核兵器・核実験モニター バックナンバー

【日誌】核・ミサイル/沖縄(17年4月6日~4月20日)

公開日:2017.08.01

BBC=英国放送協会/DPRK=朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)/GAO=政府説明責任局/ICBM=大陸間弾道ミサイル/NPR=核態勢見直し/NSC=国家安全保障会議/PKO=平和維持活動


●4月7日付 米NSC、在韓米軍への核兵器再配備をトランプ大統領に提案。
●4月7日 米、シリア空軍基地にトマホーク巡航ミサイル59発を発射し、戦闘機・施設などを破壊。
●4月7日 安倍首相、シリアへのミサイル攻撃に関し、化学兵器使用を許さない米国の決意を支持すると述べる。
●4月7日 プーチン露大統領、米軍のシリア攻撃を国際法に違反した侵略行為と非難。
●4月11日付 シリアへのミサイル攻撃に対する米国民の支持率は50%。不支持率41%。ギャラップの調査。
●4月12日 国連安保理のシリア化学兵器を調査する決議案に対し、犯人を決めつけているとするロシアが拒否権を行使、廃案に。
●4月14日付 長崎県がDRRKミサイル落下を想定した国民保護法に基づく訓練を夏に実施の方向で検討していることが明らかに。
●4月14日 日本学術会議総会、軍事研究を行わないという過去の声明を継承する新声明を討議。
●4月14日 「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」の発足会見が開かれ、小泉元首相が顧問に就任。
●4月15日 DPRK、金日成元主席生誕105周年の軍事パレード。新型ICBMとみられるミサイルも展示。
●4月16日 DPRK、東部から弾道ミサイル1発を発射も直後に爆発し失敗。
●4月16日 米ホワイトハウス高官、DPRKが同日核実験を行っていたら米国は何らかの行動を起こしていたと語る。
●4月17日 DPRKハン外務次官、「今後も毎週、毎月、毎年ミサイル実験を重ねる」とBBCのインタビューで述べる。
●4月17日 南スーダンPKOに参加していた陸自施設部隊の第1陣70名が出国。5月末までに350人全員が撤収の予定。
●4月17日 マティス米国防長官、NPRの改訂作業開始を命令。
●4月19日 原子力規制委、4原発5基(敦賀、美浜2基、島根、玄海1号機)の廃炉を認可。
●4月19日 ペンス米副大統領、横須賀海軍基地を訪れ、日本がより大きな役割を担うようになると米将兵、海自隊員を前に演説。
●4月20日 政府、宇宙の安全保障に関する対策チームを設置。経産省、防衛省、内閣官房などが参加。
●4月20日 国連安保理、全理事国の同意を得てDPRKの弾道ミサイル発射を非難し、今後の核実験不実施を要求する報道声明を発出。「対話を通じて解決」の文言が残される。

沖縄

●4月6日 沖縄防衛局、県の行政指導に対し、辺野古新基地建設に関する岩礁破砕許可は「再申請不要」と回答。
●4月6日 嘉手納町議会、沖縄防衛局へ騒音コンター見直し作業の中止等を求める意見書を提出。
●4月6日 名護市教委、キャンプ・シュワブ内大浦湾沿岸部の埋蔵文化財調査を開始。
●4月6日 県、日米地位協定改定案を17年ぶりに見直し。「基地外の事件事故での日本側捜査権」などの項目を新たに追加。
●4月7日付 米GAO報告書、普天間代替施設外の滑走路使用を提案。「辺野古の滑走路は長さが不足」と指摘。
●4月7日 名護市議会、沖縄防衛局へ市内での騒音測定を要請。
●4月7日 稲田防衛相、辺野古護岸工事の予定時期は明言せず。今後の工事について、岩礁破砕許可再申請は「不要」と重ねて主張。
●4月7日 名護市及び宜野湾市で基地抗議行動中に刑特法違反等で6日に逮捕された男女3名が釈放。那覇地検、勾留請求行わず。
●4月8日 自民党県連、名護市辺野古への新基地建設「容認」。県連政策に明記。
●4月12日 普天間飛行場返還合意21年。翁長知事、辺野古「埋立承認撤回」の方針を改めて示す。
●4月13日 県、沖縄防衛局へ辺野古新基地建設に関し大浦湾での鉄板敷設作業目的及び生物保全対策の説明要求。
●4月13日 防衛省、普天間飛行場周辺の防音工事「第1種区域」の見直し行わず。返還予定であることが理由。
●4月14日付 米軍嘉手納基地、12日に沖縄攻撃を想定した反撃訓練を実施。朝鮮半島の緊張を受け、臨戦態勢を誇示。
●4月14日 沖縄防衛局、石谷島陸自配備の候補地「平得大俣」の市有地で立入調査。
●4月15日付 沖縄防衛局、嘉手納弾薬庫知花地区で黙認耕作地への立入制限措置実施。5月15日までに工作物の撤去を求める看板。
●4月18日 県、キャンプ・ハンセン内での流弾問題で、在沖米海兵隊へ再発防止と原因究明を要請。
●4月19日 米海兵隊CH53Eヘリ、事前通告なしに車両つり下げ訓練実施。読谷村沿岸を低空飛行。
●4月20日 辺野古新基地建設。工事関係車両21台がキャンプ・シュワブ内へ。海上作業は確認されず。

くわしく

〈資料〉核禁条約交渉会議での高見澤将林軍縮大使の演説(抜粋訳)

公開日:2017.08.01

<資料>核兵器禁止条約交渉会議における高見澤将林軍縮大使の演説(抜粋訳)
2017年3月27日
ニューヨーク国連本部

 議長、事務総長、総会議長、各代表の皆さま、

 広島と長崎における核兵器の戦時使用の惨害を経験した唯一の国として、日本には、原爆投下の実相とその人道上の結末に対する明確な認識について、国境と世代を超えて注意を喚起する使命があります。この努力を通じて、日本は核軍縮の前進のための国際社会の団結を促し、核兵器のない世界を実現するという共通の目標に向かって、他の国々と協働してきました。

 (略)日本は核兵器国と非核兵器国の協力を基礎に、核兵器使用の人道上の側面への認識と国際安全保障の厳しい現実への客観的認識の両方を視野に収めながら、実際的かつ具体的措置を積み上げることが重要であるということを一貫して訴えてきました。このアプローチこそが、核兵器のない世界に到達するためのもっとも効果的な道筋であると信じています。この立場に変わりはありません。

(略)
 核軍縮は国家安全保障と密接に関連しています。すなわち、現に存在している安全保障上の懸念を考慮しないで軍縮を実現することはできません。我々は、ますます悪化しつつある国際社会の現在の安全保障状況から目をそらしてはなりません。北朝鮮は、国連安保理の関連決議に違反して、昨年来2回の核実験と20回の弾道ミサイル発射を行い、さらに核保有国を目指す意思を公言しています。これは、北東アジア地域と国際社会全体にとっての現実的で差し迫った安全保障問題です。(略)したがって、核軍縮措置が各国、各地域の現実の安全保障上の懸念への対処にいかに貢献しうるかの現実的展望を考えることは決定的に重要であります。

(略)
 日本が一貫して訴えてきたように、核軍縮の前進のためには核兵器国の関与が不可欠です。もっとも重要なことは、核兵器国を含む国々の間に信頼と信用を構築し、そのことをとおした二国間、多国間の努力によって、核兵器を削減するための具体的な措置の合意など、様々な現実的で実際的な措置を積み重ねることです。

 地域的な問題を解決することで、国々が核兵器保有の動機となるような諸要素を除去することもまた必要です。このようにして、私たちは核兵器の廃棄を可能とするような安全保障環境を創り出す努力を加速せねばなりません。

(略)
 核兵器国、非核兵器国を含むすべての国の行動をとおして、このような努力を積み重ねた後に、私たちの「漸進的アプローチ」がいう、核兵器の数が極めて少ない「最少化地点」に到達することが期待されます。この地点が手に届くようになって初めて、私たちは、核兵器のない世界に向かう最後のビルディング・ブロックとして、効果的で意味ある法的文書を作成することができるようになるでしょう。

(略)
 このようなアプローチに基づき、核兵器国の関与を得て、日本は、国際社会がNPTなどの協議の場を通して国際社会が合意した核軍縮措置を、着実かつ効果的に履行するために次のような具体的な核軍縮努力を前進させることに力を注ぐ所存です。
 第1に、日本はNPTを核軍縮と不拡散の礎石として強化するNPT再検討プロセスに貢献してきました。例えば、日本は非核兵器国の地域横断的グループであるNPDIにおいて主導的な役割を果たしてきました。NPDIは透明性の向上といったような具体的措置を提案してきました。日本は核兵器のない世界に向かう具体的かつ重要な措置である透明性の向上を特に重視しています。(略)私たちは今年5月に始まる2020年NPT再検討プロセスの成功に向けた国際社会全体の協力を拡大することを引き続き訴えてゆきます。

 第2に、日本は、とりわけ核兵器国が参加して具体的措置を決定する協議の場での具体的かつ実際的な措置の前進を進捗させることに注力します。この努力には以下が含まれます:

 日本は核兵器の全面的廃絶のための結束した行動を求める決議を23年間にわたり国連総会に提案し、圧倒的な支持を得てきました。日本はまた、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効のために、20年以上にわたり、忍耐強い堅実な外交努力に加えて技術的、財政的支援を提供することによって積極的に貢献してきました。さらに日本は、核兵器の増産を許さないという国際社会の意志を示すために、FMCT交渉の早期開始に向けて国連に設立されたハイレベル専門家準備グループにおける議論に積極的に参加してゆく所存です。

 実際に核兵器を廃棄してゆくための重要な要素である検証に関して、日本は核軍縮の検証に関する政府専門家グループの国連での設立と、核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV)の活動に積極的に貢献しています。

(略)
 昨年、この会議を開催する決議が国連総会で採択されました。核兵器の惨害を経験した国として日本は、核軍縮が遅々として進まないことへの非核兵器国の苛立ちと、実質的前進の達成への真摯な願望を、理解し共有しています。

 日本は、核兵器国に対して禁止条約が出てきた背景を、正面から誠実に吟味し核軍縮を前進させるための努力を尽くすよう求めてきました。また多くの非核兵器国と、禁止条約のアイデアを含む核軍縮に関して、様々な国際会議で真剣に話し合いました。

 禁止条約は、もしそれが一発の核兵器も実際に削減するものでないのなら、さしたる重要性を持たないでしょう。実際、核兵器国の参加なしにこのような条約を作ろうとする努力は、核兵器国と非核兵器国の間のみならず、非核兵器国間の分裂と分断を深め、ひいては国際社会を分裂させるでしょう。そして核兵器のない世界を達成するという私たちの共通の目標を遠ざけるでしょう。たとえこのような条約が合意されても、北朝鮮の脅威のような安全保障問題が解決に導かれるとは思いません。日本が昨年の国連総会決議71/258に反対した理由はここにあります。

 これまでの議論と検討から、禁止条約というコンセプトでは核兵器国の理解も参加も得られないことが明らかです。さらにこの交渉は、核兵器国と協力して実際に核兵器の廃棄に導くように組み立てられていません。残念ながら現在の状況では、日本がこの会議に建設的かつ誠意をもって参加することは難しいといわねばなりません。

(略)
 日本は国際社会における建設的対話と協力に高い価値を置いています。核兵器のない世界を達成するための効果的かつ包括的な努力を前進させるために、私たちは、核軍縮に関する様々なアプローチを考えている国々との双方向的な意見交換の場を持つことなどでイニシャチブをとってゆく所存です。(後略)

(訳:ピースデポ)
原文:www.reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/nuclear-weapon-ban/statements/27March_Japan.pdf

くわしく

【核禁条約交渉2】日本の「交渉不参加」は被爆者と国際社会への背信――「核の傘」から「非核兵器地帯」へ

公開日:2017.08.01

 3月27日、禁止交渉会議への不参加を宣言した高見澤将林国連軍縮大使の演説(原文英語)の抜粋訳を7ページの資料に示す。そこで展開された論理は従来の主張の繰り返しであり、新味はない。しかしこの歴史的機会に日本が表明した態度を記録と記憶にとどめるために掲載する。
 演説の大意を要約すれば次のとおりである。
①核兵器廃絶のためには、人道と安全保障の両方の認識が必要だ。「禁止条約」アプローチには北朝鮮の核の脅威に代表される安全保障課題への深刻な認識が欠落している。
②核軍縮の前進のためには核兵器国の関与が不可欠であるにも拘わらず、この会議には核兵器国は参加していない。
③求められているのは、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効、FMCT交渉の開始などの実際的・具体的措置の蓄積である。このようなアプローチの方が「禁止条約」より役に立つ。
④核兵器数が極めて少ない「最少化地点」が手に届くようになったら「禁止条約」を考えることができる。
⑤結論として現在の状況では、日本がこの会議に建設的かつ誠意をもって参加することは難しい。 
 この演説を残して日本代表は議場を後にし、二度と戻ることはなかった。

被爆者と国際社会の期待を拒絶

 同じ日の朝、被爆者代表として登壇した藤森俊希氏(日本被団協事務局次長)は、自身の体験を交えながら「(原爆投下から)3月27日までの2万6166日間」にわたって被爆者が背負ってきた苦難の現実を語り、それゆえに、禁止条約交渉に反対する日本に「心が裂ける思いで」この日を迎えたと話した(注1)。
 その約2時間後に登壇した高見澤大使が被爆者のこの想いをあらためて拒絶したのである。
 「禁止条約交渉」を決めた昨年の国連総会決議71/258に反対した日本は、それでも「交渉に積極的に参加し」、「唯一の被爆国として、そして核兵器国、非核兵器国の協力を重視する立場から、主張すべきことはしっかりと主張していきたい」(16年10月28日、外相記者会見)との考えを示していた。しかし外相は高見澤演説をもって「会議には参加したが、交渉には参加しなかった」(17年3月28日、同)と話した。さらに被爆者の声と政府見解のギャップについて問われた岸田外相は次のように答えた。「(被爆者の思いは)大変貴重なものであり、重たいものがある」、「その声を受けて、政府として現実的な結果を出すためにはどうあるべきなのか、これを真剣に、十分に検討した結果、政府の対応を決定した」。外務大臣の言葉に誠意は感じられない。何を「真剣に、十分に検討した」のか、まったく内容が見えない。
 被爆者の苦難と胸中への想像力があるなら、日本政府に求められたのはまず被爆を二度と繰り返さないために現実政治が果たすべき役割への熟慮であったはずだ。しかし、「核の傘」を必要としない政策について熟慮するどころか、高見澤・岸田両発言を支配しているのは核の傘への無批判な依存方針であった。
 百歩ゆずって「核依存政策」をただちに放棄はできないとしても、それを相対化し、克服する意思が少しでもあれば日本は会議に参加して有用な貢献をすることができたはずである。27日、オーストリア大使は、議場の外で交渉反対声明を発した米国連大使らに向けて、「国々や人々の安全を損ないたいと思っている者など、この会場には誰もいない」と対話への参加を訴えた(前号参照)。もし日本政府が、「核の傘」に依存しない安全保障について熟慮していたならば、会議に参加してオーストリア大使の訴えに対して噛み合った形で対話を続けることができたはずである。
 昨年の国連総会で日本が提案した「核軍縮決議」2(以下「日本決議」)は167か国の支持を集めた。いうまでもなく支持国には交渉会議を主導するオーストリア、メキシコ、アイルランド等も含まれている。しかし、これらの国々が日本政府の方針に積極的に賛成票を投じたと理解すべきものではない。内容に不満があっても「日本決議」の背後には被爆者や広島、長崎の自治体や幅広い被爆国の市民の声がある。これらの世論への敬意と期待として、賛成票が投じられていると考えるのが妥当であろう。
 逆に言えば、私たち日本の市民は、日本政府の政策転換をもたらすことができない限り、このような国際社会の敬意や期待に応えることができない。

「最少化地点」論の欺瞞

 高見澤演説は「最小化地点」という概念を使って、核兵器禁止条約を検討しうる条件について述べた。<すべての国がこのような努力を積み重ねた後に、核兵器の数が極めて少ない『最少化地点』に到達することが期待される。この地点が手に届くようになって初めて、効果的で意味ある法的文書を作成することができる>(大意)。大使が「このような努力」として例示したのは次のような措置である。①国家間の信頼醸成、②2国間・多国間の核軍縮、③地域的課題解決による核保有の動機の除去。
 この正論に誰も反対しない。しかし、日本政府は何をしてきたというのか。何一つこれらの努力をしてはいない。だから、今日の行き詰まりがあり、法的拘束力のある「禁止規範」の確立という努力が始まった。
 日本は、憲法をないがしろにして日米安保協力を強化し、米中、日中の不信を増幅し、北東アジアの緊張を緩和するどころか、ひたすら北朝鮮の孤立化を図り、同国の「核保有の動機」をいっそう助長してきた。ミサイル防衛によって中国の核戦力強化を誘ってきた。
 具体的な行動を伴わない「最少化地点」論は、核兵器国のサボタージュと同じであり、問題を先送りする欺瞞的な議論でしかない。

市民に問われる政策転換の道

 前述の「日本決議」には「関係加盟国が核兵器の役割や重要性の一層の低減のために、軍事・安全保障上の概念、ドクトリン、政策を継続的に見直していくことを求める」との一節があった。
 日本の市民は、日本政府にこの「見直し」を迫るべきである。北朝鮮の核の脅威を口実にして何もしない現状を許さず、その現実から出発して北朝鮮の核もアメリカの核も否定する地域の安全保障の仕組みを議論する手掛かりがここにある。
 「北東アジア非核兵器地帯」は、安全保障における核兵器の役割を縮小させる具体的構想である。現今の朝鮮半島情勢はこれがまさに喫緊の課題であることを示している(トップ記事参照)。今こそ日本社会のあらゆる階層、分野で議論を深め拡大する努力を強めようではないか。(田巻一彦、梅林宏道)


1 演説全文は日本原水爆被害者団体協議会(被団協)ウェブサイト。www.ne.jp/asahi/hidankyo/nihon/seek/img/170327_uttae_Fujimori.pdf
2 「核兵器の全面的廃絶に向けた、新たな決意のもとでの結束した行動」(A/RES/71/49)。本誌509号(16年12月1日)に主文全訳。

くわしく

【核禁条約交渉1】核保有国・依存国の「巻き込み」戦略も討議―国連会議3月会期の議論から

公開日:2017.08.01

 本誌前号でも述べた通り、核兵器禁止条約を交渉する国連会議の3月会期(3月27~31日、ニューヨーク)では、政府代表と市民社会から条約の目的や内容などに関する様々な具体的提案が出され、活発な意見交換があった。
 会議では事実上「禁止先行型」条約を前提に議論が進み、条約の基本的な形態などを話し合う時間は特に設けられなかった。ただ、いくつかの発言の中にこの点に関わるものが見られた。
 例えば07年にモデル包括的核兵器禁止条約(NWC)を国連に提出したマレーシアは、「最も好ましいのはモデルNWCだが、この会議では国連決議に従い、禁止を目的とする条約の交渉という義務を果たす」とした。同趣旨の発言はバングラデシュや平和首長会議からもあった。
 南アフリカは、NWCに関わって「国連決議の下では核兵器削減の詳細な検証は適切でないとの幅広い合意があるように思われる」とし、さらに「枠組み条約の検討はすべての国が参加する場で行われるほうがよい」と述べて、「禁止先行型」への支持を表明した。

「人道的視点、完全廃棄の目標、NPT補完・強化を前文に」

 参加国の発言は、禁止交渉開始への原動力となった人道的視点を前文に盛り込むべきとの点でほぼ一致していた。また、核兵器完全廃棄の目標にも何らかの形で触れることで一致していた。さらに、条約がNPT特に6条を補完・強化するとの位置づけについても、参加者間でほぼ合意されており、前文でもその点を明記すべきとの意見が多く寄せられた。引用すべき他の法的文書としては、国連憲章の目的と原則、核軍縮についての国連決議1号、1996年ICJ勧告的意見などが挙がった。なお、非常に多くの国が非核兵器地帯条約の有用性を語り、これを前文にも明記すべきとの声もあった。
 前文について「野心的に廃棄への具体的道筋を示しては」「条約が将来『枠組み合意』的役割を果たせるよう、追加議定書などへの展望を示したい」といった提案の一方で「本体に入れないものを入れすぎるべきではない」との指摘もあり、前文に盛り込む内容の多寡で意見が分かれた。

「使用の威嚇」「実験」の禁止で議論

 禁止事項については、総論として生物・化学兵器の各禁止条約と同様の包括的な禁止を求める声が相次いだ。大部分の発言者が、核兵器の「開発」「生産」「取得」「保有」「使用」「移転」「備蓄」を挙げた。「通過」と「配置・配備」、禁止行為への「援助・奨励・勧誘」も、多数が禁止事項に挙げた。
 「融資」も多くの参加者が挙げた。融資は「援助」の一形態とも言えるが、この点に関し「融資の明示的禁止で核兵器産業に資金が回らないようにしうる」「非国家主体による大量破壊兵器(WMD)関連活動への融資を禁止した安保理決議1540を国にも広げたい」との意見があった。
 「使用の威嚇」については、国連憲章2条4項でより広い「武力による威嚇」が禁止されていることその他を理由とした不要論に対し、「使用の威嚇」はこの条約で克服が目指されている核抑止概念と密接に関わる行為であり明示的に禁止すべきとの反論があった。
 「実験」を挙げた者も少なくなかったが、すでにCTBTに規定されていることを理由とする不要論や、「開発」に含めて考えればよいとする見解もあった。これに対し、「CTBTでは禁じられていない、爆発を伴わないコンピュータ上のものや未臨界核実験なども明示的に禁止すべき」「戦略上、実験と開発を別々に類型化している保有国もあるので、実験が開発に含まれるかは一考を要する」といった反論があった。
 なお、禁止に関するものを含めた検証体制を考えるべきとの意見も出され、その関連でIAEAの関与にも言及された。逆に、マレーシアは「検証は詳しく決めなくてよい」と述べた。
 核被害者の権利保障、環境回復、教育啓発などの「積極的義務」を盛り込むことについても幅広い合意があった。

「CTBTの教訓」を発効要件に活かす

 条約運用のための「制度上の取り決め」に関わって、参加国は、発効後も履行状況などを定期的に話し合う再検討会議ないし締約国会議の開催を求める点でほぼ一致した。そうした会議の運営などを司る履行支援機関そして事務局の必要性を求める声がある一方、国連軍縮局(UNODA)が事務局機能を担えばよいとする意見もあった。
 発効要件については軒並み、「CTBTなどの轍を踏まないよう、特定国の批准を要件とすべきでない」との声が挙がった。数についてスウェーデンは「国連決議の賛成国数113などにかんがみ80」、マレーシアは「35~40」とした。
 留保は、これを認めないとする意見がほとんどだった。「条約の目的に反しない限り認めてよい」との意見に対し、「この条約では目的に反しない留保を考えるのが難しい」との反論があった。脱退は、認めないとの複数の意見の一方で、「厳格な基準を設定する」「全保有国の加盟後に改正し脱退不能とする」という提案もあった。

核保有国・依存国をどう巻き込むか

 今会期は結局すべての核保有国が欠席し、核依存国はオランダと日本以外は欠席した(日本も「交渉には不参加」)。「彼ら(保有国)だけが軍備を撤廃できる」「武装解除の済んだ国による軍縮交渉なのが残念」「違う意見を持つ者を説得せねば」という声にも表れているように、核兵器の禁止を廃絶につなげるため核保有国の条約加入が今後の重要課題だとする問題意識は、広く共有されていた。そしてそのために、抜け穴を作らないよう注意しつつ「いま交渉に参加していない国々のため扉を開いておくような法的文書を作りたい」との意識も、少なくない参加者が持っていたように思う。
 南アフリカは、「核保有国が一定期間内の核兵器廃棄を誓約して条約に加入することを認める条項を導入したい。そのために何らかの検証条項を置き、当該国による核兵器廃棄完了の保証を得たい」と提案し、多くの国が同趣旨の発言を行った。保有国の加入方法につき条約締約国と保有国が別途交渉するとの提案もあった。他方、保有核兵器の廃棄を条約加入の要件とすべきとの主張もあった。
 核依存国についても条約への巻き込みが重要との認識が示され、その際に条約の文言や精神を弱体化させないことが至上命題だとされた。オランダは「核同盟NATOの一員としての義務と条約参加とを両立させたい」と述べたが、大半の参加者にとりそのままでは受け入れがたい発言だったといえよう。
 「禁止を廃絶につなげるには、核兵器国と非核兵器国の実りある対話と交渉が不可欠だ。次のNPT再検討サイクルが、国際社会の分断を乗り越えて共同作業を推進するまたとない機会だ」とアルゼンチンは訴えた。その2020年NPT再検討会議に向けた第1回準備委員会が、5月2~12日にウィーンで開かれる。今回の交渉参加国と核保有国・依存国との間でどのような「対話」がなされるのか、注目される。(荒井摂子)

くわしく

<資料> 弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な強化に関する提言(抜粋)

公開日:2017.08.01

平成29(2017)年3月30日
自由民主党政務調査会

(前略)
 もはや、わが国の弾道ミサイル防衛の強化に一刻の猶予もなく、今般、党安全保障調査会の下に「弾道ミサイル防衛に関する検討チーム」を急遽発足させ、これまでとは異なる北朝鮮の新たな段階の脅威に対して有効に対処すべく、あらゆる実効性の高い方策を直ちに検討し、政府に対し予算措置を含め、その実現を求めることとした。(略)

1.弾道ミサイル防衛能力強化のための新規アセットの導入
 イージスアショア(陸上配備型イージスシステム)やTHAAD(終末段階高高度地域防衛)の導入の可否について成案を得るべく政府は直ちに検討を開始し、常時即応体制の確立や、ロフテッド軌道の弾道ミサイル及び同時多発発射による飽和攻撃などからわが国全域を防衛するに足る十分な数量を検討し、早急に予算措置を行うこと。また、将来のわが国独自の早期警戒衛星の保有のため、関連する技術開発をはじめとする必要な措置を加速すること。
 あわせて、現大綱・中期防に基づく能力向上型迎撃ミサイルの配備(PAC-3SME:平成32年度配備予定、SM-3 ブロックIIA:平成33年度配備予定)、イージス艦の増勢(平成32年度完了予定)の着実な進捗、事業の充実・更なる前倒しを検討すること。

2.わが国独自の敵基地反撃能力の保有
 政府は、わが国に対して誘導弾等による攻撃が行われた場合、そのような攻撃を防ぐのにやむをえない必要最小限度の措置として、他に手段がない場合に発射基地を叩くことについては、従来から憲法の認める自衛の範囲に含まれ可能と言明しているが、敵基地の位置情報の把握、それを守るレーダーサイトの無力化、精密誘導ミサイル等による攻撃といった必要な装備体系については、「現在は保有せず、計画もない」との立場をとっている。
 北朝鮮の脅威が新たな段階に突入した今、日米同盟全体の装備体系を駆使した総合力で対処する方針は維持するとともに、日米同盟の抑止力・対処力の一層の向上を図るため、巡航ミサイルをはじめ、わが国としての「敵基地反撃能力」を保有するべく、政府において直ちに検討を開始すること。

3.排他的経済水域に飛来する弾道ミサイルへの対処
 昨年8月以降、北朝鮮は3度にわたりわが国の排他的経済水域に弾道ミサイルを着弾させており、航行中の船舶への被害は生じなかったものの、操業漁船が多い海域でもあり、わが国船舶等の安全確保は喫緊の課題である。
 このため、弾道ミサイル等の脅威からわが国の排他的経済水域を航行しているわが国船舶等の安全を確保するため、政府は、当該船舶に対して、航行警報等を迅速に発出できるよう、直ちに検討すること。(後略)

出典:
www.jimin.jp/news/policy/134586.html

くわしく

〈コラム〉北朝鮮の核・ミサイルをめぐる動き(17年1月1日~4月23日)

公開日:2017.08.01

●北朝鮮、■米・日・韓、◎中国、○国連

●1月1日 金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長が新年の辞。「自力自強」による社会主義建設を強調。開発の最終段階を迎えた大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含む核戦力を中核とする防衛力強化を明言。米には「時代錯誤的な敵視政策」の撤回を要求。
1月11日 16年韓国国防白書、北朝鮮は核兵器10発分のプルトニウムを保有と推定。
1月20日 ドナルド・トランプ米新大統領就任。
●2月12日 弾道ミサイル「プッククソン(北極星)2」の発射実験に成功と発表。高角度発射により高高度(ロフテッド)軌道を飛行。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「プッククソン」を原型とする固体燃料ミサイル。
●2月13日 金正恩委員長の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)氏、マレーシアで殺害。
○2月24日 国連安保理制裁委員会・専門家パネル、エジプト政府が拿捕した貨物船から北朝鮮製携行式ロケット弾3万発を押収と発表。
2月27日 ワシントンDCで6か国協議日米韓主席代表会合。国際的圧力強化の声明を発出。
3月1日付 米「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙、トランプ政権が北朝鮮の核・ミサイルに対して、オバマ前政権の「戦略的忍耐」方針を見直し、軍事攻撃や体制変更を含めた「あらゆる選択肢」を検討していると報道。
3月1日 米韓合同演習「フォールイーグル2017」開始。米韓あわせて推定30万人以上が参加する四軍実動演習(なお、フォール(foal)は仔馬、イーグル(eagle)は鷲を意味するが通した定訳はない。韓国では「トクスリ(鷲)演習」と呼ばれることが多い)。
◎3月1日 王毅(ワン・イ)中国外相が北京で李吉成(イ・キルソン)北朝鮮外務次官と会談、非核化の実現と平和メカニズム構築への努力を要望。
●3月2日 朝鮮人民軍統合参謀部報道官、「フォールイーグル」で北朝鮮に砲弾が一発でも打ち込まれたら、容赦なく反撃と警告。
3月3日付 米韓両軍が2月に北朝鮮の大量破壊兵器捜索・破壊訓練を行ったことが明らかに。
●3月6日 北西部の東倉里(トンチャンリ)から弾道ミサイル4基を発射、1,000kmを飛行。うち3基は日本の排他的経済水域に着水。
●3月7日 6日の弾道ミサイル発射は、在日米軍基地攻撃の訓練と明言。
3月7日 トランプ米大統領、北朝鮮の弾道ミサイル発射は「きわめて恐ろしい結末を招く」と警告。
◎3月7日 王毅中国外相、米韓合同演習の中止と引きかえに北朝鮮がミサイル発射を凍結する事態打開案を提案。
3月8日 米国務省トナー報道官代行、中国の米韓合同演習中止提案を拒否すると表明。
3月13日 米韓合同演習「キーリゾルブ2017」開始。「フォールイーグル」と連動する指揮所演習。3月24日まで。
●3月13日 朝鮮中央通信、米が先制攻撃の動きを見せれば「核攻撃で侵略と挑発の本拠地を焦土化する」とけん制。
3月16日 米国務省トナー報道官代行、6か国協議は成果がなかったとして、今後の開催に懐疑的な見方を示す。
3月18日 ティラーソン米国務長官、米ウェブニュースのインタビューで北朝鮮の核開発の展開によっては韓日の核武装容認を考慮すると示唆。
●3月19日 東倉里で弾道ミサイル用新型大出力エンジンの燃焼実験に成功と発表。
●3月22日 東海岸からムスダンとみられる中距離弾道ミサイル1発を発射するも数秒後に空中分解し失敗。
3月30日 自民党検討チーム、敵地反撃能力保有の検討開始などを政府に提言。(3ページ資料)
3月31日 米下院外交委員会、北朝鮮をテロ支援国家に再指定するよう国務省に求める法案を可決。
3月31日 米財務省、国外で金融取引に携わる朝鮮籍の11人を制裁対象に。
4月2日付 トランプ大統領、英「フィナンシャル・タイムズ」のインタビューで、北朝鮮問題を中国が解決しないなら、米が単独で解決すると述べる。
●4月5日 東海岸の新浦(シンポ)から弾道ミサイル1発を発射、日本の排他的経済水域(EEZ)外の日本海に着水。
●4月6日 北朝鮮外務省が長文の「覚書」を発表。米国の軍事的・経済的圧力を朝鮮戦争休戦協定や関連国際法への違反と非難。米国が先制攻撃をした場合には国連憲章第51条に基づき反撃するが、攻撃対象は米軍などの攻撃拠点に限定し戦時人道法を遵守すると述べる。
◎4月6~7日 米フロリダで米中首脳会談。北朝鮮核問題で「相互協力の深化」を確認。
4月9日 米海軍・カールビンソン空母打撃群が朝鮮半島沖に向かっていると報道。
●4月11日 労働新聞、「米国がもし我々を先制攻撃しようとするわずかな動きでも見せれば、核攻撃で侵略と挑発の本拠地をことごとく焦土にする」と警告。
◎4月14日 王毅・中国外相、米朝関係の極度の緊張に、「対話こそが唯一の道であることは歴史が証明」と軍事力行使を排除しない米国に再度自制を求める。
●4月14日 朝鮮人民軍総参謀部報道官、米原子力空母カールビンソンの朝鮮半島近海への急派などの「挑発策動」は「超強硬対応」で徹底的に粉砕すると警告。
●4月15日 平壌(ピョンヤン)で故金日成(キム・イルソン)主席生誕105年を祝う軍事パレード。新型のICBMと推定されるミサイルやSLBMなど展示。崔竜海(チェ・リョンヘ)朝鮮労働党副委員長が「米国のどんな選択にも対応できる態勢がある」と演説。
●4月16日 新浦(シンポ)から弾道ミサイルを発射するもすぐに空中爆発し失敗。
●4月17日 キム・インリョン国連次席大使が国連本部で記者会見。朝鮮半島では核戦争がいつ起きてもおかしくないと警告したうえで、ミサイルや核攻撃には同じ手段で反撃すると明言。
4月17日 韓国訪問中のペンス米副大統領と韓国の黄教安(ファン・ギョアン)大統領代行兼首相、北朝鮮が軍事挑発の場合は「強力な報復措置」をとることで一致。
○4月20日 国連安保理、北朝鮮の弾道ミサイル発射を非難する報道声明発表。「対話を通じた平和的解決を目指す」との一節がロシアの主張で入れられる。
●4月21日 北朝鮮アジア太平洋平和委員会・報道官声明。「われわれの首脳部を狙う敵対勢力は、南が灰となり、日本列島が沈没し、アメリカ本土に核が降り注いだとしても、後悔してはならない」と警告。
4月23日 海上自衛隊の護衛艦「あしがら」と「さみだれ」、空母カールビンソンと合流し共同訓練開始。
(まとめ:編集部)

くわしく

【朝鮮半島危機】米国と北朝鮮は戦争挑発をやめよ外交交渉こそ解決の道――今こそ「非核兵器地帯」をテーブルに

公開日:2017.08.01

国連安保理決議に反して核実験と弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に、米国は「あらゆる選択肢」で対抗するとして、体制打倒までを想定した米韓合同演習を展開している。軍事圧力・制裁と挑発的言動の応酬には、たえず偶発的武力衝突の可能性が潜む。一方、日本政府とTVメディアは「核とミサイルの恐怖」を煽り、政府与党からは対北攻撃能力を含む軍拡提案がなされている。軍事圧力と挑発の迷宮から脱する道は外交交渉と信頼醸成以外にない。今こそ、市民の側から「北東アジア非核兵器地帯」という対案をテーブルにのせるときである。


 

 17年1月1日から4月下旬に至る朝鮮半島の動きを2ページの日誌にまとめた。たび重なる国連安保理の禁止・制裁決議にも拘わらず、昨年1年間で2度の核実験、20回以上の弾道ミサイル発射と1回の人工衛星打ち上げを行った北朝鮮は、トランプ政権発足から間もない2月12日、弾道ミサイルを発射した。トランプ政権の無定見な北朝鮮政策も手伝って、朝鮮半島の緊張は一挙に高まっている。

最大規模の米韓合同演習

 3月1日に始まった最大規模の米韓合同演習が4月30日まで続いている。四軍実動演習「フォールイーグル」(3月1日~4月30日)と指揮所演習「キーリゾルブ」(3月13~24日)が複合・連動する演習である。昨年は「斬首作戦」と呼ばれる政権打倒シナリオを含むことが注目されたが、これとともに今年の演習には15年11月に韓米間で合意された「4D抑止戦略」―北朝鮮の核・ミサイル施設から防衛(defend)し、それらを探知(detect)、妨害(disrupt)、破壊(destroy)するシナリオを含むと韓国当局は話している。危機が差し迫っているときには、先制攻撃を行うことも想定されている(注1)。
 演習には戦略爆撃機、空母打撃団を含むあらゆる戦略的資産が投入されているほか、かつてアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンを殺害した米特殊部隊が1,000人規模で参加と言われている(注2)。総戦力は30万人を超えるとされているが具体数は公表されていない。
 当然のことながら、北朝鮮政府と軍はこの演習が体制変更をも狙うものとして極度の警戒心を抱いている。朝鮮人民軍には戦時に匹敵する態勢が下命されていることは想像に難くない。演習開始後に弾道ミサイル発射実験の頻度が上がっていることも警戒心の表れだと思われる。3月6日に4基の弾道ミサイルを発射したときには、「在日米軍基地への攻撃訓練」であったとのコメントも発せられた。

膨らむ疑心と偶発衝突の可能性

 一方、ミサイル発射には「あらゆる選択肢」で対応するとしているトランプ大統領がいう「きわめて恐ろしい結末」(3月7日)が何を意味し、究極的な行動に踏み切ることを判断する「レッドライン」がどこに引かれているのかは曖昧にされている。このことが北朝鮮の不安と疑心を増大させる。彼我の間の通常戦力の圧倒的な差を思えば当然である。米国が中国に対して制裁強化を迫り、中国も一部それに応じていることも北朝鮮の不安と疑心をいっそう高める。
 米朝間に公式の外交ルートが存在しない中で、このような敵対関係が継続すれば、偶発的な軍事衝突がいつ起こってもおかしくない。朝鮮半島はまさに一触即発の状況におかれている。
 危険な「心理ゲーム」を早く終わらせねばならない。ボールを握っているのは明らかに圧倒的強者である米国だ。中国のいう「合同演習とミサイル発射の相互中止」(3月7日)はその意味できわめて理にかなった提案だと思われる。

日本は「危機」に乗じた軍拡論議を止めよ

 このような状況の中で、日本の政府与党とメディア(特にテレビ)が果たしている役割はきわめて悪質である。テレビは一日中ミサイル発射の資料映像を繰り返し、無責任かつ多くの場合好戦的なコメントを振りまいている。与党のタカ派政治家たちは、この機に乗じて軍拡を扇動する。いわく「ミサイル防衛を強化せよ」、「日本も敵地(北朝鮮)反撃力を持て」……(資料)。一方、「国民保護ポータル・サイト」(注3)へのアクセス数が3月は45万件、4月は22日現在250万件を超えたという(4月22日各紙)。サイトは「ミサイルから身を守る」方法を解説する。実際にはミサイルが飛んできたら身を守るすべなどないに等しいのに、先の大戦中の「隣組」の回覧板のような情報がネットを介して国中に流されている。
 
 緊急の課題は戦争の危機を遠ざけることだ。そして危機扇動からも自由になって、全ての当事国と市民は、北東アジアにおいて北朝鮮の核もアメリカの核も否定する非核兵器地帯を創る道を、熱い思いと冷静な思考で検討しはじめるべきだ。(田巻一彦)
 

1 「グローバル・セキュリティ」ウェブサイト。
www.globalsecurity.org/military/ops/rsoi-foal-eagle.htm
2 「聨合ニュース」(電子版)、17年4月20日。
3 www.kokuminhogo.go.jp

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