国連総会第1委員会17年「禁止交渉開始」決議を採択、核兵器廃絶へ歴史的な一歩   日本の反対は「被爆国」への汚点

公開日:2017.04.13

10月27日(日本時間28日未明)、国連総会第1委員会は、核兵器禁止交渉の会議を2017年に開催するとする「多国間核軍縮交渉を前進させる」決議案(L.41)を123か国の賛成多数で採択した。国際社会は核兵器廃絶に向けて大きな一歩を踏み出した。各国の投票態度には、米国などからの激しい抵抗の影響が見て取れる。被爆国日本も米国に追随してか、この歴史的な決議に反対票を投じ、被爆者やNGOなどから強い反発を招いた。せめてもの望みは、日本が交渉に参加して、核保有国の条約参加に道を開くような先進的・建設的な提案をすることである。

各国の投票行動―米などの「圧力」が影響か

 L.41決議の採択により、約20年続いた核軍縮交渉の停滞を打ち破る歴史的な一歩が踏み出された。同決議の全訳を資料1として3~4ページに掲げる。共同提案国は直前まで増え続け、最終的に57か国に上った1。
 第1委員会での投票結果は、賛成123・反対38・棄権16・欠席16であった。核保有9か国は北朝鮮が賛成、米ロ英仏とイスラエルが反対、中印パが棄権した。核依存国では、NATO加盟28か国中オランダを除く27か国と、豪州、韓国、日本が反対に回った。
 決議採択には核保有国が激しく抵抗した。特に米国は、NATO加盟国と協力国に向け、決議への反対と交渉への不参加を呼びかける文書を送ったことが明るみになった2。メディアでも大きく報道されたが、文書は「核兵器が存在する限りNATOは核の同盟であり続け」、ゆえに「核兵器の即時禁止あるいは核抑止の非合法化の交渉は、NATOの抑止政策と同盟国が共有する安全保障上の利益と根本的に相いれない」と述べる。そして、OEWG報告書「別添Ⅱ」に掲載された個々の「禁止の要素」を引き合いに出して、禁止条約がいかにNATOの現行の体制に抵触するかを詳細に述べている。米国からの同様の説得はNATO以外の同盟国に対しても行われていたことが明らかになっている3ほか、非依存国にも決議に賛成しないよう働きかけていたことが知られている4。
 核禁止交渉参加と核同盟の一員であることとが両立しえないとの米国の主張については、これと異なる見解が示されていることに注目したい。オランダに拠点を置く平和NGO「PAX」は「NATOと核兵器禁止」と題する書面で、NATO加盟国は結成以来、独自の核政策を採用する権利を留保してきた、現に核兵器の国内通過を禁じている加盟国も複数存在するなどと、先の米文書への反論を展開している5。また、NATO加盟国で唯一、L.41決議に棄権したオランダは投票理由説明で「核同盟NATOの一員としての義務と禁止条約とが両立できるよう、早期の禁止交渉開始を支持する国とそうでない国の橋渡しを務める」と発言し、二者の両立の可能性を展望している6。
 米国からの圧力は、核依存国、また一部の非依存国の投票行動に多少の影響を与えたことがうかがえる。L.41決議への投票行動と8月のOEWG報告書へのそれを比較すると、決議に反対したNATO加盟国のうちアイスランド、ノルウェー、ポルトガルはOEWG報告書には棄権票を投じていた7。同様に、日本とセルビアもOEWGでは棄権したが、決議では反対に回った。また、OEWGでの賛成国のうちスーダンは決議では棄権している。さらには、OEWG報告書に17年禁止条約交渉開始に賛成の国々として記載されていたアフリカ諸国やCELAC(ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体)諸国などのうち、若干の国々が棄権ないし反対している。
 これらの投票行動がすべて米国など核保有国からの圧力の結果だと断定はできないが、少なくともその可能性は否定できない。

反対した日本―核の傘への信奉が前面に

 日本の今回の反対も、米国からの働きかけの影響を受けたものであることは想像に難くない。いわゆる日本決議(A/C.1/71/L.26、次号で詳報)に昨年は棄権した米国が今年は共同提案国に加わった事実は、岸田外相は言葉を濁しているものの(4~5ページの資料2に掲載の記者会見記録を参照)、2つの決議をめぐる何らかの申し合わせが両国政府間にあったことをうかがわせる。
 日本はこれまで、核依存国としては唯一、国連総会での核兵器に関する決議に反対したことがなく、賛成しない場合でも棄権にとどまってきた。核依存政策を採りつつ、対外的に「核兵器の非人道性を身をもって知る唯一の戦争被爆国」を標榜し国内的には被爆地に配慮しての、ある種つじつま合わせのための投票態度だったと理解できる。
 しかし今回はそうした投票態度を取らずに核依存国としての立場のみを鮮明にし、人道性に根差す被爆国としての立場は後退させた。反対の理由について岸田外相は、決議が「核兵器国と非核兵器国の協力による具体的・実践的措置を積み重ねていくことが不可欠」との日本の基本的立場に合致しないからと言う。しかし、L.41決議が下敷きにしたOEWG勧告・報告書の採択に棄権した際にも日本政府は同様のことを理由にしており8、投票行動の変化の説明になっていない。やはり米国の影響が最大の理由とみてよいだろう。「同盟」国からの圧力くらいであっさり棄権から反対に態度を変えた日本政府には、元々本気で被爆国としての責務を果たす気などなかったのだと言われても仕方あるまい。米国が日本決議への共同提案国となった「成果」を政府は強調するが、米国は一昨年までの態度に戻ったに過ぎないのみならず他の核保有国で日本決議に賛成する国は昨年同様1つもなく、強調するほどの成果とも言えない。
 日本政府が核兵器国と非核兵器国の橋渡し役を自任しながら、実際には核兵器国の側に立ってその代弁ばかりしていることは、つとに指摘されてきた。それを考えると、「被爆国」の看板を掲げて核兵器関連決議に他の核依存国とは一線を画す投票行動をとってきたこと自体、偽善的であり手放しで称賛できるものだったとは言い難い。

スウェーデンの「橋を架ける精神」に注目

 一縷の望みは、岸田外相が「交渉に積極的に参加をしたい」旨を明言している点である9。核兵器の禁止自体はいずれかの時点で必要になることは日本政府自身も認めてきたのだから、是非、よりよい禁止条約を策定するとの立場に立って条約交渉に臨んでほしい。その際には、NATOと緊密な協力関係を持ちながらL.41決議に賛成したスウェーデンの態度が参考になるように思われる。
 スウェーデンはNATO加盟国ではないが、近年のロシアの軍事活動をにらんで14年9月にNATOとの間で駐留受入国支援に関する了解覚書(MOU)を締結した10。そのスウェーデンはOEWGでは棄権したが今回は決議に賛成した。その投票理由説明を資料3として5ページに示す。そこに述べられている通り、スウェーデンは、禁止条約が完全な核軍縮達成のため「最も効率的」なのか「現時点では(……)分からない」としつつ「事の重大さを考えれば、我々には試してみる責務がある」として交渉参加を表明している。そして条約の「実効性(……)は可能な限り広い支持が得られるかにかかっている」とし、支持を得るため「交渉は、核兵器国を含んだ包括性と橋を架ける精神に基づいて遂行すべき」とする。さらに、交渉における条約の適用範囲の議論においては「軍縮のみならず、より広く安全保障上や防衛上の問題も考慮されねばならない」と述べており、禁止反対派の強調する「安全保障上の考慮」も否定していない。
 このスウェーデンの発言や、先に引用したオランダの発言が示唆するように、米国との同盟関係があったとしても禁止条約およびその交渉に参加するという選択肢は十分成り立ちうる。日本も、米国をはじめとする核兵器国の意を汲むかのようにひたすら禁止条約は時期尚早との論陣を張り続けるのではなく、核保有国にも将来参加が可能な条約を構想しつつ核保有国をその議論に引き込むことでこそ、「核保有国と非保有国の協力」を推進する橋渡し役としての貢献ができるのではないか。ピースデポが9月末に岸田外相に提出した要請書の主眼もそこにある11。そして日本は交渉に参加するのと並行して、自国の安全保障における核抑止依存をなくしていくための努力を開始するべきである。(荒井摂子)


1 資料1の冒頭と訳注1に全57か国の国名を掲載した。
2 文書は「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)ウェブサイトからダウンロード可能。
 www.icanw.org/wp-content/uploads/2016/10/NATO_OCT2016.pdf
3 「ジャパンタイムズ」(電子版)16年11月3日付社説に「米政府が日本にも同趣旨の説得を行ったと日本政府関係者が明かした」旨が述べられている。
4 例えば10月18日、米軍縮大使がアフリカ諸国の大使との非公式会合を行った姿が目撃されている。ICANツイッター。
 https://twitter.com/nuclearban
5 http://nonukes.nl/wp-content/uploads/2016/10/NATO-and-a-nuclear-ban_PAX_October-2016.pdf
6  www.reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/1com/1com16/eov/L41_Netherlands.pdf
7 OEWGでの各国の投票行動はICANウェブサイトの16年8月25日付投稿記事による。
 www.icanw.org/campaign-news/support-for-a-conference-in-2017-to-negotiate-a-treaty-banning-nuclear-weapons/
8 投票後の理由説明で日本代表が述べている。本誌502-3号参照。
9 米政府内でも日本の交渉参加を容認する意見が台頭しているとの報道がある。例えば16年11月6日付「中国新聞」(電子版)。
10  MOUは「災害や安全保障への脅威」などの緊急時にNATO軍の駐留を受け入れ、NATO軍が領域内で訓練や作戦などを行う際に支援すると定める。本誌471-2号(15年5月15日)参照。
11 本誌前号(506-7号、16年11月1日)参照。要請書全文は以下:
 www.peacedepot.org/media/pcr/160930_mofa_yousei_unres.pdf