核兵器・核実験モニター バックナンバー

【日誌】核・ミサイル/沖縄(16年6月6日~7月5日)

公開日:2017.07.15

ASEAN=東南アジア諸国連合/CTBT=包括的核実験禁止条約/DPRK=朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)/IAEA=国際原子力機関/IS=「イスラム国」/IUCN=国際自然保護連合/NSC=国家安全保障会議/NSG=原子力供給国グループ/THAAD=高高度防衛ミサイル


●6月6日 天野IAEA事務局長、衛星写真による分析でDPRKが寧辺の核再処理施設を再稼働した兆候があると明らかに。
●6月7日付 横須賀市で06年に起きた米兵による強盗殺人で、米政府が遺族に「見舞金」で示談を申入れと判明。遺族側は拒否。
●6月7日 野党4党と「安保法制廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」とが参院選に向け政策協定を締結。
●6月7日 米太平洋軍、中国軍戦闘機が南シナ海上空で警戒監視活動中の米軍偵察機に接近して飛行を妨害と明らかに。
●6月7日 北京で6日に開幕の米中戦略対話が閉幕。中国の南シナ海埋立てでは「航行の自由」「主権」を主張して双方譲らず。
●6月7日 米印首脳会談で、東芝の米子会社の原発6基をインドで建設との基本合意。
●6月8日 中国外務省、比国に対し、南シナ海での中国の動きを常設仲裁裁判所に提訴した裁判手続の早期停止を促す声明。
●6月9日 尖閣諸島北東の接続水域を中国海軍の艦艇が航行。日本政府は中国側に抗議しNSCで対応を協議。
●6月9日 モディ印首相、4日からこの日までにスイス、米、メキシコなど5か国を歴訪。NSG加入への支持取り付けが主な狙い。
●6月10日 在日米海軍司令部、全海軍兵士の勤務時間外行動制限を解除。外出の際は行動計画提出。基地内外での飲酒禁止は継続。
●6月10日 佐世保を拠点に九州・沖縄近海で日米印共同訓練「マラバール」開始。米原子力空母も参加。17日まで。
●6月10日 韓国政府、海軍の高速艇を投入し、朝鮮半島西岸の南北中立水域で不法操業の中国漁船十数隻を排除。
●6月13日 ウィーンでCTBT採択20年記念閣僚級会合。早期批准促す発言相次ぐ。
●6月13日 韓国警察庁、DPRKが14年7月-16年2月、韓国軍事企業のコンピュータに侵入、4万2千件以上の文書を盗取と発表。
●6月14日 雲南省で中国・ASEAN外相特別会議。共同会見はなく、ASEAN側が南シナ海の現状に「深刻な懸念」表明する単独声明。
●6月15-16日 被団協が都内で定期総会。オバマ広島演説は米大統領の責任を語らなかったと決議で批判。
●6月17日 文化審議会、長崎原爆遺跡など12件を史跡に指定するよう答申。
●6月17日 イラク政府軍、IS支配の中部都市ファルージャ中心部を制圧。イラク政府は「解放」と宣言。
●6月18日 米海軍がロナルド・レーガンなど空母2隻を比沖に派遣と判明。
●6月19日 「次の国会から憲法審査会を動かしたい」と安倍首相。改憲は「参院選では争点化不要」とも。
●6月20日 原子力規制委、運転開始40年超の高浜原発1、2号機につき60年までの運転延長を認可。
●6月23日付  DPRKが中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射に成功と発表。
●6月23日 国連安保理、DPRKのミサイル発射を強く非難する報道声明を発出。
●6月28日 トルコ・イスタンブール国際空港で自爆テロ。44名死亡、238名負傷。
●6月28日 米日韓がハワイ沖で初の3か国によるミサイル防衛合同演習を実施。
●6月29日 習中国主席、黄韓国首相との会談で、韓国THAAD配備に慎重な対応求める。
●6月30日 プーチン露大統領、在外公館長会議で世界安全保障システム構築を提唱。
●7月1日 ダッカのレストランでIS名乗るグループによる人質立てこもり事件。日本人7名を含む20名が死亡。
●7月3日 バグダッドで連続爆破テロ。少なくも125名死亡、150名負傷。ISが犯行声明。

沖縄

●6月9日 米軍属女性死体遺棄事件容疑者を殺人・強姦致死の疑いで再逮捕。
●6月10日 陸自特殊部隊、今年5月19日に米軍北部訓練場での戦闘訓練を視察。
●6月12日 琉球新報が県内全41市町村長アンケート。「地位協定抜本改定」36名。「辺野古移設断念」16名。
●6月17日 国地方係争処理委、辺野古埋立て承認取消処分是正指示の法的適否判断せず。国・県に協議を促すと結論。
●6月17日 米軍属女性暴行殺人事件。県内全41市町村議会の決議揃う。39議会は地位協定改定要求。
●6月19日 米軍属女性暴行殺人事件に抗議する県民大会。6万5千名参加(主催者発表)。米軍基地整理縮小、海兵隊の撤退を訴える。
●6月20日 下地宮古島市長、陸自配備容認。地下水源地周辺への配備計画には反対。
●6月21日 石垣市議会、陸自配備推進の請願を否決。与党(自民)からも反対・退席。
●6月23日 「慰霊の日」沖縄県全戦没者追悼式。翁長知事、平和宣言で海兵隊削減など求める。安倍首相も参列。
●6月27日 普天間飛行場内の埋蔵文化財調査、米軍が立ち入り認めず。県教委へ「環境補足協定に基づく申請」を求める。
●6月28日 在沖米軍、米軍属女性暴行殺人事件を受けての「哀悼期間」解除。夜間外出(午前1~5時)規制の追加措置を発令。
●6月30日 米軍属女性暴行殺人事件容疑者を殺人・強姦致死の罪で追起訴。
●6月30日 宮森小米軍戦闘機墜落事故から57年。同小で慰霊祭。墜落したF100戦闘機、事故前年に168件の重大事故。
●6月30日付 6月8日頃、本島南方・糸満沖で米軍艦がマグロ船4隻のはえ縄切断の疑い。
●7月3日 国内自然保護6団体、辺野古土砂搬入問題で日米両政府・IUCNに外来生物対策を求める勧告案提出。

くわしく

連載「いま語る」66「理想により現実の誤りを洞察するのが宗教者」山崎龍明さん(「北東アジア非核兵器地帯・宗教者声明」呼びかけ人、僧侶)

公開日:2017.07.15

 2月12日、仏教やキリスト教を含む日本の宗教者4人が呼びかけ人となり、北東アジア非核兵器地帯の設立を求める宗教者の声明を発表しました※。私は、仏教者の立場から、この趣旨に賛同し、呼びかけ人に加わりました。
 40年間、武蔵野大学で仏教学を教えてきましたが、仏教は平和学であると思っています。1962年、大学に入学しました。日本の仏教者と戦争の歴史について学ぶなかで、日本の仏教教団は100パーセント大変な戦争協力の教団であり、例外は一つとしてないという現実を目の当たりにしました。それが私の仏教者としての歩みの出発点となりました。
 60年代の後半には、ベトナム戦争への日本の加担に関連してべ平連の運動が起きるのですが、なぜ多くの仏教者はベトナム戦争反対で声を上げないのかという疑問も湧きました。核のことで言えば、第五福竜丸の久保山愛吉さんの死、ビキニ環礁の核実験による大変な人間抑圧、こういうことに関しても仏教者が一言も何も言わない。そこには完全に二元論的思考があり、信仰は心の問題であり、社会の問題に関わるべきではないというわけです。私はそれを「世俗への蔑視」という呼び方をしています。核の平和利用についても、「もんじゅ」「ふげん」という高速増殖炉の名前がついたとき、この名を取り下げるべきであるという運動も行いました。原発は核武装と有機的に結び付いているということを、私たちは見失ってはなりません。
 現代でも政治家の中に、日本核武装論が底流では大変強くあることに対して、私たちは警戒心を持たなければならないと思います。日本は、核兵器問題に対して大変な後進性を持っているのです。私たちが発言しなければどうなるんだという場に立たされていながら、いつも積極的な姿勢が見られないということを見てきました。やはり私たちはものを言っていかなければならない。
 北朝鮮が核を持たねばならないと思うのは、核が有ればフセインは殺されることはなかったいう側面があります。私は核抑止論ではなく核危険論者(核廃止論)です。核というのは抑止力ではなく危険そのものだということを、認識として強く持っていなければならないのではないかと考えています。
 自身の信仰から言いますと、仏陀は、「恐れが生じたから武器を持ったのではない。武器を持ったから恐れが生じたのである」と述べています。持てば必ず使いたくなるのです。持てば安全どころか、それが脅威になる、あるいは恐怖になるという言葉が、私自身が生きていく根本です。『聖書』の「汝、殺すなかれ」「まず剣をさやにおさめよ」に対して、仏陀は「殺してはならない。殺させてはならない」と言われた。これに尽きます。「殺してはならない。殺させてはならない」と私たち宗教者は口を開けば言うけれども、そのことが今日の社会的なさまざまな命の問題にきちっとリンクしていかなければならない。むしろ机上の空論になっているということを、自分の中に問うてみたい。経典に、仏の真実が人々に行きわたる世界は、「国豊かにして、民安らけく」、その次に「兵戈(ひょうが)無用」というのがあります。つまり兵隊も武器も無用である、武器を全く必要としない国ということです。
 こんなことを言うと、憲法を含めて理想論だとしばしば批判されますが、私は理想を持たない人間は必ず堕落すると思っています。理想は理想であるが故に尊い。そしてその理想によって現実の誤りをきちっと洞察していく。それを担って生きていくのが宗教者の歩みではないかと思うのです。北東アジア非核兵器地帯の設立を支持する宗教者の声を集めていこうとの取り組みに関しても、やはり自分自身の身近なところから、一人でも多くの方々と共にこの方向に向かっての歩みを進めていきたいと考え、呼びかけ人にさせてもらいました。
 また、今、安倍政権が集団的自衛権の行使を可能とすることを含めた安保法制を強行成立させ、日本を「戦争する国」にしようとしていることは、絶対に受け入れることはできません。この3月、戦争法は施行されてしまいましたが、宗教者九条の和の皆さんとともに、あくまでも廃止を求めて行動していきます。
 存在そのものが罪科といっていい原発の稼働にくみし、憲法9条まで改悪していつでも戦争できる国にしたいと考える人々に、それを誤りと言えない者は宗教者ではないとの信念を持って生きていきたいと考えています。
(談。まとめ:湯浅一郎、写真:荒井摂子)

くわしく

<資料>武器輸出解除に関するオバマ大統領の共同記者会見における発言(抜粋訳)

公開日:2017.07.15

2016年5月23日、ハノイ
(前略)
 我々は、ベトナム沿岸警備隊のための警備艇及び訓練を含む防衛協力を深化しつづけること、そして人道危機への対応における協力を緊密化することに合意した。私はまた、合衆国が50年あまりとってきたベトナムへの軍事装備の輸出禁止を全面的に解除しつつあることを宣言することができる。すべての防衛パートナーに対すると同じように、輸出には、依然として人権に関するものを含む厳しい要件が満たされる必要がある。しかし、この方針変更はベトナムに対し、ベトナムが自衛のために必要とするすべての装備へのアクセスを保証するとともに、なおも消えない冷戦の名残を拭いさるであろう。この変更はまた、ベトナム及びこの地域との長期にわたる強力な防衛上の結びつきを含め、ベトナムとの関係を完全に正常化するという合衆国の誓約を明確にするものだ。
 より広くいえば、合衆国とベトナムは、国際的規範とルールが擁護され、航行と飛行が自由で、合法的な通商が妨げられず、さらに紛争が国際法にしたがい法的手段をとおして平和的に解決される、南シナ海を含む地域の秩序を結束して支持する。私はくりかえしたい。合衆国は国際法に許されたあらゆる場所において、引き続き飛行し、航行し、作戦行動をとるであろうし、すべての国が持つ同じように行動する権利を支持するだろう。
 以上述べたような重要な前進にもかかわらず、2つの政府には、民主主義と人権の問題を含めて、未だ合意できない分野が残されている。さらに私は、合衆国が、ベトナムに対しても、他のいかなる国に対しても我々と同じ形態の政府を強要しようとするものではないことを明らかにしたい。我々はベトナムの主権と独立を尊重する。同時に我々は、我々が普遍的であると信じる人権の名において発言をつづけるであろう。そこには言論の自由、報道の自由、信教の自由及び集会の自由が含まれる。さらにそこには、市民が、市民社会を通じて自らの共同体及び国家を形成し、より良いものにしてゆこうとする権利が含まれる。
 我々は――そして私は――信じる。これらの普遍的な権利が擁護され、我々2か国が、建設的かつ協調的な努力の精神に立って、人権に関する対話の一環としてこれらの事項に関する協議を継続するならば、両国はより強くなり、繁栄するであろう。
(略)
 質問:武器輸出禁止の解除について尋ねたい。南シナ海における中国の行動に対するベトナムの軍事的抑止力の増強の必要性は、この決定においてどの程度考慮されているのか。この決定にはカムラン湾を含むベトナムの港湾への米国のアクセスの拡大は含まれているのか。
(略)
 オバマ大統領:禁輸解除は中国を念頭においたものでも、他の理由に基づくものでもない。これは、ベトナムとの関係を正常化するための長いプロセスを完了させるという我々の願いに基づくものだ。このプロセスは数十年前に、いくつかのきわめて果敢で困難な対話から始まった。これらの対話の中にはジョン・ケリー現国務長官、トム・カーパー、ジョン・マケイン両上院議員、そして一群のベトナム従軍経験者とベトナム政府内の対話相手によって主導されてきたものが含まれている。
 そして時とともに、両国関係は徐々に深まり、広がってきた。現時点において私と政権にとって明らかとなったのは、我々が経済、貿易、安全保障及び人道的活動といったすべての領域においてともに協働してゆくとするならば、全面的禁輸の網をかけないほうが適切だということである。現在、誰に対するものであれ、あらゆる武器売却行為は特定の取引とみなされる。我々はどの取引が適切で、どれが適切ではないかを審査する。そして、たとえ非常に近い同盟国であっても、特定の装備が最終的にどのように使われることになるのかの見通しがよりはっきりするまで、当該売却行為を行わないこともありうる。したがって我々はこれらの売却について事案に即した個別的関与を継続してゆく。しかし、我々は2国間のイデオロギーの違いに基づいて売却を禁止することはない。なぜなら、両国が、現段階において、軍レベルも含めて、共通の利益と相互の尊重を反映した一定水準の信頼と協力を確立したと考えるからである。
 事実、包括的パートナーシップをとおして実現されたものの1つに、長きにわたって行われることがなかった両国軍の間の対話がある。そして、すでに合衆国の艦船がベトナムの港に入港できるようになっている。我々は、主として地域における人道危機への対応を巡る軍同士の協力が深化されることを期待している。それが、合衆国艦船の入港の増加を意味する場合もありうるだろう。しかし、艦船の入港は、ベトナム政府の主権と機微な感情を全面的に尊重しつつ、ベトナム政府による招待と協力があって初めて行われることを強調したい。 (後略)
(訳:ピースデポ。強調は編集部)

くわしく

米国、ベトナムへの武器禁輸を全面解除  「リバランス」と連動した中国包囲策――地域の緊張を高める協力強化

公開日:2017.07.15

 オバマ米大統領は、広島を訪問する直前の5月23日から25日にかけて、ベトナム社会主義共和国(以下「ベトナム」)を訪問した。この訪問には、米国の南シナ海戦略、ひいてはアジア太平洋戦略にとっての重大な意図がこめられていた。かつて戦火を交え、ベトナム側に300万人、米国側に5万5千人以上ともいわれる犠牲者を出したベトナム戦争(ベトナムでは「米国戦争」と呼ばれる)後の両国の国交正常化の仕上げとして米国が約束したのは、一貫して継続してきたベトナムへの武器禁輸の全面解除であった。

武器輸入を拡大するベトナム

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が2016年2月に発表した報告書「2015年国際武器移転の傾向」1は、2011~15年と06~10年との国際的武器取引額の比較を次のように要約している。
1) 世界の武器取引の総額は、06~10年に比べ11~15年には14%増加した。
2) 輸入額の最も多い10か国のうち6か国は、次のようにアジア、オセアニアによって占められている。インド(1位、世界の14%)、中国(3位、4.7%)、オーストラリア(5位、3.6%)、パキスタン(7位、3.3%)、ベトナム(8位、2.9%)、韓国(10位、2.6%)。
3) 中東諸国の輸入増が顕著で、11~15年の輸出額は06~10年から61%増。サウジアラビアは同期間比較で275%増、アラブ首長国連邦が35%増、カタール279%増、エジプトが37%増。
4) 一方、世界最大の武器輸出国は米国で取引総額の33%を占めている(06~10年に比べ11~15年は27%増)。次いでロシアが25%(同じく28%増)。フランスは微減、ドイツは半減した。
 ここで注目しておきたいのは、ベトナムが近年、武器輸入を劇的に増加させているということだ。06~10年には世界43位だった輸入額は11~15年には8倍に増加、世界第8位の武器輸入国になった。この伸び率は、同期間の輸入額ランキング上位10か国のうちで最高であった。輸入元は圧倒的にロシアが占め(93%)、イスラエル(2.1%)、ウクライナ(1.8%)がこれに続く(表1)。
 06年から15年の輸入品目をみると、艦艇と航空機がそれぞれ輸入額全体の41%、35%を占め、ベトナムが海・空軍力の増強に力を入れていることがわかる(表2)。11~15年にロシアから輸入された武器には、戦闘機8機、高速攻撃艇4隻、対地攻撃ミサイル搭載の潜水艦4隻が含まれている。

ベトナム「海軍力増強」と中国

 ベトナムが、海・空軍力の増強に力を注いできた背景に、中国との領土紛争があることは言うまでもない。中国とベトナムの海洋における領有権を巡る対立が顕在化したのは、1970年代終期に遡る。以来両国はたびたび衝突を繰り返してきた。緊張関係は、2014年に中国が中越国境沖のベトナムが排他的経済水域(EEZ)を主張する海域で、海底油田探索を開始したことでピークに達し、ベトナム国内での反中国デモや、海上での軍事衝突で死者が出るなどエスカレートしていった。緊張関係は、16年1月に中国が同海域で海底油田の自噴の発見を発表したことでますます高まっている。
 ロシアからの輸入によるベトナムの戦力増強が急速に加速されるのは2011年前後からである(表2)。ベトナムとしては、ロシアから調達してきた艦船や航空機に加えて、情報・監視・偵察(ISR)を強化するためのハイテク装備のニーズが高まっている。一方、米軍の中国本土への接近を阻止するという、米国が「接近阻止/領域拒否(A2/AD)」と名付けた中国軍の態勢に抗して「航海の自由」を確保するとともに、中国の「報復核戦力」の担い手である原潜に対するISRを強化したい米国2にとっても、南シナ海の要衝に位置し中国と対立関係にあるベトナムに、米国と相互運用性(インターオペラビリティ)を有する装備が配備されることは願ってもないことであろう。このような、両国の利害と思惑が交差するところに、今回の米国による「武器禁輸解除」の決定があったと思われる。

中国包囲網の環としての「禁輸解除」

 5月23日に行われた両国大統領による共同記者会見における、禁輸解除に関するオバマ大統領の発言3の抜粋を8ページ資料に示す。オバマ大統領はここで、禁輸解除は中国を意識したものではなく、ひとえにベトナムとの関係正常化を願う立場からの判断であると強調し、禁輸解除にはベトナム国内の人権問題の改善を含めた厳しい条件がつけられていると述べた。しかしオバマ大統領の「合衆国とベトナムは、国際的規範とルールが擁護され、航行と飛行が自由で、合法的な通商が妨げられず、さらに紛争が国際法にしたがい法的手段をとおして平和的に解決される、南シナ海を含む地域の秩序を結束して支持する」という発言が、中国の海洋戦略を批判していることは明らかである。米国が、「禁輸解除」を海洋安全保障全般に関する能力構築を含む援助の一環として提供することによって、ベトナムは米国の戦略により深く関与することになるであろう。すでに2011年には原子力空母ジョージ・ワシントンがカムラン湾に入港するという実績が作られている。記者会見でもオバマ大統領は艦船入港の拡大の可能性があることを示唆している。両国の「関係深化」はそれにとどまらない。社会主義体制を維持しながら、市場経済と自由化を促進する「ドイモイ政策」4をとるベトナムは、すでにTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加を表明している。
 2014年にフィリピンとの「防衛協力強化協定」(ECDA)を締結して、20年以上ぶりに同国での港湾を含む基地使用権を拡大した米国は、インドネシアの沿岸警備隊の能力構築支援、マレーシアへの港湾安全保障への支援などによって、この地域での戦略的地歩を固めてきた5(両国へは資金や中古艦艇を提供すると同時に、艦船の一時寄港権を得ている)。この文脈の中でのベトナムへの武器禁輸解除決定が地域に新しい緊張をもたらすことは明らかである。(田巻一彦)


1 http://books.sipri.org/files/FS/SIPRIFS1602.pdf
2 本誌486号(15年12月15日)。
3 ホワイトハウス・プレスオフィス・サイト(www.whitehouse.gov/the-press-office)から日付(16年5月23日)で検索。
4 1986年12月の第6回ベトナム共産党大会で採択。「ドイモイ」は「刷新」を意味する。
5 ファクトシート「東南アジアにおける米国の海洋能力構築」。1のサイトから日付(15年11月17日)で検索。

くわしく

【詩】   愛  橋爪 文

公開日:2017.07.15

   船上にて
空の青と海の青が溶け合うひとときがある
そこには国境線はなく争いもない
ピースとつぶやいたカモメの声も青
数ヵ国の駐日大使に原爆体験を話す
質疑応答も終ったあと私は言葉をついだ
「私からも質問があります ひとりで暴挙に及ぶとテロリスト団体だとテロ集団 では大国が軍隊を使っての殺人はテロとは呼ばないのでしょうか」
重い無言の空気が流れる
私「地球上に紛争が絶えません さまざまな原因があるのでしょうが 制覇した国と虐げられた国という歴史の流れを変えることができない そこにも一因があるのでは」
胸深く押し込んでいたかのような大使たちの心の叫びが洩れはじめる
E大使「隣国からの独立のために私は十二年間ゲリラ戦で闘った いまの若いリーダーたちは本当の痛みを知らない 真の指導力がない 彼らは歴史を学ぶべきだ」
P大使が絞るように呟いた「いまこの瞬間も私の国は攻められています」そして顔を上げて私に云った「私の国とイスラエル両国へきて話してください 政府から招聘しますので」〈残念ながら体力がもう私にはない〉
いくつかの発言のあとで
私「お願いがあります 政治の中で外交が要だと私は思っております みなさんは外交官でいらっしゃいます 絶対に戦争をしないという理念を心の深いところに置いて外交をしてください」
黙した頷きの中に人間同志響き合うものを覚えた
R大使「あなたは空と海が溶け合うところにいる人です 
 青がお好きですね あなたの本(ヒロシマからの出発)は青 身につけていらっしゃるもの(藍)も青 私も青が好きです」
明日彼らは広島の地に立つ

   役 目
落葉を終えた梢はすでに新しい生命を育んでいる
落葉を敷きつめた大地は豊かな土壌をつくりはじめる
風のように通り過ぎる人間たちよ 人類の役目は何?

はしづめ ぶん 一九三一年一月、広島に生まれる。十四歳のとき爆心地から約一・五キロメートルの所で被爆、瀕死の重傷を負う。日本ペンクラブ、日本詩人クラブに所属。著述、随筆、詩、歌曲や合唱曲の作詩。六一歳でスコットランド・エジンバラの英会話学校へ三か月間の留学、その後「反核・平和海外ひとり行脚」を始める。近著に『ヒロシマからの出発』(二〇一四年、トモコーポレーション)。

くわしく

<資料>「米国、大統領が広島へ向かう途上に核兵器備蓄数を公表」ハンス・クリステンセン(全米科学者連盟(FAS)ブログ記事、全訳)

公開日:2017.07.15

 1945年に米国の核爆弾によって破壊された2つの日本の都市のうち最初の1つである広島への、バラク・オバマ大統領の歴史的訪問の到着直前に、米国防総省は、米国の最新の核兵器備蓄数と核弾頭解体数1の機密指定を解き、公表した。これらの数字は、オバマ政権による核備蓄の削減数が冷戦後の他のどの大統領よりも少なく、2015年に解体された核弾頭数はオバマ大統領の就任以来最小であることを示している。
 この機密解除は、余剰核弾頭を減らすという挑戦の困難さと、言うまでもなく核兵器を完全に廃絶するという、たじろがざるを得ない目標とを人々に思い起こさせることによって、オバマの広島訪問に影を落としている。

オバマの核備蓄削減

 機密解除されたデータは、2015年9月の備蓄には4,571発の核弾頭があったことを示している。これはオバマ政権が今のところブッシュ政権の最終の数と比較して、702発(もしくは13%)の備蓄を減らしたことを意味する。
 702発の核弾頭は小さい数ではない(ロシア以外300発を超える核弾頭を保有する核武装国はない)が、この削減は冷戦後の政権が達成した備蓄削減の中で最小である(図1参照)。
 機密解除された2015年の数字は、我々の最新の「ニュークリア・ノートブック」の推定数2より約100発少ない。その違いの理由は、2014年と2015年の間に退役した核弾頭数が、それ以前の3年間の平均よりも多くなっていたからである。この増加は、おそらく海軍のトライデントミサイルに装備されていた余剰核弾頭が予定より早く退役したことを反映している。
 核弾頭の数の比較だけで備蓄削減の実績を評価するのでは誤解を招くかもしれない。何といっても、こんにちの備蓄核弾頭数は、1991年と比べれば、はるかに少ない(実際、14,437発も少ない)のだから、オバマ政権が過去の冷戦後の諸政権と比べて少ない核弾頭しか退役させていないのは当然ではないか?
 この偏向を克服するため、我々は諸政権下で備蓄弾頭数が何パーセント変化してきたかという観点からも比較した。しかしそれでも、オバマ政権の実績は他のどの冷戦後の政権をも著しく下回っている(図2参照)。

オバマの核弾頭解体

 機密解除された数字は、オバマ政権が昨年たった109発の退役核弾頭しか解体していないことを示している。これはオバマ大統領の在任中、最小の年間解体数である。そして少なくとも1970年以来の1年当たりの解体数の中で最小に見える。
 国家核安全保障管理局(以下、NNSA)は2015年の実績が少ないのは「安全性の見直し、めったにないほど多数の落雷、そしてパンテックス・プラントでの労働者のストライキ」が原因であると言っている3
 しかし減少の理由はこれらの阻害要因だけでは説明できない。2015年は特異に少なかったが、オバマ政権の解体記録は核兵器解体自体が年々少なくなっている傾向を明確に示している(図3参照)。
 現在、約2,300発の退役核弾頭が解体を待っている。その大部分は2009年より前に退役したものだ。NNSAは2009年以前に退役した核弾頭の解体を2021年の9月末までに完了させられるように、「2018会計年度から解体数を20%増加させる計画である」としている。
 オバマ政権下で年平均約280発の核弾頭が解体されていることからすると、現在のすべての未処理の弾頭が解体されるには少なくとも2024年までかかる。その前にさらに何百もの核弾頭が退役するので、それらを解体するのにさらに数年を要するだろう。
 しかもNNSAは、同時期に他にもいくつかの大きな弾頭の業務を引き受けており、すべてを引き受けるのはパンテックス・プラントの能力を超える4。それには2019年までのW76-1弾頭の生産完了、B61-12弾頭及びW88 Alt 370弾頭の2020年製造開始、W80-4弾頭の2025年製造開始準備、それに加えて、備蓄内に現存する核弾頭の検査のために継続中の、解体と再組立が含まれる。

結論と勧告

 オバマ大統領の広島への訪問は、彼の核兵器に関する遺産を背負って行われる。彼は歴代の冷戦後の大統領の中でもっとも備蓄核兵器を減らさなかったし、彼の指示の下での核弾頭の解体は減少した。
 軍備管理コミュニティ(日本などいくつかの米国の重要な同盟国を含む)にとって、オバマ政権の核兵器削減の控えめな実績は、新START条約にもかかわらず、失望に値する。特に彼の核兵器近代化プログラムは、到底控えめとは言えないからである。
 公平に見て、全てがオバマ大統領の責任ではない。核兵器の大幅削減と冷戦思考を終わらせるという彼のビジョンは、米国議会からクレムリンにまで存在する反対勢力によって骨抜きにされている。堅固に身構え、ほとんどイデオロギッシュなまでに反対する議会は、彼の兵器削減ビジョンのあらゆる措置に反対してきた。そしてロシア政府は、新STARTが履行されている間における追加的な削減を拒否した(我々はロシアはオバマ政権の間に1,000発以上の核弾頭を削減したと推定しているが)。
 議会は追加的な核兵器削減、それも一方的削減には猛反対している。しかし皮肉なことに、議会が承認した核兵器の近代化計画には、次のような明確な一方的核兵器削減計画が含まれている。重力落下式核爆弾の半数削減、新START条約で計画されたものを超える48発の潜水艦発射弾道ミサイルの削減、余剰W76弾頭の2020年代後半における一方的な削減、である。
 奇妙なことに軍部からは備蓄削減への抵抗が少ないように思われる。例えば、2012年以降の国防総省の国防戦略指針5はこう結論づけている。「我々の抑止目標はより小さな核戦力によって達成することができる。その結果我々の備蓄核兵器数のみならず米国の国家安全保障戦略における核兵器の役割は縮小される。
 同様に2013年に議会に送られた国防総省の核使用戦略報告書6は、2018年に新START条約が完全に履行されるときの核兵器の水準は、「米国がその国家安全保障上の目的を達成するものとして十分適切」であり、「新START条約で設定された配備戦略核兵器をさらに最大3分の1削減したとしても、自国と同盟国及びパートナーの安全を確保し、強力かつ信頼性ある戦略的抑止を維持することが可能である」と結論付けている。
 そして東西関係の悪化という重要な転換点にもかかわらず、ロシアは核兵器を増やさないだけでなく、減らし続けている7。しかし、たとえウラジミール・プーチン大統領が新START条約からの脱退を決めたとしても、国防総省は2012年に次のように結論づけている。ロシアが「戦略核兵力の口先だけの拡大や新START条約で不正を働いたり、脱退のシナリオをちらつかせたとしても、一義的には、計画されている米国の戦略戦力構造、とりわけ常時何隻かが海洋に展開しているオハイオ級弾道ミサイル潜水艦が本来持つ生き残り性のゆえに、顕著な軍事的優位性を達成することはできない」8(強調は引用者)。
 これらの結論は、米国の核戦力には著しい余裕があり、それはオバマ大統領が単に核兵器の危険性を再確認し、核兵器のない世界という長期的なビジョンを繰り返す以上に広島で何かをする広い余地があったことを明らかにしている。彼が退任する前にとることが可能であり、とるべき措置には、例えば次のようなものがある。
・核巡航ミサイルの世界的禁止に向けた国際的支援を得る集中的な努力の一環として、新型空中発射核巡航ミサイル(LRSO)9の製造計画を中止、もしくは延期する。
・2020年代中盤もしくは終盤に退役が計画されている重力落下式爆弾の大部分を今すぐ退役させる。
・2030年代のオハイオ級原潜に代わる原潜のために既に計画されているミサイル数に合わせて、米国の戦略潜水艦に装備されている弾道ミサイルの数を今すぐ削減する。
・2020年代中盤もしくは終盤に退役が予定されている余剰の潜水艦発射弾道ミサイル弾頭を今すぐ退役させる。
・新STARTで計画されている400発を下回って、オバマが大統領に就任した時に米戦略軍(STRATCOM)が勧告した300発程度まで大陸間弾道弾(ICBM)を削減する。
・事故や偶発的事件によるリスクを減らし、ロシアにもその警戒レベルを下げることを動機付け、その他の核武装国が核戦力の即応レベルを高めることを防止する国際的努力への道を拓くため、米国の核戦力の警戒レベル10を下げる。
 これらの行動が助けになって、米国の核政策は正常に戻り、保有核兵器の余剰能力は撤去され、軍備管理政策の信頼性が回復され、長距離核戦力の三本柱(訳注:戦略爆撃機、ICBM、潜水艦発射弾道ミサイル)が維持され、同盟国や友好国の安全が再確認され、戦略的安定性は維持され、通常兵器に資源を投入することが可能になるだろう。もしオバマがやらないのならば、ヒラリー・クリントン大統領が後片付けをせねばならないだろう。

この論文は、ニューランド財団及びプラウシェア基金の支援を受けて執筆された。示された見解はすべて筆者のものである。
原注
1 3ページの注2と同じ。
2 www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/00963402.2016.1145901
3 http://nnsa.energy.gov/sites/default/files/nnsa/inlinefiles/FY17SSMP%20Final_033116.pdf
4 3と同じ。
5 http://archive.defense.gov/news/Defense_Strategic_Guidance.pdf
6 www.defense.gov/Portals/1/Documents/pubs/ReporttoCongressonUSNuclearEmploymentStrategy_Section491.pdf
7 www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/00963402.2016.1170359
8 https://fas.org/blogs/security/2012/10/strategicstability/
9 同上、16年3月25日。
10 www.unidir.org/files/publications/pdfs/reducing-alert-rates-of-nuclear-weapons-400.pdf

(訳:ピースデポ)

くわしく

オバマ「広島演説」と備蓄核弾頭  「核なき世界」実現の道はなお険しい――日本市民は何をなすべきか

公開日:2017.07.15

オバマ大統領が広島への歴史的訪問に旅立つ直前、私たちは、米国が依然として巨大な核兵器備蓄を有する超大国であるという事実を、米国防総省のデータによって突き付けられた。それは、「ヒロシマ」の歴史的意味を考察し、核兵器と戦争の廃絶をよびかけた大統領の演説と余りにも大きな落差のある事実であった。この現実を見据えつつ、まだ活路は見いだしうると指摘する米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセン氏の論考を参照しながら、「核兵器のない世界」のために日本市民のなすべきことを考える。


 だから我々はここに来るのだ。我々はここに、この街の中心に立ち、自らを奮い立たせて爆弾が投下された瞬間を想像する。自らを奮い立たせて眼前の光景に慄いている子どもたちの恐怖を感じ取り、声なき叫びに耳を澄ます。我々は、あの恐ろしい戦争の連なりの中で殺された、すべての無辜の人々のことを思いおこす。そして、それ以前の戦争や、その後に起こった戦争で殺された人々のことを思いおこすのだ。(オバマ大統領「広島演説」から)

 5月27日、バラク・オバマ大統領は、現職の米大統領として初めて被爆地・広島を訪問した。原爆死没者慰霊碑の前での演説1は、抑制的基調でありながら、大統領の思想性を十分に伝えるものであった。日本国内には「被爆者への謝罪」を求める声もあったが、米国内世論に配慮して考え抜かれた表現であったと理解できる。現職大統領として広島を訪問すること自体が、私たちが想像する以上の勇気を必要とする行為であったと思われる。
 大統領の言葉には心に響くものが多かった。しかし、基本的なところで私たちに全面的な賛同を強くためらわせたのは、大統領がなすことのできた成果が、余りにも小さいものであったという事実である。そのことを示すのが、国防総省が発表した2つの数表であった2。そこには、2015年末における米国の備蓄核弾頭数が4,571発であり、オバマ政権によって削減された弾頭数が702発であったと記されている。
 この事実に関する全米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセンによる5月26日付の論考を4~6ページに資料として全訳する。クリステンセンは次のようにオバマ政権の核軍縮実績を喝破する。「これらの数字は、オバマ政権による核備蓄の削減数が冷戦後の他のどの大統領よりも少なく、2015年に解体された核弾頭数はオバマ大統領の就任以来最小であることを示している。」

プラハ演説に示された「責任と希望」

 2009年4月5日、オバマ大統領はプラハでの演説において、「核兵器を使用した唯一の核保有国として、米国には行動する道義的責任がある」とした上で、「核兵器のない世界の平和と安全を追求すること」を誓った。大統領がその目標達成の道筋として示したのは次の3つであった。1)核兵器のない世界に向けた具体的措置、2)核不拡散条約(NPT)の強化、3)核保安の体制強化。そして、大統領はこれらの目標は国際的協調なくしては達成できないと述べた。「我々だけではこの努力を成功に導くことはできない。しかし我々は先導できる。スタートを切ることができる。」
 大統領は次のようにも述べた。「冷戦思考に終止符を打つべく、国家安全保障戦略における核兵器の役割を低下させる。」 
 オバマ政権は、新START条約の締結と発効、イラン核合意、「核保安サミット」の開催をふくむ核保安体制の強化などの実績をあげた。それらはみな決して小さくない国際協調の成果であった。しかし、肝心な自国の核弾頭数の削減は、702発にとどまっている。

オバマを縛った議会保守派ら

 新STARTは、米ロ両国が発効7年後(2018年)に達成すべき削減目標として、配備核弾頭1,550発、配備運搬手段700基(機)という低い目標を設定するものであった。それにもかかわらず批准承認の決定権を握る議会保守派は強く抵抗した。新STARTの批准承認には上院の3分の2以上の同意が必要であった。
 結局、オバマ政権は新START批准と引き換えに、任期を超えた10年に及ぶ議会保守派からの監視と拘束を受け入れなければならなかった。10年12月の上院の新START批准承認決議4には、核戦力の安全性、信頼性及び性能を確保するために必要な資金を「最低限2010会計年国防認可法1251節に従い議会に提示された大統領の10年計画に示されたレベルにおいて提供することを誓約する」との条項が盛り込まれた。これは、国家核安全保障管理局(NNSA)所管の備蓄核兵器維持管理計画(SSMP)に10年間で総額844億ドル、加えて核戦力の近代化に10年間にわたり1,000億ドル以上の支出が義務付けられることを意味した。

見えない新START後の「さらなる削減」

 2013年6月19日、大統領は、ベルリンにおいてプラハに次いで2度目となる核兵器に関する演説5を行った。ここで、大統領は、「配備戦略核兵器を最大3分の1削減したとしても、米国と同盟国の安全保障を確かにし、強力かつ信頼性のある戦略的抑止を維持することが可能である」と述べ、そのためにロシアとの交渉を追求する意欲を示した。先に示した新STARTの目標値を起点にすれば、配備戦略核兵器は1,000発程度まで削減可能ということになる。これは2010年核態勢見直し(NPR)に対する政権内部の追加分析に関連して予想された3つの選択肢――約1,000~1,100発、700~800発、300~400発の中で最も消極的な選択肢であった。クリステンセンは言及していないが、それが大統領の意欲と、軍、国防総省の実務者や軍産複合体の利害関係者との「綱引き」の結果であったという現実は直視せざるをえない。
 ウクライナ政変に伴うクリミア半島のロシア編入や欧州ミサイル防衛(MD)計画を巡る米ロの対立が激化したことなどから、ロシアとの交渉は全く進展をみていない。世界全体で約1万5,000発ある核兵器の約93%を占める米ロの核削減が進まなければ核軍縮の前進はのぞめない。
 クリステンセンは、オバマ大統領とその後継者には、まだ挽回のチャンスが残されていると指摘する。そして、政府の核兵器近代化計画に記載された、重力落下式爆弾の半数削減、新STARTで計画された以上の48発の潜水艦発射弾道ミサイルの削減、余剰W76弾頭の2020年代後半における一方的な削減を含む備蓄削減を実行に移すよう提案している。

日本に問われるもの

 オバマ大統領は、プラハでも広島でも核兵器のない世界という目標は「直ちに達成できるものではない、おそらく私の生きている間には」と述べている。この時彼の脳裏には、米上院保守派、軍の実務者そして軍産複合体、そして予想されるロシアとの交渉の困難があったのだろう。
 日本の私たちは問わなければならない。「核兵器の役割を縮小する」という大統領のプラハでの誓約を、日本の政治家や外交・防衛実務者は同盟関係における自らの課題として受け止め、行動したであろうか。市民はそれを促す世論を高めることができただろうか。
 これは、戦争被爆国日本が本来背負うべき、人類の未来にかかわる課題である。日本の市民は、例えば北東アジア非核兵器地帯構想を推進し、日本の安全保障政策を核抑止力に依存しないものへと転換してゆくことを通して、核兵器のない世界へのビジョンの現実化をリードすることができる。(湯浅一郎、田巻一彦)


1 演説全文のピースデポ訳は次のサイト。
www.peacedepot.org/resources/others/obama-hiroshima-160527.html
2 「1962年~2015年における備蓄核兵器数」及び「エネルギー省による核兵器解体活動(会計年度1994~2015)。
http://open.defense.gov/Portals/23/Documents/frddwg/2015_Tables_UNCLASS.pdf
3 ピースデポ・イアブック「核軍縮・平和―市民と自治体のために」2014年版・基礎資料1-10(264ページ)に抜粋訳。
4 本誌369号(11年2月1日)に抜粋訳。
5 本誌427-8号(13年7月15日)に抜粋訳。

くわしく