核兵器禁止交渉への提案「枠組み条約」で核保有国・依存国の参加を促す

公開日:2017.05.01

2017年に核兵器禁止条約の交渉を開始するという歴史的決議「多国間核軍縮交渉を前進させる」(A/RES/71/258)が16年12月23日、国連総会で採択された。この決議に基づいて、3月下旬、禁止条約交渉のための会議がニューヨークの国連本部で始まる。しかし決議は、交渉に付されるべき条約案の内容に詳細には踏み込んでいない。本稿では、条約にどのような要素がいかなる構造をもって含まれるべきかを検討した上で、核保有国や依存国の段階的参加を促しうる「枠組み条約」の素案を示したい。


条約の望ましいあり方を考察する

 国連総会決議71/258(以下「決議」という)(注1)の内容や核兵器の人道上の影響に関する3度の国際会議などここ数年の有志国を中心とする国際社会の努力を考え合わせれば、核兵器禁止条約の交渉、制定が「壊滅的な人道上の結末」への懸念に下支えされた緊急の要請であることは明らかである。
 そのような前提に立って、交渉に付される「禁止条約」が備えるべき要素や特徴を、以下のように考えた。

1.核兵器を全面的に禁止する

 交渉されるのは、「核兵器を禁止し」、核兵器の「完全廃棄に導く」、「法的拘束力のある」文書である(決議主文8節)。よって第一に条約に含まれるべき要素が核兵器の全面的禁止であることは論をまたない。

2. 核兵器の完全廃棄をめざすことを法的に誓約する

 決議主文8節は「禁止」が核兵器の完全廃棄へと導かれることを要求している。いかなる核兵器禁止条約であっても、それだけで将来の完全廃棄に貢献するという主張もありうる。しかし、主文8節の要求をより明確に達成するには、決議前文9節に列挙されている、核不拡散条約(NPT)に関連して従来から繰り返されてきた政治的な諸誓約を、法的誓約にすることが望ましい。

3.現存する核兵器に関する透明性措置やリスク低減措置を追求する

 核兵器の使用や爆発がもたらす「壊滅的な人道上の結末」への憂慮が禁止条約(交渉)の起点にあることを考えれば、核兵器が現に存在していることによる核爆発リスク(偶発的、人為的を問わず)の低減措置についても追求されるべきである(決議前文3節参照)。主文7節はこれら措置の「実施を適宜、検討することを勧告」しており、これら措置についても「禁止」と共に条約交渉の対象にすることは、決議の趣旨に沿う。

4.廃棄と検証は必ずしも含まれなくてもよい

 決議前文17節は「核兵器を禁止する法的拘束力のある文書」、その次の前文18節は「不可逆的で検証可能で透明性のある核兵器の破壊のための追加的措置」について述べている。「禁止」について述べたのとは別の節で「破壊」に言及していることから、「検証」および「破壊」ないし「廃棄」に関する規定は条約に必ずしも含まれなくてよいことが含意されていると考えられる。
 とはいえ、最終目標が「完全廃棄」であり、「条約」がそこ「に導く」(主文8節)法的文書とされる以上、「条約」は完全廃棄を誓約する内容を含むべきであろう。

5.「禁止」への段階的参加を可能にする

 決議はまた、「すべての国連加盟国に対し、(交渉)会議に参加するよう奨励」(主文9節)している。事実、最終的には核保有国が関与することなしに「核兵器のない世界」は実現できない。しかし決議採択に際しての国連総会での討議内容(注2)やそれ以前からの核保有国・非保有依存国の態度をみると、それらの国が禁止条約に当初から参加することは期待できない。
 多数の有志国によって全面的禁止のみを規定する条約を交渉、制定すれば、核兵器が一層使いにくいものとなり、保有国による核兵器削減を促すという考え方もあろう。他方、核保有国や非保有依存国とりわけ後者の姿勢に流動化を促して交渉への参画につなげ、支持・加盟を段階的に拡大しうるような条約を探求する意義は極めて大きい。それは「完全廃棄に導く」ための具体的な方策ともなる。

「枠組み条約」モデルの提案

 以上の考察から、我々は、全面的禁止の選択を確保しつつ、完全廃棄の法的誓約、透明性・リスク低減措置など前項で述べた諸要素をも包含し、選択的、段階的な加盟を可能にするような「枠組み条約」モデルを提案したい。
 決議が下敷きにした公開作業部会(OEWG)報告書(注3)は、「枠組み条約」について「核軍縮プロセスの様々な側面を漸進的に扱った相互に補強しあう一連の諸条約、あるいは、核兵器のない世界に徐々に進むための『シャポー』合意とそれに続く補足合意や議定書から成る」(38節)ものであると述べている。我々もまた同じ趣旨で「枠組み条約」という言葉を用いる。
 このような例の一つとして「気候変動枠組み条約」(92年採択。以下カッコ内は採択年)がある。この「枠組み条約」のもとに国別の温室効果ガス排出上限を決めた京都議定書(97年)などが作られた。さらに、国際慣習法化している「世界人権宣言」(48年)と、同宣言を具体化した国際人権規約をはじめとする国際人権諸条約も、総体として「枠組み条約」構造をなしていると言える。軍縮分野には「特定通常兵器使用禁止制限条約」(80年)と、これと同時に署名開放された、禁止もしくは制限される兵器種ごとの4つの議定書があり、同「条約」の締約国が議定書を選択的、段階的に批准してゆく構造になっている。
 以上の一連の法的文書は、大きな枠組みを「基本合意」(注4)によって定め、「基本合意」の締結当初は将来のニーズや世界の情勢、技術の発展段階が予見できなかったり、各国の事情から目標達成のための手段に関する合意がとれなかったりする個別のより具体的な目標や目標達成方法を、議定書などで補っている。
 核兵器廃絶という課題が直面している状況は、上述の様々な「枠組み条約」構造が選択された際の状況と似ている。つまり「核兵器のない世界を実現し維持する」という究極的な目標には総論的合意があるが、個別の目標や方法、時間枠などの各論をめぐっては国家間に大きな隔たりがあり、それが課題解決への前進を妨げているという状況である。
 この状況を乗り越えるための一案として、我々は、「基本合意」を定める「枠組み条約」(「核軍縮枠組み条約」と呼ぶことにする)本体と、当初から付属する複数の「議定書」とからなる法的文書の骨子を考案した(注5)。

「核軍縮枠組み条約」骨子案

1.「枠組み条約」本体

 「核軍縮枠組み条約」全体の目的・趣旨、基本となる法的誓約、条約本体と議定書の関係、締約国会議や運用にかかる条項などを規定する。
(1) 核戦争により全人類の上にもたらされる惨害と核戦争の危険を回避するために、国家の兵器庫から核兵器を廃棄し、核兵器のない世界を実現することを目的とする。
 この文言は、NPT前文と国連総会決議第1号(A/RES/(1))から採用されている。
(2) 次のような法的誓約を行う。
核兵器ない世界を実現、維持する上で必要な枠組みを確立すべく、特別な努力を払う(i)。
厳格かつ効果的な国際管理の下においてすべての側面での核軍縮に導くための条約の交渉を誠実に行い、かつ完結させる(ii)。
核兵器のない世界という目的に完全に合致した政策を追求する(iii)。
核保有国は、保有核兵器の完全廃棄を達成する明確な約束を行う(iv)。
 これらの誓約は、過去に国際司法裁判所(ICJ)から全会一致で勧告され、あるいは核軍縮・不拡散交渉の中ですでに普遍的な合意が形成されている。したがって、核保有国も、その同盟国である非保有依存国も、受け入れることができるはずである。

i  2010年NPT再検討会議最終文書「結論ならびに今後の行動に向けた勧告」の「B-iii」を参照。
ii 国際司法裁判所(ICJ)勧告的意見(96年7月8日)パラグラフ105(2)F項、および核不拡散条約(NPT)6条を参照。
iii 2010年NPT再検討会議最終文書(10年5月28日、NPT/CONF.2010/50(vol.1))「結論ならびに今後の行動に向けた勧告」の「行動1」を参照。
iv 2000年NPT再検討会議最終文書(00年5月19日、NPT/CONF.2000/28)15節6参照。

(3) (1)の目的、(2)の法的誓約を具体化するための議定書を制定する。議定書のいくつかは「枠組み条約」本体と同時に交渉され制定される。それに加えて将来の「枠組み条約」締約国会議において新しい議定書を制定することができる。
(4) この「枠組み条約」本体に同意した国が条約締約国となる。締約国は、次項「2.」に掲げるような議定書に選択的、段階的に加盟することができる。「枠組み条約」本体と議定書には、個別に締約国(加盟国)会議が設置できる。各議定書の内容は「枠組み条約」本体の趣旨に添う範囲内で、それぞれの議定書締約国(加盟国)会議で適宜見直すことができる。
(5) 締約国(加盟国)会議、運用機関などの実務的条項、その他の慣用条項、および発効要件などを定める。発効要件については、締約国の事情により段階的参加を許すような柔軟なものとすることが妥当である。

2.議定書

 「枠組み条約」本体と同時に制定される議定書には以下のようなものが含まれるべきであろう。

A. 核兵器の全面的禁止に関する議定書
 核兵器の保有、開発、製造、実験、入手、備蓄、移動、配備、使用および使用の威嚇、ならびにこれらへの援助、出資、奨励もしくは勧誘を禁止する。
 なお、「使用および使用の威嚇」に関しては、核爆発による壊滅的な人道上の結末をもたらす行為そのものであり、かつ使用側の意図が歴然と存在することから、使用に至らない「保有」や「備蓄」との間に区別すべき重要な違いが認められる(注6)。96年のICJ勧告的意見が「核兵器による威嚇またはその使用」の合法性をもっぱら論じたのもそのような区別が存在するからである。そこで「使用および使用の威嚇」を禁止する議定書を独立させることも考えられる。

B. 積極的義務に関する議定書
 核被害者・被爆者の権利の確保、破壊された環境の回復、条約への支持・協力、国民への教育・啓発などの義務を定める。

C. 核兵器の透明性措置に関する議定書
 核兵器の完全廃棄に不可欠な透明性を前進させるための議定書。例えば、核保有国に保有核兵器及び運搬手段の種類、配備・非配備の別、もしくは警戒態勢等に関する情報を標準的な様式で公開することを義務付ける議定書が考えられる。また議定書には透明性措置を監視・前進させる方策を検討、立案する委員会の設置が規定されてもよい。
 このような透明性措置は、2010年NPT再検討会議最終文書の「行動5」(核兵器国)、「行動20」(すべてのNPT加盟国)によって誓約されているが、この議定書はそれを全ての核保有国の法的義務として拡大するものとなる。

D.核兵器の役割及びリスクの低減措置に関する議定書
 過誤によるものや偶発的使用を含めた核兵器使用の可能性を低下させるために、あらゆる軍事及び安全保障上の概念、ドクトリン、政策における核兵器の役割と重要性をいっそう低減させることを約束する議定書。低減措置には核兵器使用に関する協議、戦略核兵器の警告即発射体制、高度警戒態勢の解除等の一方的措置や複数の核保有国間の措置、非保有依存国を含む拡大核抑止体制における合意などが含まれるだろう。
 さらに、役割及びリスク低減措置の文脈で、先行不使用議定書を独立に設定することも検討に値する。いくつかの核保有国は参加できるはずである。
 また、役割及びリスク低減措置を監視・前進させる低減委員会の設置も考えられる。

E. 包括的核兵器禁止条約(CNWC)の準備に関する議定書
 「枠組み条約」本体と同時に制定することが可能であれば、検証を伴う核兵器の全面的廃棄を目的とするCNWCの準備プロセスに関する議定書についても、検討に値する。
 一方で、本提案では「枠組み条約」本体といくつかの議定書の早期制定を優先させる必要性を強調したい。

柔軟な採択・発効プロセス

 「枠組み条約」本体の締約国は、上記のいずれの議定書にもいつでも加盟することができ、議定書は一定の条件が達成されれば発効する。
 たとえば、核兵器禁止の動きを推進してきた有志非保有国は、当初からすべての議定書に加盟するかもしれない。一方、非保有依存国は、当初は「枠組み条約」本体のみの加盟に留まるが、やがて議定書B・C・Dのいずれかに加盟し、さらに徐々に議定書Aにも加盟する国が増加してゆくことも期待される。核保有国も「枠組み条約」本体に同意できるはずであり、さらには議定書B、C、D(とりわけ「先行不使用議定書」)への加盟へと展開してゆくことができる。
 国際社会の生きた現実は、条約の加盟、発効プロセスを加速も停滞もさせうる。したがって、「枠組み条約」本体と「議定書」への加盟、発効プロセスは、1国的、2国間的、多国間的核軍縮交渉、あるいは新たな非核兵器地帯の創設とそのための交渉等といった地域的努力と同時並行的に進められたときに、活性化されるだろう。そのような努力の進捗によって、新しい議定書が必要な状況が生まれれば、締約国会議で協議し制定できるのも、「枠組み条約」の利点である。

日本にとっての意義

 最後に「枠組み条約」が日本に与えうるインパクトについて考える。
 日本は自らの主導した国連総会決議(注7)で「核兵器のない平和で安全な世界を(……)めざす」(主文1節)としているが、その総論的方針が具体的行動によって裏付けられていない。「枠組み条約」はこのような現実を打開する有効な手がかりを提供すると思われる。
 「枠組み条約」本体は日本の従来の主張を考慮すればすぐにでも締約できる内容である。その上で、たとえば日本が取り組んできた、被爆者援護や軍縮教育・啓発活動は議定書Bへの加盟によって新たな国際的展開の場を得るであろう。また、NPDI(注8)を通じて取り組んできた透明性向上のための「標準様式の作成」などの活動は、議定書Cの制定に積極的に関与することによって加速されるだろう。
 議定書AとDへの加盟の検討は、日本政府にとって米国の核の傘依存から脱却する道を検討することと密接に関係する。この文脈では、北東アジア非核兵器地帯設立によって核兵器依存から脱却するプロセスが検討の対象になるはずである。その際には、「枠組み条約」を活用することで核兵器の世界的禁止と地域的禁止の相互関係が見えやすくなり、韓国、北朝鮮などとの協議がやり易くなるはずである。日本はこのように「枠組み条約」をプラットフォームとした国際的協調を通して、核兵器の全面的廃絶に向けて自らの政策を段階的に進化させてゆくことができる。
 日本がとっている現在の核軍縮・不拡散政策をそのまま出発点としながら、被爆国としての世界的な役割を強めてゆくために、この「核軍縮枠組み条約」のアプローチは極めて有用であると考える。私たち市民も、核兵器廃絶への展望をもって「枠組み条約」を持続的に活用できる。
 ピースデポは上記の骨子案を提言書の形にまとめ、禁止条約交渉決議を主導した国々、日本を含むNPDI諸国や関係者に送付する計画である。(田巻一彦、荒井摂子、梅林宏道)


1 決議全訳は本誌508号(16年11月15日)。第1委員会採択時のものだが変更されていない。
2 たとえば、第71回国連総会第1委員会での米ウッド大使の発言や豪州クイン大使の発言。前者は本誌506-7号(16年11月1日)、後者は以下のサイトを参照。www.reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/1com/1com16/statements/17Oct_Australia.pdf
3  A/71/371。16年8月19日に採択され、第71回国連総会に提出された。本誌505号(16年10月1日)に抜粋訳。
4 先に引用したOEWG報告書38節に言う「『シャポー』合意」を以下こう呼ぶ。
5 コスタリカとマレーシアが国連総会に提出した「モデル核兵器条約」(A/62/650)も、時間枠の柔軟な5つの実施段階を含んでいる点では「枠組み条約」的性質を有する。ただ、同モデル条約では検証と廃棄に関する規定が当初から設けられており、その点が、本稿での提案とは異なる。
6 ピースデポがOEWG第2会期に提出した作業文書(A/AC.286/NGO/5)を参照。本誌496-7号(16年6月1日)に掲載。
7 「核兵器の完全廃棄に向けた、新たな決意のもとでの結束した行動」(A/RES/71/49)。本誌509号(16年12月1日)に主文全訳。
8 不拡散・軍縮イニシァチブ。参加国は日本、豪州、ドイツ、オランダ、ポーランド、カナダ、メキシコ、チリ、トルコ、UAE、ナイジェリア、フィリピンの12か国。