<寄稿>「北東アジア非核兵器地帯構想の実現に向けての宗教者の責務」 神谷昌道

公開日:2017.07.24

                           世界宗教者平和会議(WCRP)国際委員会
                           軍縮安全保障常設委員会
                           シニアアドバイザー 神谷 昌道

核兵器による威嚇またはその使用は、一般的に国際法とりわけ国際人道法に違反するのみならず、それが存在することすら、究極的な暴力の一形態である。また、「平和はそれぞれの宗教にとって中核をなすもの」であり、「汝、殺すことなかれ」を共通価値とする世界の主要宗教にとって、核兵器の廃絶は早期に実現されるべき共通の願いである。
 核兵器の廃絶は、一部の国々や組織のみの努力で実現するものではない。その信念に基づいてWCRP日本委員会は、終戦、被爆そして国連創設70年の節目であった昨年、核兵器の廃絶という目的を共有する他団体とのパートナーシップの拡大に努めた。例えば4月21日に東京で、核軍縮・核不拡散議員連盟(PNND)日本と円卓会議を持ち、『核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)日本ならびに世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会による核兵器廃絶に向けての共同提言文』を発表した。8月6日に広島市で、国内外の諸宗教連合体と国際シンポジウムを開催して、『原爆投下70年シンポジウム「二度と戦争を起こさない」―核兵器廃絶をめざして―』と題する共同声明をとりまとめた。11月6日に長崎市で、パグウォッシュ会議国際評議員数名を招待して科学者と宗教者の対話集会を開催。その際に『核兵器廃絶に向けた科学者と宗教者との対話集会~世界パグウォッシュ会議をうけて~』共同アピール文を発出した。さらに、核兵器の威嚇または使用に関する勧告的意見が国際司法裁判所によって示されてから20年となる本年7月に京都において、WCRP国際委員会・軍縮安全保障常設委員会が円卓会議を開催予定である。
 現在、WCRP日本委員会は、北東アジア非核兵器地帯構想の実現、核兵器の非人道性と非正当性の焦点化、さらには核兵器禁止条約の締結を優先課題と位置づけて核廃絶に取り組んでいる。北東アジアの非核化への具体的行動の一つが、今回の声明文である。
 WCRPのような国際諸宗教組織が持つ強みは、国境を越えて連帯を図ることができ、一国の利益を超越して公共善の実現のために幅広いアドボカシー活動を展開できることである。WCRPには朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の宗教者も参画しており、第9回WCRP世界大会(2013年11月オーストリア・ウィーンで開催)と第8回アジア宗教者平和会議(ACRP)大会(2014年8月韓国・仁川で開催)において、宗教者による「六カ国協議」を開催した実績もある。北東アジアの平和と安全に向けて、WCRPやACRPに課せられた責務は重大である。
 今回の声明文では、「核の傘」からの脱却、つまり核兵器に依存しない日本の安全保障政策の実現を訴えている。宗教者もまたその困難さを理解しつつも、唯一の被爆国として核廃絶を求める日本の訴えに信憑性を持たせるという意味において、それは避けて通れない道であると考えている。今回の声明文は、その課題に立ち向かう宗教者の覚悟の現れと言えるかもしれない。
 今後、広く日本の宗教界に対して声明文の呼びかけ人と賛同人を募る動きが活発化する。また、その進展に合わせて、シンポジウムや対話集会などの具体的プログラムが実施される可能性もある。本年9月26日を一つのめどに署名が取りまとめられ、日本政府や国連へ届けられることになろう。北東アジア非核兵器地帯の実現に向けての今後の宗教界の動向に注目したい。

1 第9回WCRP世界大会で採択された『ウィーン宣言』の一節を引用。全文は、WCRP日本委員会ウェブサイト内特設ページ(http://saas01.netcommons.net/wcrp/htdocs/wa9/)参照。
2『共同提言文』は、WCRP日本委員会ウェブサイト(http://saas01.netcommons.net/wcrp/htdocs/)参照。
3 『共同声明』は、同上ウェブサイト参照。
4 「共同アピール文」は、同上ウェブサイト参照。
5 諸事情により、前者の会合ではロシア代表が、後者では北朝鮮代表が欠席した。
6 毎年9月26日は、国連が定める「核兵器全廃のための国際デー」である。