市民をあざむく横田・オスプレイ「環境レビュー」 夜間・低空飛行訓練など重大事項を除外

公開日:2017.09.28

「重大な影響なし」の結論ありき

 15年9月14日、防衛省は、米空軍特殊作戦コマンド(以下、AFSOC)作成の「CV-22の横田飛行場配備に関する環境レビュー」(以下、「横田ER」)を公表した1
 米国内では国家環境政策法(NEPA)に基づく環境影響評価プロセスとして扱われ、自治体や市民の意見を踏まえて検討しなければならない。例えば本誌でしばしばとりあげた米キャノン空軍基地(ニューメキシコ州)のCV-22による低空飛行訓練の簡易環境評価(EA)においてもそうであった。空軍は「特段の重大な影響なし」として提案どおりに実行しようとしたが、自治体や先住民を含む飛行コース周辺住民からの強い反発に会い、より厳密な環境影響評価(EIS)を行わざるをえなくなった2
 これに対し、横田ERはあくまでも米軍が自発的に作成した文書であり、米軍の行動そのもには何らの影響を与えるものではなく、日本の自治体や住民が意見表明などの形で関与する機会はない。日本政府はこの事情を承知の上で「環境レビュー」を受け入れたのである。
 横田ERは本体130ページ、付録なし、という簡素な形式である。海兵隊仕様のMV-22オスプレイ普天間配備のER(12年6月。以下「普天間ER」)3が本体288ページ、付録(A~D)755ページであったことに比べて大幅に簡素化されている。普天間ERは、沖縄での訓練を始め、日本列島での低空飛行訓練などを詳細に述べていたが、横田ERにはこれらの記載はない。対象を横田基地周辺の問題に絞り、環境への「特段の重大な影響はない」とした、初めに結論ありきの文書となっている。
 横田ERは、1.措置をとる目的及び必要性、2.提案されている措置と代替案、3.影響を受ける環境、4.環境への影響、5.累積的影響、6.管理所要の6章で構成される。「AFSOCが太平洋地域においてより強化された能力を獲得するため」横田にCV-22を配備するとし、施設整備事業、航空機配備とそれに伴う430名の増員を行うとされる。基地内の施設整備はフェーズⅠ、Ⅱで構成され、これらによる環境への影響を、空域、騒音、大気質、安全性、公共設備、危険物質/危険廃棄物及び固形廃棄物、水源、生物資源、文化資源、交通について検討し、「重大な影響はない」と結論づける。CV-22の暫定駐機場、シミュレーター、弾薬・装備保管施設建設など準備工程であるフェーズⅠはすでに配備を前提とした工事が始まっている。

特殊作戦コマンドの任務に触れず

 最大の問題は訓練内容に関してほとんど言及がされていないことである。ここではキャノン空軍基地のCV-22低空飛行訓練の環境影響評価書(EA)案4と対比しながら横田ERの問題点を挙げる。
 まず横田ERは、CV-22が関与する特殊作戦部隊(以下、SOF)の任務を説明しない。ERは、「特殊作戦コマンドの任務は、地域軍司令官、米国大使及び配下の大使館員等及び米国の国家指揮権限に対し、平時及び有事の特殊作戦支援を行う」とし、AFSOCなど4つの軍種別コマンドを有するといった組織上の説明しかなされていない。
 これに対して、キャノンEAには、AFSOCの任務(8ページ・資料に抜粋訳)が具体的に記述されている。それによれば、AFSOCは「SOFの世界的展開のための即応体制に責任を持つ」とし、主要任務は「前進配備と交戦、情報作戦、精密作戦と攻撃、およびSOFの移動」であるとする。そしてSOFは「潜入、離脱、補給、および給油に至る特殊作戦任務を世界中で実行する能力を米国に提供する」。ASFOCの主要航空機であるCV-22は、地形追随装置、赤外線センサー、レーダー探知機能など、海兵隊仕様機(MV-22)には備えられていない機能を駆使して特殊作戦部隊の「足」としての任務を担うのである。
 横田ERはCV-22の訓練区域として、東富士演習場、ホテル地区、三沢対地射爆撃場、沖縄の訓練場、アンダーセン空軍基地、及び韓国烏山空軍基地周辺のピルサン・レンジの6つを挙げるが、訓練内容は示されていない。ホテル地区は群馬、長野、新潟にわたる演習場ですらない空域で、住宅、田園、山間部が広がるエリアである。特にここでどのような訓練が行われるかは、市民生活に関わる重大事であるが、これに関する記述は一切ない。

 
夜間低空飛行訓練にも言及なし

 5月12日の記者会見5で、中谷元防衛大臣は、横田配備のCV-22は、「各種事態の米特殊作戦部隊の迅速な長距離輸送という任務を達成する」ため、「低空飛行訓練、または夜間飛行訓練」を実施すると明言した。しかし横田ERは夜間・低空飛行訓練にまったく触れていない。 
 キャノン空軍基地でのCV-22の低空飛行訓練計画は、「各訓練ミッションは、敵地への潜入や、地上部隊の投入、補給、または回収のための夜間低空飛行ミッションの熟度を向上するために計画される」とされ、「敵対的環境下での空中投下、着陸、および給油任務のための訓練を行う」とされている(資料)。それにつづく節である「訓練の作戦上の選定基準の概要」6には、「乗員は、概して薄暮に飛び立ち、日没後に任務を行う。そしてほとんどの任務において、暗視ゴーグル及び地形追跡レーダーを使用する」こと、「地上高300フィート以下を含む低高度」での低空飛行などが必須の訓練項目として列挙されている。
 キャノンEAが示すものこそが、CV-22に必要な日常的訓練であり、横田配備のCV-22も同様の訓練を行なうに違いない。とりわけ横田ERに明記された6訓練区域では弾薬使用も含めた上記の諸々の訓練が行われる可能性が高い。のみならず、普天間ERで示された本州から沖縄までの低空飛行訓練ルートでの訓練を含めキャノンで想定されたような総合的訓練が構想されているのではないかと思われる。例えば、三沢射爆撃場での訓練であれば、群馬、長野、新潟にまたがるブルー、東北地方のグリーン、ピンクの各ルートを利用して低空飛行訓練をしながら三沢まで往復する。そして三沢射爆場では、弾薬使用も含め、潜入、離脱、空中投下、空中給油などの訓練が実施されるであろう。沖縄の訓練場の場合も岩国を経由して沖縄を往来する間に、四国のオレンジ、、中国のブラウン、九州のイエロー、そして鹿児島から沖縄までのパープルの各ルートを使った低空飛行訓練が可能である。CV-22の夜間低空飛行を中心に据えたこれらの訓練は、人口密集地が多く存在する日本においては極めて重大な危険性をもたらすことが懸念される。
 その他、従来から指摘されている騒音被害、飛行モード転換に伴う危険性、オートローテーション機能の欠如、下降気流、高温排気熱による火災発生の懸念に加え、CV-22がMV-22と比べて事故率が高いことにも、横田ERは言及していない。日本政府は、このERで評価対象外とされた夜間低空飛行訓練をはじめとする多くの問題に関する情報開示と環境影響評価、さらには米本国との基準の違いを含めた評価方法の抜本的な見直しを、米国に求めるべきである7。(湯浅一郎)


1 15年2月24日、防衛省ウェブサイトから文書名で検索。
2 「フォー・コーナーズ・フリー・プレス」(12年7月1日)。http://fourcornersfreepress.com/?p=786
3 「MV-22の海兵隊普天間飛行場配備及び日本における運用に関する最終環境レビュー」。防衛省ウェブサイトから文書名で検索。
4 www.nmlegis.gov/lcs/handouts/MVAC%20Environmental%20Assessment%20LATA%20Cannon%20AFD-110909-039.pdf
5 中谷元防衛大臣記者会見(15年5月12日)。防衛省ウェブサイト内。
6 本誌406-7号(12年9月1日)11ページに抜粋訳。
7 本誌編集中の12月10日、MV-22が、米カリフォルニア州サンディエゴ沖で揚陸艦「ニューオーリンズ」への着艦に失敗する事故を起こしていたことがわかった。オスプレイの安全性への懸念は広がるばかりである。