【詩】   愛  橋爪 文

公開日:2017.07.15

   船上にて
空の青と海の青が溶け合うひとときがある
そこには国境線はなく争いもない
ピースとつぶやいたカモメの声も青
数ヵ国の駐日大使に原爆体験を話す
質疑応答も終ったあと私は言葉をついだ
「私からも質問があります ひとりで暴挙に及ぶとテロリスト団体だとテロ集団 では大国が軍隊を使っての殺人はテロとは呼ばないのでしょうか」
重い無言の空気が流れる
私「地球上に紛争が絶えません さまざまな原因があるのでしょうが 制覇した国と虐げられた国という歴史の流れを変えることができない そこにも一因があるのでは」
胸深く押し込んでいたかのような大使たちの心の叫びが洩れはじめる
E大使「隣国からの独立のために私は十二年間ゲリラ戦で闘った いまの若いリーダーたちは本当の痛みを知らない 真の指導力がない 彼らは歴史を学ぶべきだ」
P大使が絞るように呟いた「いまこの瞬間も私の国は攻められています」そして顔を上げて私に云った「私の国とイスラエル両国へきて話してください 政府から招聘しますので」〈残念ながら体力がもう私にはない〉
いくつかの発言のあとで
私「お願いがあります 政治の中で外交が要だと私は思っております みなさんは外交官でいらっしゃいます 絶対に戦争をしないという理念を心の深いところに置いて外交をしてください」
黙した頷きの中に人間同志響き合うものを覚えた
R大使「あなたは空と海が溶け合うところにいる人です 
 青がお好きですね あなたの本(ヒロシマからの出発)は青 身につけていらっしゃるもの(藍)も青 私も青が好きです」
明日彼らは広島の地に立つ

   役 目
落葉を終えた梢はすでに新しい生命を育んでいる
落葉を敷きつめた大地は豊かな土壌をつくりはじめる
風のように通り過ぎる人間たちよ 人類の役目は何?

はしづめ ぶん 一九三一年一月、広島に生まれる。十四歳のとき爆心地から約一・五キロメートルの所で被爆、瀕死の重傷を負う。日本ペンクラブ、日本詩人クラブに所属。著述、随筆、詩、歌曲や合唱曲の作詩。六一歳でスコットランド・エジンバラの英会話学校へ三か月間の留学、その後「反核・平和海外ひとり行脚」を始める。近著に『ヒロシマからの出発』(二〇一四年、トモコーポレーション)。