<資料2>作業文書「核軍縮に取り組む:非核兵器地帯の視座からの勧告」(ブラジル、メキシコなど10か国共同提出)(全訳)

公開日:2017.07.15

2016年5月11日
A/AC.286/WP.34/Rev.1

提出国:アルゼンチン、ブラジル、コスタリカ、エクアドル、グアテマラ、インドネシア、マレーシア、メキシコ、フィリピン、ザンビア 

I はじめに
1. 本作業文書の総体的目的は、非核兵器地帯(NWFZs)の経験が「多国間核軍縮交渉を前進させる」公開作業部会の成果に貢献しうる方法を探究することにある。

2. 我々は非核兵器地帯構成国として、各々の地域において、核兵器の使用、保有、備蓄、移転、生産及び開発に関する包括的な一連の禁止事項及び義務を制定している。よって我々は、核兵器のない世界を最も強くかつ大きな声で主張するべく、非核兵器地帯構成国としての正統性を利用することのできる地位にある。

3. 本作業文書は、非核兵器地帯設立の経験を踏まえ、核兵器の世界的禁止のための法的拘束力ある文書の交渉開始を可能ならしめることを目的として、公開作業部会の最終報告書に含まれるべき諸勧告を提案する。

II 非核兵器地帯と国際の平和と安全
4. 核兵器の存在が、この惑星に差し迫った破壊の危険と国際の平和への危機をもたらし続けていることは、非核兵器地帯参加国にとっての深刻な懸念事項である。我々は、核兵器がいかなる状況のもとにおいても決して再び使用されてはならないのは、まさに人類が生き残るために他ならないと考える。核武装国(NAS)には自らの保有核兵器を完全に廃絶する究極的責任があるとはいえ、これら大量破壊兵器に関連する人道上の影響や結果を防止する責任は、すべての国が共有している。

5. 我々の見解では、非核兵器地帯の設立は地域的及び国際的レベルでの平和と安定を促進する非常に価値のある中間的措置である。一般的に、非核兵器地帯は、指定された地域内での核兵器の保有、入手、開発、試験、製造、備蓄、移転、使用もしくは使用の威嚇を禁止する。

6. 現在、大陸もしくは亜大陸の国家群(それらの領海及び領空を含む)から構成された5つの非核兵器地帯がある。それぞれ、トラテロルコ条約(ラテン・アメリカ及びカリブ地域、1969年4月25日)、ラロトンガ条約(南太平洋、1986年12月11日)、バンコク条約(東南アジア、1997年3月28日)、セミパラチンスク条約(中央アジア、2009年3月21日)、ペリンダバ条約(アフリカ、2009年7月15日)によって設立された。国連によって承認された一国で構成される非核兵器地帯が1つある。モンゴル(2000年2月28日)である。加えて、3つの条約により、それぞれ南極(1961年6月23日)、宇宙(1967年10月10日)及び海底(1972年5月18日)に非核兵器地帯が設立された。

7.非核兵器地帯の設立は核不拡散条約(NPT)第7条によって認められており、同地帯が充足すべき規準の概略は1975年、国連総会によって次のように定められている:
「非核兵器地帯とは一般に、国連総会によって非核兵器地帯と認められたすべての地帯であって、任意の国家群が主権を自由に行使して条約によって設立したものをいう。それら条約は、
a. 地帯の境界設定の手続きを含め、当該地帯を対象とする核兵器の完全な不存在についての規定を定め、
b. その規定から生じる義務の遵守を保証するための国際的な検証及び管理のためのシステムを確立する。」

8.したがって非核兵器地帯は、地球表面のほとんどを核兵器の存在から守ることによって、NPTレジームを効果的に補完することへの強力な保証を提供する機構である。非核兵器地帯の成功を振り返れば、地帯の先例が核兵器の世界的禁止の確立という発想の源泉であることに思い至る。それら先例は、中東、朝鮮半島、南アジアのような、世界の他の地域の平和と安定への展望に前向きな影響を与えうる。

III 非核兵器地帯が核兵器の禁止と廃絶に向けた国際的努力を活性化する可能性
9. 非核兵器地帯が核兵器のない世界の達成と維持という究極的目標に向けた中間的措置であることに留意することが重要である。現在、115か国が非核兵器地帯に属しており、その内訳はトラテロルコ33か国、ラロトンガ13か国、バンコク10か国、ペリンダバ53か国、セミパラチンスク5か国、そしてモンゴルである。したがって、非核兵器地帯条約加盟国は、核兵器のない世界に向けた国際的努力の前進のための価値ある基礎となる。

10. 核軍縮の速やかな前進の政治的可能性は、非核兵器国(NNWS)である我々の牽引力にかかっていると我々は確信する。とりわけ非核兵器地帯は集団的政治機構として積極的姿勢を示し、たんに核兵器政治から隠遁している地域に過ぎないとみなされてはならない。非核兵器地帯構成国として我々が核軍縮を前進させる正統性は争う余地のないものである。それどころか、各国は核不拡散への主要な貢献者として、核不拡散の将来の基調を形作る歴史的責任がある。

11. 我々の視座に立てば、核兵器のない世界は、平和、安全、発展という人類の優先的課題を達成するために不可欠である。非核兵器地帯条約加盟国は、核不拡散分野における卓越した実績を持ち、核軍縮における確固たる地位にある。我々は法的拘束力のある国際的文書によって核兵器保有を放棄した。したがって、我々は核兵器の世界的な禁止に関する交渉を開始することによって核兵器のない世界の達成と維持に貢献することを望む。さらに、非核兵器地帯は、意図的であれ偶発的であれ、ひとたび核兵器爆発が起これば、いかなる条約もその非人道的な結末からは何人をも守りえず、非核兵器地帯加盟国であろうとも守られないことを考慮しつつ、核軍縮を促進しつづけなければならないのである。

Ⅳ 核兵器を禁止する法的拘束力のある文書の諸要素
12. 我々は、速やかな行動のためのもっとも現実性の高い選択肢は、核兵器を禁止する法的拘束力のある文書を交渉することであると確信する。当該文書は、全般的禁止事項と義務を確立し、核兵器のない世界の達成と維持のための明白な政治的誓約を宣言するものでなければならない。

13.核兵器を禁止する法的拘束力のある文書は、それ自体が核軍縮に貢献するといえよう。しかし、核兵器のない世界の達成と維持という我々の究極の目標に到達するためには、他の法的拘束力のある諸文書や一揃いの文書、核兵器を禁止する法的拘束力のある文書に付属する議定書を交渉しなければならない。

14.核兵器を禁止する法的拘束力のある文書には、核兵器の廃絶までに至る諸措置は含まれる必要はない。不可逆的で検証可能かつ透明性ある形で核兵器を破壊する交渉のための措置は、将来の交渉の主題であろう。

15. このような取決めの実質に関連して、核兵器を禁止する法的拘束力のある文書の交渉者が、このような文書に含まれる事項として検討しうるものには以下が含まれる:
(a) 核兵器または他の核爆発装置の保有の禁止、
(b) 核兵器または他の核爆発装置の使用及び使用の威嚇の禁止、
(c) 核兵器または他の核爆発装置の入手の禁止、
(d) 核兵器または他の核爆発装置の備蓄の禁止、
(e) 核兵器または他の核爆発装置の開発の禁止、
(f) 核兵器または他の核爆発装置の実験の禁止、
(g) 核兵器または他の核爆発装置の製造の禁止、
(h) 核兵器または他の核爆発装置の移転の禁止、
(i) 核兵器または他の核爆発装置の通過の禁止、
(j) 核兵器または他の核爆発装置の配置の禁止、
(k) 核兵器または他の核爆発装置の配備の禁止、
(l) 当該法的拘束力のある文書によって禁じられたあらゆる活動への関与を直接もしくは間接に援助、奨励または誘導することの禁止。

16. 要するに、核兵器を禁止する法的拘束力のある文書は、軍縮議論に法的のみならず政治的影響を与え、核兵器の廃絶と核兵器のない世界の維持を目指すさらなるイニシアチブに対し、必要不可欠な方向性を与えるであろう。このような文書は、その交渉にも発効にも、全会一致の支持を必要とはしない。

V 結論と勧告
17. 上記に照らして、我々は公開作業部会がその報告書に、総会に対する以下の勧告を含めることを提案する:
(a) 2017年に、すべての国、国際機関及び市民社会に開かれた、核兵器を禁止する法的拘束力をもった文書を交渉するための会議を招集すること。
(b) 決議68/32に従い、2018年までに招集される国連ハイレベル国際会議に、そのような文書の交渉の進捗を報告すること。
(訳:ピースデポ)