【国連総会第1委員会】核兵器禁止条約「17年交渉開始」で歴史的攻防――条約の中身が今後の核心課題   

公開日:2017.04.14

国連総会第1委員会(軍縮・国際安全保障)は10月12日からテーマ別討議に入り、核兵器に関する各国の発言は13、14、17日に集中した。決議案の提出は13日に締め切られ、核兵器に関するものは二十数本が投票に付される。そこにはオーストリアなどによる、核軍縮公開作業部会(OEWG)勧告を踏まえた「核兵器禁止交渉会議を2017年に開催する」決議案も含まれる。討議では米、仏、英など核保有国が「禁止」に強い反対を表明し、豪州やNATO諸国など核依存国がこれに同調する一方で、オーストリアはじめ多数の国々がそれらに反論しつつ前記決議案への支持を表明した。米国などは水面下で決議案に賛成しないよう説得工作を行っていると伝えられており、禁止条約交渉開始をめぐる攻防は大詰めを迎えている。

テーマ別討議「核兵器」の焦点は禁止条約

 焦点の「核兵器禁止交渉開始」決議案(A/C.1/71/L.41)は「多国間核軍縮交渉を前進させる」と題され、2012年以来毎年総会で採択されてきた同様の標題の決議1に連なるもので、オーストリア、ブラジル、アイルランド、メキシコ、ナイジェリア、南アフリカをはじめ少なくも50か国が共同提案国となっているとされる。同決議案はOEWG報告書を「歓迎」し、「核兵器を禁止し全面的廃棄に導く法的拘束力のある文書を交渉するため2017年に国連の会議を招集することを決定」し、その会議を17年3月27~31日と6月15日~7月7日にニューヨークで開催するとしている。「核兵器を禁止し全面的廃棄に導く」という以上に条約の具体的内容には踏み込んでいない。
 第1委員会では、上記L.41決議案やこれが依って立つ2016年OEWGとその報告書・勧告をめぐり、活発な意見の応酬があった。特に、OEWG議長を務めたタニ・トングファクディ大使(タイ)が14日冒頭に報告書(A/71/371)を紹介して以降、17日にかけては、OEWGの意義やその報告書・勧告の評価、そして禁止条約の是非に議論が集中した。米仏その他の核保有国や核依存国から禁止交渉開始の動きを強い言葉で批判する発言が相次ぎ、OEWGの成果を擁護し禁止条約を推進する諸国の意見と鋭く対立した。
 以下、これまでも繰り返されてきた議論であることは承知の上で、各国政府代表の発言原稿2を主たる手がかりに、禁止条約をめぐる主な意見の対立点を改めて書き出してみたい。禁止条約交渉開始への反対論として米国、賛成論としてオーストリアの各代表の声明の抜粋訳を、それぞれ資料1、2として4ページに示す。

論点1:禁止条約の核兵器削減効果

 禁止条約反対派の批判として、まず、「核兵器国の参加なしには核兵器は廃棄されない。つまりこの条約によっては具体的な核軍縮措置は生まれず、表明されている欲求不満は解消されない」(仏)、「禁止条約は核兵器を1つもなくさない」(豪)といった、禁止条約は核兵器の実際の削減効果がなく無意味だとの主張がある。米国も同趣旨の発言をしている。そこでは核保有国の禁止条約加盟が全くあり得ないことが前提とされている。米国は「自らの安全を核兵器に頼っている国が一体どうして、これを忌むべきものとして廃棄することを意図する交渉に参加できよう」と言う。
 この主張に関しては、次の3つのことが問われるように思う。
 第1に、禁止条約への核保有国の参加が本当にあり得ないのかという問題がある。この点に関してはオーストリアが核保有国も禁止条約に加盟しうることを示唆している(次項で詳述)が、その理由までは述べていない。OEWGでは、例えば核廃絶への政治的誓約に関する条項を含む「枠組み合意」や「ハイブリッド・アプローチ」では核保有国の参加も可能だといった議論がされている3。
 第2に、仮に核保有国の参加があり得なかったとしても、それにより本当に禁止条約が核兵器削減効果を持たないと言えるのかが問題となる。これに関しても第1委員会の政府発言ではないものの「禁止条約の要素」をテーマとするサイドイベントで、これまで政府やNGOの作業文書などで提案されてきた条約の条項が規範的・法的・経済的・社会的効果を持ちうることが議論されている4。
 そして第3に、仮に禁止条約自体に直接の核兵器削減効果がなかったとしても、そもそも、禁止推進派の国々は従来からの諸措置に加えて禁止条約が必要だと言っているのだ。オーストリアは「我々は……核兵器の廃棄が……禁止条約のみによって成し遂げられるようなものではないことを現実的に承知している」「核兵器のない世界の達成という何より重要な目標に寄与するすべての法的、実践的措置を全面的に支持する」「すべての措置は、核兵器を禁止する法的拘束力ある文書の制定と同時に取り組めるし、またそうしなければならない」と述べる。同趣旨の発言はニュージーランド、ブラジルなど多くの国が行っている。
 あたかもこれらの国々が禁止条約のみで核廃絶をしようとしているのを前提とするかのような反対派の立論は、土台から間違っているように思える。米国は禁止条約実現の動きについて、従来のやり方を「捨て去り、代わりに端的に禁止を宣言する」ものだと決めつけているが、上記のような各国の発言をみれば、従来のやり方を捨て去ろうとはしてはいないことが明白である。また、どのような禁止条約なのか具体的に議論せずにそれを「端的に禁止を宣言する」と言い切るのは少し乱暴ではないか。

論点2:禁止条約とNPTの関係

 次に、反対派諸国は、禁止条約は「既存の不拡散・軍縮体制」であるNPT体制「を弱体化させる」(米)との批判を繰り返している。フランスは、禁止条約は「3本柱からなる統一体としてのNPTを疑問に付する」と指摘する。英国は「禁止(条約)は大きな害を及ぼす可能性がある。政治的には禁止(条約の決議案)はNPTの(是非を問う)『レファレンダム(有権者投票)』だ」と述べた模様である5。核兵器国の核保有が正当化されているNPTと禁止条約とが両立しないとの主張は、前項で引用した、禁止条約交渉への核保有国参加はあり得ないとの米国などの主張にも通じる。
 これに対し、オーストリアは次のように反論する。「NPTは特定の5か国による核兵器の保有を認めているが、NPTが無期限の保有を容認する静的な条約でないことは明らかだ。むしろ、グローバルな核軍縮という目標が明確に述べられている。新たな規範への署名、批准により、これらの国々は6条下の軍縮義務を果たすことになる」。「論点1」とも関わるが、この主張だと、核兵器国も軍縮義務の履行として禁止条約に加盟することはありえることになる。
 また、L.41決議案は、前文で「核不拡散・軍縮体制の礎をなすNPTが、核戦争により全人類の上にもたらされる惨害および、その帰結として核戦争の危険を避けるためあらゆる努力をするとともに諸国民の安全を守る措置をとる必要があることを考慮して交渉されたことを想起し」と、NPTも禁止条約も共に核兵器の人道上の影響への考慮が根底にあり、両者は趣旨を共有することを示唆している。そして主文6節で「NPTとそこでの誓約の重要性を再確認し、さらには上記[引用者注:核兵器のない世界の達成と維持に必要な法的]措置、条項や規範の追求はNPTの3本柱を含む核軍縮・不拡散体制を補い強化するものでなければならないと思料する」と、禁止条約がNPTを強化しうるしそうすべきであることを強調している。ここには、いかなる禁止条約を構想するかについての示唆が含まれているといえる。

論点3:安全保障における核抑止の意義

 そして最も根源的な対立といえるのが、核抑止論をめぐる見解の相違である。米国は、現実に核抑止力が平和と安定の維持に役立っているとの認識を示し、(核抑止と相いれない)禁止条約は地域の安全保障を弱体化させるとする。フランスは、禁止条約は「特に欧州とアジアでデリケートな地域に位置する国々の安全保障環境から深刻に切り離されたものになる」ので「地域的・国際的安全を不安定化させる」と述べる。7月に核戦力更新を議会で決定6した英国は「今日の不安定な国際安全保障環境」を理由に自らが「核戦力を保持する必要」を述べ、14日の公式発言の最後には口頭で「禁止交渉開始決議には反対する」と明言した。
 これに対し、禁止推進諸国は、そもそも核抑止は有効な安全保障策ではないと考える。オーストリアは「冷静に分析すれば核兵器保有は安全保障にとって不都合」であり、「圧倒的多数の国」は「地球規模で集団自殺を図るという脅しではない、より人間的で理性的な基盤の上に自国の安全保障を築くことに成功している」と述べる。アイルランドは、安全保障状況が問題だから「なおのこと核兵器を取り除くことが不可欠」とし、「核兵器のもたらす壊滅的な人道上の結末を考えると、核兵器を加えることでより安全になる国家的・地域的・国際的安全保障状況を観念はできない。それどころか核兵器の存在が緊張を高め対立を悪化させているように見える」と言う。これらの国々はまさに安全保障上の見地から核兵器禁止を進めようとしているのであり、核兵器の非人道性ゆえにこそ核抑止論が合理性を持たないとの考えに立っている。
 その意味で、「核兵器使用の壊滅的な人道上の結末と厳しい安全保障環境」あるいは「国家安全保障と人道的側面」の両方の考慮が必要だと主張する日本政府は、核抑止による安全保障を前提にしている点では結局、禁止条約に反対する核保有国・依存国と変わらない。
 なお日本政府は17日の発言で他の核依存国の多くとは異なり、禁止条約やL.41決議案の是非には一切触れなかった。OEWGに関しては、報告書が全会一致で採択されなかった点を遺憾だと述べ、そのことで「核保有国と非保有国の分断だけでなく非保有国間での分断も強まった」と指摘した。そして「核軍縮コミュニティのこれ以上の分断は避けるべきだ」とした。しかし、そのためには自ら変化して禁止推進諸国に何らかの歩み寄りを見せることが必要で、そうしない限り日本もまた分断の広がりに加担し続けることになるのではないだろうか。

今後、問われる条約の中身

 L.41決議案の第1委員会での投票は10月27日午後(ニューヨーク現地時間)に行われる見通しであり、採択自体は概ね確実視されている。この歴史的決議がさらに12月に総会全体で採択されれば、長らく続いた核軍縮交渉の停滞が打ち破られ、新たなステージが現れる。そして、そこに待ち受ける大きな課題が、L.41決議案では具体化されていない条約の中身をどうしていくかということだ。
 先に「論点1」や「論点2」で触れた核保有国(特にNPT加盟の核兵器国)の禁止条約参加のあり方や、NPT再検討会議などで合意されてきた核軍縮の諸措置と禁止条約とがなぜ、いかにして両立可能なのかに関して、第1委員会では十分に議論が尽くされていないように見える。そして、上で見てきたようにこれらの問題は、どのような禁止条約をつくるのかということと密接に関わっている。
 ピースデポは、本誌前号記事や9月30日付の外務大臣宛要請書7で、OEWG報告書・勧告を踏まえて来年交渉されるべき禁止条約の要素を考察した。そして、先進性を維持しつつ核保有国や依存国の条約参加にも道を開けないか模索し、核廃絶への政治的誓約に関する条項を設ける、国の事情に応じ段階的参加を許す条約発効要件を設ける、といった提案を行った。これらを今後の議論に生かしていきたい。(荒井摂子)


1 昨年の第70回国連総会で採択されたこの標題の決議A/RES/70/33によりOEWGが設置された。
2 以下、特に断りのない限り、各国の発言の引用は国連ウェブサイト内(https://papersmart.unmeetings.org/ga/first/71st-session/statements/から日付、国名で検索)ないしリーチング・クリティカル・ウィルのサイト内(www.reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/unga/2016/statements)に掲載の第71回国連総会第1委員会での発言原稿を基にしている。同委員会会合の動画(http://webtv.un.org/meetings-events/general-assembly/agenda-items/disarmament/)も適宜、参照した。
3 本誌498号(16年6月15日号)で紹介した、ブラジルやNGO「中堅国家構想」の作業文書を参照。またOEWG報告書38節、39節を参照。
4 Reaching Critical Will, “First Committee Monitor No.3″(16年10月17日付)8ページ。(www.reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/unga/2016/fcmから閲覧可能)
5 14日のOEWG報告書紹介の直後に非公開で行われた質疑応答の際の発言だと思われる。注4と同じ資料の4ページ。
6 本誌502-3号(16年9月1日号)参照。
7 全文はピースデポ・ウェブサイトに掲載。
 www.peacedepot.org/media/pcr/160930_mofa_yousei_unres.pdf