【国連核軍縮公開作業部会(OEWG)】  
法的措置の交渉の場を確保し、相互補完性を活かす議題設定を  ――諸提案を整理し、秋の国連総会への課題を考える

公開日:2017.07.15

多国間核軍縮交渉の前進を求める非核兵器国とNGOがジュネーブ「核軍縮公開作業部会」(OEWG)に求めているのは、核兵器国とその意を受けた国々の抵抗を乗り切って、核兵器禁止のための法的措置に関する交渉の場を設置するとの勧告を発出することである。同時にどのような法的措置案(文書とアプローチ)が、交渉の場の議題に適しているかという問題が検討される必要がある。そのような観点から、2月・5月会期に提出された具体的な法的措置案を整理し、秋の国連総会に向けた課題を考える。


提出された「法的措置」の諸提案

 OEWGの2月会期及び5月会期において政府及びNGOが作業文書で示した法的措置に関する具体的提案1は、以下のように要約できる。(提出日付順)  

                    
(1) 包括的核兵器禁止条約(CNWC)案
WP.11「モデル核兵器禁止条約」(16年2月24日)
*マレーシア、コスタリカの共同提案。
*締約国の義務:核兵器の保有、開発、実験、生産、備蓄、移転、使用及び使用の威嚇の禁止/段階的廃棄プロセス/検証/条約履行のための機関設置/核物質の国際管理など。

(2) 簡易型核兵器禁止条約(NWBT)案
NGO/3「核兵器を禁止する条約」(16年2月24日)
*アーティクル36、婦人国際平和自由連盟(WILPF)の共同提案。
*締約国の義務:保有、使用及び使用の威嚇、開発及び製造、移転もしくは入手、備蓄、配備、禁止事項への援助(金融支援を含む)の禁止/使用、実験による被害者の権利擁護/使用、実験による汚染の除去と環境回復/条約履行のための相互協力/検証など。
〔筆者コメント〕(1)、(2)ともにこのまま核兵器国を含めた交渉のテーブルに載せるには、困難が予想される。

(3) 核兵器依存非核兵器国による「ビルディング・ブロック」アプローチ
WP.9「核兵器のない世界に向けた前進的(漸進的)アプローチ」(16年2月24日)
*18か国による共同提案:オーストラリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、エストニア、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、イタリア、日本、ラトビア、リトアニア、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スペイン。
*効果的な法的措置にはCTBT早期発効、兵器用核分裂性物質生産禁止条約、米ロ新START後継条約交渉の促進、核テロリズム防止条約の普遍化、非核兵器地帯の新規設立などが含まれる。
*最終局面では、多国間の「核兵器条約」が最後のビルディング・ブロックとして交渉される可能性がある。
〔筆者コメント〕行き詰まった現状を打破する具体的な「法的措置」の提案は含まれない。

     
(4) NGOによる「使用禁止条約が先行する包括的禁止条約」アプローチ
NGO/5「核軍縮のための具体的で実現可能な法的措置の探求」(16年4月27日)
*ピースデポによる提案。
*核兵器の「壊滅的な人道的影響」に直結する「使用」問題に着目し、「使用禁止条約」(NUBT)を先行的に制定し、それを基礎に包括的核兵器禁止条約(CNWC)に到達する。交渉参加国にとってわかりやすい分だけハードルが低い。
*非核兵器地帯加盟国は、その地位の延長としてNUBTを交渉のテーブルに載せる最初の担い手(イニシエーター)となる特別な資格がある。
〔筆者コメント〕次項で詳述する。

(5) NGOの「枠組み合意」提案-1
NGO/7「核兵器のない世界への枠組みを築く」(16年4月27日)
*バーゼル平和事務所(BPO)による提案。
*第71回国連総会で核兵器のない世界を達成する「枠組み合意」もしくは「パッケージ合意」交渉を開始もしくは準備するために、新しくOEWGを設置する決議を採択する。
*交渉される枠組み合意などには核兵器使用禁止条項を含む。
*使用禁止は国際刑事裁判所(ICC)ローマ規定の改訂議定書、核兵器の使用もしくは使用の威嚇を禁止する条約の交渉による。

(6) NGOの「枠組み合意」提案-2
NGO/20「枠組み合意のための選択肢」(16年5月4日) 資料1(3~4ページ)に抜粋訳
*中堅国家構想(MPI)による提案。
*「枠組み合意」は、核兵器禁止条約の変型版として核兵器使用禁止や核戦力の近代化禁止などの主要事項とその後の交渉継続の仕組みを定める。
*核武装国や核依存国が難色を示した時には、より法的な厳格度が低く政治的な性格を有するような「政治的-法的枠組み合意」を協議する。
*「政治的-法的枠組み合意」は次のような、すでに到達した政治的合意などを発展させた事項に法的拘束力を持たせる:NPT第6条義務に関する諸確認/核爆発による人道上の結末の認識/「不使用実績」の永続化など。
*「政治的-法的枠組み合意」は核武装国や依存国を中間的措置に参画させることによって、その約束の実現のための野心的な目標を設定することが可能になる。同時にそれは、非核国がより強い措置を早期に合意することができる柔軟性を与える。
*OEWGが、2017年に多国間交渉を開始するよう勧告するのが最善のオプションである。 
〔筆者コメント〕核兵器保有国、依存国を関与させながら非核国がより積極的な措置に先行合意することを可能にする「枠組み」について、より具体的な考察が求められる。

(7) ブラジルの「枠組み合意」(ハイブリッド・アプローチ)提案
WP.37「核兵器に関する効果的措置、法的規範及び条項:核軍縮のためのハイブリッド・アプローチ」(16年5月9日)
*一般的義務を確立し、核兵器を完全に廃絶するとの政治的誓約を明らかにする「枠組み合意」が最も現実的な選択肢。
*上記合意を国家による宣言、履行、検証及び段階的廃棄、援助、技術協力及び差別的でない検証体制などに関する議定書によって補強してゆく。

(8) 非核兵器地帯加盟10か国の共同提案
WP34「核軍縮に取り組む:非核兵器地帯の視座からの提案」(16年5月11日) 資料2(4~5ページ)に全訳
*アルゼンチン、ブラジル、コスタリカ、エクアドル、グアテマラ、インドネシア、マレーシア、メキシコ、フィリピン、ザンビアの共同提案。
*非核兵器地帯加盟国は、核兵器のない世界を最も強く主張する正統性を有する。
*核兵器爆発が起これば、非核兵器地帯加盟国であろうとも守られないことを考慮する。
*締約国の義務:核兵器または核爆発装置の保有、使用及び使用の威嚇、入手、備蓄、開発、実験、製造、移転、通過、配置、配備、当該文書によって禁じられた活動への関与を直接・間接に援助・奨励・誘導すること、の禁止。
*条約には、核兵器の廃絶までに至る「廃棄」に伴う諸措置は含まれる必要はない。将来の交渉の主題とする。
*2017年に、核兵器を禁止する法的拘束力をもった文書を交渉するための会議を招集し、2018年までに開催することが決まっている国連総会「核軍縮ハイレベル会議」に報告するべきである。

「使用禁止」と「保有禁止」を巡って

 ピースデポの作業文書(NGO/5)2は、「核兵器使用禁止条約(NUBT)を先行させて包括的核兵器禁止条約(CNWC)に到達するというプロセス」と「その担い手たる非核兵器地帯加盟国」に焦点を当てた。
 現存する非核兵器地帯条約は、核兵器国に「非核国に核兵器の使用も使用の威嚇も行わない」という消極的安全保証を議定書によって約束させているが、核兵器国に核兵器の廃棄を求める議定書はない。ピースデポの提案は、この「消極的安全保証」の延長線上に「使用禁止」を要求するという論理に立つことによって提案のハードルを低くすることを試みた。
 OEWGにおいて、非核兵器地帯加盟国はCNWCの先導者として名乗りを上げた(WP.34)。彼らの問題意識は、「(地帯加盟国であっても)核兵器の使用による被害から自由ではない」(NGO/5・11節)というピースデポの認識と重なり合う(WP.34・11節)。一方、地帯加盟国がWP.34で踏み出そうとしているのは「使用禁止」ではなく、「保有禁止」を含めた「核兵器そのものの非合法化とその世界化」であると言う。この主張は当然支持するべきものである。この論理は、「消極的安全保証」の延長線上で使用禁止を求めるという、現存非核兵器地帯の論理よりもはるかに野心的な要求である。一方で、この挑戦が条約交渉の中でどのように作用するかは、未知数である。
 条約交渉は「保有」を禁止するまで障害なく進むかもしれない。しかし「保有」を禁止する場合には、すでに保有しているものの「廃棄」を義務づけるべきだという議論が生まれ、つまりはWP.34が避けようとしている「廃棄」問題に踏み込まざるをえない。そのような局面で「使用禁止」の中間点としての意義が再認識されることは充分にありうる。他の提案がいずれも、初期的合意として「使用禁止」を掲げているのは「使用禁止先行論」の必然性を表している。ピースデポ提案は「使用禁止」に限定をすることを強調しているのでなく、あくまでも合意形成の中間的着地点としての利点を示唆しているのである。

諸提案を活かす法的措置交渉の場の設立を

 非核兵器国とNGOが突破しなければならない第1の関門は、法的措置の交渉の場の設置自体に反対する核兵器国や日本などの核兵器依存国の策動である。このように議論の先送りを許してはならない。同時に、保有国、依存国の関与を追求し、提出された諸案をどのように法的禁止への措置の交渉議題にするかが問われる。
 これまで紹介した提案の多くが、他の提案と互いに排除しあうものではなく、相互補完的に作用しうることに注目するべきであろう。各提案が持つ柔軟性を十全に活かしながら、核兵器禁止への交渉を前に進める方法を開発することが求められている。議長草案に基づく8月会期の議論を経て作成される最終報告書が、ともかくも交渉の場の設置を勧告できるために、私たちも含めてすべての当事者の努力が求められる。日本政府が極めて大きな責任を有していることは言うまでもない。
 その上で、OEWGの成果が真に問われるのは10月の国連総会である。秋に向けて市民社会と有志国家の連携と関与の重要性はいっそう高まるであろう。(田巻一彦、梅林宏道)


1 原文は次のサイトから入手できる。
www.reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/oewg/2016/may/documents
2 本誌前号に日本語全文。