核兵器・核実験モニター バックナンバー

【日誌】核・ミサイル/沖縄(16年9月21日~10月20日)

公開日:2017.04.14

ACSA=物品役務相互提供協定/CTBT=包括的核実験禁止条約/DPRK=朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)/ICJ=国際司法裁判所/THAAD=高高度防衛ミサイル

●9月21日 ミャンマーがCTBT批准。批准国は計166か国に。
●9月21日 原子力関係閣僚会議、「もんじゅ」を「廃炉を含め抜本的に見直し」。
●9月23日 国連安保理、CTBT早期発効と核実験自制を各国に求める決議を14か国の賛成で採択。エジプト棄権。
●9月23日 李DPRK外相が国連総会演説。核開発は「米の核の脅威からの正当な自衛措置」「安保理決議守らず核開発を継続」。
●9月24日付 シリア停戦が事実上崩壊。アサド政権軍が22、23日、反体制派が掌握する北部アレッポに過去最大級の空爆。 
●9月24日 英労働党首選で核戦力更新反対のコービン前党首が再選。
●9月26日 日米両政府がACSA改定。米への「後方支援」を大幅拡充。
●9月26日 衆参両院、DPRKによる5度目の核実験に対する抗議決議を全会一致で採択。
●9月26日 DPRK核実験で米政府が独自制裁。DPRKの銀行と取引の中国企業1社などの資産凍結。
●9月29日 自衛隊員の家族ら50人が自衛隊の活動差止など求める安保法違憲訴訟、東京地裁で第1回口頭弁論。
●9月30日 韓国国防省、在韓米軍のTHAAD配備先を最終決定。17年運用開始めざす。
●10月1日 朴韓国大統領、「国軍の日」記念演説でDPRK市民に脱北呼びかけ。
●10月2日 ドゥテルテ比大統領、米軍の事実上の再駐留を認めた「米比新軍事協定」見直しの可能性に言及。
●10月2日 米海軍艦船2隻が越の要衝カムラン湾に寄港。ベトナム戦争後初。
●10月3日 プーチン露大統領、兵器級余剰プルトニウム処分についての米との協定実行停止の大統領令に署名。
●10月3日 長崎原爆遺跡が国の史跡に指定。6月の文化審議会答申を受け。
●10月3日 米国務省、シリア内戦めぐるロシアとの停戦協議を中止と発表。ロシアの合意違反を批判。
●10月3日 国連総会第1委員会で討論開始。(本号参照)
●10月5日 防衛省、DPRKの5度目の核実験の規模はTNT火薬換算で推定11~12キロトンとの分析結果を発表。
●10月5日 マーシャル訴訟でICJが訴えを退ける判決。(本号参照)
●10月6日 被団協、核兵器禁止条約を求める約56万人分の署名を国連に提出。
●10月8日 リトアニア外相、ロシアが弾道ミサイル・イスカンデルをカリーニングラードに配備と明かす。
●10月11日 在ロDPRK大使館、「2020年までに20~100発の核弾頭を製造。最終目的は米大陸への攻撃」との声明発表。
●10月13日 韓国大統領諮問機関、米戦術核再配備を促す建議書を公表。
●10月15日 米・韓軍、DPRKが中距離弾道ミサイル・ムスダンの発射に失敗と発表。
●10月19日 米ワシントンで米韓2+2協議。拡大抑止に関し新たな高官協議の枠組み設置に合意。
●10月20日 DPRKが再度ムスダン1発を発射したが失敗。米軍発表。

沖縄

●9月21日 東村高江の住民33人、北部訓練場ヘリパッド建設差し止め求め国を提訴。
●9月22日 AV88ハリアー戦闘攻撃機1機、沖縄本島東沖に墜落。乗組員は無事。米本国所属機。8月に岩国から嘉手納に飛来。
●9月23日 宜野湾市議会、普天間飛行場固定化阻止に向け「あらゆる手段を講ずる」よう求める意見書を賛成多数で可決。
●9月23日 辺野古承認取消違法確認訴訟。県、埋立て承認取消しを「違法」とした高裁判決を不服とし最高裁に上告。
●9月24日 稲田防衛相初来県。翁長知事、ハリアー機墜落事故に抗議。普天間県外移設・オスプレイ配備撤回などの要望書手渡す。
●9月26日 安倍首相、所信表明演説で北部訓練場ヘリパッド建設「年内完了」を明言。
●9月28日 北部訓練場ヘリパッド建設現場で抗議活動を行う市民らを機動隊がロープで縛り強制排除。男性1人がけが。
●10月2日付 オスプレイ配備4年。15年度の離着陸回数2,363回(前年比372回減)。全体に増加傾向、22時以降の飛行も常態化。
●10月7日 AV8Bハリアー戦闘攻撃機、嘉手納飛行場で飛行再開。事故原因不明のまま。
●10月8日 菅官房長官来県。北部訓練場ヘリパッド建設を上空から視察。翁長知事・伊集東村長らへ「年内返還めざす」と明言。
●10月11日 北部訓練場ヘリパッド建設現場での報道記者強制排除は「報道の自由の侵害に当たらず」との政府答弁書を閣議決定。
●10月11日 北部訓練場ヘリパッド建設工事、N1・G・H地区で計約2万4,262本の立木伐採を計画。伐採範囲は3.8ha以上に。
●10月13日 辺野古埋立て承認取消しから1年。翁長知事、最高裁判決後の埋立て承認撤回の可能性「十二分にある」と述べる。
●10月13日 ネラー海兵隊総司令官、辺野古移設計画の遅れを理由に普天間飛行場の施設を最新化し整備する考え強調。
●10月17日 北部訓練場ヘリパッド建設現場警備への費用支出は違法だとして、東村高江住民ら389人が住民監査請求。
●10月18日 北部訓練場ヘリパッド建設現場で抗議活動の市民に対し、機動隊員が「土人」「シナ人」と暴言。
●10月18日 沖縄防衛局、北部訓練場の部分返還について実施計画案を県へ提出。原状回復期間を「1年~1年半」に大幅短縮。
●10月19日 翁長知事、機動隊員の「土人」発言は「言語道断で許されない」と強く批判。

くわしく

【特別連載エッセー「被爆地の一角から」98】「岩盤に穴をあけよう」土山秀夫   “朝鮮半島とその周辺で核の脅威を取り除く”――北朝鮮外務省がかつて発表した2つの声明の中に、北東アジア非核兵器地帯への合意のカギが見える。

公開日:2017.04.14

 本誌505号に掲載された文正仁・延世大学名誉教授による論考が目を引いた。「北東アジア非核兵器地帯に進むべき時」と題したこの論考は、最近、特に相次ぐ北朝鮮のミサイル・核実験の挑発に対して、今こそ北東アジア非核兵器地帯構想を推進すべきではないか、と冷静に呼びかけている。
 同様趣旨のアピールは、すでに長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA:梅林宏道前センター長、鈴木達治郎現センター長)が中心となり、元米政府高官モートン・H・ハルペリン氏やノーチラス研究所長ピーター・ヘイズ氏らを交えた国際ワークショップを4回重ねて提案している。ただその際、問題となるのはこうした北東アジアへの包括的アプローチに対して、実際に米国および北朝鮮の両政府が真剣にこれに応じるか否かである。米国ではオバマ政権にもはやその余力はなく、新大統領の発足は事実上年明け以降となる。
 他方、北朝鮮の金正恩政権は、弾道ミサイルや核兵器開発の技術の進歩を内外に見せつけ、意気大いに上がっているだけに、みすみすこれらの兵器を手放す気などなさそうに見える。しかし、もし正恩氏が長期的視野に立ち、朝鮮半島の戦争状態を終結させようと試みた先代の金正日氏の思考を継承する時が来れば、決して解決の可能性もなしとはしないだろう。金正日氏の思考は、6カ国協議の半ばに北朝鮮の代表が自分から「92年の『朝鮮半島における南北の共同非核化宣言』は故金日成主席の遺訓であって、今日でもなお生きている」と発言したことによって表されていた。
 それ以外にも手掛かりはある。例えば筆者たちNGOと長崎県・市共催でほぼ3年毎に開かれている「核兵器廃絶―地球市民集会ナガサキ」の第2回大会(03年11月)前に、北朝鮮の平和団体代表と称する人物(恐らく政府の息のかかった者に違いない)から、自分もぜひ集会に参加したいのでプログラムを送ってくれとの要請が、実行委員長の筆者あてに届いた。書類一式を送ると喜んで出席する旨の返事があった。関心はたぶん「非核兵器地帯と核の傘」のセッションではないかと想像した。ところが直前になって、やむを得ぬ事情で出国できなくなった。ついては集会の報告集が出るようであれば、せめてそれを送っては頂けまいか、とのことであった。もう1つの例を示そう。06年に入って北朝鮮は10月に核実験を実施した。その直前と前年に発表された同国外務省の声明文とを分析し、筆者は北朝鮮の意図について本誌の当エッセーで詳述している。
 結論のみを要約すれば、06年の10月3日の声明には「我々の最終目標は朝鮮半島で我々の一方的な武装解除につながる非核化ではなく、朝米敵対関係を清算して朝鮮半島とその周辺であらゆる核の脅威を根源的に取り除く非核化である」と書かれている。一方、前年05年2月の声明では、米韓合同演習に際して、日本やグァム島から飛来した米空軍による核攻撃訓練に言及した上で「もし米国の核の脅威が朝鮮半島およびその周辺から完全に除去されるならば、半島内のみでなく、他の東北アジアにおいても永遠の平和と安定を確実にすることが可能となろう」と指摘している。つまり年次の異なる2つの声明文に傍線部が繰り返されており、しかも「周辺」には日本の米軍基地を含むことが明らかであり、スリー・プラス・スリーの日・韓・北の非核化と完全に符合する。筆者は合意のカギをここに見る。
 いずれにしても日本政府は、今や北東アジアの不安定要因を取り除くため、非核兵器地帯実現に向けて、本気で乗り出すべき時を迎えているのではないか。もはや“圧力”だけで北朝鮮が核兵器を手放すなどという幻想を捨て、彼の国への水面下での働き掛けを行うことは、むしろ唯一の戦争被爆国日本ならではの責務というべきであろう。

くわしく

【資料】アシュトン・カーター米国防長官の演説 核兵器廃絶国際デーの9月26日に米ノースダコタ州マイノット空軍基地で行われた演説の抜粋訳。

公開日:2017.04.14

国際核兵器廃絶デーである9月26日、アシュトン・カーター米国防長官はICBM(大陸間弾道ミサイル)ミニットマンIIIと戦略爆撃機が配備されているノースダコタ州にあるマイノット空軍基地を訪れ、基地の軍人に向けて核兵器事業の重要性について演説した。核抑止は、米国やその核の傘に依存する同盟国を守るためだけでなく、それにより同盟国が核開発に向かうことをとどめていると主張している。とりわけロシアと北朝鮮の核兵器に対する姿勢を疑問視し、これらの脅威に備えるために、米国が十分な核戦力を保持することが安定をもたらすとする。しかし冷戦後、約25年にわたり核兵器事業に十分な投資がされなかったことから、今、老朽化した核兵器の更新が不可欠となり、核兵器事業への投資を増額せねばならなくなっていると主張している。米国の核兵器政策の現実の姿を知るための好資料として翻訳した。

(前略)
 こんにち、諸君と諸君の任務は多くのレベルにおいて重要な役割を果たしている。戦略レベルにおいては言うまでもない。諸君はアメリカ合衆国と同盟国への大規模な核攻撃を抑止している。諸君のおかげで、我々は潜在的な敵国が通常兵器の攻撃に失敗してもそれ以上にエスカレートさせないと確信することができる。
 同盟国が厳しい戦略環境にさらされ、彼らが核兵器を開発することは技術的には容易な場合でさえ、諸君は同盟国に我々の拡大抑止の保証は信頼できることを確信させ、同盟国の多くに核開発を思い止まらせている。
 そしてもし抑止が崩れた場合には、諸君は大統領にアメリカと同盟国が目的を達成するための選択肢を提供する。オバマ大統領は、諸君と同じように最も真摯な責任感をもってそれを遂行するであろうことを私は知っている。すべては、何よりもまず核兵器が使用されるリスクを減じるためだ。
(略)

核抑止の本質は不変だが、態様は変わった

 ある意味で核をめぐる状況は変わった。我々は新型の核兵器や運搬手段を過去25年間生産していない。しかし他の国々は生産している。同時に、状況のもうひとつの断面をみれば、アジア、中東、NATOのわが同盟国は核兵器を作らなかった。したがって我々は核抑止力を維持し続けなければならない。
 ロシアは長年にわたって核兵器大国であり続けてきた。しかしロシアの近年の武力による威嚇や新型核兵器の生産をみれば、ロシア指導部が、戦略的安定性への誓約や、長年かけて定着してきた核兵器使用に対する嫌悪感、冷戦期の指導者たちが核兵器をちらつかせることに関して示した十分な慎重さを、尊重しているのかどうかは大いに疑問だ。
 一方、北朝鮮の核とミサイルによる挑発は、多様かつダイナミックな核の脅威が依然として実在することを示している。よって我々の抑止力は信頼に足り、地域の同盟国に拡大されるものでなければならない。それは先ず、諸君がマイノットから差しかけている抑止の傘、我々の空軍の通常兵器による支援部隊、さらには同盟国に対する攻撃を抑止するために朝鮮半島で週7日24時間体制で警戒にあたっているわが部隊に始まる。それはまた、我々が北朝鮮の脅威に向けられたより強固なミサイル防衛を構築しつづける理由でもある。我々は地上配備型迎撃ミサイルをアラスカとカリフォルニアに配備し、韓国との間で高高度防衛システム=THAADを配備することに合意した。しかも、これらすべては、米国や同盟国へのいかなる攻撃も撃退されるというだけでなく、いかなる核兵器の使用も圧倒的で効果的な反撃を受けるという誓約によって裏付けられている。
 ロシアと北朝鮮の2国は、互いに様相は大きく異なるが、核を巡る状況の進展の中で際立った国々である。他国に目を転じれば、例えばインドは一般的には核技術に関して責任あるふるまいを示している。中国もまた、質的・量的に核兵器を増強させているが、核の分野での行動は洗練されている。イランの核への野望は制約を受けてきており、彼らの活動の透明性は昨年の核合意により向上している。合意の履行が続く限り、イランの核兵器の保有は検証可能な形で防止されるだろう。私が挙げたい最後の例は、核兵器が緊張の歴史の中で複雑化しているパキスタンである。パキスタンは米国に対する直接的な脅威ではないが、我々はパキスタンとの間で安定性を確保するために協議を行っている。
 核兵器が存在しない場所について言及しておくことも重要だ。つまり、オバマ大統領の核保安サミットや、私が1990年代に従事していたナン・ルーガー協調的脅威削減プログラムといった核の安定性、安定な同盟関係、核不拡散や軍備管理努力のような分野の成功事例が、核兵器の拡散を阻止し、旧ソ連にあった緩んだ管理の核兵器の危険が脅威になることを防ぎ、核テロの可能性を遠ざけた。これらは全ての大国が引き受けるべき政策課題である。これらの努力の結果、核兵器が拡散する可能性があったにもかかわらず、それが防がれた場所が世界中には多くある。
 冷戦終結以来変化してきたものがある一方で、核抑止の本質は変わっていない。2016年においてさえ、抑止は依然として、潜在的な敵国の感じ方、すなわち彼らが我々の意思と行動能力について何を見て、結果として何を信じているか、に依存している。このことは潜在的敵国の感じ方が変化するのに応じて我々の戦略と行動も変化しなければならないことを意味している。実際、我々の抑止の態様は静的ではありえない。抑止力は、競争や攻撃を招くよりはむしろ核使用の抑制を強固にして戦略的安定性を保ち続けながらも、脅威の変化に適応しなければならない。これが重要である。なぜなら、そうすることによって抑止力の強化は核戦争の敷居を下げるのではなく、それを高いものにするからである。
 しかしながら今日、次のような現実が厳然として存在する。核兵器が、冷戦期の古典的な大規模応酬において使用されるとは考えにくい。むしろ、例えばロシアもしくは北朝鮮が、危機的局面に際して通常兵器で優位な敵国に、後退や同盟国を見捨てることを強いるために小規模ながら前例のない恐ろしい攻撃をかけるという、愚かしい最後の手段として核兵器が使用される可能性が高い。我々はそのようなことを起こさせてはならない。それゆえに、抑止力を持続し戦略的安定性を保ち続けるような新しい方法を編み出し運用するため、我々は両地域の同盟国と協働している。
 大西洋を挟んで、我々はNATOの核教本を刷新しつつある。通常抑止力と核抑止力をよりよく統合し、戦闘と同じように計画や訓練を確実に行えるようにし、ロシアが、NATOとの紛争において核使用から利益が得られると考えたり、誰かが言うように「エスカレートしないようにエスカレートする」試みをすることがないようにするためである、言うまでもなく、そもそも我々はそのような紛争を求めていない。我々が求めているのは紛争の防止である。信頼に足る反撃オプション、つまり抑止を目的としたオプションとして、核・非核両用の航空機、B-61爆弾、空中発射巡航ミサイルを保有することによって、我々は他の国による核兵器の限定的な使用が起こりにくいようにしている。
 一方、太平洋の向こう側で、我々はアジアにおける核抑止への挑戦に対処する姿勢であることを明確にするために、同盟国である日本、韓国と抑止に関する公式の対話を行っている。諸君の仕事や、諸君が提供する能力がこれら対話の中での共通の話題であることを諸君に知って欲しい。なぜならそれらは同盟国への核攻撃を抑止する重要な役割を果たしているからである。それが、この6月、3か国が抑止力維持を目的に、共同で弾道ミサイル警戒演習を実施した理由でもある。

抑止力への投資を増額せねばならない

 そして、ここ米国においては、我々は核の三本柱の柱の全てが経年によって老朽化しないような方策を取ることで、抑止力を持続させている。これはオバマ大統領が2009年にプラハで「核兵器が存在する限り、米国はいかなる敵をも抑止し、我々の同盟国を防衛することを保証する、安全、安心で効果的な核兵器を維持するだろう」と語って明らかにした政府の政策の一つである。
 この誓約は大統領が2010年に核態勢見直し、2013年に核使用指針を発表した際にも再確認された。そしてこの誓約は大統領が7年半の間に議会に提出したすべての防衛予算にも反映されている。今年1月、2月に発表された2017会計年度の最新の予算も然りである。
 このことに関連して、我々は今、数十年に及ぶ核抑止力への過小投資を是正するプロセスを開始している。数十年というのは誇張ではない。なぜならそれは、核兵器事業への投資が劇的に落ち込んだ冷戦終結時まで遡ることができるからだ。それ以来過去25年にわたって我々は基本的な維持と運用への控えめな投資のみを行ってきた。そしてそれが十分でなかったことが明らかとなっている。なぜなら核兵器が老朽化するにつれ、それを維持し続けるために、諸君のような有能な人材や国防総省、エネルギー省の人材に余計な苦労を掛けなければならなかったことを意味していることが、今や我々にはよくわかっているからである。これが、我々が3本柱を維持するためだけでなく、諸君が必要とする資源、諸君がキャリアを発展させる機会、そして諸君の成功を可能にするマネジメント体制と環境、といったものを確保するために今、投資をしている理由である。
 2017年、我々は総額190億ドルを核兵器事業に投資する。それは向こう5年間にわたる投資計画1,080億ドルの一部である。それは、核戦力と関連する戦略的指揮・統制・通信・情報システム――要員、装備、車両、整備への予算の増額から我々の爆撃機部隊などを維持する技術的な努力にまでわたる――を維持し再構築するためのものである。
 周知のように、これらの投資は、老朽化した戦力への投資が過小であるとの認識を述べた2014年「核兵器事業見直し」の勧告を履行し続けていることを反映している。その結果、我々は改善のために過去2年間で約100億ドルを投資した。
(略)
 加えて、大統領の予算は核抑止力を維持するために必要とされる能力が、時代遅れにならないことを保証する我々の計画の第一段階に満額の予算をつけている。これには旧式のICBMを整備費用が少なくて済む新型に更新すること、老朽化した空中発射式巡航ミサイルをより有効な長射程スタンドオフ兵器に更新することなどによって、戦略爆撃機がより先進的な防空システムに対しても有効であるようにすること、核・非核両用の航空機部隊のF-16をF-35とB61-12重力落下式爆弾に更新すること、及びオハイオ級弾道ミサイル潜水艦の後継艦を建造することを含む。
 このことが重要であることには多くの理由がある。その理由のために、この国が向こう数年間に正しい投資を行うものと私は確信している。
 第1に、もし我々がこれらのシステムを更新しなければ、単純にそれらはさらに老朽化し、危険になり、信頼できなくなり、効果を失う。我々の核兵器運搬システムの大部分は当初想定された寿命を越えて、既に何十年も延長されているというのが事実だ。したがって我々が迫られている選択は、これらプラットフォームを更新するか維持するかではなく、更新するか失うかというものなのだ。それは我々の抑止能力に対する信頼が失われることを意味する。今日の不安定な安全保障環境の中で、我々にそれはできない。
 第2に、これらの投資は通常、単純に核の近代化と呼ばれるが、この呼び方は抑止力の維持を意味するという限りにおいて正しい。これらの投資は抑止力の性質やそれがいかに機能するかを変更するものではない。詰まるところ、誰もそんなことはできないのである。
(略)
 もちろん、このためには費用がかかる。しかし核兵器事業に投入される資金は、かかったとしても国防費全体の中で比較的小さい割合であることを、多くの人は認識していない。老朽化したプラットフォームを更新するに際しても、我々はこの事実が変わるとは思わない。
 詰まるところ、これは我々の安全保障の根本の維持に関わることなのだ。あまりにも長い年月にわたって十分に投資されなかった結果に対して、国家としてなさねばならない投資なのだ。なぜなら21世紀において核抑止力を維持することは死活的に重要なのだから。
 もちろん、この任務が確実に成功するように投資するときにおいても、我々は、人々が確実に成功するように、諸君が確実に目標達成できるように投資を続けるであろう。なぜなら我々の抑止力は、適切な人々――諸君のような人々、我々が頼れる人々――我々の核事業に人員配置を行い、装備を整え、運用し、警備し、支援するのに適切な人々を有していなければ信頼に足るものにならないからだ。しかも今日だけでなく、将来にわたって。
(後略)    
    (訳:ピースデポ)
原文:
www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript-View/Article/956079/remarks-by-secretary-carter-to-troops-at-minot-air-force-base-north-dakota

くわしく

【寄稿】マーシャル核ゼロ訴訟は却下   国際司法裁判所「紛争はない」――再提訴の可能性も   山田寿則

公開日:2017.04.14

 2016年10月5日、国際司法裁判所(ICJ)はいわゆるマーシャル訴訟についてマーシャル諸島共和国(RMI)の訴えを退ける判決を下した。ビキニ被爆でも知られるRMIは、2014年4月24日に核保有9か国を相手取り、被告等が核軍備競争の早期停止と核軍縮の効果的措置につき誠実に交渉する義務の履行を怠っているとして、義務不履行の認定と判決後1年以内に効果的な核軍縮措置を取るよう命じることを求めて、ICJに提訴していた。RMIはこの義務を核不拡散条約6条およびこれと同内容の慣習国際法を根拠として主張した。
 裁判は被告9か国のうちICJの裁判を受ける義務を受諾している英印及びパキスタンをそれぞれ被告とする3事件について進められた。被告等は各自の事件につきICJの管轄権の存在や訴えの受理可能性を争う抗弁を提起したため、ICJはまずこれらの問題を審理し判決を下すこととなり、16年3月には口頭弁論を行い、判決が待たれていた。

紛争認定をめぐって僅差の評決

 今回の3判決はほぼ同一内容であり、その主文では、①原告と被告の間に「紛争」は存在しておらず、②本案(訴えの内容の審理)に進むことはできないとされた。「紛争」がない以上、法律的「紛争」の裁判を任務とするICJにはそもそも管轄権(裁判する権限)がないこととなり、他の争点を審理する必要もないため、これ以上裁判を続けることはできないという趣旨である。
 国際裁判では、本案に進む前に、訴えを審理する権限がその裁判所にあるかどうか(管轄権の問題)、訴えが適切になされているか(受理可能性)がしばしば争われる。今回の判決はこの前段階における判決であり、原告の訴えは完全に門前払いされた。
 この「紛争」の存否は3事件共通の争点であり、被告らは、原告から外交経路を通じての抗議や通告もなかったことなどを根拠として、提訴時に原告との2か国間で核軍縮交渉義務の履行をめぐっての紛争は存在していなかったと主張した。RMIは、事前通告や交渉はICJにおける提訴の条件となっていないし、提訴後の法廷における見解対立からみて紛争の存在は明らかであり、また提訴に先立つ国連総会や核兵器の非人道性に関する会議(2014年2月ナジャリット)等で核保有国の義務違反について指摘している等と反論した。
 ICJは、自らの判例を踏襲して紛争とは「法的又は事実に関する論点の不一致、法的見解の衝突」であることを確認したうえで、その存否は形式ではなく実質により決まるから、事前交渉や公式の抗議、提訴意図の通告も不要だとして、被告主張の一部を退けつつも、提訴時に「被告が自らの見解が原告により『積極的に反対されている』ことを認識していること、または認識していなかったはずがないことが、証拠に基づき示されている場合に、紛争は存在する」との基準を示した(認識テスト)。ICJはこの基準に照らしRMIの諸声明はこの要件を満たしていないなどとして、提訴時に「紛争」は存在していないとした。
 ICJは認識テストというハードルを課して紛争の存在を否定したが、判事間では大きく見解が分かれた(前記主文①の賛成・反対が対印・対パ事件では9対7、対英事件では8対8で所長の決定投票により採択)。反対した判事たちは一様に認識テストが従来の判例に反すると批判しているし、過度の形式主義だとの指摘もある。

再提訴の可能性

 ICJは一審制であり、これで裁判は終結した。新事実に基づく再審は例外的に認められるが、これとは別に、今回は「紛争」が存在しないと判断されたからRMIには再提訴の可能性がある。この裁判で被告らは自らの見解が原告により「積極的に反対されている」ことを明らかに認識したから、現時点ですでに「紛争」が存在しているとさえいえる。実際、複数の判事の個別意見では再提訴の可能性が言及されている。
 だが、RMIが直ちに再提訴に及ぶ場合、今回の判決がほぼ無意味となることをICJがどう判断するか、被告らが今後管轄権受諾宣言を撤回したり留保を付加する可能性はどうか、判断されなかった他の争点を克服できるかなど、検討課題は多い。何より再提訴へのRMIの意志も注目点だ。もちろん、新訴訟の原告はRMIに限定されるわけではなく、新たな決意をもつ別の国が原告となることを妨げるものではないし、被告も核保有9か国に限らないことにも注目しておきたい。

くわしく

<資料2>オーストリア代表トマス・ハイノツィ大使の声明(抜粋訳)

公開日:2017.04.14

【資料2】
オーストリア代表トマス・ハイノツィ大使の声明(抜粋訳)
2016年10月14日
(前略)
 本委員会でのこれまでの議論の中で、我々の決議案に関する数々の疑問が提起された。
 まず第1に、禁止条約が国際的な不拡散・軍縮体制の要たるNPTと両立するのかという点が挙がった。我々の見解では、提案されている条約はNPTと完全に整合するだけでなく、特に6条の履行について大きな前進となりこれを促進する。NPTの定義する非核兵器国にとっては、禁止条約は核兵器を追い求めないとの既存の誓約をいっそう強める。NPTは特定の5か国による核兵器の保有を認めているが、NPTが無期限の保有を容認する静的な条約でないことは明らかだ。むしろ、グローバルな核軍縮という目標が明確に述べられている。新たな規範への署名、批准により、これらの国々は6条下の軍縮義務を果たすことになる。
 核抑止は国家安全保障にとり不可欠だという議論がよく聞かれる。オーストリアはこれを信じない。もしもその通りだとすると、もっと多くの国が同じ論理に従う必要を感じ、これら兵器を入手したいと思うはずである。我々は危険な道に踏み出すことになる。核兵器のいかなる使用によってももたらされる壊滅的な人道上の結末は――意図的であれ事故によるものであれ――受け入れられるものではなく、これが使用者自身に跳ね返ってくるのは避けられない。したがって、冷静に分析すれば核兵器保有は安全保障にとって不都合である。幸い、この見解は我が国のみにとどまらない圧倒的多数の国のものである。これら諸国は核兵器入手の計画を持たず、極端に言えば地球規模で集団自殺を図るという脅しではない、より人間的で理性的な基盤の上に自国の安全保障を築くことに成功している。この文脈において、かつては核兵器入手計画あるいは核兵器自体を持っていたものの、その肯定面と否定面を慎重に検討した結果これを放棄することに決めた国々の例は、大いに示唆的である。
 禁止条約の交渉は非現実的な選択肢だと主張する声もある。我々は、過半数の国々が参加する交渉過程が信用性や現実性を欠いているとは思わない。類似の法的拘束力ある文書で初めから普遍性を備えていたものはなく、ゆえにここでもそれは期待しない。
 我々はまた、核兵器の廃棄は一夜にして、また禁止条約のみによって成し遂げられるようなものではないことも現実的に承知している。むしろ禁止条約は完全かつ裏付けのある履行を確実にするのに必要な仕組みを確立するための基盤を築くであろう。大量破壊兵器を扱う法的拘束力のある文書での経験が示すように、まず法規範が形成され、次にその履行のための具体的、実践的、法的な諸措置が続かなければならない。化学・生物兵器、対人地雷、クラスター弾を例にとると、それらはすべて禁止条約の採択の後で廃棄が始まった。核兵器について類似のアプローチが成功しないという理由はない。
 オーストリアは、核兵器のない世界の達成という何より重要な目標に寄与するすべての法的、実践的措置を全面的に支持する。例えばCTBTの発効と普遍化、FMCTの交渉、核軍縮のための効果的な検証手段の構築、核兵器国による消極的安全保証の提供や先行不使用政策の採用、警戒態勢解除のための諸措置、安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割の重要性の低減、その他の措置である。これらすべての措置は、核兵器を禁止する法的拘束力ある文書の制定と同時に取り組めるし、またそうしなければならないというのが我々の信ずるところである。(後略)
(訳:ピースデポ、強調は編集部)

くわしく

<資料1>米国代表ロバート・R・ウッド大使の声明(抜粋訳) 

公開日:2017.04.14

【資料1】
米国代表ロバート・R・ウッド大使の声明(抜粋訳)
2016年10月14日
(前略)
 今日、この実際的で合意に基づくアプローチ[訳注:米国がこれまで取ってきた核軍縮アプローチ]を捨て去り、代わりに端的に核兵器の禁止を宣言するという根本的に違う道を追い求めるときが来たと信じる国々がある。我々は、現行のアプローチに適用するのと同じ規準に照らして、この新しいアプローチを評価せねばならない。(略)
 第1に、核兵器禁止条約はさらなる削減にはまったくつながらない。なぜならそこには核兵器を保有する国々が含まれないからである。禁止条約の提唱者たちは条約はすべての国に開かれていると言うが、自らの安全を核兵器に頼っている国が一体どうして、これを忌むべきものとして廃棄することを意図する交渉に参加できよう。
 第2に、禁止条約は既存の不拡散・軍縮体制を弱体化させる。それは国家間に埋めがたい分裂を作り出し、核軍縮をめぐる政治的環境を分極化させ、そしてNPT再検討プロセスであれ国連であれ軍縮会議(CD)であれ、そこにおける今後の合意達成へのいかなる見込みをも事実上、制限する。このような分裂の深まりは、核エネルギー平和利用での協力強化や不拡散の柱の増強のための構想などNPTの他の側面にも影響しかねず、同条約の3本柱を相互促進的な利益ではなく競い合う優先事項として扱う傾向に拍車をかけかねない。核兵器に関わる安全保障上の考慮を排除すれば、核軍縮の進展を持続するのに必要な「効果的措置」について議論する余地はなくなり、ひいては必要な対話が促進されるのではなく妨げられる。
 第3に、検証体制は核軍縮・不拡散の合意の成功の鍵を握る要素である。検証能力は、地域的および国際的な安全保障を維持しつつさらなる削減を行うのに必要な信頼を提供する。合衆国は、核兵器国と非核兵器国の双方を含む核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV)などを通じて、将来の軍備管理合意を検証するという極めて現実的な課題に対処すべく積極的に取り組んでいる。しかしながら、今日1つはっきりしているのは、我々はいまだにその課題を克服しておらず、すべての核兵器を禁止する条約を効果的に検証するのに必要な能力を構築できていないということである。
 最後に、禁止条約は地域の安全保障を弱体化させる危険をはらんでいる。我々は、世界のいくつかの場所では核兵器が相変わらず平和と安定を維持するため一定の役割を果たしているという現実を否定することはできない。その現実を無視すれば我々は危険にさらされる。さらには、国々がその安全保障環境の見直しを強いられることから地域が不安定になる。各国がそもそも現行の安全保障体制を採用するに至らしめた、根底にある安全保障上の懸念に対処することなく、非核兵器国と核兵器国に同じように現行の安全保障体制を拒否するよう求めるのは、非現実的である。(略)
 このような諸々の理由から、合衆国は核兵器禁止条約交渉の場を設定するいかなる決議にも「反対」の票を投じ、交渉には参加しない。他のすべての国に対し同じ行動をとるよう要請する。(後略)
(訳:ピースデポ、強調は編集部)

くわしく

【国連総会第1委員会】核兵器禁止条約「17年交渉開始」で歴史的攻防――条約の中身が今後の核心課題   

公開日:2017.04.14

国連総会第1委員会(軍縮・国際安全保障)は10月12日からテーマ別討議に入り、核兵器に関する各国の発言は13、14、17日に集中した。決議案の提出は13日に締め切られ、核兵器に関するものは二十数本が投票に付される。そこにはオーストリアなどによる、核軍縮公開作業部会(OEWG)勧告を踏まえた「核兵器禁止交渉会議を2017年に開催する」決議案も含まれる。討議では米、仏、英など核保有国が「禁止」に強い反対を表明し、豪州やNATO諸国など核依存国がこれに同調する一方で、オーストリアはじめ多数の国々がそれらに反論しつつ前記決議案への支持を表明した。米国などは水面下で決議案に賛成しないよう説得工作を行っていると伝えられており、禁止条約交渉開始をめぐる攻防は大詰めを迎えている。

テーマ別討議「核兵器」の焦点は禁止条約

 焦点の「核兵器禁止交渉開始」決議案(A/C.1/71/L.41)は「多国間核軍縮交渉を前進させる」と題され、2012年以来毎年総会で採択されてきた同様の標題の決議1に連なるもので、オーストリア、ブラジル、アイルランド、メキシコ、ナイジェリア、南アフリカをはじめ少なくも50か国が共同提案国となっているとされる。同決議案はOEWG報告書を「歓迎」し、「核兵器を禁止し全面的廃棄に導く法的拘束力のある文書を交渉するため2017年に国連の会議を招集することを決定」し、その会議を17年3月27~31日と6月15日~7月7日にニューヨークで開催するとしている。「核兵器を禁止し全面的廃棄に導く」という以上に条約の具体的内容には踏み込んでいない。
 第1委員会では、上記L.41決議案やこれが依って立つ2016年OEWGとその報告書・勧告をめぐり、活発な意見の応酬があった。特に、OEWG議長を務めたタニ・トングファクディ大使(タイ)が14日冒頭に報告書(A/71/371)を紹介して以降、17日にかけては、OEWGの意義やその報告書・勧告の評価、そして禁止条約の是非に議論が集中した。米仏その他の核保有国や核依存国から禁止交渉開始の動きを強い言葉で批判する発言が相次ぎ、OEWGの成果を擁護し禁止条約を推進する諸国の意見と鋭く対立した。
 以下、これまでも繰り返されてきた議論であることは承知の上で、各国政府代表の発言原稿2を主たる手がかりに、禁止条約をめぐる主な意見の対立点を改めて書き出してみたい。禁止条約交渉開始への反対論として米国、賛成論としてオーストリアの各代表の声明の抜粋訳を、それぞれ資料1、2として4ページに示す。

論点1:禁止条約の核兵器削減効果

 禁止条約反対派の批判として、まず、「核兵器国の参加なしには核兵器は廃棄されない。つまりこの条約によっては具体的な核軍縮措置は生まれず、表明されている欲求不満は解消されない」(仏)、「禁止条約は核兵器を1つもなくさない」(豪)といった、禁止条約は核兵器の実際の削減効果がなく無意味だとの主張がある。米国も同趣旨の発言をしている。そこでは核保有国の禁止条約加盟が全くあり得ないことが前提とされている。米国は「自らの安全を核兵器に頼っている国が一体どうして、これを忌むべきものとして廃棄することを意図する交渉に参加できよう」と言う。
 この主張に関しては、次の3つのことが問われるように思う。
 第1に、禁止条約への核保有国の参加が本当にあり得ないのかという問題がある。この点に関してはオーストリアが核保有国も禁止条約に加盟しうることを示唆している(次項で詳述)が、その理由までは述べていない。OEWGでは、例えば核廃絶への政治的誓約に関する条項を含む「枠組み合意」や「ハイブリッド・アプローチ」では核保有国の参加も可能だといった議論がされている3。
 第2に、仮に核保有国の参加があり得なかったとしても、それにより本当に禁止条約が核兵器削減効果を持たないと言えるのかが問題となる。これに関しても第1委員会の政府発言ではないものの「禁止条約の要素」をテーマとするサイドイベントで、これまで政府やNGOの作業文書などで提案されてきた条約の条項が規範的・法的・経済的・社会的効果を持ちうることが議論されている4。
 そして第3に、仮に禁止条約自体に直接の核兵器削減効果がなかったとしても、そもそも、禁止推進派の国々は従来からの諸措置に加えて禁止条約が必要だと言っているのだ。オーストリアは「我々は……核兵器の廃棄が……禁止条約のみによって成し遂げられるようなものではないことを現実的に承知している」「核兵器のない世界の達成という何より重要な目標に寄与するすべての法的、実践的措置を全面的に支持する」「すべての措置は、核兵器を禁止する法的拘束力ある文書の制定と同時に取り組めるし、またそうしなければならない」と述べる。同趣旨の発言はニュージーランド、ブラジルなど多くの国が行っている。
 あたかもこれらの国々が禁止条約のみで核廃絶をしようとしているのを前提とするかのような反対派の立論は、土台から間違っているように思える。米国は禁止条約実現の動きについて、従来のやり方を「捨て去り、代わりに端的に禁止を宣言する」ものだと決めつけているが、上記のような各国の発言をみれば、従来のやり方を捨て去ろうとはしてはいないことが明白である。また、どのような禁止条約なのか具体的に議論せずにそれを「端的に禁止を宣言する」と言い切るのは少し乱暴ではないか。

論点2:禁止条約とNPTの関係

 次に、反対派諸国は、禁止条約は「既存の不拡散・軍縮体制」であるNPT体制「を弱体化させる」(米)との批判を繰り返している。フランスは、禁止条約は「3本柱からなる統一体としてのNPTを疑問に付する」と指摘する。英国は「禁止(条約)は大きな害を及ぼす可能性がある。政治的には禁止(条約の決議案)はNPTの(是非を問う)『レファレンダム(有権者投票)』だ」と述べた模様である5。核兵器国の核保有が正当化されているNPTと禁止条約とが両立しないとの主張は、前項で引用した、禁止条約交渉への核保有国参加はあり得ないとの米国などの主張にも通じる。
 これに対し、オーストリアは次のように反論する。「NPTは特定の5か国による核兵器の保有を認めているが、NPTが無期限の保有を容認する静的な条約でないことは明らかだ。むしろ、グローバルな核軍縮という目標が明確に述べられている。新たな規範への署名、批准により、これらの国々は6条下の軍縮義務を果たすことになる」。「論点1」とも関わるが、この主張だと、核兵器国も軍縮義務の履行として禁止条約に加盟することはありえることになる。
 また、L.41決議案は、前文で「核不拡散・軍縮体制の礎をなすNPTが、核戦争により全人類の上にもたらされる惨害および、その帰結として核戦争の危険を避けるためあらゆる努力をするとともに諸国民の安全を守る措置をとる必要があることを考慮して交渉されたことを想起し」と、NPTも禁止条約も共に核兵器の人道上の影響への考慮が根底にあり、両者は趣旨を共有することを示唆している。そして主文6節で「NPTとそこでの誓約の重要性を再確認し、さらには上記[引用者注:核兵器のない世界の達成と維持に必要な法的]措置、条項や規範の追求はNPTの3本柱を含む核軍縮・不拡散体制を補い強化するものでなければならないと思料する」と、禁止条約がNPTを強化しうるしそうすべきであることを強調している。ここには、いかなる禁止条約を構想するかについての示唆が含まれているといえる。

論点3:安全保障における核抑止の意義

 そして最も根源的な対立といえるのが、核抑止論をめぐる見解の相違である。米国は、現実に核抑止力が平和と安定の維持に役立っているとの認識を示し、(核抑止と相いれない)禁止条約は地域の安全保障を弱体化させるとする。フランスは、禁止条約は「特に欧州とアジアでデリケートな地域に位置する国々の安全保障環境から深刻に切り離されたものになる」ので「地域的・国際的安全を不安定化させる」と述べる。7月に核戦力更新を議会で決定6した英国は「今日の不安定な国際安全保障環境」を理由に自らが「核戦力を保持する必要」を述べ、14日の公式発言の最後には口頭で「禁止交渉開始決議には反対する」と明言した。
 これに対し、禁止推進諸国は、そもそも核抑止は有効な安全保障策ではないと考える。オーストリアは「冷静に分析すれば核兵器保有は安全保障にとって不都合」であり、「圧倒的多数の国」は「地球規模で集団自殺を図るという脅しではない、より人間的で理性的な基盤の上に自国の安全保障を築くことに成功している」と述べる。アイルランドは、安全保障状況が問題だから「なおのこと核兵器を取り除くことが不可欠」とし、「核兵器のもたらす壊滅的な人道上の結末を考えると、核兵器を加えることでより安全になる国家的・地域的・国際的安全保障状況を観念はできない。それどころか核兵器の存在が緊張を高め対立を悪化させているように見える」と言う。これらの国々はまさに安全保障上の見地から核兵器禁止を進めようとしているのであり、核兵器の非人道性ゆえにこそ核抑止論が合理性を持たないとの考えに立っている。
 その意味で、「核兵器使用の壊滅的な人道上の結末と厳しい安全保障環境」あるいは「国家安全保障と人道的側面」の両方の考慮が必要だと主張する日本政府は、核抑止による安全保障を前提にしている点では結局、禁止条約に反対する核保有国・依存国と変わらない。
 なお日本政府は17日の発言で他の核依存国の多くとは異なり、禁止条約やL.41決議案の是非には一切触れなかった。OEWGに関しては、報告書が全会一致で採択されなかった点を遺憾だと述べ、そのことで「核保有国と非保有国の分断だけでなく非保有国間での分断も強まった」と指摘した。そして「核軍縮コミュニティのこれ以上の分断は避けるべきだ」とした。しかし、そのためには自ら変化して禁止推進諸国に何らかの歩み寄りを見せることが必要で、そうしない限り日本もまた分断の広がりに加担し続けることになるのではないだろうか。

今後、問われる条約の中身

 L.41決議案の第1委員会での投票は10月27日午後(ニューヨーク現地時間)に行われる見通しであり、採択自体は概ね確実視されている。この歴史的決議がさらに12月に総会全体で採択されれば、長らく続いた核軍縮交渉の停滞が打ち破られ、新たなステージが現れる。そして、そこに待ち受ける大きな課題が、L.41決議案では具体化されていない条約の中身をどうしていくかということだ。
 先に「論点1」や「論点2」で触れた核保有国(特にNPT加盟の核兵器国)の禁止条約参加のあり方や、NPT再検討会議などで合意されてきた核軍縮の諸措置と禁止条約とがなぜ、いかにして両立可能なのかに関して、第1委員会では十分に議論が尽くされていないように見える。そして、上で見てきたようにこれらの問題は、どのような禁止条約をつくるのかということと密接に関わっている。
 ピースデポは、本誌前号記事や9月30日付の外務大臣宛要請書7で、OEWG報告書・勧告を踏まえて来年交渉されるべき禁止条約の要素を考察した。そして、先進性を維持しつつ核保有国や依存国の条約参加にも道を開けないか模索し、核廃絶への政治的誓約に関する条項を設ける、国の事情に応じ段階的参加を許す条約発効要件を設ける、といった提案を行った。これらを今後の議論に生かしていきたい。(荒井摂子)


1 昨年の第70回国連総会で採択されたこの標題の決議A/RES/70/33によりOEWGが設置された。
2 以下、特に断りのない限り、各国の発言の引用は国連ウェブサイト内(https://papersmart.unmeetings.org/ga/first/71st-session/statements/から日付、国名で検索)ないしリーチング・クリティカル・ウィルのサイト内(www.reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/unga/2016/statements)に掲載の第71回国連総会第1委員会での発言原稿を基にしている。同委員会会合の動画(http://webtv.un.org/meetings-events/general-assembly/agenda-items/disarmament/)も適宜、参照した。
3 本誌498号(16年6月15日号)で紹介した、ブラジルやNGO「中堅国家構想」の作業文書を参照。またOEWG報告書38節、39節を参照。
4 Reaching Critical Will, “First Committee Monitor No.3″(16年10月17日付)8ページ。(www.reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/unga/2016/fcmから閲覧可能)
5 14日のOEWG報告書紹介の直後に非公開で行われた質疑応答の際の発言だと思われる。注4と同じ資料の4ページ。
6 本誌502-3号(16年9月1日号)参照。
7 全文はピースデポ・ウェブサイトに掲載。
 www.peacedepot.org/media/pcr/160930_mofa_yousei_unres.pdf

くわしく