核兵器・核実験モニター バックナンバー

日誌 2017.1.21~2.20

公開日:2017.06.01

ACSA=物品役務相互提供協定/BPO=放送倫理・番組向上機構/DPRK=朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)/ ICBM=大陸間弾道ミサイル/MIRV=多弾頭独立目標再突入体/PKO=平和維持活動/SLBM=潜水艦発射型弾道ミサイル

●1月22日付 英政府が核戦力更新の議会決定をする直前の昨年6月に、SLBMトライデントⅡの発射実験に失敗と判明。英紙報道。
●1月26日 原子科学者会報が終末時計の針を「2分半前」へ進める。(本号参照)
●1月26日 日英両政府、自衛隊と英軍が物資を相互融通するACSAに署名。日本にとり米豪に続く3例目。
●1月26日 安倍首相、衆院予算委で自衛隊の敵基地攻撃能力整備を検討と表明。
●1月27日 トランプ米大統領、「力を通じた平和」を追求する米軍再建を命じる大統領覚書に署名。(本号参照)
●1月29日 カナダ・ケベックシティーのモスクで銃乱射事件が発生。6名死亡、8名負傷。
●2月1日 イランのデフガン国防軍需相、弾道ミサイル実験の実施を認めるも核合意や国連安保理決議違反でないとの立場を示す。
●2月3日付 中国国防省、1月初旬にMIRV搭載のICBM・DF5Cの発射実験を実施と明かす。
●2月3日 マティス米国防長官、ハン韓国国防相とソウルで会談。米国の核の傘を保証。
●2月3日 マティス米国防長官が安倍首相と会談し日米安保条約の尖閣諸島への適用と米国の核の傘の保証を確認。
●2月4日付 防衛装備庁、米国と共同開発中の迎撃ミサイルSM3ブロック2Aの米イージス艦からの発射実験に成功と発表。
●2月5日 稲田防衛相、南シナ海での米軍の航行の自由作戦に海自は不参加と表明。 
●2月9日 仏領ポリネシアなどでの核実験の被曝者への補償基準を緩和する法案が仏下院で可決。上院でも可決・成立の見通し。
●2月12日 DPRK、固体燃料式新型中距離弾道ミサイル「北極星2」のコールドローンチ実験を行い、成功したと発表。
●2月16日 NY国連本部で核兵器禁止条約交渉準備会議開催。中印を除く核保有国や日本を含む核兵器依存国の多くは欠席。
●2月17日 稲田防衛相、廃棄済みとしていた、軍閥間の戦闘が起こった昨年7月の南スーダンPKO日報を保存していたと述べる。
●2月19日 自衛隊、タイでの多国間共同訓練で、安保法制で可能となった邦人救出訓練を初実施。日米連携強化で米国人も対象に。
●2月19日 グラム米上院議員、共和党上院が安保理決議違反とみなすイランのミサイル発射実験に新制裁を科す計画を明かす。
●2月20日 トランプ米大統領、辞任したフリン氏の後任の安全保障大統領補佐官に陸軍のマクマスター中将を指名。

沖縄

●1月20日 普天間飛行場所属AH1Z攻撃ヘリ1機、うるま市伊計島の農道に不時着。けが人なし。米軍・沖縄県警が周辺立入規制。
●1月22日 宮古島市長選投開票。陸自配備推進の現職・下地氏が3選。投票率68.23%。
●1月24日 マケイン米上院軍事委員長、公聴会にて国内外の米軍基地閉鎖・再編(BRAC)手続きに取り組む姿勢示す。
●1月25日 名護市議会、オスプレイの飛行・空中給油訓練再開に抗議。同訓練の中止と配備撤回などを求める意見書を可決。
●1月25日 安倍首相、オスプレイ墜落事故時の米軍調査優先を容認。「日米地位協定に違反しない」と主張。代表質問での答弁。
●1月25日 嘉手納基地周辺の騒音被害等軽減に向け、住民ら800人が総決起大会。防衛省による騒音分布図見直しに抗議。
●1月26日 アムネスティ・インターナショナル、平和運動センター山城議長の即時釈放を求める国際キャンペーンを開始。
●1月27日 翁長知事、野党超党派議員団「沖縄等米軍基地問題議員懇談会」へ辺野古新基地建設阻止への協力を要請。
●1月27日 東京MX「ニュース女子」の報道内容は「人権侵害」。東京・沖縄合同記者会見。辛淑玉氏他有志がBPOへ申し立て。
●1月28日 北部訓練場N1地区ヘリパッド土台部から水漏れ。土砂崩れの可能性も。
●1月28日 中城海上保安部、名護市安部・オスプレイ墜落現場での潜水調査を実施。
●1月29日 石垣市で陸自配備反対の市民集会。参加者約800人。中山市長の受け入れ表明を糾弾。配備地区の住民らが意見発表。
●1月31日 翁長知事、ワシントン入り。就任後3度目の訪米行動。トランプ新政権へ「辺野古唯一」の立場再検討を促す考え。
●2月3日 稲田防衛相、マティス米国防長官と防衛省で会談。普天間返還問題に関し、「辺野古唯一」の認識で一致。
●2月6日 辺野古新基地建設。沖縄防衛局、海上工事に着手。海底ボーリング及び汚濁防止膜設置に向けた作業を開始。
●2月8日付 F35ステルス戦闘機、沖縄で初訓練開始。米海兵隊、詳細日程明かさず。
●2月10日 日米首脳会談。普天間返還問題に関し、「辺野古唯一」で一致。共同声明へも盛り込む。米へ「5年運用停止」は求めず。
●2月10日 県、沖縄防衛局へ辺野古新基地建設計画に関する事前協議を再要求。工事停止及び技術面の資料提出を求める文書送付。
●2月12日 浦添市長選投開票。前職・松本氏が2期目当選。投票率61.37%。1期目「完全無所属」から、「自公推薦」へ。
●2月14日付 米海兵隊、オスプレイの最低安全高度を「200フィート(約60m)」に設定と判明。政府説明は「500フィート(約150m)」。
●2月15日 翁長知事、県政運営方針発表。「辺野古新基地を造らせないことを県政の柱に全力で取り組む」と強調。
●2月18日 琉大・渡嘉敷教授、米軍機騒音に関し「罰則規定」含む条例設置を提唱。低周波・超低周波被害対策の欠落を指摘。
●2月19日 県選出国会議員6氏、平和運動センター山城議長の即時釈放求め声明発表。「不当な長期勾留と接見禁止」と政府を批判。
●2月20日 キャンプ・シュワブゲート前で抗議活動中の男性1名、公務執行妨害の容疑で逮捕。工事再開後の初の逮捕者。

(作成:有銘佑理、山口大輔)

 

くわしく

[資料1]国連欧州本部での習近平主席演説

公開日:2017.06.01

ともに人類の未来をわかちあう共同体を築く

習近平
2017年1月18日
国連欧州本部(ジュネーブ)での演説

紳士淑女、友人の皆さん、

(略)

 ビジョンは行動を導き、方針は将来を決定します。現代史が示しているように、公正で平等な国際秩序を確立することは人類が常に奮闘してきた目標です。360年以上前にウエストファリア条約で確立された平等と主権の原則から150年あまり前にジュネーブ条約で確認された国際人道主義まで、そして約70年前に国連憲章前文で確認された4つの目的・7つの原則から60年あまり前にバンドン会議で擁護された平和共存5原則にいたる多くの原則が国際関係の進展の中で生起し、広く受け入れられてきました。これらは、人類の未来をわかちあう共同体を築こうとする私たちの指導原則でなければなりません。
 主権平等は過去数世紀にわたって国家間関係を律している最も重要な規範であり、国際連合及びすべての国際機関によって遵守されてきた核心的原則です。主権平等の本質は、国の大小、強弱、貧富の違いにかかわらず、すべての国の主権と尊厳は尊重されねばならない、つまり内政干渉は許されず、すべての国はそれぞれの社会構造や発展の道筋を独自に選択する権利を有するということにあります。国際連合、世界貿易機関、世界保健機関、世界知的所有権機関、世界気象機関、国際電機通信連合、万国郵便連合、国際移住機関と国際労働機関において、各国は世界的なガバナンスを改善するための意思決定と重要な執行権の確立に関わる平等な発言権を有しています。新しい時代、我々は主権平等を支持し、全ての国に平等な権利、機会とルールのために努力しなければなりません。

(略)

紳士淑女、友人の皆さん、

 ――我々は対話や協議を通じて永続する平和な世界を築くことを誓約し続けるべきです。国々が平和であれば、世界も平和を享受することになり、国々が争えば、世界は苦しみます。紀元前5世紀のペロポネス戦争から二つの世界大戦と40年間続いた冷戦に至るまで、我々は苦痛を伴う意味深い教訓を手にしました。「歴史は、忘れられなければ、未来への先導役となることができる。」(訳注:周恩来元首相の言葉)。国際連合設立によって我々の前世代の人々は70年以上比較的平和な状態を世界のために勝ち取ってきました。私たちのなすべきことは、より効果的に紛争を解決し、緊張を緩和し、戦争や衝突を終結させるように機構や手段を改善することです。

 スイスの作家でノーベル賞受賞者のヘルマン・ヘッセは「戦争と破壊でなく平和と和解」に奉仕することの重要性を強調しました。国々は対話、非対決、非同盟に基づいて協力関係を育てるべきです。主要国は相互の中心的関心と主要な懸念を尊重し、立場の違いを制御し、非衝突、非対立、相互尊重と“ウィンウィン”の協力関係を築くべきです。我々が意思の疎通を維持し、誠意を持ってお互いを遇する限り、「トゥキディデスの罠」(訳注:ある国が台頭するとき、既存の大国と衝突すること)は避けられます。大国は己の意思を他に押し付けるような覇者として振る舞わず、小国を対等に遇すべきです。いかなる国も、意のままに戦争を起こしたり、国際的な法の支配を弱体化することによってパンドラの箱を開くべきではありません。人類の頭上に吊るされたデモクレスの剣である核兵器は完全に禁止され、時間をかけて徹底的に解体されるべきです。平和、主権、包含性と共通のガバナンスの原則に導かれて、我々は深海、極地、宇宙とインターネットを競争のための闘技場ではなく協力のための新たなフロンティアに変えるべきです。
 ――我々は共同の努力をとおして全ての人々にとっての共通の安全保障を築くべきです。絶対的安全を享受できる国は世界にはありません。他の国が不安を抱いているのに自らは安全だということはありえません。なぜなら他国が直面している脅威は自らにも及ぶかもしれないからです。隣人が困っているときには自分の家の塀を強化するのではなく、隣人に救いの手を差し伸べるべきです。ことわざが言うように「団結すれば立ち、分裂すれば倒れる」のです。全ての国は、共通の、包括的、協調的でかつ持続可能な安全を追求すべきです。

(略)

紳士淑女、友人の皆さん、

 我々中国人にとっては、世界が栄えてはじめて中国も栄え、その逆もまた然りです。多くの人々が、中国が追求する政策にかなりの関心を抱いています。そして我々は様々な考え方を聞いてきました。ここで私は皆さんにはっきりと答えたいと思います。

 第一に、世界平和を支持するという中国の誓約は不変です。隣人との親善、画一性を強いることのない調和と平和は、中国文化の中で大切にされてきた価値です。中国の古典である孫子の「兵法」は冒頭で次のように述べています。「兵は国の大事にして、死生の地、存亡の地なり。察せざるべからず」。この意味するところは戦争を防ぐあらゆる努力がされるべきであるということ、そして戦争をする時には充分な注意を払われねばならないということです。数世紀にわたって、平和は我々中国人の血の中にあり、我々の遺伝子の一部となっています。

(後略)

出典:「新華網」英語版、17年2月19日

くわしく

[資料]核安全保障に関する バイデン副大統領の演説(抜粋訳)

公開日:2017.06.01

ワシントンDC
2017年1月11日(水)

(前略)

 核抑止力は、第二次大戦以来、米国の防衛の基礎です。他国が米国に対して使用しうる核兵器を所有している以上、米国と米国の同盟国に対する攻撃を抑止するために、米国もまた、安全、確実で効果的な核兵器の保有を維持する必要があります。
 そのためにこそ、オバマ政権の初期において、より少ない兵器数でも、また、核実験を行わなくても、米国の保有核兵器が安全で信頼できるものであり続けるよう、保有核兵器を維持し、核関連施設を近代化するための財源を増加したのです。

 このような投資を行うことは、米国の核不拡散という目的に沿ったものであっただけでなく、核不拡散を達成する上で不可欠でした。米国の備蓄兵器の能力を確実なものにすることにより、安全を犠牲にすることなく、核兵器の削減を追求できたのです。
 そして、米国の計画における、「攻撃下発射手順(敵の核ミサイル発射を確認後、着弾を待たず報復用ミサイルを発射すること)」への依存を減らすようにというオバマ大統領による指示への対応の一環として、国防省は、大統領が様々な核のシナリオへの対応の方法をより柔軟に決定できるよう、計画と手順を変更しました。

 2010年の「核態勢見直し(NPR)」の中で、私たちは、他国の核攻撃を抑止することが、核兵器保有の唯一の目的となるような条件を作り出すことを約束しました。この約束に従って、オバマ政権の期間中、私たちは、第二次大戦以来、米国の国家安全保障政策の中で核兵器が持っていた優先度を着実に減らしてきました。その一方で、核兵器に頼ることなく、いかなる敵の攻撃も抑止し打ち負かし、同盟国を安心させるための米国の能力も向上させてきました。

 米国の核兵器以外の戦力と、今日の脅威の性質とを考えると、米国が核兵器を先行使用する必要がある、あるいは先行使用が意味をなす、現実性のあるシナリオを思い浮かべることは困難です。オバマ大統領と私は、我が国は、核兵器以外の脅威は核兵器以外の方法で抑止して米国自身と同盟国を守ることができると確信しています。

 次の政権は独自の政策を提案するでしょう。しかし、NPRの指示から7年経った今、大統領と私は、我が国の核態勢は十分な進展を成し遂げました。したがって核攻撃を抑止すること、そして必要であれば報復することを、米国の核保有の唯一の目的とすべきであると強く信じています。

 核兵器のない世界を実現したいのならば、米国は実現のために先導的な役割を果たさなければなりません。さらに、オバマ大統領が、広島訪問中に切実に強調したように、核兵器を使用したことがある唯一の国として、米国には、そのような世界の実現の先頭に立つべき大きな道義的責任があります。

 だから私たちはロシアとの間で、過去20年で最も野心的な兵器削減条約である新START(戦略兵器削減条約)の交渉を行ったのです。1970年代以来、全ての重要な軍縮合意のためにそうしてきたように、私は同条約のために懸命に闘いました。なぜなら、同条約が米国の国民をより安全にするからです。同条約で重要なのは、信頼や善意ではありません。重要なのは、世界で最大の核兵器保有国である米国とロシアの間の戦略的安定とさらなる透明性であり、それは、米国とロシアとの関係が徐々に緊張する中で、より死活的に重要になってきました。
 新STARTは、核兵器削減のための厳格な検証と監視のメカニズムを備えています。そして来年、同条約の中心的な制限が達成されたら、両国の戦略核兵器の保有数は過去60年間で最低のレベルまで削減されます。これは、大きな進歩です。しかし、正直に申し上げて、これは私たちの政権が望んでいた進展の度合いには足りません。

 過去3年間、ロシアは配備・非配備の保有核兵器のさらなる削減に関する交渉を拒んできました。しかし、この問題で米国が指導力を発揮するのに、ロシアを待つ必要はありません。2009年以来、米国は2,226発の核弾頭を廃棄してきました。そして、この場でいくつかのニュースを皆さんに発表できることを誇らしく思います。昨年、安全を維持しつつ備蓄核兵器をさらに削減できるとの決定を下したのち、オバマ大統領は、昨年中に退役が予定されていた核弾頭に加えて、さらに約500発の核弾頭を廃棄することを決めました。これにより、米国の活性状態の核兵器備蓄数は、現役の弾頭が4,018発になり、約2,800発が破壊される予定です。さらに、私たちは、次期政権に対し、さらなる削減に取り組めるか否かを決定するために包括的な核態勢の見直しを行うよう助言しました。

 私が長い間言ってきたように、米国は、自らの力を見せつけるだけでなく、手本の力を示すことによって、もっとも強い指導力を発揮します。私たちの努力により、未来にのしかかる核兵器の脅威が軽減されたのみならず、私たちの後継者が、最終的かつ永遠にこの苦しみの種を世界から取り除くことができる日に向けて前進し続ける方向性を明らかにしました。しかし、私は、私たちの成功を賛美するためだけにここに立っているわけではありません。私たちは、望んだすべてのことを達成できたわけではありませんでした。

 私たちは、米国が包括的核実験禁止条約を批准するよう、懸命に働きかけてきました。米国は、20年以上にわたって、核実験を行っていません。米国の核兵器研究所の所長たちは、核実験が盛んに行われていた頃よりも現在のほうが、備蓄核兵器の維持管理を通して、米国の保有核兵器とその信頼性について、より多くのことを知っていると言います。もし米国が同条約を批准すれば、核実験禁止というすでに存在する世界的規範を強化する上で、非常に大きな助けとなることでしょう。同条約批准の試みは毎回上院で否決されてきましたが。

 私は、レーガン大統領や2人のブッシュ大統領が行った決定を常に支持したわけではありません。しかし、私の上院議員としての36年間に、共和党出身の大統領が実現しようとした軍備管理措置を改善し、議会を通過させるのを何度も助けたのはただ一つの単純な理由によるものです。なぜなら、核安全保障は、党派間の駆け引きに使うには、米国と世界にとってあまりに重要すぎる問題だからです。

 私たちは、もはや毎日核対決におびえながら暮らしているわけではありませんが、今日私たちが直面している危険もまた、その対処には超党派の精神を必要としています。おぼろげに見え始めている諸課題は、次期大統領と次期副大統領の指導力のみでなく、議会の指導力をも必要としています。

 国際社会の大多数が、核兵器を用いる国や人が増えれば世界がより危険になることを理解している一方で、いまだに兵器の保有数を増やし、新しいタイプの核兵器を開発しようとする人々がいます。北朝鮮だけでなく、ロシア、パキスタンやその他の国々も、ヨーロッパ、南アジア、あるいは東アジアの地域紛争で核兵器が使用されうるリスクを増やすだけの、安全保障とは反対の動きをしています。議会との協力のもと、次期政権はこれらの危険に対処していかなければならないでしょう。そして、核兵器の役割を低減するという世界的なコンセンサス形成を先導し続けていくことを願いたいと思います。

 とりわけ、次期政権は、ここ数年間損なわれてきたロシアとの戦略的安定を改善するための最善の方法を決定しなければならないでしょう。米国が核兵器に頼らない安全保障ドクトリンにシフトしてきた一方で、ロシアは核兵器への依存をより強める方向に動いています。このロシアの動きは、米軍の技術的進歩とロシア軍より優れた通常戦力に対するロシアの懸念といくらか関連があります。

 しかし、世界における核の危機を高めるのは、戦略の変化なのです。さらに、ロシアは現在、発効後30年近くが経つ中距離核戦力全廃条約に違反しています。今までのところ、ロシアは、同条約を再び遵守することについて、あるいは戦略的安定と将来の軍縮についての議論を始めるために、米国と建設的に関わることを拒否しています。次期政権は、これらの難しい安全保障上の課題に対処していく中で、予算上の制約を考慮した上で、妥協を必要とするような、米国の安全保障のための決定を行わなければならないでしょう。もし、将来の予算が私たちの行った選択を覆し、冷戦時代に立ち返るような核兵器増強のためにさらなる財源をつぎ込むとしたら、それは米国と同盟国の日々の安全保障を強化する上で何の役にも立たないでしょう。

 そうすることは、サイバーセキュリティ、宇宙、米国の通常戦力の健全性と近代化といった、21世紀の安全保障上の必要を満たすのに欠かせない分野に振り向けることのできる資源が減少することを意味するでしょう。また、二度と使われないよう神に願っている兵器である核兵器の理論上の力を、米国の軍隊が毎日使用している通常兵器より優先するというリスクを冒すことになります。判断ミスによる核戦争のリスクを高め、数十年に渡り米国民を守ってきた信頼醸成措置と安全保障上の合意を損なうというリスクを冒すことになります。
 さらに、世界における米国の道義的な指導力と同盟国の中での米国の地位を低下させ、国際社会とともにその他の米国の目標を達成する能力を損なうというリスクを冒すことになります。私たちがこの議論を進めるにつれて、現実主義という名のもとに、核軍備競争を推奨する人々が出てくるでしょう。私にはわかります。これまでも常にそういう人々がいましたから。しかし、そうした人々の主張は、今日、さらに説得力を失いつつあります。今日の世界では、最も深刻な核の脅威は先端技術を持つ外国の政府によるものではなく、冷戦時代の遺品をスーツケースに携えて、世界中のあらゆる大都市にむかうテロリストによるものなのですから。

 8年前のプラハにおける最初の演説で、オバマ大統領は、こう言ってこの問題の本質を捉えました。「私たちはより多くの国家や人々が究極の破壊手段を所有する世界に生きることを宿命づけられているのだから、核兵器の拡散を止められないし、抑えられないという人もいる。このような宿命論は私たちを死に至らしめる敵である。なぜなら、核兵器の拡散が避けられないと考えることは、ある意味で
は、核兵器の使用は避けられないと認めることになるからである。」
 過去8年間に渡り、私たちはこの宿命論を打ち負かそうとしてきました。私たちは、避けられないとあきらめませんでした。私は、国民全体で、米国は核兵器のない世界の平和と安全を追い求め続けなければならないと信じています。なぜなら、それが悪夢のシナリオが現実になることを阻むため私たちが持っている唯一の保証だからです。
(後略)

(訳:ピースデポ。原文はこちら

くわしく

オバマ政権、2016年に核兵器553発を一方的に削減――透明性増大に一定の意義

公開日:2017.06.01

 17年1月11日、バイデン米副大統領(当時)は、カーネギー国際平和財団における演説で、オバマ政権8年の核兵器政策を振り返り、15年9月からの1年間で一方的に削減した核兵器の数は553発に上ったと発表した(5ページからの資料に演説草稿の抜粋訳)。これにより米国の予備を含めた核兵器保有数は、16年9月現在、4,018発になる。バイデン氏はまた、2,800発が解体待ちであることも示した。同日、ホワイトハウスは、演説の裏づけとして、09年プラハ演説以来の核兵器政策の実績を示すファクトシート(注1)を発表した。

 全米科学者連盟(FAS)のハンス・M・クリステンセンが自らのブログ(注2)でバイデン演説に対する評価を行っている。以下その要点を紹介したい。

 まずクリステンセンは、米国の保有核兵器数の経年変化をグラフ化(図は省略)し、オバマ政権による削減は小幅に終わったと指摘した。すなわち、オバマ政権8年間の削減数は1,255発であり、政権ごとの削減数としては冷戦後の政権の中で最も少ない(注3)。それでもオバマ政権による削減数は、ロシアを除く他の核兵器保有7か国の合計数よりも多い。冷戦後における核削減数を見ると、共和党政権で1万4,801発に対し、民主党政権では4,437発と共和党政権における削減の方が圧倒的に多い。前政権から引き継いだ総数に対する削減割合でみればオバマ政権は24%。クリントン政権の23%をわずかに超える数字だ。

 一方、米政府発表では一貫して削減された核弾頭の種類は公表されていない。クリステンセンは、削減されたのは未配備の不活性予備であるヘッジ弾頭(注4)であろうと分析した。その中には、いずれ退役される予定の余剰なW76(潜水艦発射弾道ミサイル用)、B61(爆撃機搭載用)、B83(爆撃機搭載用)弾頭、更にはW84(地上配備巡航ミサイル用)、W78(ICBM「ミニットマン」用)弾頭などが含まれる。

 16年に削減された553発は、解体待ちの弾頭群に加えられた。15年4月、ケリー国務長官が退役弾頭は2,500発あると発表していたが、今回、バイデンは、それが約2,800発に増えたとした。退役弾頭が300発増えたということは、 553発から300発を差し引いた約250発が2015年に解体されたことになる。バイデンは、オバマ政権は8年で2,226発の核弾頭を解体したとも述べた。これに従えば、オバマ政権は1年に平均278発ずつを解体してきたことになる。

 クリステンセンは不十分性を認めつつ、「オバマ政権が、核兵器を一方的に削減し、削減の流れを改善する追加的措置を選択したことは称賛されねばならない」とし、それはNPTにおける米国の立場を強化し、他の核兵器国に対する圧力を高める役割を果たすであろうと評価している。

 クリステンセンはさらに、「オバマ政権が、自国の核戦力に関する透明性を高める努力を続けていることも称賛に値する」と続ける。同政権は10年以来、核備蓄数、弾頭解体数、解体待ちの退役弾頭数などの経年変化を公表し、毎年アップデートしてきた。これは、他の核保有国に対し、より透明性を高めるよう求める圧力になるし、核兵器の歴史や将来について、事実に基づき議論する上での有用性があることをクリステンセンは認めた。

 そしてクリステンセンは、次のように分析を締めくくった。「オバマ政権は、徐々にではあるが責任をもって核兵器数を削減し、信頼性を高めてきた。この核政策の大きな枠組みをトランプ政権も継続すべきであろう。」(湯浅一郎)


1 ファクトシート「プラハ核アジェンダ」。https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2017/01/11/fact-sheet-prague-nuclear-agenda
2  全米科学者連盟「戦略安全保障」ブログ、17年1月11日投稿。
https://fas.org/blogs/security/2017/01/obama-cuts/
3 15年末までのグラフは本誌499-500号(16年7月15日)。
4 弾頭の技術的故障などに備えるための予備。

くわしく

真夜中まで2分半――BASの「終末時計」2017

公開日:2017.06.01

 17年1月26日、米誌「原子科学者会報」(Bulletin of the Atomic Scientists, BAS)に「17年終末時計」が掲載された(注1)。この「終末時計」は1947年に会報の表紙絵として始まり、同誌理事会が15名のノーベル賞受賞者を含む委員と次の4分野における世界状況を評価して、それを終末までの時間として表現している:核兵器、気候変動、バイオテクノロジー、新興技術。16年は終末<3分前>とされていたが、今年は2分半前と0.5分終末に近づいた。今回初の0.5分刻みとなったのはトランプ米大統領就任からまだ数日しか経っていないことが考慮されたためだ。ちなみに過去終末に最も近づいたのは米ソが共に水爆実験に成功した1953年の2分前である。

 「終末時計」には16年の一連の出来事が反映されている。核兵器に関しては北朝鮮の2度の核実験と月2回のペースで行われるミサイル実験、米ロの核兵器近代化、印パの核増強、トランプ氏の日韓核武装容認発言、核軍縮交渉の遅い歩み(国連でようやく核兵器禁止条約交渉が行われるには17年まで待たねばならなかった)、トランプ政権によるイラン核合意見直しの危機、ウクライナ・シリアでの紛争、ヨーロッパのミサイル防衛問題などがあった。気候変動に関しては、16年の二酸化炭素排出量は前年から横ばいであった。地球温暖化への対策の一つとしての原発が挙げられているが、現在の技術による新設速度ではその効果は極めて限定的であり、同時に安全への注意深い配慮が必要であると指摘した。最後に、選挙民の判断を誤らせて民主主義の基盤を損ない、トランプ大統領選出に影響したともいわれるサイバー攻撃や、人間が「殺傷」の判断を必要としない自律型兵器、生物兵器となりうる遺伝子操作といった新興技術の脅威が高まったとされた。

 これらリスクを低減し、種としての人類を保存するためには指導者たちが専門家の意見、科学的調査や事実の観察を考慮に入れることが必要であるとBASは述べている。そして世界の市民は指導者たちに次のことを要求すべきであるとの提言が示された。すなわち米ロ指導者の核軍縮交渉、米ロの核警戒態勢の低下、温室効果ガスの削減、トランプ政権が地球温暖化を認めること、北朝鮮との対話、原発の安全と廃棄物への対処、そして新興技術悪用防止のための機構設立、である。(山口大輔)


1 http://thebulletin.org/sites/default/files/Final%202017%20Clock%20Statement.pdf

くわしく

【米トランプ政権発足】世界秩序を語らぬトランプ、対照的な習近平 米「核態勢の見直し」に着手

公開日:2017.06.01

1月20日、ドナルド・トランプ氏が米国の新大統領に就任した。その就任演説は新大統領の「米国第一」の主張のみが突出した内容に終始し、世界との関係をほとんど語らなかった。その2日前、ジュネーブの国連欧州本部で中国の習近平国家主席が長い演説を行った。そこで強調されたのは、「主権平等」の原理に基づく世界秩序の構築であった。一方、トランプ大統領は1月27日に発した「軍再建覚書」で、「力による平和を追求する」という目的のもとで「核態勢見直し」や「弾道ミサイル防衛見直し」を国防長官らに指示した。


トランプ演説と習近平演説

 1月20日、米共和党のドナルド・トランプ氏が第45代米国大統領に就任した。選挙キャンペーン期間の言動から予想されたことであるが、トランプ大統領の就任演説は、極めて内向きで、視野の広がりを感じさせないものであった。世界最大の経済大国であり、世界の隅々まで軍を展開する唯一の軍事大国であり、世界に強く関与してきた米国が、ひたすら「米国が第一」と言うことの異常さを強く印象付けた。しかも、大統領はその異常さに気付いていないようであった。対米関係の現状維持を必死に求めようとする日本のような国も加わって、世界の前途には大きな危険が横たわっている。
 トランプ大統領の演説の2日前、中国の習近平(シー・チンビン)国家主席が、ジュネーブの国連欧州本部で演説をした。この演説はトランプ演説と極めて対照的であった(2ページ資料1に抜粋訳)。さまざまな疑義や異論を触発する内容であるが、重要なのは急速にグローバルなプレーヤーになりつつある中国が、世界秩序に関するビジョンを詳細に語ったことである。トランプがやらなかったこと、あるいはやれなかったことを、習がそれよりも早いタイミングでやったことに注目したい。米国の凋落傾向が印象付けられた。
 習は言う。「公正で平等な国際秩序を確立することが、人類が常に奮闘してきた目標である。」「主権平等は過去数世紀にわたって国家間を律する最も重要な規範であり、国際連合及びすべての国際機関によって守られてきた核心的な原則である。」西欧によって支配された歴史の記憶に立ち、かつては自らを第三世界と位置付けて非同盟運動に共感してきた中国が、今、これらの言説をどのようなスタンスで述べているのかが問われるであろう。中国には米国の世界支配に異議を唱える立場と、近隣の弱小国から異議を唱えられる立場に共通する世界秩序論が求められている。(梅林宏道)

トランプの「軍再建覚書」

 1月20日から2月9日までの間にトランプ大統領は大統領覚書(Presidential Memorandum)を26回発している。
 1月27日付「合衆国軍再建に関する大統領覚書」は、国防長官と行政予算管理局(OMB)局長に「軍再建」のためのアクションを指示したものだ。全訳を3ページの資料2に示す。「覚書」はまず、「力による平和を追求するため、合衆国軍を再構築」するという基本方針を示し、なすべき行動として以下を挙げる:
1) 軍の即応態勢の包括的評価と必要な改善計画の作成。
2) 国家防衛戦略(NDS)の作成。
3)「核態勢見直し」(NPR)への着手。目的は、核抑止力を「近代化され、強固で、柔軟で回復力があり」、「21世紀の脅威を抑止し同盟国に安心を与えるよう適切に調整」されたものにすることに置かれる。
4) 「弾道ミサイル防衛見直し」(戦域、本土両面にわたる)に着手する。
 NPRはクリントン(94年)、ブッシュ(01年)、オバマ(10年)に次ぐ4回目となる。
 ブッシュのNPRは「21世紀のための戦略態勢を練り上げる」ことを目標に掲げ、バンカーバスターなどの新兵器の開発に道を開こうとした。トランプのNPRはどのような機軸を打ち出すものになるのだろうか。そしてオバマ政権の国際協調に基づく軍縮や、「核なき世界」へのビジョンと行動計画(5ページの記事)にどのような「再建」の大鉈を振るうのだろうか。(田巻一彦)

くわしく

[資料2]合衆国軍の再建に関わるトランプ大統領覚書 

公開日:2017.06.01

2017年1月27日
宛先:国家安全保障に関する国防長官及び行政予算管理長局長
主題:合衆国軍の再建

 合衆国憲法及び法律により大統領である本職に付与された合衆国軍最高司令官としてのものを含む職権により、以下のことを命令する:

第1章 方針 
力による平和を追求するため、合衆国は合衆国軍の再建を方針としなければならない。

第2章 即応性 
(a) 国防長官(以下「長官」)は30日間で「即応性見直し」を実施すること。同見直しには以下のことが含まれねばならない:

(i) 訓練、装備の維持管理、弾薬、近代化及びインフラストラクチャーを含む即応状態を評価すること、及び
(ii) 現会計年度内に実施可能で、かつ即応状態の改善のために必要な行動を特定する報告書を大統領に提出すること。

(b) 即応性見直しと並行して、長官は、行政予算管理局(OMB)局長とともに、予算再配置を含む2017会計年度向け軍即応性予算修正案を作成すること。

(c) 国防長官はOMB局長とともに、即応状態を改善し国家安全保障リスクに対処するための、2018会計年度予算要求の水準を設定すること。

(d) 本命令から60日以内に、国防長官は、国防長官の即応性見直しで特定された2019年までの即応性の水準を達成するための行動計画を大統領に提出すること。同行動計画は維持管理の不十分性、部品調達の遅滞、訓練場へのアクセス、戦闘司令部の作戦上の要求、消耗品に必要な経費(例:燃料、弾薬)、人員の不足、貯蔵所の維持管理能力、及び即応・訓練活動の計画、調整、実施に必要な時間を含む改善分野を記載したものでなければならない。

第3章 合衆国軍の再建
(a) 新しい国家安全保障戦略が議会に提出されたならば、国防長官は国家防衛戦略(NDS)を作成しなければならない。NDSの目標は大統領と国防長官に最大限の戦略的柔軟性を付与し、必要性に応じた戦力構成を決定するものでなければならない。

(b) 国防長官は新しい核態勢見直しに着手し、合衆国の核抑止力が、近代化され、強固で、柔軟で、回復力があり、即応性が高く、21世紀の脅威を抑止し同盟国に安心を与えるよう適切に調整されたものであることを確実にしなければならない。

(c) 国防長官は新しい弾道ミサイル防衛見直しに着手し、ミサイル防衛能力を強化し、本土防衛と戦域防衛の優先度のバランスを再調整し、優先的な予算投入分野を強調するための方策を明らかにしなければならない。

第4章 一般規定
(a) この覚書のいかなる条項も、以下の事項を損ない、または影響を与えるものと解釈されてはならない:

(i) 法律によって行政省庁、もしくはそれらの長に与えられた権限、または
(ii) 予算、管理もしくは立法の提案に関わるOMB局長の職務。

(b) 本覚書は適用可能な法律にしたがい、歳出予算の充当可能性の範囲内で履行されねばならない。

(c) 本覚書にしたがって取られるすべての行動は、情報収集活動や警察活動の情報源や手法を保護するための要件を満たすと共に先例に則って行われねばならない。本命令のいかなる条項も、情報収集活動及び警察活動を直接支援する特定の諸活動および諸組織の安全及び完全性を守る法律のもとに確立された諸措置に優先するものと解釈されてはならない。

(d) 本覚書は、合衆国、合衆国政府の省庁や機関、各種職員・被雇用者その他の者に対してコモンロー上または衡平法上強制しうる、実体上および手続き上のいかなる権利または利益をも生じさせることを意図せず、また生じさせるものではない。

(e) 国防長官は本覚書を官報で公示する権限を与えられ、公示することを命じられる。

ドナルド・J・トランプ

(訳:ピースデポ。原文はこちら

くわしく

【連載】いま語る-70「東京のどまんなかで平和を考える」  伊藤 剛さん(株式会社アソボット代表取締役)

公開日:2017.06.01

 流行の最先端を行く場所で戦争や平和を伝えるというそのギャップに意味があると考え、この原宿(キャットストリート)の事務所へ1年半前に引っ越しました。若いときに海外を旅したときの、政治的話題を日常的話題と同じテーブルに乗せてビールを飲みながら話をするいろいろな国の若者たちとの出会いは衝撃でした。あの時の自分や周りの友達とこういう話をするためにはどういうきっかけが必要なのかという問いはずっと持ち続けています。

 最近感じているのは情緒や倫理で語ってもダメなのではないかということです。「戦争はいけないよね?」「人殺しはいけないよね?」これらに反対する人はいません。だからそもそも問いになっていない。これらはお互いに了解しているという前提で、話す側が議題を明確にできていないのではないでしょうか。人々の多くは戦争プロパガンダの前に「不景気でもいいんですか?」という経済プロパガンダに負けてしまいます。これに巻き込まれないためにはどういう方法があるのか、そういった具体的な問いを設定して、いろいろな人に意見を聞いてみたいと思います。

 私の幼い息子やその周りの男の子たちは、電車、バス、ブルドーザー、飛行機へと興味が移って、その先には戦車が普通にあるんですよ。子どもには戦車の手前に境界線がない。若者たちの間では、ここ最近ミリタリーファッションが流行していて、原宿の風景にも溶け込んでいます。戦車のフォルムは人を惹き付け、その金属の塊は畏怖の念を起こさせます。私たちはきれいに制服を着て、一列に並ぶのを美しいと感じる。こういう感覚が人間にはあるということを前提とすると、戦争という概念を倫理観だけに訴えて社会を変えていくという伝え方は届かないのではないか。戦争の何がいけないのかブレークダウンできていないのではないか。0か1を選ぶとなると、それに賛同できる人しか集まらず、伝わらないのではないか。そうではなくて、グレーゾーンの中でもがき苦しみながら選択しなければならないのが現実ではないでしょうか。

 いま平和を伝える努力より、正しく戦争を学ぶことが重要なのではないかと考えるようになりました。我々の戦争観をアップデートするということです。戦争を学ぶことが軍国主義の動きに加担してしまう可能性があることは認識したうえで、しかし、いつまでも70年前のモノクロの戦争観では現実味がありません。現代の戦争をとりまく環境そのものをリアルに切り取り、その中でロールプレイしてみることが重要な気がしています。

 2014年にロールプレイを通して被災生活をリアルに知るという防災教育が目的のロールプレイングブックを発行しました。その続編として、平和構築の専門家の方も交えながら、本当の戦争を学べる本をこれからつくりたいと思っています。どのように戦争が始まり、どのように戦争を止めることができ、その実際の現場ではどのような葛藤が存在しているのか。例えば、国連PKOが介入し、武装解除を行いますが、現場では武器を放棄させる代わりに戦争で壊された橋などを造る仕事を与えるというミッションもセットになっていたりします。そのような職業斡旋の業務は、我々の日常の延長で想像できる風景です。このようなリアルを切り出して学んでいく作業が、普通の人に戦争を伝えるための一つの方法なのではないかと考えています。先ほどお話しした「あなたの乗り物好きの幼い息子が戦車のおもちゃを買ってほしいと言うがどうする?」や、他にも「不景気の中、下町の工場長であるあなたに戦車のボルトの注文があったがどうする?」「内戦を経験した国で歴史を教えるあなたは、加害者と被害者が混在する生徒に向けてどのように戦争を教えるのか?」など、こうしたロールプレイを通じて戦争とは何かをパッケージとして学ぶ機会を提供したいと考えています。言わば、モノクロの戦争観をカラー化するためのツールです。

 トランプ・アメリカ新大統領が登場し、世界の警察をやめます、日本に核の傘の提供をやめますと発言したことはある意味では日本の平和運動の主張に沿ったものと言えなくもありません。これまではアメリカの軍事介入主義に反対することがイコール戦争に反対することだったのが、変わるかもしれない。アメリカの大きな軍事力が前提だったのが縮小された前提で考えなければならないかもしれない。考えざるを得なくなったのはチャンスです。今後日本の平和運動がどういう議論をするのかが試される大事な時期に来たと思います。

(談。まとめ、写真:山口大輔)

いとう・たけし
1975年生まれ。東京外国語大学大学院総合国際学研究科「平和構築・紛争予防コース」 非常勤講師、NPO法人シブヤ大学理事。

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