朝鮮半島非核化協議  米朝関係、「経済制裁」で途絶  北は朝鮮半島非核化の条件を提案 ――変化の芽をとらえ、「非核兵器地帯」に向かう交渉を

公開日:2017.07.15

米国による金正恩国務委員長らへの経済制裁決定に抗議して、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)は米国との「戦争状態」を宣言、公式外交ルートを閉鎖した。だが、見落としてならないのは、DPRKがその直前、米韓に非核化協議前進のための条件を提示していたことである。米韓と日本は、これをDPRKとの交渉の新次元を開く契機と考えるべきだ。オバマ政権は「先行不使用」宣言の検討を始めた。日本からも声を上げようではないか。朝鮮半島の緊張を「先行不使用」に反対する理由にしてはならない。求められるのは対話と交渉による非核化である。


米「経済制裁」で外交チャンネル途絶

 16年7月6日、米国はDPRK政府による人権抑圧を理由に、金正恩国務委員長らを経済制裁対象に加えると発表した。7月7日、DPRKはただちに外務省声明を発し、制裁は宣戦布告に等しいと非難、米国を「戦争法の対象として扱う」と宣言した。さらに7月10日には、公式外交チャンネルを遮断すると通告した。米・DPRK関係は近年最悪の状況に立ち至っている。

DPRKの「非核化」5項目提案

 「制裁」を巡る緊迫したやりとりの直前に、DPRKが非核化協議の前進につながりうる提案を行っていたことは、ほとんど報道されていない。7月6日に発表された政府声明「『北の非核化』の詭弁を非難する」(以下「7.6声明」)で、DPRKは朝鮮戦争「休戦協定」を終結し「平和協定」を締結することを再度提案するとともに、「非核化協議」に前向きに応じるための次の5つの条件を提示した:
(1) 朝鮮半島のすべての核兵器の存在を公表すること。
(2) 韓国にあるすべての核兵器及び核基地を検証可能な形で撤去すること。
(3) 朝鮮半島及びその近傍に核兵器を配備しないこと。
(4) いかなる場合もDPRKに核兵器による威嚇を行わないこと。
(5) 核兵器を使用する権限のある部隊すべての韓国からの撤退を宣言すること。
 「7.6声明」は、13年以来経済建設と核開発を同時に推進する「並進路線」をとっているDPRKが、経済建設に比重を移そうとしていることの表れであった。米国の「経済制裁」は対話再開の好機を逃す、大きなミスであった。

「7.6声明」は非核化協議を前進させうる

 「声明」の5項目のうち、(5)を除く4項目は、1992年の「朝鮮半島非核化のための南北共同宣言」(資料1)、「第4回6か国協議」における「9.19共同声明」(資料2)などですでに合意されている。 
 DPRKは米ミサイル防衛システム(THAAD:高高度防衛ミサイル)の韓国配備決定に反発、対抗措置を表明しているので、新たな挑発が行われる可能性は否定できない。核実験場の動きが活発化しているとの情報もある1。しかし「7.6声明」は、互いに歩み寄ることを提案して、具体的な協議に道を開きうる要素があることは間違いない。米国が「制裁」で犯したミスを早期にカバーすることが前提となるが、北東アジアの平和と安全保障の根本的解決の第一歩として、私たちは同声明を「北東アジア非核兵器地帯」実現に向けて前進する好機ととらえるべきであろう。

「北東アジア非核兵器地帯」を目指そう

 私たちが、もっとも現実的で実現可能性が高いと考える「北東アジア非核兵器地帯」は次のような要素を持つ:
1) 韓国、DPRK、日本の3か国が非核国として非核兵器地帯を構成する。前記の「南北共同声明」は韓国とDPRKの加盟の基礎となり、そして日本にとっては「非核三原則」と「原子力基本法」がこの基礎となりうる。この3か国に、すでに「非核兵器地帯地位」を確立しているモンゴルが加わればより望ましい。
2) 地域に関わりの深い3つの核兵器国(米国・ロシア・中国)が、非核兵器地帯を形成する3か国に対する核攻撃やその威嚇を行わないと誓約する。これを「法的拘束力のある消極的安全保証」と呼ぶ。
 この構想は、96年に梅林宏道が提案2、04年にはピースデポが韓国NGOなどの協力を得て「モデル『北東アジア非核兵器地帯』条約案」3を起草した。また、12年から15年にかけて長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)によって構想実現の「包括的プロセス」の研究が行われた4

核「先行不使用」の反対理由にするな

 おりしも、オバマ米大統領は核兵器の「先行不使用」5を宣言することの検討を始めた6。この政策変更は「非核兵器地帯」で求められる「消極的安全保証」の基礎となる。日本政府内には抑止力が低下するとして、「先行不使用」宣言への異論が多いと伝えられる。私たちは、被爆国として、地域と世界の非核化を先導するべき責任に背を向けるこの姿勢を強く批判し、声を上げねばならない。(田巻一彦)
ピースデポは、現在「北東アジア非核兵器地帯」への支持拡大のため、2つのキャンペーンに取り組んでいる。「宗教者キャンペーン」と「自治体首長キャンペーン」である。詳細はピースデポ・ウェブサイト(www.peacedepot.org/theme/nwfz/list1.htm)をご覧いただきたい。


1 「北朝鮮、核実験場入口の活動を活発化―目的は不明」、16年7月11日「38ノース」ウェブサイト。http://38north.org/
2 「INESAPブレティン」第10号、1996年8月。
www.inesap.org/sites/default/files/inesap_old/bulletin10/bul10art03.htm
3 www.peacedepot.org/theme/nwfz/model-nwfz.html
4 研究成果は、提言「北東アジア非核兵器地帯設立への包括的アプローチ」(15年3月)として公表されている。www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/bd/files/Proposal_J_honbun.pdf
5 「ノー・ファースト・ユース」。「先制不使用」とも訳されるが、「核兵器を先に使わない」という意味なので「先行不使用」が適当である。
6 「ワシントン・ポスト」、16年7月10日。