核兵器・核実験モニター バックナンバー

【日誌】核・ミサイル/沖縄(16年5月21日~6月5日)

公開日:2017.07.15

ASEAN=東南アジア諸国連合/DPRK=朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)/G7=先進7か国/THAAD=高高度防衛ミサイル


●5月22日 オバマ米大統領の広島訪問を前にロサンゼルスで、広島で被爆した日系米国人らが記者会見。「核廃絶の第一歩」と歓迎。
●5月23日 オバマ米大統領が初の訪越。ハノイでクアン国家主席と会談後、武器禁輸の全面解除を発表。
●5月23日 韓国国防省、DPRK発表の南北軍事協議につき、非核化の意思と実質的行動を示すべきと回答。協議を事実上拒否。
●5月23日 オバマ米大統領の広島訪問を前に、米有識者ら70数人が同氏に被爆者との面会など求める声明。(本号参照)
●5月24日 陸自の北海道・然別演習場の後方支援隊訓練で、空砲を打ち合うべきところ計9人が実弾79発を発射と判明。2人軽傷。
●5月25日 三重県志摩市で日米首脳会談。安倍首相は沖縄県での米軍属死体遺棄事件に抗議。オバマ大統領は哀悼と遺憾を表明。
●5月26日付 オバマ大統領広島訪問記念行事に広島と長崎で被爆の4人を招待と判明。
●5月26日 陸自訓練中の誤射問題で岩田陸上幕僚長、訓練部隊が「空砲」請求も実弾が届いたことを明らかに。
●5月27日 伊勢志摩サミットが首脳宣言を採択し閉幕。東シナ海・南シナ海の状況懸念。核兵器のない世界へ環境醸成再確認。
●5月27日 オバマ米大統領が広島を訪問。演説で戦争や核兵器の悲惨さを強調、核なき世界への決意語る。
●5月28日 安倍首相、G7拡大会合に招いたアジアなど6か国の首脳と個別会談。中国けん制。フック越首相と防衛協力強化で合意。
●5月29日 リ・スヨン朝鮮労働党副委員長が習中国国家主席と会談し核開発路線を伝えるも習主席は自制を要求。
●5月29日 DPRK高官と米元高官がスウェーデンで会談。核開発について協議か。
●5月30日 中谷防衛相、DPRKに弾道ミサイル発射の兆候ありと自衛隊に破壊措置命令。
●5月31日 愛媛県の住民が熊本地震でリスクの高まる伊方原発3号機運転差止めの仮処分申請を松山地裁に。
●6月1日 国連安保理がDPRKの中距離弾道ミサイル発射を非難する報道声明。
●6月1日 米政府、外国銀行がDPRKと取引の場合も制裁や罰金を課す方針を発表。
●6月2日 カーター米国防長官、韓国がTHAAD導入に合意と明かす。
●6月2日 インド政府、弾道ミサイル拡散に立ち向かうためハーグ行動規範に参加発表。
●6月4日 ケリー米国務長官が広島原爆資料館に「訪問により核兵器の脅威のない世界に向けた行動の重要性を確信」との手紙。
●6月5日 孫・中国連合参謀部副参謀長、シンガポールで開催中のアジア安全保障会議で、比国が提訴した南シナ海管轄権を巡る仲裁裁判所での訴訟の拘束力はないと主張。
●6月5日 安保法に反対する市民グループが国会周辺で集会を開催。主催者発表で4万人以上が参加。

沖縄

●5月21日 米軍属女性死体遺棄事件。中谷防衛相、ニコルソン在沖米四軍調整官へ抗議。再発防止策の徹底求める。
●5月21日 カーター米国防長官、中谷防衛相と電話会談。米軍属女性死体遺棄事件で謝罪。「日本の法体系での対処望む」と伝達。
●5月22日 宮古島自衛隊配備計画。市地下水審議学術部会、3月に「施設運用認められず」と結論。審議結果公表されず。
●5月23日 翁長知事、安倍首相・菅官房長官と会談。「日米地位協定下では日本の独立は神話」と政府姿勢を批判。
●5月23日 公明県本・金城幹事長、米軍関係者による事件事故の解決策は「海兵隊の撤退」と発言。全面撤退への言及は初。
●5月23日 防衛省と米国防省、日米地位協定の抜本改定には消極的。従来通り「運用改善」で対応する姿勢示す。
●5月23日 「オール沖縄会議」、米軍属女性死体遺棄事件に抗議する県民大会開催を決定。自民党を含めた超党派開催目指す。
●5月24日 下地宮古島市長、3月に学術部会の報告書案へ修正要求。自衛隊施設配備に関する否定的意見を緩和するよう求める。
●5月25日 米軍属女性死体遺棄事件に抗議し、嘉手納基地第1ゲート前で緊急県民集会。約4,000人が参加。米軍撤退訴える。
●5月26日 県議会、在沖米海兵隊撤退・地位協定改定を求める決議・意見書を可決。海兵隊撤退要求は1972年日本復帰以来初。
●5月26日 在沖海兵隊研修資料に「基地問題を政治利用」、「地元メディアが恣意的報道」などの記述ありと判明。
●5月28日 ニコルソン在沖四軍調整官、30日間の規制措置発表。基地外での飲酒・祝宴、午前0~5時の外出自粛。
●5月31日 自民沖縄県連、党本部日米地位協定の抜本改定要請。普天間飛行場早期返還・米海兵隊削減・基地整理縮小も盛り込む。
●5月31日 全国市議会議長会、日米地位協定の抜本改定を求める議案を決議。
●6月3日 県民世論調査。米軍関係者の事件事故防止策には「全基地撤去」42.9%・「基地整理縮小」27.1%。「辺野古移設反対」83.8%。(琉球新報・沖縄テレビ放送調査)
●6月4日 中谷防衛相・カーター米国防長官会談。米軍属の範囲明確化へ向けハイレベル会合での協議に合意。
●6月5日 第12回県議員選挙。翁長県政与党、3議席増の27議席確保で過半数維持確定。野党は1議席増の14議席。投票率53.31%。
●6月5日 酒酔い運転の疑いで嘉手納基地所属米海軍兵を現行犯逮捕。国道を逆走し、車2台と衝突。2名重軽傷。

くわしく

【連載「被爆地の一角から」96】  「大統領の広島演説を考える」土山秀夫

公開日:2017.07.15

 オバマ米大統領の広島における演説をテレビで聞き、内容の英文および日本語訳を新聞で読んだ。
 人類史的な観点から戦争と平和について語り、科学や宗教の果たす役割、罪のない人々の死への追悼、殺りくを超えた和解への道、そして広島や長崎が核戦争の夜明けでなく、道徳の目覚めの始まりであるべきだと説いた格調の高い文章であった。これが被爆地以外で話されたか、またはオバマ氏個人の理念や哲学を披瀝する場であったとしたら、筆者はためらうことなく高い評価を下したに違いない。だが事実はそうでなく、核超大国である米国の現職の大統領が初めて被爆地広島を訪れ、被爆者代表たちの前で行った特別な演説なのである。
 オバマ大統領がG7に出席する前から、新聞やテレビは連日のように氏が何を語るか、また何を語って欲しいか、と関心をそそるように報道を重ねていた。筆者も朝日、毎日、読売、共同、長崎ほかの新聞社やテレビ各局の取材に追われたものだった。こうなると無意識のうちに、演説の内容にある種の期待を抱きたくなったとしても不思議はない。
 しかしその点は残念ながら期待外れに終わった、というのが筆者の率直な感想である。他の土地ではなく、“被爆地”で語るにしては核兵器への言及が少ない上に、余りに抽象的な文言に終始していたからだ。確かに09年のプラハでの演説をなぞった表現はあるものの、あの時のように衝撃に近い「核兵器のない世界」を目指す情熱と新鮮な提案は影が薄くなっている。例えば今回、こういう文章が出てくる。「私たちのように核を保有する国々は、恐怖の論理から脱する勇気をもち、核なき世界を追い求めなければいけません。私の生きている間に、この目標は実現できないかもしれません。しかし、たゆまぬ努力によって、悲劇が起きる可能性は減らすことができます。私たちは核の根絶につながる道筋を示すことができます」。正しくその通りであって異論はない。ただその努力や道筋を妨げているのは、当の米国自身の消極性にあるという現実と矛盾しているのではないのか。筆者たちが最も知りたいのは、ではどうすれば米国の英断を引き出せるのかの一点にある。それほど現在の核兵器をめぐる核保有国と非核保有国の溝はふかいのだ。
 圧倒的多数の非核保有国の主張は、核の非人道性を認定し、核兵器を法律によって規制(非合法化)し、その上で核兵器禁止条約につなげようということでまとまっている。しかし核保有5か国は、非人道性についても明確に認めようとしないし、国連の作業部会さえボイコットしている。その先頭に立っているのが米国であり、米国が動かない限り、この閉塞状況は先ず打開されそうにない。しかも両グループ間の対立によって時間を空費している隙に、北朝鮮のように核兵器やミサイルの技術開発を着々と進める国家が現れてきているのだ。
 オバマ大統領の今回の広島訪問に際して、事前の被爆者への世論調査では圧倒的に歓迎する声が多かった。だがその内容を分析してみると、本心としては大統領に「原爆投下は誤りだったと言って欲しい」、或いはそれより少ないながら「原爆投下を謝罪すべきだ」と思う人たちが決して少なくなかった。しかしそのことを表に出せば、原爆投下正当論の根強い米国内の世論に配慮して、オバマ氏の被爆地訪問は先ずあり得ない。こうしたジレンマの末、被爆者は大統領への注文をグッと心の中で抑え、少しでも核廃絶への具体的な道筋を示してくれることを期待して、歓迎の意を表したに違いない。その意味で筆者が大統領の広島演説を期待外れと評したのも、これと共通した心情と言えよう。

くわしく

【資料】  「オバマ大統領に広島で具体的行動をとることを求める学者・活動者国際声明」

公開日:2017.07.15

2016年5月23日
バラク・オバマ大統領
ホワイトハウス、ワシントンDC

親愛なる大統領閣下、
 あなたが日本で開催されるG7経済サミットの後、今週後半に、広島を訪問する初めての現職の米国大統領になるという計画を知り、うれしく思いました。私たちの多くは広島と長崎に行ったことがあります。それは、ジョン・ケリー国務長官が最近の訪問で経験されたように、意義深い、人生を変えるような経験でした。
 特に、原子爆弾からの生存者である被爆者に会い、個人的な話を聞くことは世界平和や軍縮へ向けた私たちの取り組みに他に類のない影響を与えました。被爆者の苦しみのみならず、彼らの知恵、彼らの畏敬の念を起こさせる人類愛の感覚、彼らが自分たちの経験した恐怖を他の人間に二度と味わわせないよう断固として核廃絶を提唱しているのを知ることは、かけがえのない贈り物であり、これにより誰もが核の脅威に立ち向かう決意を固めるしかなくなります。
 核兵器のない世界を求める、あなたの2009年のプラハ演説は世界中に希望を与えましたし、ロシアとの新START条約、イランとの歴史的な核合意、世界中に存在する核兵器に使用可能な物質の備蓄を流出から守り削減したことは、意義のある業績です。
 しかし、15,000発以上の核兵器(93%は米国とロシアにより保有されている)がこの惑星の諸国民を依然として脅かしている状況では、もっとたくさんすべきことがあります。核兵器のない世界へ向かってもっと大胆に進んでいくために、あなたは在任期間中にまだ決定的な指導力を発揮することができるはずだと、私たちは信じています。
 この観点から、核兵器のない世界へ向けた取り組みを行うというプラハでのあなたの約束を果たすべく、次のことをされるよう、強く要請します。
●(式典に)参加することのできるすべての被爆者に会うこと。
● 新世代の核兵器とその輸送システムに1兆ドルを費やすという米国の計画を止めると宣言すること。
● 配備済の米国の核弾頭を一方的に1,000発以下にすると宣言することによって、新START条約を超える核軍縮交渉を再活性化すること。
● ロシアに対し、世界の備蓄核兵器の完全廃絶のために核不拡散条約で求められている「誠実な交渉」を、米国と共に執り行うよう求めること。
● アイゼンハワー大統領、マッカーサー、アーノルド、ロメイの各元帥、リーハイ、キング、ニミッツの各提督でさえも戦争の終結に必要ではなかったと述べていた原爆投下をとりまく歴史について、謝罪したり議論したりすることを拒絶するのを再考すること。
敬具

くわしく

<資料>「第7回労働党大会の決定書を採択」(朝鮮中央通信5月8日付記事)(英語版全訳)

公開日:2017.07.15

(ピョンヤン、2016年5月8日)

 「朝鮮労働党中央委員会の活動報告に関する」決定書が、5月8日開催の、朝鮮労働党第7回大会第3日の会合で採択された。
 決定書は、敬愛する金正恩同志が行った党中央委員会の活動報告を、朝鮮労働党と革命進展にとっての輝かしい前途を示す不滅の旗印として、またチュチェ革命が幾世代をもかけてたどるべき進路を切り拓く偉大な綱領として受け入れ、全面的に支持し賛同した。
 朝鮮労働党第7回大会は、金日成主席と金正日総書記を朝鮮労働党の永遠の指導者として高く仰ぎ見ながら、金正恩同志の指導の下、全社会の金日成主義・金正日主義化という大義、祖国統一、世界の自主化の大義の勝利を加速させる、という確固とした決意を表明した。さらに以下のように述べた:
 我々は全社会の金日成・金正日主義化を進め、政治的・軍事的・経済的威力を全面的に強化する。
 すべての部門で偉大なる指導者たちの教えを貫徹し、朝鮮労働党と国家、軍隊を永遠に金日成・金正日のものへと強化していく。
 我々は政治的・軍事的強国としての地位を固め、科学技術強国、経済大国、高度文明国の高みで勝利の旗を翻す。
 我々は、社会主義建設の総路線と自己開発の原則を恒久の戦略的路線として採用し、繁栄した社会主義国の建設に偉大な勝利を収め、全社会の金日成・金正日主義化という歴史的大義の実現に成功する。
 我々は短期間のうちに、国の科学技術の発展において新たな飛躍を遂げ、科学によって繁栄する時代の幕を開け、社会主義建設において革命的転換をもたらす。
 我々は、科学的かつ現実的な方法で国内経済発展のための段階的戦略を打ち出して確実にそれを実行し、当面は2016年から2020年までの国家経済発展5か年計画を遂行する。
 我々は、高度な文明を持った社会主義国の建設を加速して、全人民を深い知識と文化的素養を備えた有能な社会主義建設の担い手に育てあげ、人民が豊かで高度に文明化された生活を享受するための条件と環境を提供する。
 我々は、全軍を金日成・金正日主義化する確実な軍建設を総体的任務として受け止め、それを徹底して実行する。
 我々は連邦制による民族統一を主張し、平和と統一のため努力の限りを尽くす。しかし、もしも南朝鮮当局が不合理な「社会体制統一」に固執して戦争を選ぶならば、我々は正義の戦争に立ち上がり反統一勢力を無慈悲に一掃して、朝鮮人すべての長年の悲願である民族統一という歴史的大義を成就させる。
 我々は、朝鮮半島の恒久平和を確保して民族自主と民族大団結の旗のもとに連邦制方式での国家統一を進めるため積極的に努力し、それによってできる限り速やかに、すべての朝鮮人の共通の願いである独立した豊かな統一国家を築く。
 我々は、自主、平和、友好の理念を対外活動の不動の指針とし、DPRKの主権を尊重し友好を保つ国々との間で良き隣人としての友好的・協力的関係を育み、地域の平和・安全と世界の自主化を追求する。
 朝鮮労働党とDPRK政府は、情勢や近隣諸国との関係がいかに変化しようとも、自主、先軍、社会主義の不変の進路を取り、世界の自主化に向けた闘いにおいて自主と正義を擁護する先導者の役割を果たす。
 我々は強力な核抑止力をもって、米国から強要されている核戦争の危険を確実に終わらせ、地域と世界の平和を守るための闘いを力強く遂行する。
 我々は経済建設と核戦力の開発を同時に推進する戦略的路線を一貫して堅持し、帝国主義者が核の威嚇と専横な振舞いを継続する限り、自衛的核戦力を質においても量においても強化するであろう。
 すでに言明したように、責任ある核兵器国として、DPRKは敵対的侵略軍が核兵器で主権侵害を行わない限り核兵器を先行使用することはない。そして国際社会に対して行った核不拡散の誓約を誠実に履行し、世界の非核化に尽力する。
 朝鮮労働党とDPRK政府は、自主を志向し正義を愛するすべての国々や民族と、イデオロギーや社会体制の違いに関わりなく団結して協力し、DPRKの主権を尊重する友好的な国々とは、例えそれらの国々が過去に敵対的だったとしても、関係を改善し正常化する。
 我々は朝鮮労働党を金日成と金正日の党へと着実に発展させ、同党の指導的役割を全面的に増大させ、もって全社会の金日成・金正日主義化に向けた歴史的闘争に新たな転換をもたらす。
 朝鮮労働党は、チュチェ革命の最高位に金正恩同志を仰ぎ見ながら、我が人民の革命闘争と建設事業を勝利の道へと確信を持って導くであろう。
 朝鮮労働党第7回大会は、全党と全人民が金正恩同志の周りに固く団結し、金日成・金正日主義の革命的旗印の下で、党の発展、社会主義の大義の実現、自主的統一と世界の自主化に向けた総攻撃戦、総突撃戦を果敢に展開するであろうとの確信を表明した。

(訳:ピースデポ)

くわしく

【朝鮮労働党大会と核問題】  私たちが全体的視野を得る好機

公開日:2017.07.15

視野の偏り

 第7回朝鮮労働党大会は5月6~9日、平壌の4・25文化会館1において開催された。36年ぶりの開催であった。
 本誌495号(16年5月1日号)において、この大会に向けて北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国、DPRK)国内で繰り広げられた70日間キャンペーンのことを書いた。36年前の大会の前にも、同じ「70日間キャンペーン」があった。記事では、その期間に次々と繰り出された核・ミサイルに関する報道は、科学技術力と国防力を備えた社会主義路線を誇示するための国威発揚のイベントであることを指摘した。その観点からすると、労働党大会はキャンペーン成果を謳いあげる場であって、その期間中に核実験や人工衛星発射をすることは考えにくいことであった。にもかかわらず、日本国内(多くの西側諸国でも)の報道はそのような警戒の記事を書き続けた。
 このことに現れているように、北朝鮮に関する私たちの関心は極めて偏ったものになっている。北朝鮮の核・ミサイル問題が、日本の市民にとっても世界の平和と安全保障にとっても重要な関心事であることは言うまでもない。しかし、この問題の平和的な解決は容易なことではなく、私たちには、冷静で広い視野をもった問題意識が必要とされる。
 私たちがこの問題に向かい合うとき、まず、未だに日本の植民地支配についての謝罪すらなし得ていない隣国との歴史的経緯の中に置かれる。それに加えて、世界的な文脈における新しい困難にも直面している。閉鎖的な世襲の独裁体制の下で主体(チュチェ)思想を掲げ、孤立主義の中で社会主義経済を実現しようとしている国家の意思と民衆との関係を、外部世界からどのように評価し、北朝鮮民衆との関係をどのように築くかという問題は、世界史の教訓としても簡単に回答が出ない問題であろう。グローバル資本主義の競争原理が、国境を越えて市井の営みを呑み込んでゆく現実を目の当たりにしている現代世界においては、北朝鮮を取り巻く世界的な暴力装置との関係を視野に入れながら問題解決を考えざるを得ない。一方的に、相手の非を鳴らすだけでは、私たち自身が納得できる説得力を持ちえない。

並進路線の再確認

 5月8日、金正恩第1書記(9日に新設された委員長に就任)の「朝鮮労働党中央委員会活動報告に関する決定書」が採択された。その全文が9日の党の機関紙「労働新聞」に掲載されたが、ハングルで約45,000字、A4にして約44ページに及ぶものであった2。7ページに掲載したものは、その内容を短く報告した朝鮮中央通信(英語版)の訳文である。
 そこには、「我々は経済建設と核戦力の開発を同時に推進する戦略的路線を一貫して堅持し、帝国主義者が核の威嚇と専横な振舞いを継続する限り、自衛的核戦力を質においても量においても強化するであろう」といういわゆる<経済建設と核開発の並進路線>や「責任ある核兵器国として、DPRKは敵対的侵略軍が核兵器で主権侵害を行わない限り核兵器を先行使用することはない」という<核保有国宣言>と言われる内容が書かれている。
 しかし、この内容は金正恩体制が並進路線を正式に決定した2013年3月31日の党中央委員会ですでに述べていた内容であって、それに変更がないことが確認されたに過ぎない。むしろ重要な問題は、この再確認が置かれている北朝鮮の全体状況、あるいは金正恩体制が描こうとしている将来の風景全体を、今回の労働党大会において読み取ることができるかどうかにある。それによって、並進路線の内部における変化について考察することが可能になる。いかに劇場ショウの色彩が濃い大会とはいえ、冷戦終結後初めて国民を総動員して準備した党大会において公表する長大な報告文が描く社会主義建設のビジョンは、北朝鮮の官僚、軍人、活動家を鼓舞する大きさに比例して、政権自身も必然的に縛られることになる。

力点の変化

 朝鮮中央通信の編集は多分に国外向けの色彩が強い。労働党大会の分析については今後出るであろう多くの専門家の見解を読む必要があるが、朝鮮中央通信の記事からだけでもいくつかの注目すべき点があった。
 本稿においてもっとも強調したい点は、活動報告に関する5月7日の記事の次の部分である3
 「党の戦略的路線を遂行するためにDPRKの軍と人民が取り組んだダイナミックな闘争のおかげで、帝国主義と米国との抗争を勝利をもって終結し、我々の大義の最終的な勝利を加速するための確実な保証が与えられた。」
 ここでの大義とは「主体思想による社会主義革命」の大義である。すなわち、ここに述べられている単純な論理は、「核抑止力の開発に成功して米国の体制転覆を阻止できる保証が得られたので、経済建設に専念できる」ということであろう。並進路線の内部で経済建設に力点を移す変化が起こりつつあることを示唆している。
 「経済開発と人民の生活水準の向上」を繰り返して強調した金正恩の年頭の辞4と重ね合わせるとき、経済に力点を置かざるを得ない「革命の大義」の現状を読み取ることができる。この力点の変化を確実にするために、自衛のための核兵器開発という北朝鮮の論理を無意味にするような国際的な外交努力の重要性を、私たちは改めて確認することができる。入口のハードルを低くして、対話の場を1日も早く実現することが必要であろう。(梅林宏道)


1 4・25は北朝鮮の建軍記念日。1932年のこの日に金日成が抗日ゲリラを開始した日とされる。
2 ピースデポ会員で朝鮮語通訳のOMさんに教えていただいた。
3 朝鮮中央通信(英語版)、『金正恩、報告期間における朝鮮労働党の成功を報告』、16年5月7日。
4 朝鮮中央通信(英語版)、16年1月1日。

くわしく

<資料2>作業文書「核軍縮に取り組む:非核兵器地帯の視座からの勧告」(ブラジル、メキシコなど10か国共同提出)(全訳)

公開日:2017.07.15

2016年5月11日
A/AC.286/WP.34/Rev.1

提出国:アルゼンチン、ブラジル、コスタリカ、エクアドル、グアテマラ、インドネシア、マレーシア、メキシコ、フィリピン、ザンビア 

I はじめに
1. 本作業文書の総体的目的は、非核兵器地帯(NWFZs)の経験が「多国間核軍縮交渉を前進させる」公開作業部会の成果に貢献しうる方法を探究することにある。

2. 我々は非核兵器地帯構成国として、各々の地域において、核兵器の使用、保有、備蓄、移転、生産及び開発に関する包括的な一連の禁止事項及び義務を制定している。よって我々は、核兵器のない世界を最も強くかつ大きな声で主張するべく、非核兵器地帯構成国としての正統性を利用することのできる地位にある。

3. 本作業文書は、非核兵器地帯設立の経験を踏まえ、核兵器の世界的禁止のための法的拘束力ある文書の交渉開始を可能ならしめることを目的として、公開作業部会の最終報告書に含まれるべき諸勧告を提案する。

II 非核兵器地帯と国際の平和と安全
4. 核兵器の存在が、この惑星に差し迫った破壊の危険と国際の平和への危機をもたらし続けていることは、非核兵器地帯参加国にとっての深刻な懸念事項である。我々は、核兵器がいかなる状況のもとにおいても決して再び使用されてはならないのは、まさに人類が生き残るために他ならないと考える。核武装国(NAS)には自らの保有核兵器を完全に廃絶する究極的責任があるとはいえ、これら大量破壊兵器に関連する人道上の影響や結果を防止する責任は、すべての国が共有している。

5. 我々の見解では、非核兵器地帯の設立は地域的及び国際的レベルでの平和と安定を促進する非常に価値のある中間的措置である。一般的に、非核兵器地帯は、指定された地域内での核兵器の保有、入手、開発、試験、製造、備蓄、移転、使用もしくは使用の威嚇を禁止する。

6. 現在、大陸もしくは亜大陸の国家群(それらの領海及び領空を含む)から構成された5つの非核兵器地帯がある。それぞれ、トラテロルコ条約(ラテン・アメリカ及びカリブ地域、1969年4月25日)、ラロトンガ条約(南太平洋、1986年12月11日)、バンコク条約(東南アジア、1997年3月28日)、セミパラチンスク条約(中央アジア、2009年3月21日)、ペリンダバ条約(アフリカ、2009年7月15日)によって設立された。国連によって承認された一国で構成される非核兵器地帯が1つある。モンゴル(2000年2月28日)である。加えて、3つの条約により、それぞれ南極(1961年6月23日)、宇宙(1967年10月10日)及び海底(1972年5月18日)に非核兵器地帯が設立された。

7.非核兵器地帯の設立は核不拡散条約(NPT)第7条によって認められており、同地帯が充足すべき規準の概略は1975年、国連総会によって次のように定められている:
「非核兵器地帯とは一般に、国連総会によって非核兵器地帯と認められたすべての地帯であって、任意の国家群が主権を自由に行使して条約によって設立したものをいう。それら条約は、
a. 地帯の境界設定の手続きを含め、当該地帯を対象とする核兵器の完全な不存在についての規定を定め、
b. その規定から生じる義務の遵守を保証するための国際的な検証及び管理のためのシステムを確立する。」

8.したがって非核兵器地帯は、地球表面のほとんどを核兵器の存在から守ることによって、NPTレジームを効果的に補完することへの強力な保証を提供する機構である。非核兵器地帯の成功を振り返れば、地帯の先例が核兵器の世界的禁止の確立という発想の源泉であることに思い至る。それら先例は、中東、朝鮮半島、南アジアのような、世界の他の地域の平和と安定への展望に前向きな影響を与えうる。

III 非核兵器地帯が核兵器の禁止と廃絶に向けた国際的努力を活性化する可能性
9. 非核兵器地帯が核兵器のない世界の達成と維持という究極的目標に向けた中間的措置であることに留意することが重要である。現在、115か国が非核兵器地帯に属しており、その内訳はトラテロルコ33か国、ラロトンガ13か国、バンコク10か国、ペリンダバ53か国、セミパラチンスク5か国、そしてモンゴルである。したがって、非核兵器地帯条約加盟国は、核兵器のない世界に向けた国際的努力の前進のための価値ある基礎となる。

10. 核軍縮の速やかな前進の政治的可能性は、非核兵器国(NNWS)である我々の牽引力にかかっていると我々は確信する。とりわけ非核兵器地帯は集団的政治機構として積極的姿勢を示し、たんに核兵器政治から隠遁している地域に過ぎないとみなされてはならない。非核兵器地帯構成国として我々が核軍縮を前進させる正統性は争う余地のないものである。それどころか、各国は核不拡散への主要な貢献者として、核不拡散の将来の基調を形作る歴史的責任がある。

11. 我々の視座に立てば、核兵器のない世界は、平和、安全、発展という人類の優先的課題を達成するために不可欠である。非核兵器地帯条約加盟国は、核不拡散分野における卓越した実績を持ち、核軍縮における確固たる地位にある。我々は法的拘束力のある国際的文書によって核兵器保有を放棄した。したがって、我々は核兵器の世界的な禁止に関する交渉を開始することによって核兵器のない世界の達成と維持に貢献することを望む。さらに、非核兵器地帯は、意図的であれ偶発的であれ、ひとたび核兵器爆発が起これば、いかなる条約もその非人道的な結末からは何人をも守りえず、非核兵器地帯加盟国であろうとも守られないことを考慮しつつ、核軍縮を促進しつづけなければならないのである。

Ⅳ 核兵器を禁止する法的拘束力のある文書の諸要素
12. 我々は、速やかな行動のためのもっとも現実性の高い選択肢は、核兵器を禁止する法的拘束力のある文書を交渉することであると確信する。当該文書は、全般的禁止事項と義務を確立し、核兵器のない世界の達成と維持のための明白な政治的誓約を宣言するものでなければならない。

13.核兵器を禁止する法的拘束力のある文書は、それ自体が核軍縮に貢献するといえよう。しかし、核兵器のない世界の達成と維持という我々の究極の目標に到達するためには、他の法的拘束力のある諸文書や一揃いの文書、核兵器を禁止する法的拘束力のある文書に付属する議定書を交渉しなければならない。

14.核兵器を禁止する法的拘束力のある文書には、核兵器の廃絶までに至る諸措置は含まれる必要はない。不可逆的で検証可能かつ透明性ある形で核兵器を破壊する交渉のための措置は、将来の交渉の主題であろう。

15. このような取決めの実質に関連して、核兵器を禁止する法的拘束力のある文書の交渉者が、このような文書に含まれる事項として検討しうるものには以下が含まれる:
(a) 核兵器または他の核爆発装置の保有の禁止、
(b) 核兵器または他の核爆発装置の使用及び使用の威嚇の禁止、
(c) 核兵器または他の核爆発装置の入手の禁止、
(d) 核兵器または他の核爆発装置の備蓄の禁止、
(e) 核兵器または他の核爆発装置の開発の禁止、
(f) 核兵器または他の核爆発装置の実験の禁止、
(g) 核兵器または他の核爆発装置の製造の禁止、
(h) 核兵器または他の核爆発装置の移転の禁止、
(i) 核兵器または他の核爆発装置の通過の禁止、
(j) 核兵器または他の核爆発装置の配置の禁止、
(k) 核兵器または他の核爆発装置の配備の禁止、
(l) 当該法的拘束力のある文書によって禁じられたあらゆる活動への関与を直接もしくは間接に援助、奨励または誘導することの禁止。

16. 要するに、核兵器を禁止する法的拘束力のある文書は、軍縮議論に法的のみならず政治的影響を与え、核兵器の廃絶と核兵器のない世界の維持を目指すさらなるイニシアチブに対し、必要不可欠な方向性を与えるであろう。このような文書は、その交渉にも発効にも、全会一致の支持を必要とはしない。

V 結論と勧告
17. 上記に照らして、我々は公開作業部会がその報告書に、総会に対する以下の勧告を含めることを提案する:
(a) 2017年に、すべての国、国際機関及び市民社会に開かれた、核兵器を禁止する法的拘束力をもった文書を交渉するための会議を招集すること。
(b) 決議68/32に従い、2018年までに招集される国連ハイレベル国際会議に、そのような文書の交渉の進捗を報告すること。
(訳:ピースデポ)

くわしく

<資料1>作業文書「枠組み合意のための選択肢」(NGO「中堅国家構想」提出)(抜粋訳)

公開日:2017.07.15

2016年5月4日
A/AC.286/NGO/20

はじめに
1.~5.(略)

枠組み合意

6.枠組み合意とは一般に、大まかなコミットメントと統治機構を提示する条約を言う。その条約は、技術上、法律上その他の取り決めを提供する後続の単独もしくは一連の法的文書によって、あるいは多様な過程を経て、実施され発展する。

7.よく知られた枠組み合意の例が国連気候変動枠組条約(UNFCCC)である。1992年のUNFCCC採択以来、同条約での大まかな合意を実施するために1997年京都議定書や2015年パリ協定といった追加的措置が交渉されてきており、毎年の締約国会議では詳細な継続評価がなされコミットメントが生み出されている。

8.軍縮分野では、通常兵器条約(CCW)が一例である。1980年の採択以降、5つの追加議定書が採択されている。

9.付け加えれば、NPTは第6条の下で、交渉を通じた核兵器廃絶達成のための枠組みを制定している。しかし、そのための手順や措置あるいは時間軸などが明記されておらず、かなり漠然とした性格の枠組みとなっている。

10.世界人権宣言も関連する政治的文書の例であって、枠組み合意のように一連のコミットメントを提示することで、実施措置の採択に向けた基盤を整備している。1948年の採択以来、宣言の各コミットメントを実施するために法的拘束力を持った一連の人権文書が交渉されており、宣言におけるコミットメント自体が国際慣習法とみなされるに至っている。

核軍縮についての枠組み合意

11.核軍縮についての枠組み合意は、核兵器禁止条約の変型版として構築しうる。その内容としては、核兵器の使用禁止条項や既存の核戦力の拡張・近代化の禁止条項のような、主要条項のみを初めに規定するシャポー合意を構成し、核兵器に関する透明性を高めつつ核軍縮の進捗状況を監視するための組織あるいは機構を創設し、備蓄削減、検証、施行、核分裂性物質の管理と処分といった初めからは収拾のつかない問題についてはさらなる交渉を行う旨を規定する、ということが考えられる。また、例え最初のシャポー合意では廃絶への具体的な時間枠を採用できなくても、核兵器の完全廃絶の達成とその永続の確保のための、手順を盛り込むべきである。

12.枠組み合意には、様々な段階で異なる国家によって採択される条項が含まれうる。例えば、もしも発効当初から使用禁止が効力を持つことが合意できないのであれば、使用禁止条項は核依存国よりも早い段階で非核国が採択し、非核国に対する不使用についての議定書を核保有国の参加のもとに採択することも考えられる。非核国の採択する議定書では、開発、保有その他関連する事項を禁止することも考えられる。

13.枠組み合意には、軍縮過程が制度化される、不使用義務の条約上の成文化が早期に可能になる、その他の条項についての議定書が早期に立案されるなど、数多くの利点があるであろう。

14.他方、ほとんどの核武装国と核依存国は、核軍縮に関する包括的な法的拘束力を持った合意の採択を、例えそれが重要事項をさらなる交渉に委ねていたとしても、望んでいないように見受けられる。それらの国々の態度は、核兵器保有と核使用ドクトリンはよりよい安全保障環境が実現するまで必要であり続ける、というものであるように見受けられる。

15.こうしたことから、より厳格度の低い法的措置からなり、より政治的な性格を有するような、修正版の核軍縮枠組み合意のほうが実現可能性が高いかもしれない。

政治的-法的な枠組み合意

16.政治的-法的な枠組みは、NPT再検討会議や第1回軍縮特別総会といった他の議論の場ですでに到達した政治的合意を発展させ、既存の義務や適用可能な法を再確認し、少なくとも手続的な法的コミットメントは付加する、とすることが考えられる。

17.そうした合意では、例えば以下がなされうる。
(a) NPT第6条と国際慣習法における軍縮義務を再確認し、
(b) 核爆発の人道上の結末の存在を承認するとともに、少なくとも核兵器の使用は一般的に国際人道法と両立しないことを確認し、
(c) 不使用の実践を永久に延長し続けるという共通目的を明記し、
(d) 野心的な時間枠の中で核兵器の削減と廃絶を達成するという、拘束力を持たない目標の概略を定め、
(e) さらなる交渉や報告メカニズムなど、上記の目標を達成するための手順を提示し、
(f) 検証に関する引き続きの作業、信頼の醸成、核兵器抜きでの安全保障の確立、といった補助的措置について合意する。

18.政治的-法的な枠組み合意は、核武装国を中間的措置に引き込み、それらの国々の核軍縮への政治的コミットメントを強め、その約束の実現についての野心的な目標を育むための、最良の機会を提供するように思われる。同時にそれは、非核国がより強い措置を早期に採用できる余地を与えるという柔軟性も持っている。こうしたことから、これは、OEWGが2017年の多国間交渉開始を勧告するための最良の選択肢であるかもしれない。

(訳:ピースデポ)

くわしく

【国連核軍縮公開作業部会(OEWG)】  
法的措置の交渉の場を確保し、相互補完性を活かす議題設定を  ――諸提案を整理し、秋の国連総会への課題を考える

公開日:2017.07.15

多国間核軍縮交渉の前進を求める非核兵器国とNGOがジュネーブ「核軍縮公開作業部会」(OEWG)に求めているのは、核兵器国とその意を受けた国々の抵抗を乗り切って、核兵器禁止のための法的措置に関する交渉の場を設置するとの勧告を発出することである。同時にどのような法的措置案(文書とアプローチ)が、交渉の場の議題に適しているかという問題が検討される必要がある。そのような観点から、2月・5月会期に提出された具体的な法的措置案を整理し、秋の国連総会に向けた課題を考える。


提出された「法的措置」の諸提案

 OEWGの2月会期及び5月会期において政府及びNGOが作業文書で示した法的措置に関する具体的提案1は、以下のように要約できる。(提出日付順)  

                    
(1) 包括的核兵器禁止条約(CNWC)案
WP.11「モデル核兵器禁止条約」(16年2月24日)
*マレーシア、コスタリカの共同提案。
*締約国の義務:核兵器の保有、開発、実験、生産、備蓄、移転、使用及び使用の威嚇の禁止/段階的廃棄プロセス/検証/条約履行のための機関設置/核物質の国際管理など。

(2) 簡易型核兵器禁止条約(NWBT)案
NGO/3「核兵器を禁止する条約」(16年2月24日)
*アーティクル36、婦人国際平和自由連盟(WILPF)の共同提案。
*締約国の義務:保有、使用及び使用の威嚇、開発及び製造、移転もしくは入手、備蓄、配備、禁止事項への援助(金融支援を含む)の禁止/使用、実験による被害者の権利擁護/使用、実験による汚染の除去と環境回復/条約履行のための相互協力/検証など。
〔筆者コメント〕(1)、(2)ともにこのまま核兵器国を含めた交渉のテーブルに載せるには、困難が予想される。

(3) 核兵器依存非核兵器国による「ビルディング・ブロック」アプローチ
WP.9「核兵器のない世界に向けた前進的(漸進的)アプローチ」(16年2月24日)
*18か国による共同提案:オーストラリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、エストニア、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、イタリア、日本、ラトビア、リトアニア、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スペイン。
*効果的な法的措置にはCTBT早期発効、兵器用核分裂性物質生産禁止条約、米ロ新START後継条約交渉の促進、核テロリズム防止条約の普遍化、非核兵器地帯の新規設立などが含まれる。
*最終局面では、多国間の「核兵器条約」が最後のビルディング・ブロックとして交渉される可能性がある。
〔筆者コメント〕行き詰まった現状を打破する具体的な「法的措置」の提案は含まれない。

     
(4) NGOによる「使用禁止条約が先行する包括的禁止条約」アプローチ
NGO/5「核軍縮のための具体的で実現可能な法的措置の探求」(16年4月27日)
*ピースデポによる提案。
*核兵器の「壊滅的な人道的影響」に直結する「使用」問題に着目し、「使用禁止条約」(NUBT)を先行的に制定し、それを基礎に包括的核兵器禁止条約(CNWC)に到達する。交渉参加国にとってわかりやすい分だけハードルが低い。
*非核兵器地帯加盟国は、その地位の延長としてNUBTを交渉のテーブルに載せる最初の担い手(イニシエーター)となる特別な資格がある。
〔筆者コメント〕次項で詳述する。

(5) NGOの「枠組み合意」提案-1
NGO/7「核兵器のない世界への枠組みを築く」(16年4月27日)
*バーゼル平和事務所(BPO)による提案。
*第71回国連総会で核兵器のない世界を達成する「枠組み合意」もしくは「パッケージ合意」交渉を開始もしくは準備するために、新しくOEWGを設置する決議を採択する。
*交渉される枠組み合意などには核兵器使用禁止条項を含む。
*使用禁止は国際刑事裁判所(ICC)ローマ規定の改訂議定書、核兵器の使用もしくは使用の威嚇を禁止する条約の交渉による。

(6) NGOの「枠組み合意」提案-2
NGO/20「枠組み合意のための選択肢」(16年5月4日) 資料1(3~4ページ)に抜粋訳
*中堅国家構想(MPI)による提案。
*「枠組み合意」は、核兵器禁止条約の変型版として核兵器使用禁止や核戦力の近代化禁止などの主要事項とその後の交渉継続の仕組みを定める。
*核武装国や核依存国が難色を示した時には、より法的な厳格度が低く政治的な性格を有するような「政治的-法的枠組み合意」を協議する。
*「政治的-法的枠組み合意」は次のような、すでに到達した政治的合意などを発展させた事項に法的拘束力を持たせる:NPT第6条義務に関する諸確認/核爆発による人道上の結末の認識/「不使用実績」の永続化など。
*「政治的-法的枠組み合意」は核武装国や依存国を中間的措置に参画させることによって、その約束の実現のための野心的な目標を設定することが可能になる。同時にそれは、非核国がより強い措置を早期に合意することができる柔軟性を与える。
*OEWGが、2017年に多国間交渉を開始するよう勧告するのが最善のオプションである。 
〔筆者コメント〕核兵器保有国、依存国を関与させながら非核国がより積極的な措置に先行合意することを可能にする「枠組み」について、より具体的な考察が求められる。

(7) ブラジルの「枠組み合意」(ハイブリッド・アプローチ)提案
WP.37「核兵器に関する効果的措置、法的規範及び条項:核軍縮のためのハイブリッド・アプローチ」(16年5月9日)
*一般的義務を確立し、核兵器を完全に廃絶するとの政治的誓約を明らかにする「枠組み合意」が最も現実的な選択肢。
*上記合意を国家による宣言、履行、検証及び段階的廃棄、援助、技術協力及び差別的でない検証体制などに関する議定書によって補強してゆく。

(8) 非核兵器地帯加盟10か国の共同提案
WP34「核軍縮に取り組む:非核兵器地帯の視座からの提案」(16年5月11日) 資料2(4~5ページ)に全訳
*アルゼンチン、ブラジル、コスタリカ、エクアドル、グアテマラ、インドネシア、マレーシア、メキシコ、フィリピン、ザンビアの共同提案。
*非核兵器地帯加盟国は、核兵器のない世界を最も強く主張する正統性を有する。
*核兵器爆発が起これば、非核兵器地帯加盟国であろうとも守られないことを考慮する。
*締約国の義務:核兵器または核爆発装置の保有、使用及び使用の威嚇、入手、備蓄、開発、実験、製造、移転、通過、配置、配備、当該文書によって禁じられた活動への関与を直接・間接に援助・奨励・誘導すること、の禁止。
*条約には、核兵器の廃絶までに至る「廃棄」に伴う諸措置は含まれる必要はない。将来の交渉の主題とする。
*2017年に、核兵器を禁止する法的拘束力をもった文書を交渉するための会議を招集し、2018年までに開催することが決まっている国連総会「核軍縮ハイレベル会議」に報告するべきである。

「使用禁止」と「保有禁止」を巡って

 ピースデポの作業文書(NGO/5)2は、「核兵器使用禁止条約(NUBT)を先行させて包括的核兵器禁止条約(CNWC)に到達するというプロセス」と「その担い手たる非核兵器地帯加盟国」に焦点を当てた。
 現存する非核兵器地帯条約は、核兵器国に「非核国に核兵器の使用も使用の威嚇も行わない」という消極的安全保証を議定書によって約束させているが、核兵器国に核兵器の廃棄を求める議定書はない。ピースデポの提案は、この「消極的安全保証」の延長線上に「使用禁止」を要求するという論理に立つことによって提案のハードルを低くすることを試みた。
 OEWGにおいて、非核兵器地帯加盟国はCNWCの先導者として名乗りを上げた(WP.34)。彼らの問題意識は、「(地帯加盟国であっても)核兵器の使用による被害から自由ではない」(NGO/5・11節)というピースデポの認識と重なり合う(WP.34・11節)。一方、地帯加盟国がWP.34で踏み出そうとしているのは「使用禁止」ではなく、「保有禁止」を含めた「核兵器そのものの非合法化とその世界化」であると言う。この主張は当然支持するべきものである。この論理は、「消極的安全保証」の延長線上で使用禁止を求めるという、現存非核兵器地帯の論理よりもはるかに野心的な要求である。一方で、この挑戦が条約交渉の中でどのように作用するかは、未知数である。
 条約交渉は「保有」を禁止するまで障害なく進むかもしれない。しかし「保有」を禁止する場合には、すでに保有しているものの「廃棄」を義務づけるべきだという議論が生まれ、つまりはWP.34が避けようとしている「廃棄」問題に踏み込まざるをえない。そのような局面で「使用禁止」の中間点としての意義が再認識されることは充分にありうる。他の提案がいずれも、初期的合意として「使用禁止」を掲げているのは「使用禁止先行論」の必然性を表している。ピースデポ提案は「使用禁止」に限定をすることを強調しているのでなく、あくまでも合意形成の中間的着地点としての利点を示唆しているのである。

諸提案を活かす法的措置交渉の場の設立を

 非核兵器国とNGOが突破しなければならない第1の関門は、法的措置の交渉の場の設置自体に反対する核兵器国や日本などの核兵器依存国の策動である。このように議論の先送りを許してはならない。同時に、保有国、依存国の関与を追求し、提出された諸案をどのように法的禁止への措置の交渉議題にするかが問われる。
 これまで紹介した提案の多くが、他の提案と互いに排除しあうものではなく、相互補完的に作用しうることに注目するべきであろう。各提案が持つ柔軟性を十全に活かしながら、核兵器禁止への交渉を前に進める方法を開発することが求められている。議長草案に基づく8月会期の議論を経て作成される最終報告書が、ともかくも交渉の場の設置を勧告できるために、私たちも含めてすべての当事者の努力が求められる。日本政府が極めて大きな責任を有していることは言うまでもない。
 その上で、OEWGの成果が真に問われるのは10月の国連総会である。秋に向けて市民社会と有志国家の連携と関与の重要性はいっそう高まるであろう。(田巻一彦、梅林宏道)


1 原文は次のサイトから入手できる。
www.reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/oewg/2016/may/documents
2 本誌前号に日本語全文。

くわしく