【マーシャル諸島「核兵器ゼロ」裁判】  
応訴は3か国(英国、インド、パキスタン)  裁判管轄権に関する口頭弁論おわる

公開日:2017.07.18

2014年4月24日、マーシャル諸島共和国(RMI)は核保有国9か国(米、ロ、英、仏、中、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮)を個別に相手取り、核不拡散条約(NPT)第6条と国際慣習法に定められた、核軍拡競争を停止し核軍縮交渉を行う義務を履行していないとして、国際司法裁判所(ICJ)に訴訟をおこした。「核兵器ゼロ裁判」とも呼ばれるこの提訴は、国際反核法律家協会(IALANA)などの法律家の参画と国際NGOの協力によって実現した。英、印、パはICJの裁判管轄権を受諾し裁判に応じたが、ICJの管轄権を認めなかった他の6か国は応じていない。15年3月7日から3月16日まで、裁判管轄権を審理する先決的段階の口頭弁論が行われた。訴訟を支援した核時代平和財団(NAPF)のプレス発表は、ここまでの審理の模様を次のように伝えている。(編集部)


国際司法裁判所、
歴史的な核軍縮訴訟の
先決的段階における弁論を終結

核時代平和財団(NAPF)プレスオフィス
  2016年3月16日

【ハーグ】 国際司法裁判所(ICJ)は本日、マーシャル諸島共和国(RMI)が、インド、パキスタン、英国を相手取った核軍縮訴訟の先決的段階(編集部注:裁判管轄権を審理)における口頭弁論を終結した。弁論は3月7日から16日まで行われ、同裁判所で審理された初めての核軍縮係争事件となった。一連の審理では、管轄権および受理可能性の問題に関する被告国の異議が扱われた。

 共同代理人であるマーシャル諸島共和国前外務大臣のトニー・デブルムは、1946年から58年にかけて米国がマーシャル諸島領内で行った67回の核実験による核兵器の影響について、同国の見解を法廷で述べた。3月8日のパキスタンに対する聴取の冒頭の緊迫した瞬間、デブルムは法廷内の注目を一身に集め、次のように語った。

 昨日は、ここハーグで絵画のように美しく雪が降る素晴らしい朝を迎えました。熱帯の国であるマーシャル諸島は、かつて、忘れがたく、悲惨な出来事で「雪」を体験しました。1954年の熱核爆弾によるブラボー実験です。それは、広島型原爆の千倍の威力を持っていました。爆発が起きた時、多くの人がいました。子どもたちもいました。彼らは、爆弾から遠く離れた環礁にいました。そこは、一流の科学者や数々の保証によって、完全に安全だと予測されていました。実際には、爆発から5時間以内にロンゲラップ環礁に放射性降下物の雨が降り始めました。数時間のうちに、環礁は細かく白い粉状の物質で覆われました。それが放射性降下物であることを、誰も知りませんでした。子どもたちは、それを雪だと思ったのです。子どもたちは雪の中で遊びました。そして、それを口にしました。

 こうした核実験の歴史が世界的な核軍縮を求めるマーシャル諸島の現在の行動の背景になっている一方で、ICJにおけるこの訴訟が、核保有国のNPT第6条や国際慣習法への違反に具体的に関連していることは明らかだ。

 マーシャル諸島の共同代理人であるフォン・ファンデンビーセンは、今回の一連の弁論に出席した被告が9か国ではなかったことに対し失望を表明した。インド、パキスタン、英国のみが、ICJの強制管轄権を受諾している。ファンデンビーセンは、「他の6か国の核保有国(米国、ロシア、フランス、中国、イスラエル、北朝鮮)が、自分たちはマーシャル諸島による2014年4月24日の提訴に応じる必要はないと判断したことは非常に残念だ」と述べた。

 インド、パキスタン、英国の被告3か国はいずれも、書面や口頭による訴答で、自国は核軍縮を支持しており、核兵器のない世界の必要性に関してマーシャル諸島に同意すると主張した。マーシャル諸島は、こうした願望的な主張とはまったく対照的な行動の具体例を挙げた。

 おそらくそれを最もよく表しているのが、ICJが対インド事件の聴取を行った2日の間に、同国が核弾頭搭載可能ミサイルの発射実験を行う決定をしたことだ。3月7日と14日の両日、インドは弾道ミサイルの実験を行ったが、マーシャル諸島の共同代理人であるフォン・ファンデンビーセンは、この行為を「法廷に対する侮辱」と呼びうるものだとした。

 一方、英国は、今回の事件で自国に不利な判決が下された場合、英国は核保有国の間で核軍縮交渉を呼びかけるという、いわば「片手の拍手」を余儀なくされるであろうと法廷で述べた。3月11日、英国の陳述に対してトニー・デブルムは、「英国にしてみれば、これは、そのような交渉を誠実に追求している当事国などないということを言い換えているに等しい。さらに別の表現をすれば、非行を見とがめられた人が、『みんなやっているじゃないか』と言い返すようなものだ。」

 パキスタンは口頭弁論に出席しない選択をし、ICJ所長のロニー・アブラハムに対して、「パキスタン政府は、申述書においてなした陳述および申立に何も追加することを望んでおらず、したがって、口頭手続に出席しても、提出した申述書に何か追加されることがあるとは思わない」と文書で伝えた。

 トニー・デブルムは締めくくりの言葉で、「1996年の勧告的意見において、この裁判所は、核兵器が『地球上のすべての文明と生態系を破壊する潜在力を持つ』と述べた。マーシャル諸島は、法の支配を信じ、それに依拠するがゆえに、この裁判所に提訴したのだ」と述べた。

 法廷での最終陳述において、マーシャル諸島は判事団に対し、2014年4月24日にマーシャル諸島がその訴状において提起した請求に対して同裁判所が管轄権を有し、また、かかる請求が受理可能であるという判決を下し、宣言することを求めた。

 これよりICJの15名の判事は、特別選任裁判官のモハメド・ベジャウィとともに、書面および口頭による訴答において提起された管轄権および受理可能性の問題について評議を行うこととなる。裁判所は決定を公開の法廷で言い渡すことになっており、その日付は今後発表される。   
 原文及びICJ訴訟に関する詳細なQ&A方式の情報については下記のサイトにある:
www.wagingpeace.org/qa-the-marshall-islands-nuclear-disarmament-cases-at-the-icj/

国際法律チームの連絡先:略。

         (訳:河合公明、ピースデポ)