核兵器・核実験モニター バックナンバー

日 誌 2015.11.21~12.5

公開日:2017.09.28

IAEA=国際原子力機関/IS=「イスラム国」/NSC=国家安全保障会議/SLBM=潜水艦発射型弾道ミサイル/2+2(ツー・プラス・ツー)=外務・防衛閣僚会合


●11月21日 広島市で世界核被害者フォーラム開幕。23日まで。
●11月21日付 外務省が核兵器法的禁止につき日本国際問題研究所に研究委託と報道。
●11月22日 クアラルンプールで東アジアサミット。南シナ海での各国「行動規範」の「早期締結」で合意するも時期は示せず。
●11月22日 シドニーで日豪2+2。自衛隊と豪軍の訪問部隊地位協定の締結で一致。
●11月23日 プーチン露大統領がイランでハメネイ師、ロハニ大統領と相次ぎ会談。原子力協力へ。対テロ戦協力強化でも一致。
●11月23日 米海兵隊、ハワイでのオスプレイMV-22着陸失敗調査でエンジン改善勧告。他方、原因は「操縦士判断ミス」。
●11月24日 トルコ軍、領空を侵犯したとして露軍機1機を撃墜。プーチン大統領は同日、領空侵犯を否定、トルコを強く批判。
●11月24日 ワシントンで米・仏大統領が会談。露軍機撃墜に関し当事国双方に自制促す。対IS空爆加速でも一致。
●11月24日付 内閣法制局、14年7月の集団的自衛権めぐる憲法9条解釈変更の協議過程を文書に残さず。情報公開請求で判明。
●11月25日 アフガン駐留米軍司令官、10月の病院誤爆は人為ミスとの調査報告。
●11月26日 政府、NSCで豪州の次期潜水艦共同開発に向けた新潜水艦計画を決定。
●11月26日 習中国国家主席、初の軍大規模改革に着手と発表。中央の指揮権強化。
●11月28日 北朝鮮、日本海上でSLBMを発射の模様。ミサイルは上空に達せず失敗か。
●11月29日付 露がトルコへの報復措置。経済制裁、ビザなし渡航停止、輸入品の検疫強化、スポーツ・文化交流とりやめなど。
●11月30日 経産省、核燃料再処理事業の主体を日本原燃から新設認可法人に移す案を有識者会議に示し了承得る。
●11月30日 ダウトオール・トルコ首相、露機撃墜の謝罪拒否。経済制裁の撤回求める。
●12月1日 政府、特定秘密保護法に基づき、特定秘密取扱者97,560人を選定と発表。
●12月1日付 米軍厚木基地と普天間飛行場で米軍機や海自機が地上からレーザー光照射されていたと判明。10年度以降80件。
●12月2日 福島県、第1原発事故で出た放射性物質を含む廃棄物を民間産廃処分場で最終処分する環境省計画を受け入れ。
●12月2日 米カリフォルニア州の福祉施設で銃乱射、少なくも14人死亡、十数人負傷。容疑者2人が警察との銃撃戦で死亡。
●12月2日 英下院、IS標的にした英空軍によるシリア空爆を可決。
●12月2日 IAEA、イラン核開発で最終報告書。イランは03年末まで核爆発装置開発につながる活動を組織的に行ったとの見解。
●12月3日 北朝鮮核問題での6者協議再開に向け日米韓首席代表がワシントンで会合。
●12月4日 政府、首相官邸で国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部の会合。ネット情報監視、水際対策など強化策を決定。
●12月4日 独連邦議会、対IS軍事関与で偵察など後方支援策の閣議決定を承認。

沖縄

●11月22日 島ぐるみ会議訪米団、米国最大の労働組織「米労働総同盟産別会議」訪問。新基地建設反対運動の連帯・協力を確認。
●11月22日 辺野古沖合にクレーン付き作業船1台搬入。汚濁防止膜設置固定の大型ブロック計238個を海中に投下予定。
●11月22日付 米軍、90年代に牧港補給地区の環境汚染について全面調査の必要性を指摘。県、再調査要求を検討。
●11月25日 米16会計年度国防権限法成立。グアム移転費、前年度比2.5倍の1億2600万ドル。「辺野古が唯一」の文言は削除。
●11月26日 若宮防衛副大臣、中山石垣市長と会談。陸自配備を正式打診。平得大俣に500人規模。地対艦・地対空ミサイル運用も。
●11月27日 県、キャンプ・シュワブ沿岸で発見の土器等17点を文化財認定。名護市教委、発見現場の遺跡認定に向け協議へ。
●11月27日 辺野古代執行訴訟、県が答弁書と準備書面を提出。
●11月27日 防衛省、久辺3区へ「再編関連特別補助金」。各区へ1300万円を年内交付。
●12月1日 佐喜真宜野湾市長、岸田外相・中谷防衛相・島尻沖縄担当相へ普天間飛行場早期閉鎖・返還を要請。
●12月1日 沖縄防衛局、辺野古移設本体工事でキャンプ・シュワブ内に257mの仮設道建設を計画。設計変更申請書に記載なし。
●12月2日 辺野古代執行訴訟、第1回口頭弁論。翁長知事が意見陳述。米でも報道。
●12月2日 米軍施設環境対策事業検討委、返還地の環境調査ガイドライン・汚染事例データベース化策定目指し議論。
●12月3日 キャンプ・シュワブ内で袋詰め砕石の設置作業確認。承認外工事の可能性。
●12月3日 F16 戦闘機飛来で嘉手納基地周辺騒音発生回数急増。訓練開始前の1.39倍、深夜・早朝では2.28倍に。
●12月3日 島尻沖縄担当相、ガイス米国防次官補代理ら米高官と会談。西普天間地区の医療拠点化に向けた連携を確認。
●12月4日 日米、17年度中に普天間飛行場・牧港補給地区の一部返還へ。成果強調するも、当該地区は20年前に返還合意済み。
●12月4日 名護市内小中学生58%、「騒音気になる」。市内15校・1754名が回答。琉大・渡嘉敷淳教授が初調査。
●12月4日 辺野古工事受注業者、14年衆院選で政党支部代表6議員に計90万円の寄付。公職選挙法に抵触の可能性。
●12月5日 県警、キャンプ・シュワブゲート前で抗議中の市民3名を逮捕。

くわしく

特別連載エッセー●93 被爆地の一角から 土山秀夫「抑止力」発言は何をもたらすか

公開日:2017.09.28

当初、安倍晋三首相は強気だった。集団的自衛権の行使容認は憲法の解釈変更に過ぎない、従って憲法には何ら違反しない、と主張していた。これに対して圧倒的多数の憲法学者たちが、違憲であり立憲主義の否定につながると批判した。慌てた政権側は、最高裁における「砂川判決」と「97年の国会決議」を持ち出して反撃を試みたものの、何人かの元内閣法制局長官や元最高裁判事らによって否定される事態となった。
 安倍首相が安保法制の憲法論議を避けて、専ら安全保障の見地からの解釈にシフトしたのは、この時期からであった。形勢不利とみての方針転換を図ったに違いない。今回の安保法制の成立によって、日米間の軍事協力はより緊密化し、両者一体による力が、日本を取り巻く安保環境の悪化に対して強い抑止力として働くというのである。集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案について、衆議院における審議までは首相はこう表現していた。「日本にとって北朝鮮などの“脅威”とみなされる国家による安全保障環境の悪化」に対抗するための法制が必要、と理由付けしていたのである。
 ところが参議院に審議の場が移るや、安倍首相は“脅威”とする国家に「中国」をハッキリと名指ししたのだ。それは米軍と一体化(事実は従属であるが)した自衛隊の戦力が、中国に対する抑止力になり得ることを内外に示したかったからに他ならない。以後、首相は安保法制に触れるたびに、「中国に対して抑止として働く」ことを忘れずに力説するようになった。そして一般の人々、中でも安全保障に無知または無関心だった人たちに、ある種の安心感ないし共感を呼んだことは確かであろう。だが首相の描く抑止力は、果たしてメリット面の強調のみで済ませられる性格のものと言えるのだろうか。筆者は決してそうとは思わない。理由はデメリットの面がはるかに大きいと考えるからだ。
 軍事力による抑止という概念はずっと以前から存在していた。しかしその概念が改めて認識されるに至ったのは、東西冷戦中の核兵器による抑止論の展開であった。米国のマクナマラ元国防長官の提唱した「相互確証破壊」(MAD)は、その代表的なものであった。もしソ連が米国に対して核の先制攻撃を仕掛けてくれば、米国は報復として倍加する核攻撃をソ連に加え返す、と警告することによってソ連の野望を思いとどまらせる、というのがその骨子であった。そのためには、実際に上回る数の核兵器を量産していなくては脅しの効果を発揮できないことになる。かくて両国は競い合って核兵器製造に走り、最盛期には合計で7万発近くという狂ったような数に達していた。
 もう1つ別の具体例を挙げよう。ソ連およびその衛星国と北大西洋条約機構(NATO)との対立が危機化しつつあった時のこと。通常兵力ではかなりソ連に劣るとみたNATOは、射程距離500km以下の戦術核戦力を配備して対抗した。これを知ったソ連側は、中距離核戦力SS20を配備して優位を保とうとした。するとNATOは、それを上回る射程距離のパーシングⅡと巡航ミサイルの配備を立案した。こうした歴史的事実は何を物語っているのだろうか。
 抑止という考えは相手がよほど小国か、または軍事力の貧弱な発展途上国であれば、ある程度まで通用する手段であるかも知れない。しかし中国のような“大国”や北朝鮮のような“独裁国家”に対して抑止を誇示すれば、自国に対する挑発として受け止め、ますます軍拡に走るであろうことは、前記の例に見る通り想像に難くない。歴史に学ぼうとしない安倍首相であるが、米国の威を借りて抑止論をひけらかす場合ではないはずだ。さもなければ中国は、日本が非難する南シナ海の人工島を更に増やさないとも限らないではないか。

くわしく

<資料>ニューメキシコ州キャノン空軍基地における低空飛行訓練のための環境評価書(EA)案 2011年8月 合衆国空軍

公開日:2017.09.28

(抜粋訳)

2.1.2  空軍特殊作戦コマンドの任務

 空軍特殊作戦コマンド(AFSOC)は、フロリダ州ハールバート・フィールズを司令部として1990年5月22日設立された。AFSOCは、フロリダ州マクディール空軍基地に所在する合衆国特殊作戦軍(USSOCOM)の下で空軍が編成する主要コマンドである。AFSOCは、USSOCOMに対して、特殊作戦部隊(SOF)の世界的展開のための即応体制に責任を持つ。AFSOCは、高度な訓練を受け、緊急展開能力を持つ、きわめて専門的な航空機に乗務するパイロットによって構成される。AFSOCは、SOFを世界中の地域統合コマンドに展開・配備する。中核的任務は、4つの任務分野に分類されてきた。すなわち前進配備と交戦、情報作戦、精密作戦と攻撃、およびSOFの移動である。SOFは、火器の精密使用からSOFの作戦要素である潜入、離脱、補給、および給油に至る特殊作戦任務を世界中で実行する能力を米国に提供する。AFSOCのユニークな機能には、他国政府の国内的能力を開発するために軍事専門知識を提供する航空戦闘への助言は言うまでもなく、心理作戦のための機上からのラジオ・テレビ放送が含まれる。

2.1.3 AFSOCの基本的訓練機(略)

2.1.4 訓練任務の計画と実行

2.1.4.1任務計画
(略)乗員は、日没後の低空飛行のための訓練エリア全体にわたる任務と計画を受領する。戦闘における任務計画には、投下帯(DZ)での人員や装備の空中投下、様々な着陸帯(LZ)での夜間着陸、または空中給油のための結合、もしくは給油のような多様な活動が含まれる。(略)。

2.1.4.2ミッションの実行
(略)。各訓練ミッションは、敵地への潜入や地上部隊の投入、補給、または回収のための夜間低空飛行ミッションの熟度を向上するために計画される。C-130及びCV-22の乗員は、敵対的環境下での空中投下、着陸、および給油任務のための訓練を行う。(略)
  (訳:ピースデポ)

くわしく

市民をあざむく横田・オスプレイ「環境レビュー」 夜間・低空飛行訓練など重大事項を除外

公開日:2017.09.28

「重大な影響なし」の結論ありき

 15年9月14日、防衛省は、米空軍特殊作戦コマンド(以下、AFSOC)作成の「CV-22の横田飛行場配備に関する環境レビュー」(以下、「横田ER」)を公表した1
 米国内では国家環境政策法(NEPA)に基づく環境影響評価プロセスとして扱われ、自治体や市民の意見を踏まえて検討しなければならない。例えば本誌でしばしばとりあげた米キャノン空軍基地(ニューメキシコ州)のCV-22による低空飛行訓練の簡易環境評価(EA)においてもそうであった。空軍は「特段の重大な影響なし」として提案どおりに実行しようとしたが、自治体や先住民を含む飛行コース周辺住民からの強い反発に会い、より厳密な環境影響評価(EIS)を行わざるをえなくなった2
 これに対し、横田ERはあくまでも米軍が自発的に作成した文書であり、米軍の行動そのもには何らの影響を与えるものではなく、日本の自治体や住民が意見表明などの形で関与する機会はない。日本政府はこの事情を承知の上で「環境レビュー」を受け入れたのである。
 横田ERは本体130ページ、付録なし、という簡素な形式である。海兵隊仕様のMV-22オスプレイ普天間配備のER(12年6月。以下「普天間ER」)3が本体288ページ、付録(A~D)755ページであったことに比べて大幅に簡素化されている。普天間ERは、沖縄での訓練を始め、日本列島での低空飛行訓練などを詳細に述べていたが、横田ERにはこれらの記載はない。対象を横田基地周辺の問題に絞り、環境への「特段の重大な影響はない」とした、初めに結論ありきの文書となっている。
 横田ERは、1.措置をとる目的及び必要性、2.提案されている措置と代替案、3.影響を受ける環境、4.環境への影響、5.累積的影響、6.管理所要の6章で構成される。「AFSOCが太平洋地域においてより強化された能力を獲得するため」横田にCV-22を配備するとし、施設整備事業、航空機配備とそれに伴う430名の増員を行うとされる。基地内の施設整備はフェーズⅠ、Ⅱで構成され、これらによる環境への影響を、空域、騒音、大気質、安全性、公共設備、危険物質/危険廃棄物及び固形廃棄物、水源、生物資源、文化資源、交通について検討し、「重大な影響はない」と結論づける。CV-22の暫定駐機場、シミュレーター、弾薬・装備保管施設建設など準備工程であるフェーズⅠはすでに配備を前提とした工事が始まっている。

特殊作戦コマンドの任務に触れず

 最大の問題は訓練内容に関してほとんど言及がされていないことである。ここではキャノン空軍基地のCV-22低空飛行訓練の環境影響評価書(EA)案4と対比しながら横田ERの問題点を挙げる。
 まず横田ERは、CV-22が関与する特殊作戦部隊(以下、SOF)の任務を説明しない。ERは、「特殊作戦コマンドの任務は、地域軍司令官、米国大使及び配下の大使館員等及び米国の国家指揮権限に対し、平時及び有事の特殊作戦支援を行う」とし、AFSOCなど4つの軍種別コマンドを有するといった組織上の説明しかなされていない。
 これに対して、キャノンEAには、AFSOCの任務(8ページ・資料に抜粋訳)が具体的に記述されている。それによれば、AFSOCは「SOFの世界的展開のための即応体制に責任を持つ」とし、主要任務は「前進配備と交戦、情報作戦、精密作戦と攻撃、およびSOFの移動」であるとする。そしてSOFは「潜入、離脱、補給、および給油に至る特殊作戦任務を世界中で実行する能力を米国に提供する」。ASFOCの主要航空機であるCV-22は、地形追随装置、赤外線センサー、レーダー探知機能など、海兵隊仕様機(MV-22)には備えられていない機能を駆使して特殊作戦部隊の「足」としての任務を担うのである。
 横田ERはCV-22の訓練区域として、東富士演習場、ホテル地区、三沢対地射爆撃場、沖縄の訓練場、アンダーセン空軍基地、及び韓国烏山空軍基地周辺のピルサン・レンジの6つを挙げるが、訓練内容は示されていない。ホテル地区は群馬、長野、新潟にわたる演習場ですらない空域で、住宅、田園、山間部が広がるエリアである。特にここでどのような訓練が行われるかは、市民生活に関わる重大事であるが、これに関する記述は一切ない。

 
夜間低空飛行訓練にも言及なし

 5月12日の記者会見5で、中谷元防衛大臣は、横田配備のCV-22は、「各種事態の米特殊作戦部隊の迅速な長距離輸送という任務を達成する」ため、「低空飛行訓練、または夜間飛行訓練」を実施すると明言した。しかし横田ERは夜間・低空飛行訓練にまったく触れていない。 
 キャノン空軍基地でのCV-22の低空飛行訓練計画は、「各訓練ミッションは、敵地への潜入や、地上部隊の投入、補給、または回収のための夜間低空飛行ミッションの熟度を向上するために計画される」とされ、「敵対的環境下での空中投下、着陸、および給油任務のための訓練を行う」とされている(資料)。それにつづく節である「訓練の作戦上の選定基準の概要」6には、「乗員は、概して薄暮に飛び立ち、日没後に任務を行う。そしてほとんどの任務において、暗視ゴーグル及び地形追跡レーダーを使用する」こと、「地上高300フィート以下を含む低高度」での低空飛行などが必須の訓練項目として列挙されている。
 キャノンEAが示すものこそが、CV-22に必要な日常的訓練であり、横田配備のCV-22も同様の訓練を行なうに違いない。とりわけ横田ERに明記された6訓練区域では弾薬使用も含めた上記の諸々の訓練が行われる可能性が高い。のみならず、普天間ERで示された本州から沖縄までの低空飛行訓練ルートでの訓練を含めキャノンで想定されたような総合的訓練が構想されているのではないかと思われる。例えば、三沢射爆撃場での訓練であれば、群馬、長野、新潟にまたがるブルー、東北地方のグリーン、ピンクの各ルートを利用して低空飛行訓練をしながら三沢まで往復する。そして三沢射爆場では、弾薬使用も含め、潜入、離脱、空中投下、空中給油などの訓練が実施されるであろう。沖縄の訓練場の場合も岩国を経由して沖縄を往来する間に、四国のオレンジ、、中国のブラウン、九州のイエロー、そして鹿児島から沖縄までのパープルの各ルートを使った低空飛行訓練が可能である。CV-22の夜間低空飛行を中心に据えたこれらの訓練は、人口密集地が多く存在する日本においては極めて重大な危険性をもたらすことが懸念される。
 その他、従来から指摘されている騒音被害、飛行モード転換に伴う危険性、オートローテーション機能の欠如、下降気流、高温排気熱による火災発生の懸念に加え、CV-22がMV-22と比べて事故率が高いことにも、横田ERは言及していない。日本政府は、このERで評価対象外とされた夜間低空飛行訓練をはじめとする多くの問題に関する情報開示と環境影響評価、さらには米本国との基準の違いを含めた評価方法の抜本的な見直しを、米国に求めるべきである7。(湯浅一郎)


1 15年2月24日、防衛省ウェブサイトから文書名で検索。
2 「フォー・コーナーズ・フリー・プレス」(12年7月1日)。http://fourcornersfreepress.com/?p=786
3 「MV-22の海兵隊普天間飛行場配備及び日本における運用に関する最終環境レビュー」。防衛省ウェブサイトから文書名で検索。
4 www.nmlegis.gov/lcs/handouts/MVAC%20Environmental%20Assessment%20LATA%20Cannon%20AFD-110909-039.pdf
5 中谷元防衛大臣記者会見(15年5月12日)。防衛省ウェブサイト内。
6 本誌406-7号(12年9月1日)11ページに抜粋訳。
7 本誌編集中の12月10日、MV-22が、米カリフォルニア州サンディエゴ沖で揚陸艦「ニューオーリンズ」への着艦に失敗する事故を起こしていたことがわかった。オスプレイの安全性への懸念は広がるばかりである。

くわしく

<資料>航行の自由プログラムに関するファクトシート 米国防総省、2015年3月

公開日:2017.09.28

歴史的背景

 建国以来、合衆国は、航海の自由を保全することは重要な国益であると主張してきており、その利益を守るために必要に応じて軍隊を派遣してきた。創設間もない米海軍の最初のミッションの一つは、大西洋や地中海及び隣接する水域において、海賊やその他の海洋上の危険から米国の商業船の安全な運航を守ることであった。同様に、ウッドロー・ウィルソン大統領は米議会に対して、彼の有名な14か条の平和原則演説の中で、米国や他の国々が第一次世界大戦を戦って得ようとしている普遍的な原則のうちの一つは、「海上航行の絶対的な自由」であると語った。そして、米国が第2次世界大戦に参戦する3か月前、フランクリン・ルーズヴェルト大統領は米国民に対して、炉辺談話(訳注:1933~44年にかけてルーズヴェルトが国民に語りかけたラジオ番組(計30回放送))の一つのなかで、「海上及び航空パトロールには、航海の自由という米国の政策を維持する任務が与えられている」と宣言した。歴史が示すように、米国の国益と航海の自由を保持するという政策は、性格において長期にわたるものであり、範囲において世界的なものである。

米国の航行の自由プログラム

 1983年の「合衆国の海洋政策」に述べられているように、合衆国は、国連海洋法条約に反映された「諸利害のバランスに沿ったやり方で、世界的な規模での海洋に関する権利、自由及び利用を行使し、また主張する」。幾つかの沿岸諸国は、合衆国が行き過ぎていると考える海洋上の要求を主張してきた。実際、そういった要求は、海洋に関する国際法に合致せず、また、国際法を管轄する機関の下ですべての国家に保障されている海洋及び空域に関する権利、自由及び利用を侵害するものである。しかし合衆国は、「国際社会の権利と自由を制限することを目的とした他国の一方的な行為を黙認することはない」。
 1979年以来、この国益を保持し、沿岸国が主張する過度な海洋に関する要求を黙認しない姿勢を示すため、大統領は航行の自由プログラムを実施することを政府に指示している。合衆国の航行の自由プログラムは、以下を含んでいる。(1)合衆国外交官(すなわち、米国務省)による協議や表明、(2)軍による作戦行動(すなわち、国防総省の航行の自由プログラム)。

国防総省の航行の自由プログラム

 国防総省の航行の自由プログラムの範囲は包括的である。同プログラムは、国際法の下ですべての国家に認められた海洋及び空域に関するすべての権利、自由及び合法的使用を包含している。同プログラムは、可動性とアクセスを確保するという国防総省のグローバルな利益に基づいて、世界のあらゆる地域の沿岸国による過度な海洋に関する主張に対して積極的に実行されている。同プログラムは原則に基づくものである。つまり、過度な海洋に関する主張をする国がどこなのかということではなく、海洋に関する主張が過度なものなのかどうかによって執行されるということである。その結果、軍は、潜在的な敵や競争相手によるものだけでなく、同盟国、友好国、その他の国々による過度な主張に対しても挑戦する。同プログラムは、沿岸警備隊を含めたすべての軍種から戦力を動員して行われる。同プログラムは、財政的な制約のある環境で効率性を確保するために、航行の自由作戦(すなわち、過度な海洋上の主張に挑戦することを主要な目的として行われる作戦)と、他の航行の自由に関する活動(すなわち、主目的は他にあるが、二義的な効果として過度な要求に挑戦することになる活動)の両方を含んでいる。
 国防総省は、国防総省の航行の自由プログラムを合法的かつ責任をもって実行する。国防総省の航行の自由プログラムの下で行われる行動は、慎重に計画され、法的に検討され、適切に承認され、専門性をもって実行されている。
 毎年、国防総省は航行の自由に関する年次報告書をまとめている。これらの報告書は、米軍によって行われた航行の自由作戦と他の航行の自由に関わる活動に関する機密扱いではない要約であり、特定の沿岸国及びその年に遭遇した過度な要求の内容を特定している。これらの報告書は、国防総省のウェブサイトに掲載されている。これらは、過度な海洋上の主張に対して合衆国が黙認しないことを、軍の活動の安全性を犠牲にすることなく、透明性をもって明らかにすることが目的である。
(訳:ピースデポ)

くわしく

南シナ海紛争と軍事対立 米中の対抗関係は地域安全保障を脆弱化する

公開日:2017.09.28

紛争深まる南シナ海

 南シナ海における領有権紛争が複雑化している。とりわけ、中国が一昨年末から進めている南沙諸島(スプラトリー諸島)での大規模な埋め立てによる人工島の造成や様々なインフラ建設が、領有権紛争に関わる周辺諸国・地域や日米などの強い警戒を惹起している。かねてから「航行の自由」の保証を求めて中国を牽制する言動を続けてきた米国は、今年10月27日、中国が造成した人工島の12海里(国際法上、領海とされる距離)以内に米海軍艦船を航行させる「航行の自由」作戦の実施に踏み切った。
 こうした中、10月29日にはオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、南シナ海で中国が行っている活動と領有権の主張は違法だとして13年1月にフィリピンが提起していた国際仲裁手続きをめぐって、フィリピンの訴えを一部受理して実質的な審理入りを決定した。中国は「同裁判所に審理の権限はない」と主張し参加そのものを拒否しているが、同裁判所の審理は一方の当事国のみの参加で進めることが許されるため、11月24日から第1回の口頭弁論が開始された(同裁判所の仲裁判断には法的拘束力があるとされるが、中国は審理自体を認めず従わない姿勢を繰り返し表明している)。また、11月21~22日にマレーシアのクアラルンプールで行われたASEAN首脳会議の場でも、米中は互いを批判する一方、ASEANと中国の間で行われてきた南シナ海行動宣言の行動規範への格上げの議論は深まらなかった。南シナ海紛争は、法的・政治的な問題解決が曲折を繰り返す一方で、軍事的な緊張が確実に深まっている。

中国による埋め立てと拠点建設の状況

 南シナ海では、島嶼や岩礁の領有権と周辺海域の管轄権をめぐって、中国とベトナム、マレーシア、フィリピン、ブルネイ、台湾の6か国・地域が関わる紛争が続いてきた(地図を参照)。米国は領有権紛争については中立の立場をとっているが、中国の領有権の主張が米軍の自由航行や軍事的諸活動に対する制約につながると見て警戒している。
 こうした中で、近年中国が進めてきた埋め立てと拠点構築は、その急速なペースと規模の大きさにおいて突出しており、関係国は警戒と対抗を強めている。ここでは、米国防総省が今年8月20日に公表した『アジア太平洋海洋安全保障戦略』(以下、「海洋安保戦略」)1の「紛争地の埋め立て」という項目に基づいて、その現状を確認する。
 中国は、南沙諸島で占有している岩礁や低潮高地(干潮時のみ海面上に現れる岩礁や砂州)8か所のうち7か所で、13年12月以降に大規模な埋め立て作業を行い、今年6月までに2,900エーカー(約11.7平方キロ)以上を造成した。南シナ海での岩礁などの埋め立てでは、ベトナム、マレーシア、フィリピン、台湾が先行していた。各国の埋め立て面積は、ベトナム約80エーカー(約0.32平方キロ)、マレーシア約70エーカー(約0.21平方キロ)、フィリピン約14エーカー(約0.056平方キロ)、台湾約8エーカー(約0.03平方キロ)となっている(ただし、これらの埋め立て面積の出典は明記されていない)。これに対して、中国は埋め立ての完了を宣言した今年6月までの20か月間で、他の4か国が過去40年間に埋め立てた規模の17倍に達する埋め立てを行い、南沙諸島での埋め立て地全体のおよそ95%を占めるに至っている。
 中国は「すべての埋め立て地で埋め立て作業からインフラ構築段階、あるいはインフラ構築に向けた建設支援活動に移行している」(「海洋安保戦略」)とされ、大型艦船がアクセスできるよう海底を深く浚渫した停泊エリアの建設などが進み、また、ファイアリー・クロス礁では関係各国の中で最長の3,000メートル超とみられる滑走路を持つ飛行場建設が完了しつつあるとされる。ある報道は、建設中の滑走路3本と2基のミサイル発射装置が確認されたとし、最新鋭の第5世代戦闘機が利用可能な滑走路ではないかとのハリー・ハリス米太平洋軍司令官による米議会証言を紹介している2
 こうした埋め立てとインフラ建設について、9月22~25日に訪米した習近平・中国国家主席が新たに造成した人工島の「軍事化はしない」と発言するなど、中国は繰り返し「南シナ海の軍事化」を否定し、「航行の自由」を阻害する意図もないと強調している。例えば、中国外交部の洪磊(ホン・レイ)報道官は11月24日の定例記者会見で、「中国は一部の島しょで必要な防御施設を建設するが、これらは軍事化とは関係ないものだ。いかなる国を念頭に置いたものでもなく、国際法に基づき各国が有する南シナ海での航行と飛行の自由を妨害するものでもない」と述べている。こうした発言は、建設している軍事施設があくまで中国の主権や国土を防衛するための最低限のものにすぎない、との中国の立場を示しているとみられる。

中国にとっての南シナ海の軍事的意味

 では、中国による南シナ海での埋め立てと拠点構築は、どのような軍事的意味をもっているのだろうか。

1)南シナ海における戦力投射能力と軍事的プレゼンスの拡大
 「海洋安保戦略」は、人工島などの拠点構築によって、南シナ海での中国軍の戦力投射能力の拡大、中国海警局などの海洋法執行機関や海軍のプレゼンスの維持拡大、そして、造成された飛行場の活用による空母の持続的な作戦行動が実現する可能性などを、次のように指摘している。
「建設しているとみられるインフラにより、中国は南シナ海でより強力な戦力投射が可能となる。また、前哨基地により喫水の深い艦艇を停泊させることができ、南シナ海のより南に法執行機関と海軍のプレゼンスを維持することができる。さらに、飛行場を空母艦載機の分散飛行場[緊急時に緊急着陸できる飛行場]として利用することで、中国が同海域で空母を使った持続的な作戦行動を行うことができるような航空機の運用が可能になる。継続する埋め立て活動はまた、海洋法執行機関が南シナ海でより長期にわたる活動を維持する能力を支援することになる。」

2)核戦略との関わり
 南シナ海での中国軍の能力とプレゼンスの拡大は、より大きな文脈では、中国本土に対する米軍の接近を阻止し、自由な軍事活動を行わせないという中国軍の意図(米軍が「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)戦略と名指すもの)に沿っているとの見方がある3。こうした観点からは、通常戦力における米中の対抗という文脈だけでなく、核戦力をめぐる対抗という文脈を見逃すことはできない。
 中国の核戦略の基本は、米国やロシアとの核戦略のパリティ(均衡)を目指すものではなく、米国に質量ともに遅れをとる核戦力の現状を踏まえ、米国による中国への核攻撃を抑止しうる核報復攻撃能力を維持するというものである4。中国が進める核戦力の近代化は、こうした目的の下で能力の不十分さを補うことを目指しており、報復核戦力(第二撃能力)の生き残り可能性の確保が重要課題とされている。そのために追求されてきたのが、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)戦力の構築と弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)活動の強化である。しかし、現在までのところ中国の海洋核戦力は遅れた状態にある。現在開発中のSLBMであるJL(巨浪(ジュラン))-2(射程7,400km)は、新世代原潜である晋(ジン)級原潜に搭載予定であり、13年に発射テストに成功して完成間近と見られているが、未だ作戦配備はされていない。一方、晋級原潜は現在4隻が作戦配備されているとみられるが、中国の潜水艦が長年抱えてきた航行時の騒音の大きさ(静穏性の低さ)という課題は、改良されてきたものの克服されるに至っていない5。とはいえ、米国防省諜報機関は、12月9日、戦略原潜パトロールが始まっていると初めて確認した6。なお、海南島三亜の榆林(ユリン)海軍基地には潜水艦が発進できる地下施設がある。
 こうした中で、米軍は、今年2月からフィリピンのクラーク空軍基地に最新鋭の対潜戦(ASW)能力と監視能力を持つ航空機であるP-8Aの配備を開始するなど、中国の潜水艦活動に対する情報収集・監視活動を強化している。さらに、日本の対潜水艦能力の強化やフィリピンやベトナムなど周辺諸国の警戒監視能力の強化も図っている。中国はこうした状況を自国の原潜活動を阻害するものと受け止めているであろう。この文脈から見ると、中国にとって南シナ海での拠点構築は、核攻撃原潜がもつ脆弱性を、対抗的な情報収集能力を高めたり、軍事的な作戦能力を向上させたりすることで補う目的をもつ可能性がある7。米国の「航行の自由」作戦も、中国から見れば自国の原潜活動を阻害し抑止力の構築を妨げるものと映るであろう。重要なことは、米中の核戦力をめぐる非対称な対抗関係が、南シナ海紛争に拍車をかける大きな背景要因となっているという点である。

「航行の自由」作戦で対抗する米国

 こうした中国の動向に対して、米軍は10月27日に「航行の自由」作戦を実施した。同日午前、米海軍のイージス駆逐艦「ラッセン」(母港:横須賀)が南沙諸島のスービ礁で中国が造成した人工島から12海里(約22km)以内の海域を航行した。これに対して中国は、陸慷(ルーカン)外務省報道局長が同日、米軍艦が「中国の主権と安全保障上の利益を脅かした」と批判した。
 米国の「航行の自由」作戦については、国防総省が今年3月にファクトシート(6ページ・資料に全訳)を公表して、その位置づけと立場を表明している。これによれば、米国政府は国連海洋法条約に反映されている国際法規範に則って「航行の自由」を含む海洋に関する権利を主張するとされ、「沿岸国が主張する過度な海洋に関する要求を黙認しない姿勢を示すため」に1979年以来、実施してきたのが「航行の自由プログラム」であるとされている。そこには、①外交上の協議や表明によるものと②米軍による作戦行動によるものが含まれるという。今回の米海軍の「航行の自由」作戦は、上記の②のうちの1つと位置づけられていることになる。だが、こうした米国の立場の正当性や「航行の自由プログラム」の実態については慎重な評価が必要である。実際、米軍による「航行の自由」作戦については、91年以降、毎年国防総省によって報告が作成され、同省サイト上で公表されているが8、そこには、期間中に同作戦の対象となった主張国とその「過度な主張」の内容の要約が紹介されているだけであり、実際の作戦件数やその具体的内容は記されていないため、作戦の実態は不明である。
 また、そもそも国際法規範に則って「航行の自由」を主張する米国の立場には、根本的な矛盾がある。なぜなら、米国は海洋秩序の基本枠組みを規定する国連海洋法条約に未加盟のままだからである(中国は加盟している)。82年に採択された海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)は、15年1月時点で167の締約国・国家連合をもつ普遍性のある国際条約である。米国の同条約未加盟という事実は、世界中に軍事力を展開する軍事戦略を優先して国際法の普遍性を軽視してきた米国の姿勢を反映している。オバマ政権になって、米上院では批准の提案がなされているものの、保守派の抵抗に遭って未だ承認されていない。こうした矛盾を維持したまま、「航行の自由」を掲げた米軍活動によって中国を牽制するという米国のやり方は、軍事的危機を招きかねず、地域の安全保障環境を悪化させる危険なものである。(吉田遼)


1 ”Asia-Pacific Maritime Security Strategy”、米国防総省HPから文書名で検索。
2 「ニューヨークタイムズ」、15年11月24日付。
3 例えば、米国防総省が12年1月5日に発表した国防戦略指針(「合衆国のグローバルな指導力を持続する―21世紀の国防における優先課題」。本誌394号(12年2月15日)に抜粋訳)参照。また、中国の「接近阻止・領域拒否」戦略と米軍の対抗戦略の詳細は、本誌408-9号(12年10月1日)参照。
4 米国防長官事務所『議会に対する年次報告―中華人民共和国に関する軍事・安全保障上の発展2015』、及び、本誌382-3号(11年9月1日)参照。
5 米議会調査局『中国海軍近代化』15年11月23日。
6 ビル・ゲイツ「ワシントン・タイムズ」(電子版)、15年12月9日。
7 この点に関しては、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)北京代表のマシュー・ドゥシャテルらによる分析が参考になる。
 http://www.sipri.org/media/newsletter/essay/july-aug-15-south-china-sea
8 http://policy.defense.gov/OUSDPOffices/FON.aspx

くわしく

オバマ・ビジョンの岐路 日本は変わってこそブリッジ役を果たし得る 人道論も安全保障論も中味が問われる 主筆 梅林 宏道

公開日:2017.09.28

被爆70年は核兵器廃絶運動に大きな宿題を残して閉じようとしている。現在の困難を人道アプローチと安全保障論の対立と捉えるのは誤りである。人道の中味と安全保障の中味から、核兵器に支配された世界を捉えなおすことが求められている。2006年に始まったオバマ・ビジョンの意味を問い返し、日本の為すべきことを考える。


共同意思の消失と対立点の先鋭化

 戦後70年、被爆70年の年が終わろうとしている。しかし、「核兵器のない世界」(非核世界)に向かう道には、あらためて大きな壁が立ちふさがっていることを、多くの人が感じている。私たち周辺の核軍縮派リアリストのなかには、「予想通りの結果」、もう少し意地の悪いときは「それみたことか」というニュアンスの意見が出ている。私たちは、オバマ政権登場以来の深刻な岐路に直面している。
 春の2015年NPT再検討会議において、最終文書が採択されなかったこと自体は予想を超える出来事ではなかった。しかし、2010年再検討会議で前進した合意の水準を、一歩でも前進させようとする共同意思が見られなかったことは深刻な事態であった。オバマ・ビジョンとは当時筆者が要約したように、「国際的協調による非核世界の達成」1であった。
 具体的には2010年にNPT合意文書として初めて登場した「核兵器使用の人道上の結末を基本認識とした国際法遵守の義務」及び「非核世界を達成し維持するための法的な枠組みを確立する必要性」という、2つにして1つの課題が、2015年においては加盟国共通の議論の出発点にならなかった。この事態は、2010年以後の5年間に努力がなかったからではなくて、同志国家と市民社会がこの課題に集中して取り組んだがゆえに現れた現実であった。
 この共同意思の欠如は秋の国連総会においてますます顕在化した。のみならず、共同意思の欠如はむしろ対立点の先鋭化に発展した。

人道アプローチを巡る対立

 一つの現れは、オーストラリアが27か国を組織して、非人道性を論拠とする核兵器禁止の動きにブレーキをかけたことに現れている。27か国には西側の拡大核抑止力に依存しているドイツ、イタリアなどNATO主要国、オーストラリア、韓国などが名を連ねている。彼らの論理は「核兵器使用の人道上の結末を強調することに異論はないし、核兵器国の核軍縮のペースが遅すぎるという批判も共有する」としながら、「グローバルな安全保障環境や自国の安全を考慮する立場を軽視する議論は建設的ではなく、現に国際的な核軍縮努力に意見の対立をもたらしている」2というものである。
 今回の国連総会には、核兵器の非人道性に関する3決議が採択された。「人道上の結末」(日本は賛成)、「人道の誓約」(日本は棄権)、「倫理的至上命題」3(日本は棄権)の3件である。27か国は一致して、この3つの決議に反対ないし棄権した。日本は、すでに共同声明において賛同している内容の決議である「人道上の結末」決議には賛同せざるをえず、27か国声明に加わっていない。しかし、日本・オーストラリアが主導する核軍縮・不拡散イニシャチブ(NPDI)の広島宣言(14年4月12日)を読むと、日本も27か国と近い主張をもっていると考えてよいだろう。
 日本の不明瞭な立ち位置にもかかわらず、国内世論に押されて生み出された、日本の「非人道性を核軍縮アプローチの基礎とすべきとする論理」と「被爆体験を強調する論調」への傾斜は、日本主導の核軍縮決議に対する警戒や批判としても表面化した。これまで日本決議に賛同していたオバマ政権の米国をはじめ、英、仏が棄権し、棄権していた露、中が反対に転じた。この変化は、人道アプローチが生み出している警戒感の強さを示す重要な指標であろう。

法的枠組みの協議を巡る対立

 対立激化のもう一つの現れは、非核世界を達成し維持するための法的枠組みについて協議する場の設立に関して起こった。
 メキシコなどの決議「多国間核軍縮交渉を前進させる」は、今回の国連総会決議の中で最も実質的前進を示すものであった4。決議のタイトルにある「交渉」の場ではなくて「協議」の場にするという妥協を強いられながらも、決議は国連総会の下部機関である「公開作業部会」を2016年に設置することを決定した。
 この決議に138か国が賛成、12か国が反対、34か国が棄権した(12月7日)。核兵器国はすべて反対するとともに、上記のオーストラリアが組織した27か国は、ジョージアを除いてすべて棄権もしくは反対であった。ここでは日本も棄権したから、対立の構図は明確であった。それは<核兵器国・「核の傘」依存国>対<それ以外の非核国>の対立ということになる。
 核兵器国は5か国共同声明によって、決議は「安全保障上の考察を無視して核軍縮を促進することを意図している」、「この分裂主義的アプローチを憂慮している」と厳しく批判した5

オバマ・ビジョンとM・カンペルマン

 この対立現象から読み取るべき、真の問題点は何だろうか?
 オバマ・ビジョンが登場したとき、私は「倫理ではなく安全保障の問題として核兵器廃絶を訴えた」と認識した。しかし、今日の議論と重ねるならば、オバマ・ビジョンを生み出した良質な論者は、倫理の問題を安全保障に翻訳し提案をしたと捉えることができる。
 オバマ・ビジョンは、4人の元米高官の『ウォールストリート・ジャーナル』論文に端を発していることはよく知られている。その論文は、実はスタンフォード大学フーバー研究所で開催された米ソ首脳のレイキャビク・サミットの20周年記念シンポジウムから生まれた6。シンポジウムの報告書に記載されている、かつて感銘を受けたマックス・M・カンペルマン7の論考を、今回改めて読み返した。
 彼は、奴隷制度があり、女性の権利が奪われ、投票に財産資格があった時代に、アメリカ独立宣言が万人の平等と自由を謳いあげたことを想起しながら、政治は「ある」ものを「あるべき」ものに転換する歴史だと述べる。核兵器に関して、彼の論理は明快であって、一部の国のみが核兵器を持っているという理不尽は許されるべきものではなく、必ず崩れる。
「“5つの安保理常任理事国が核を持っている、インドもパキスタンも持っている。イスラエルも持っている。どんな権利があって、我々はあなたたちよりも劣った国だから持つことができないと言うのか”という議論に勝つことは出来ない。」
 核兵器ゼロは、すべての国にとって利益であって、いかに困難であっても、「ある」ものを「あるべき」ものに変えるために、最も多くをもっているアメリカこそ行動すべきだ。彼は、9.11後の世界でテロリストに核兵器がわたる危険についても強調したが、貫かれている精神は全ての国家の主権の平等であり、自分たちこそが行動すべきという倫理観である。
 オバマ・ビジョンを牽引したカンペルマンの主張に照らすと、人道アプローチと安全保障論を対置させる議論は見当はずれである。その意味で米国代表がNPT再検討会議で述べた次の言葉は正しい。
「核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道上の結末に対する我々の明確な理解と認識こそが、数十年の時を遡って、この領域における我々のすべての努力を下支えし続けている。」
「問題は核兵器が安全保障の問題か人道上の問題かということではありません。」8
 ここで本当に問うべきことは、核兵器がもたらしている人道上の問題とは、核使用・事故が生む被害だけではなく、人類社会を歪めている政治的権利の不平等であり、安全保障の問題とは誰にとっての安全なのかという安全保障の中味なのである。

隗より始める倫理性

 オバマ・ビジョンが「国際的協調」を強調しているのは、考え抜かれた思想である。その基底には、まず米国が行動するという原則とロシアを説得するという指針が存在している。
 今日の米国においてオバマ・ビジョンが新鮮さを取り戻すことは可能だろうか? 核兵器の近代化に巨額を投じ手垢にまみれてしまったオバマ大統領が、任期中にできる実質は少ないだろう。しかし、非核世界の価値と人類共同事業の必要性について、自省の念も含めて訴えることはできる。長崎か広島に来て。
 一方で、オバマ・ビジョンを再生させる役割は、日本こそが担うべきであると私たちは強く思うべきである。
 2015年、日本の核軍縮政策もまた明確な岐路に立たされている。日本主導の国連総会決議に、西側核兵器国は賛成から棄権に後退、露中は反対に後退した。日本政府は保有国と非保有国の橋渡し役を果たすと言ってきた。しかし、前述したように、現在において橋渡しが必要なのは、核保有国・依存国と非依存国の間であり、両者に対して説得力を持つことが求められる。
人類の共同事業をリードするために、日本こそ隗より始めなければならない。日本はまず核兵器依存国から転換する方針を表明すべきである。そのことによって初めて、被爆体験は倫理性をともなった説得力となって日本の橋渡し役割を支えることができる。


1 梅林宏道「核軍縮:2008-9年の概観」(ピースデポ発行『イアブック核軍縮・平和2009-10』)
2 27か国を代表したオーストラリアの声明、15年11月2日。以下の国連サイトから検索。
 https://papersmart.unmeetings.org/ga/first/
3 本誌482-3号(15年11月1日)に全訳。
4 詳しくは本誌前号485号(15年12月1日)を参照。
5 注4に核兵器国の反対理由の全訳がある。
6 本誌301号(08年4月1日)。また、注1参照。
7 Max M. Kampelman。カーター、レーガン大統領時代の対ソ交渉を担った米国の外交官。
8 ロバート・ウッド米軍縮会議特別代表。本誌474号(15年6月15日)に全訳。

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