【核兵器禁止条約決議案】 OEWGの成果を前進させるために――国連総会「核兵器禁止条約の交渉開始を求める決議案」への提案

公開日:2017.04.14

第71回国連総会が9月13日、開幕した。核軍縮関連決議は10月3日開会の第1委員会での審議をへて、12月の総会全体会において採択される。もっとも注目されるのが、8月に発出された国連公開作業部会(OEWG)の勧告を受けた「核兵器禁止交渉の17年開始」を中核とする決議の動向である。すでにオーストリア外相は9月22日、そうした決議案を他国と共同で提出する旨を総会で明言した。決議案が幅広い支持をもって採択され、核兵器廃絶プロセスに持続的に貢献してゆくために、そこに含まれるべき要素について考察し、望ましい決議案の輪郭を提案する。

国連総会における課題

 OEWG報告書(3~5ページに抜粋訳)の勧告には2つの要素が含まれていた。核兵器を禁止する法的文書に関する交渉を17年に開始する勧告(第67節)と現存する核兵器の諸リスクの低減を含む諸措置に関する勧告(第68節)である。
 今回の国連総会の任務は、核兵器禁止を含む、軍縮を促進するための諸措置を定める法的文書の輪郭を具体的に示しつつ、同文書の交渉を17年に開始することを求める決議を圧倒的多数で採択することである。「核兵器禁止派」の国々と市民社会は、その決議がどのような内容の「法的文書」を目指し、どのような交渉の場を設定するのかという核心的課題に挑戦する必要がある。
 総会でそうした決議が採択される公算はきわめて大きい。しかし、現状ではその決議に含まれるべき内容については多くの選択の幅が残されている。その内容を決定するに際して、考察すべき重要な2つの課題があるであろう。
 第1は「核兵器の禁止」をどのような文脈において要求するかという問題である。OEWGの勧告第67節は「第34節に概説されたような、核兵器を禁止しそれらの全面的廃棄に導く法的拘束力のある文書を交渉するための会議を2017年に開催する」と述べているだけである。OEWG報告書には、法的文書として簡易型条約(第36節)、包括的条約(第37節)、枠組み合意(第38節)、混合アプローチ(第39節)といったオプションが議論された旨が記載されているが、それはあくまでも議論の紹介である。勧告された禁止条約の要件は「第34節に概説されている」ということと「全面的廃棄に導く」という2つの要件である。この要件を満たす文脈で禁止条約は追求されなければならない。
 第2の課題は、OEWGに参加しなかった核保有国や核兵器依存国の抵抗や妨害への対処である。
米国の政府高官は8月末、公の場でこう話した。「ある国家グループが(……)意見の分極を惹き起こし検証できない核兵器禁止条約を追求している。核軍縮はすべての国家の見解と安全保障上の利益を考慮したアプローチでのみ達成可能である(……)これが、最近終了した核軍縮に関するOEWGの最終報告を私たちが拒絶する理由である。合衆国はすべての国が核兵器禁止という非現実的な努力を拒絶するよう訴える」1。米国はこの基本姿勢を総会においても堅持し、他の核保有国や核兵器依存国とともに、先進的決議の採択を妨害し、決議内容を弱体化するような外交攻勢をかけてゆくであろう。ロシアも外務省の不拡散軍備管理担当者が「OEWG報告書は非現実的で有害でさえある」と語ったと伝えられており2、米国と同様の姿勢をとることが予想される。
 禁止条約交渉を求める決議案(以下「禁止交渉決議案」)には、勧告第67節の要件を満たす文脈とともに、核保有国と核兵器依存国が一体となって反対することを阻止し、これらの国々の流動化を促して支持を拡大しうるような構成要素が求められる。

新決議案に含まれるべき3つの構成要素

 このような観点から考え、「禁止交渉決議案」には、以下のような3つの要素が含まれる必要があると考える。

(a)禁止条約交渉開始
 第1は言うまでもなく、核兵器を禁止する条約についての交渉を2017年に開始するという「禁止条約交渉開始」の要素である。
 勧告第67節が「第34節に概説されたような」と引用している第34節は、法的文書について「この法的文書は、一般的禁止と義務を確立することに加え、核兵器のない世界の達成と維持に対する政治的な誓約を確立するものである」と述べている。ここで述べられている「一般的禁止と義務」を明記することが求められる。

(b)廃絶への政治的誓約
 実は第34節はもう1つ重要な要素に言及している。禁止条約は「核兵器のない世界の達成と維持に対する政治的な誓約を確立する」役割を担っているという要件である。つまり「禁止条約交渉」の要素は、この交渉によって核兵器のない世界の達成と維持という大目的への政治的誓約を改めて確立するという文脈において行われるべきであるという当然の要件がここには含意されている。ここにいう「政治的な誓約」には、NPT前文や第6条、過去のNPT再検討会議での合意文書等が含まれるであろう。NPT合意文書には2000年合意の「核兵器全面廃棄への明確な約束」や2010年合意の「NPT及び核兵器のない世界という目的に完全に合致した政策を追求」また「核兵器のない世界を実現、維持する上で必要な枠組みを確立すべく、全ての加盟国が特別の努力を払う」などがある。「禁止交渉決議案」は、このような要素を組み込むことによって国際社会が蓄積してきた合意を基礎とする正統性が強化されるであろう。
 この構成要素は、核保有国や核依存国が同意しうる要素としての働きをする。このような要素を禁止条約がおかれる文脈に置くことのメリットは、OEWG報告書が紹介している「枠組み合意」のアイデア(第38節)においても述べられている。「(枠組み合意は)すべての国家の懸念を同時に考慮に含めることで、柔軟性を備え、信頼醸成措置のための余地を残し、核軍縮に向けた円滑な移行を可能にしうる」。
 
(c)核兵器に関する透明性措置とリスク低減措置
 現在交渉が追求されている核兵器禁止条約は、核兵器の廃棄を含まない条約となる可能性が高い。のみならず、核保有国の禁止条項への支持はすぐには得られそうにない。とすれば、「核兵器使用の人道上の壊滅的影響」を論拠とする禁止条項を追求する交渉は、平行して現存する核兵器リスクの低減措置を交渉する必要がある。その意味で勧告の第67節と第68節がセットになっていることは重要な意味がある。
 OEWG報告書は第68節において、「各国が適宜、本報告書が提案するように、多国間核軍縮交渉の前進に貢献しうる様々な措置の履行を検討すべきである」とした上で「現存する核兵器に付随するリスクに関する透明性措置、事故や誤謬による核兵器爆発や無認可あるいは意図的な核兵器爆発のリスクを低減し除去するための措置」の履行を求めている。決議案の構成要素としてこの要求を盛り込むには、例えば「透明性促進及びリスク低減措置条約」交渉準備会議の設立を求める条項が考えられよう。

有機的統合と発効要件

 以上の3つの構成要素をバラバラに含むのではなくて、1つの決議案に有機的に統合された決議案が求められる。「禁止交渉決議案」というよりも、実質的には「核軍縮を前進させる法的文書の交渉を求める決議案」の内容となるべきものと考える。順序としては、(b)政治的誓約の要素がまず述べられて、その帰結である当面の行動として(a)禁止条約の交渉開始と(c)透明性・リスク軽減措置の準備会議が位置づけられるという構成である。
 さらに重要なことは、国の事情によって(b)のみの批准、(b)と(a)、(b)と(c)の選択的批准、(b)、(a)、(c)すべての批准と、段階的参加を許すような条約発効要件を定めることを前提として決議案を作成することである。これによって暫定的禁止条約や措置条約準備が、政治宣言的条約の構成の排他的ではない一部に包含することができる。
 日本政府がこのような構想を推進することを期待したい。(田巻一彦、荒井摂子、梅林宏道)


1 8月29日、カザフスタン首都アスタナで開かれた核軍縮国際会議におけるフリート米国務省次官補主席代理の発言より。発言全文は米国務省ウェブサイト内。www.state.gov/t/avc/rls/261327.htm
2 16年9月23日付「ヴェストニク・カフカザ」。
 http://vestnikkavkaza.net/news/Russian-Foreign-Ministry-considers-full-ban-of-nuclear-weapons-unrealistic.html