請求の受理可能性の可否が争われることが多い。つまり、前記の強制管轄権受諾宣言にはいずれの国も、何らかの条件(留保)を付しており、この条件を根拠に個別の事案が予め与えた同意の範囲に該当しないと主張することがしばしばである(管轄権の否認)。また、様々な理由から当該事案を裁判に付すことは適切でない等と主張されることがある(受理可能性の否認)。このような主張が提起された場合、ICJはこれらの事項につき本案とは別個に審理し判決を下す。マーシャル訴訟は現在このような手続段階にある。
 提訴後の2014年6月、まずインドが本事案についての管轄権の不存在を主張し、次いで同年7月パキスタンも管轄権の不在と請求の受理可能性を争ったために、ICJは対印事件については管轄権に関して、対パキスタン事件については管轄権および受理可能性に関して、本案に先立ち別個にとり扱うこととした。その後、15年6月に英国が印パと同じように管轄権の存在ないしは本件の受理可能性を争う抗弁(先決的抗弁)を提起したため、対英事件についても、本案に先立ち管轄権および受理可能性の問題を審理することとなった。これら審理はすでに書面段階を終え、冒頭で触れたようにこの3月で弁論が終結した3ため、現在判決に向けて裁判官による評議が行われている。なお、パキスタンは自らの主張は書面に尽くされているとして弁論を欠席した(ICJでは欠席裁判は可能である)。判決の申し渡しは弁論終結後3~4か月が通例とされるが、本稿執筆時点で判決期日はまだ発表されていない。
 したがって、現在待たれているのは3事件のいずれにおいても手続上の事項に関する判決であり、RMIが提起した訴えの中身(本案)、即ち被告による核軍縮交渉義務の不履行の有無に関する判決ではない。仮に管轄権および受理可能性が否定される判決が出ると手続はこれで終了する(ICJは一審制であり上訴はない)。肯定的な判決が出た場合には本案手続に進むこととなる。

何が論じられたか

 では、3月の口頭弁論では何が論じられたのだろうか。多様な争点が提起されたが、ここでは本訴訟の全体像に関わる争点をみておきたい。
 まず、3事件に共通する争点として、「紛争」の存否(争点①)、必要当事者の不在(争点②)、判決の実効性(争点③)が挙げられる。
 争点①について被告らは概ねこう主張している。即ち、原告は被告の核軍縮義務不履行に基づき提訴しているが、かかる主張は原告と被告の間では事前に提起されておらず、したがって提訴時に当事国間ではこれに関する「紛争」は存在しないと。例えば英国は、提訴に際しては事前通告要件が国際法上確立していると主張し、RMIは英国に対して何らの問題提起もしておらず、提訴は青天の霹靂であるとした。また、インドは、核兵器禁止条約(NWC)締結交渉開始を呼びかける国連総会決議(いわゆるマレーシア決議)に賛成票を投じ続けており、この点からも原告・被告間に立場の違いはなく、そもそも紛争は存在していない等と主張している。これに対してRMIは、提訴直前の14年2月にメキシコ(ナジャリット)で開催された核兵器の人道上の影響に関する会議においてRMI代表がNPT第6条および慣習国際法上の核軍縮義務を核保有国が履行していないことを明確に指摘しているし、またインドは現実に核戦力を増強しており言行不一致である等と反論している。
 争点②は、本訴訟が英印パをそれぞれ被告とする別個の事件であり、かつ原告が被告の核軍縮交渉義務違反の存在を主張していることと関連する。被告が「交渉義務」に違反しているとの認定は必然的に交渉相手である他方交渉当事国(例えば米仏等)の義務違反の認定を伴うはずだが、当該他方当事国は本件訴訟に同意していないためICJは当該国につき管轄権を有していない。このような「必要当事者」が不在である以上、本件につき管轄権は不在である、ないしは請求の受理可能性は認められないと被告らは主張している。とくに英国は「片手の拍手」という比喩を用いて、一国のみでは交渉は不可能であり、原告(RMI)が言うように交渉追求努力が誠実かどうかは相手国の行為との関係でしか適正に評価できないと主張する。これに対してRMIは、交渉の提起の有無や核軍備の改良の存否などをみれば各国の義務履行の有無は個別に評価できる等と反論している。
 争点③は争点②と関連する。訴状によれば、RMIは裁判所に対して、被告による核軍縮交渉義務違反を認定し、判決後1年以内の核軍縮交渉義務履行のための必要措置をとることを被告に対して命令するよう請求している。これら判決は結果として被告たる英印パそれぞれに対して、つまり核軍縮交渉の一方当事者に対してのみ向けられるのであり、想定される交渉の相手方を法的に拘束しないことから、実効性のない判決となる可能性がある。被告らはこの点を取り上げて、現実に結果を生まないこのような判決を下すことはICJの司法としての任務を越えたものであると主張した。これに対してRMIは、被告等について判決は以下のような現実の結果をもたらすと反論する。まず、英国については、①英国が国連総会、軍縮会議、NPTおよび核軍縮に関する公開作業部会(OEWG)などで核軍縮交渉を支持すること、②完全核軍縮交渉の討議と交渉に誠実参加すること、③必要な場合に、かかる交渉を提議すること、④核兵器システムを質的に改良し無期限にこれを保持する行動(トライデント更新が示唆されている)を停止すること、である。インドについては、同国はカットオフ条約(FMCT)以外支持していないし、核軍備競争停止や制限交渉の提案も、交渉の「追求」もしていないので、判決は実際的に重要性を持つ。パキスタンについては、FMCT交渉開始に反対し核軍拡競争制限措置交渉を提案していないし、核軍備の拡張・改良・多様化を行っている。原告の求める宣言判決はパキスタンの行為に含意を持つという。このように、RMIは相手国の同意を要する「交渉」の実現そのものを要求しているというよりも、自国だけで取ることのできる交渉実現に向けた積極的措置の実施を主張していることがわかる。
 次に、対パキスタン事件において争点となっている原告適格の問題(争点④)をみておきたい。本訴訟においてRMIは、米国の核実験により被った自国の被害についての補償を求めているのではない。被告等の核軍縮交渉義務不履行によりRMIに何らの被害も生じていないから、RMIには訴える資格(原告適格)があるか否かが問題とされた。これについてRMIは、パキスタンは核軍縮交渉義務という国際社会全体に対して負う義務に違反しており、RMIには国際社会全体の利益の観点から訴訟を提起する資格がある等と主張している。
 争点②と争点③からは、RMIの主張する被告らの核軍縮交渉義務違反とは、核軍縮交渉がなされていないことではなく、被告等が示す核軍縮交渉への消極姿勢のことであることが分かる。いわば「握手のための片手」を差し出していないことをRMIは問題にしている。また、争点①と争点④の背後にあるのは、核保有国の核軍縮交渉への消極姿勢を法廷で問うことができるのは誰かという問題である。国連総会などの国際会議の場に参加し主張する非核保有国も法廷に訴えることができるのかという点である。このような問題にICJがどのような判断を示すかが注目される。

マーシャル訴訟は核軍縮交渉を後押しできるか?

 では、仮にこれら諸点を含めて肯定的な判決が出る場合、マーシャル訴訟は現在の核軍縮の議論にどのような意味を持ちうるだろうか。
 まず、このような類型の訴訟がICJにおいて可能なことになるから、類似の新たな訴訟が提起される可能性が生じる。例えば核の傘の下にある諸国を相手取り、これら諸国の行動が核軍縮交渉義務に違反すると主張する訴訟が検討されるかもしれない。この点で、評議中の判決は本案判決ではないとしても現在の核軍縮の議論に一定の含意を持つ。もちろんこのような訴訟を回避するために自らの強制管轄権受諾宣言に新たな条件を付す国もあるかもしれない。実際、英国はRMIが提訴した2014年の末に自らの宣言に新たな条件を付加し、類似の訴訟を除外する措置をとった。
 また、本案段階においてはRMIの訴えの中身が議論されることになる。RMIは被告らが国連総会決議に基づくNWC交渉開始の呼びかけやOEWGの議論に消極的である点および核戦力の近代化等を推進している点を根拠に、核軍縮交渉義務を「誠実」に履行していないと主張している。現在国連総会の下に設置されたOEWGにおいては、核兵器のない世界の維持・達成に必要な効果的法的措置の検討が進められている。ここでは包括的NWCのみならず簡潔な核兵器禁止条約(BAN条約)、枠組条約ないしは枠組み合意などの選択肢が議論のたたき台として示され、討議が続いている。他方、核保有国はすべて不参加であり、参加している核兵器依存国の主張は非依存国のそれときわめて対立的であるとみられている。国連総会におけるこの議論と並行して、国連の「主要な司法機関」たるICJにおいて核軍縮交渉義務の中身が議論されることは、この総会における審議に一定の含意を持つ。実際、このOEWGに提出された作業文書においてフィジーなどの太平洋島嶼国は、この訴訟は核兵器禁止条約交渉の努力を補完強化すると述べている4。審理が本案に進むことが明らかとなった段階で第三国としての訴訟参加を検討する国が出てくるかもしれない。
 もちろんこの訴訟は英印パの3か国のみを被告としているから、判決の法的拘束力は訴訟当事国に限定される。しかし判決中でICJの判断、例えば被告のある特定の行為が核軍縮交渉義務に違反すると判示された場合(上記の争点③参照)、ICJのこの判示はNPT6条ないし慣習国際法の解釈として事実上の重みを持つから、訴訟当事国以外の国の類似の行為もやはり違法であるとの非難を受けることとなる。もっとも本案判決は出るとしても2~3年後と考えられる。
 以上の点からすれば、マーシャル訴訟には核軍縮交渉を後押しする事実上の効果が期待できる。実際、G7広島外相会合の声明においてはOEWGにおける「バランスのとれた建設的な対話」に言及しており、マーシャル訴訟による問題提起への応答とみることもできる5
 この夏ごろに期待される判決は手続段階のものであるが、本訴訟の帰趨を占うだけでなく、現在の核軍縮をめぐる議論に一定の示唆を与え得るものとして注目したい。


1 本誌458号(14年10月15日)参照。
2 ICJの弁論は公開される(ICJ規程46条)。ICJのサ イト(www.icj-cij.org)上で動画の閲覧も可能。
3 本誌494号(16年4月15日)にNGO「核時代平和財団(NAPF)」の報告。
4 A/AC.286/WP.14, para. 7.
5 「不拡散及び軍縮に関するG7声明」(16年4月11日)16項。

くわしく