PSNA共同議長による見解及び提言(仮訳)

公開日:2017.04.13

核兵器禁止へのブレークスルーの可能性

 2016年10月27日、第71回国連総会第一委員会において歴史的な決議(L.41)が採択された。決議は、「核兵器の完全廃棄に繋がるような、核兵器禁止のための法的拘束力のある文書を交渉する国連の会議を2017年に開催することを決定」したものである。123カ国(核不拡散条約(NPT)締約国である非核兵器国ならびに朝鮮民主主義人民共和国(DPRK))がこの歴史的決議に賛成したことを我々は歓迎する。他方、4つの核兵器国(米国、ロシア、英国、フランス)のみならず、NATO諸国、韓国、日本といった拡大核抑止の下にあるほとんどの国々(棄権票を投じたオランダを除く)がこの決議に反対したことは極めて遺憾である(38カ国が反対、16カ国が棄権)。我々は、これらの国々が決議を支持し、核兵器を禁止する条約の交渉に参加することを強く求める。

北東アジア:行き詰まり、そして交渉への可能な手掛かり

 北東アジア地域においてモンゴルの一国非核兵器地位が定義され確立されたことは、関係諸国の意向に十分配慮しつつも、政治的、外交的手段によって核兵器をめぐる安全保障問題に成功裏に対処できるということの明確な手本である。
 このような好例がある一方で、行き詰まりは継続し、悪化さえしている。2016年に、DPRKは3年ぶりに4回目及び5回目の核実験を行った。また、核搭載可能な弾道ミサイルに関しても多くの実験が行われてきた。これらの実験は、国連安保理決議に対する明確な違反であり、我々は、DPRKの核兵器計画の進展に対し強い懸念を表明する。
 また、双方から軍事力を誇示する対応が示されている。具体的には、恒例の米韓合同軍事演習の強化、米国本土及びグアムからの米戦略爆撃機の飛来作戦、朝鮮人民軍による上陸訓練及び上陸阻止訓練などがあげられる。韓国国土への高高度防衛ミサイル(THAAD)システムの配備に関する米韓合意は、朝鮮半島を超えて地域全体の緊張を高めている。
 北東アジアの特殊な状況はまた、2012年の米朝の「うるう日合意」以来、核問題におけるこのような行きづまりや後退を乗り越えるための、DPRKを関与させる二国間、三カ国間、あるいは多国間の公式の協議の場が一度ももたれなかったという事実に表れている。米国によるいわゆる「戦略的忍耐」政策は機能しておらず、6カ国協議参加国のいずれもこの行き詰まりの打開に向けた主要なイニシアティブをとっていない。
 その一方で、DPRKの側からは米国に交渉を求める重要な呼びかけがなされてきたことに我々は注目している。2015年1月、DPRKは、米国が韓国及びその周辺における合同軍事演習を一時中止するのであれば、それと引き換えに、核実験の一時中止などの呼応した措置をとる用意があるとの提案を行った。こうした呼びかけは今年一月にも繰り返され、「米国が合同軍事演習を中止すれば、その見返りとして核実験の中止と平和協定の締結を行うということを含め」、すべての提案が引き続き有効であるとDPRKは述べた。
 さらに、2016年 7月 6日、DPRKは 5項目からなる具体的条件を示した1。5項目のうち4項目は米国が以前に同意した内容であった。加えて、DPRKは、もしこれらの条件が満たされれば、朝鮮半島の非核化の実現に向けた決定的な突破口が開かれるであろうと述べた。これらの条件は検討に値すると我々は考える。地域における共通の平和と安全保障のスキームの発展をめざした地域的協議にDPRKを関与させるべく行動を起こさないことは、核能力増強のためのさらなる時間的猶予をDPRKに与えることになるであろう。

包括的アプローチの必要性

 DPRKを関与させるためには、問題を核・ミサイル問題のみに限定することは不可能であり、朝鮮戦争を終結させる和平条約や、非核兵器国としてのDPRK、韓国、日本に安全の保証を供与する北東アジア非核兵器地帯(NEA-NWFZ)の設置を含めたより包括的なものに拡大されるべきであることはいまや明らかである。我々は、北東アジアの安全保障に関する様々な問題を議論するプラットフォームを設置することを勧告する。このようなフォーラムが存在しないことは、北東アジアの既存の安全保障枠組みにおける弱点の一つである。我々は6カ国協議のすべての参加国に対し、北東アジアにおける現在の憂慮すべき状況を打開するために新たな努力を傾注し、新ラウンドの協議を開始するよう求める。
 我々は核兵器国の兵器近代化計画、ならびに弾道ミサイル防衛の配備といった地域における軍備競争を激化させるような活動について懸念しており、これらの活動を抑制するよう核兵器国に求める。
 とりわけ我々は、ドナルド・トランプ次期米大統領に対し、核兵器が地域と世界に及ぼしている真の脅威に対する認識をいっそう高め、軍事的解決のみを追求するのではなく、政府間ならびに市民社会レベルでの対話を通じて、核政策の新しい選択肢を慎重に検討していくことを強く求めるものである。もしそのような慎重な検討がなされるのであれば、米新政権の誕生は、外交面でのブレークスルーの可能性に向けた新たな機運醸成の機会となり得る。
 また、我々は、韓国と日本が特別の役割を担うことを求めるものである。上述した核兵器の法的禁止に関する国連総会決議に至る近年の議論の中で、拡大核抑止に依存する非核兵器国が担うべき役割が強調されてきた。韓国と日本は、米国の拡大核抑止の強化を要求するべきではなく、むしろ、地域における核の脅威に対しては、NEA-NWFZの設立に向けた包括的アプローチのような外交的プロセスによる解決が最善策であると身を持って示すべきである。こうしたアプローチは核兵器の役割を低減しグローバルな核軍縮の前進に貢献するものとなる。さらに、既存の大量備蓄に加えてさらなるプルトニウムを分離する日本の計画は、中国及び韓国における不必要かつ危険なプルトニウム分離に対する反対を損なうものである。

モートン・H・ハルペリン
(オープンソサエティ財団上級顧問)
マイケル・ハメル=グリーン
(ビクトリア大学メルボルン校名誉教授)
ムン・ジョンイン(文正仁)
(アジア太平洋リーダーシップネットワーク(APLN)議長、延世大学教授)
梅林 宏道
(RECNA前センター長、長崎大学客員教授)


1 朝鮮中央通信(2016年7月6日)。5点は以下の通り。(1)韓国にあるすべての米核兵器について公表しなければならない、(2)韓国にあるすべての核兵器を解体しその検証を行わなければならない、(3)米政府は韓国及びその周辺に攻撃的核兵器を配備しないことを保証しなければならない、(4)米国は北朝鮮に核兵器を使用しないことを誓約しなければならない、(5)米政府は韓国から核兵器使用の権限を有するすべての軍隊を撤退させる意図を宣言しなければならない。