<資料>「米国、大統領が広島へ向かう途上に核兵器備蓄数を公表」ハンス・クリステンセン(全米科学者連盟(FAS)ブログ記事、全訳)

公開日:2017.07.15

 1945年に米国の核爆弾によって破壊された2つの日本の都市のうち最初の1つである広島への、バラク・オバマ大統領の歴史的訪問の到着直前に、米国防総省は、米国の最新の核兵器備蓄数と核弾頭解体数1の機密指定を解き、公表した。これらの数字は、オバマ政権による核備蓄の削減数が冷戦後の他のどの大統領よりも少なく、2015年に解体された核弾頭数はオバマ大統領の就任以来最小であることを示している。
 この機密解除は、余剰核弾頭を減らすという挑戦の困難さと、言うまでもなく核兵器を完全に廃絶するという、たじろがざるを得ない目標とを人々に思い起こさせることによって、オバマの広島訪問に影を落としている。

オバマの核備蓄削減

 機密解除されたデータは、2015年9月の備蓄には4,571発の核弾頭があったことを示している。これはオバマ政権が今のところブッシュ政権の最終の数と比較して、702発(もしくは13%)の備蓄を減らしたことを意味する。
 702発の核弾頭は小さい数ではない(ロシア以外300発を超える核弾頭を保有する核武装国はない)が、この削減は冷戦後の政権が達成した備蓄削減の中で最小である(図1参照)。
 機密解除された2015年の数字は、我々の最新の「ニュークリア・ノートブック」の推定数2より約100発少ない。その違いの理由は、2014年と2015年の間に退役した核弾頭数が、それ以前の3年間の平均よりも多くなっていたからである。この増加は、おそらく海軍のトライデントミサイルに装備されていた余剰核弾頭が予定より早く退役したことを反映している。
 核弾頭の数の比較だけで備蓄削減の実績を評価するのでは誤解を招くかもしれない。何といっても、こんにちの備蓄核弾頭数は、1991年と比べれば、はるかに少ない(実際、14,437発も少ない)のだから、オバマ政権が過去の冷戦後の諸政権と比べて少ない核弾頭しか退役させていないのは当然ではないか?
 この偏向を克服するため、我々は諸政権下で備蓄弾頭数が何パーセント変化してきたかという観点からも比較した。しかしそれでも、オバマ政権の実績は他のどの冷戦後の政権をも著しく下回っている(図2参照)。

オバマの核弾頭解体

 機密解除された数字は、オバマ政権が昨年たった109発の退役核弾頭しか解体していないことを示している。これはオバマ大統領の在任中、最小の年間解体数である。そして少なくとも1970年以来の1年当たりの解体数の中で最小に見える。
 国家核安全保障管理局(以下、NNSA)は2015年の実績が少ないのは「安全性の見直し、めったにないほど多数の落雷、そしてパンテックス・プラントでの労働者のストライキ」が原因であると言っている3
 しかし減少の理由はこれらの阻害要因だけでは説明できない。2015年は特異に少なかったが、オバマ政権の解体記録は核兵器解体自体が年々少なくなっている傾向を明確に示している(図3参照)。
 現在、約2,300発の退役核弾頭が解体を待っている。その大部分は2009年より前に退役したものだ。NNSAは2009年以前に退役した核弾頭の解体を2021年の9月末までに完了させられるように、「2018会計年度から解体数を20%増加させる計画である」としている。
 オバマ政権下で年平均約280発の核弾頭が解体されていることからすると、現在のすべての未処理の弾頭が解体されるには少なくとも2024年までかかる。その前にさらに何百もの核弾頭が退役するので、それらを解体するのにさらに数年を要するだろう。
 しかもNNSAは、同時期に他にもいくつかの大きな弾頭の業務を引き受けており、すべてを引き受けるのはパンテックス・プラントの能力を超える4。それには2019年までのW76-1弾頭の生産完了、B61-12弾頭及びW88 Alt 370弾頭の2020年製造開始、W80-4弾頭の2025年製造開始準備、それに加えて、備蓄内に現存する核弾頭の検査のために継続中の、解体と再組立が含まれる。

結論と勧告

 オバマ大統領の広島への訪問は、彼の核兵器に関する遺産を背負って行われる。彼は歴代の冷戦後の大統領の中でもっとも備蓄核兵器を減らさなかったし、彼の指示の下での核弾頭の解体は減少した。
 軍備管理コミュニティ(日本などいくつかの米国の重要な同盟国を含む)にとって、オバマ政権の核兵器削減の控えめな実績は、新START条約にもかかわらず、失望に値する。特に彼の核兵器近代化プログラムは、到底控えめとは言えないからである。
 公平に見て、全てがオバマ大統領の責任ではない。核兵器の大幅削減と冷戦思考を終わらせるという彼のビジョンは、米国議会からクレムリンにまで存在する反対勢力によって骨抜きにされている。堅固に身構え、ほとんどイデオロギッシュなまでに反対する議会は、彼の兵器削減ビジョンのあらゆる措置に反対してきた。そしてロシア政府は、新STARTが履行されている間における追加的な削減を拒否した(我々はロシアはオバマ政権の間に1,000発以上の核弾頭を削減したと推定しているが)。
 議会は追加的な核兵器削減、それも一方的削減には猛反対している。しかし皮肉なことに、議会が承認した核兵器の近代化計画には、次のような明確な一方的核兵器削減計画が含まれている。重力落下式核爆弾の半数削減、新START条約で計画されたものを超える48発の潜水艦発射弾道ミサイルの削減、余剰W76弾頭の2020年代後半における一方的な削減、である。
 奇妙なことに軍部からは備蓄削減への抵抗が少ないように思われる。例えば、2012年以降の国防総省の国防戦略指針5はこう結論づけている。「我々の抑止目標はより小さな核戦力によって達成することができる。その結果我々の備蓄核兵器数のみならず米国の国家安全保障戦略における核兵器の役割は縮小される。
 同様に2013年に議会に送られた国防総省の核使用戦略報告書6は、2018年に新START条約が完全に履行されるときの核兵器の水準は、「米国がその国家安全保障上の目的を達成するものとして十分適切」であり、「新START条約で設定された配備戦略核兵器をさらに最大3分の1削減したとしても、自国と同盟国及びパートナーの安全を確保し、強力かつ信頼性ある戦略的抑止を維持することが可能である」と結論付けている。
 そして東西関係の悪化という重要な転換点にもかかわらず、ロシアは核兵器を増やさないだけでなく、減らし続けている7。しかし、たとえウラジミール・プーチン大統領が新START条約からの脱退を決めたとしても、国防総省は2012年に次のように結論づけている。ロシアが「戦略核兵力の口先だけの拡大や新START条約で不正を働いたり、脱退のシナリオをちらつかせたとしても、一義的には、計画されている米国の戦略戦力構造、とりわけ常時何隻かが海洋に展開しているオハイオ級弾道ミサイル潜水艦が本来持つ生き残り性のゆえに、顕著な軍事的優位性を達成することはできない」8(強調は引用者)。
 これらの結論は、米国の核戦力には著しい余裕があり、それはオバマ大統領が単に核兵器の危険性を再確認し、核兵器のない世界という長期的なビジョンを繰り返す以上に広島で何かをする広い余地があったことを明らかにしている。彼が退任する前にとることが可能であり、とるべき措置には、例えば次のようなものがある。
・核巡航ミサイルの世界的禁止に向けた国際的支援を得る集中的な努力の一環として、新型空中発射核巡航ミサイル(LRSO)9の製造計画を中止、もしくは延期する。
・2020年代中盤もしくは終盤に退役が計画されている重力落下式爆弾の大部分を今すぐ退役させる。
・2030年代のオハイオ級原潜に代わる原潜のために既に計画されているミサイル数に合わせて、米国の戦略潜水艦に装備されている弾道ミサイルの数を今すぐ削減する。
・2020年代中盤もしくは終盤に退役が予定されている余剰の潜水艦発射弾道ミサイル弾頭を今すぐ退役させる。
・新STARTで計画されている400発を下回って、オバマが大統領に就任した時に米戦略軍(STRATCOM)が勧告した300発程度まで大陸間弾道弾(ICBM)を削減する。
・事故や偶発的事件によるリスクを減らし、ロシアにもその警戒レベルを下げることを動機付け、その他の核武装国が核戦力の即応レベルを高めることを防止する国際的努力への道を拓くため、米国の核戦力の警戒レベル10を下げる。
 これらの行動が助けになって、米国の核政策は正常に戻り、保有核兵器の余剰能力は撤去され、軍備管理政策の信頼性が回復され、長距離核戦力の三本柱(訳注:戦略爆撃機、ICBM、潜水艦発射弾道ミサイル)が維持され、同盟国や友好国の安全が再確認され、戦略的安定性は維持され、通常兵器に資源を投入することが可能になるだろう。もしオバマがやらないのならば、ヒラリー・クリントン大統領が後片付けをせねばならないだろう。

この論文は、ニューランド財団及びプラウシェア基金の支援を受けて執筆された。示された見解はすべて筆者のものである。
原注
1 3ページの注2と同じ。
2 www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/00963402.2016.1145901
3 http://nnsa.energy.gov/sites/default/files/nnsa/inlinefiles/FY17SSMP%20Final_033116.pdf
4 3と同じ。
5 http://archive.defense.gov/news/Defense_Strategic_Guidance.pdf
6 www.defense.gov/Portals/1/Documents/pubs/ReporttoCongressonUSNuclearEmploymentStrategy_Section491.pdf
7 www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/00963402.2016.1170359
8 https://fas.org/blogs/security/2012/10/strategicstability/
9 同上、16年3月25日。
10 www.unidir.org/files/publications/pdfs/reducing-alert-rates-of-nuclear-weapons-400.pdf

(訳:ピースデポ)