真夜中まで2分半――BASの「終末時計」2017
公開日:2017.06.01
17年1月26日、米誌「原子科学者会報」(Bulletin of the Atomic Scientists, BAS)に「17年終末時計」が掲載された(注1)。この「終末時計」は1947年に会報の表紙絵として始まり、同誌理事会が15名のノーベル賞受賞者を含む委員と次の4分野における世界状況を評価して、それを終末までの時間として表現している:核兵器、気候変動、バイオテクノロジー、新興技術。16年は終末<3分前>とされていたが、今年は2分半前と0.5分終末に近づいた。今回初の0.5分刻みとなったのはトランプ米大統領就任からまだ数日しか経っていないことが考慮されたためだ。ちなみに過去終末に最も近づいたのは米ソが共に水爆実験に成功した1953年の2分前である。
「終末時計」には16年の一連の出来事が反映されている。核兵器に関しては北朝鮮の2度の核実験と月2回のペースで行われるミサイル実験、米ロの核兵器近代化、印パの核増強、トランプ氏の日韓核武装容認発言、核軍縮交渉の遅い歩み(国連でようやく核兵器禁止条約交渉が行われるには17年まで待たねばならなかった)、トランプ政権によるイラン核合意見直しの危機、ウクライナ・シリアでの紛争、ヨーロッパのミサイル防衛問題などがあった。気候変動に関しては、16年の二酸化炭素排出量は前年から横ばいであった。地球温暖化への対策の一つとしての原発が挙げられているが、現在の技術による新設速度ではその効果は極めて限定的であり、同時に安全への注意深い配慮が必要であると指摘した。最後に、選挙民の判断を誤らせて民主主義の基盤を損ない、トランプ大統領選出に影響したともいわれるサイバー攻撃や、人間が「殺傷」の判断を必要としない自律型兵器、生物兵器となりうる遺伝子操作といった新興技術の脅威が高まったとされた。
これらリスクを低減し、種としての人類を保存するためには指導者たちが専門家の意見、科学的調査や事実の観察を考慮に入れることが必要であるとBASは述べている。そして世界の市民は指導者たちに次のことを要求すべきであるとの提言が示された。すなわち米ロ指導者の核軍縮交渉、米ロの核警戒態勢の低下、温室効果ガスの削減、トランプ政権が地球温暖化を認めること、北朝鮮との対話、原発の安全と廃棄物への対処、そして新興技術悪用防止のための機構設立、である。(山口大輔)
注
1 http://thebulletin.org/sites/default/files/Final%202017%20Clock%20Statement.pdf