【核禁条約交渉1】核保有国・依存国の「巻き込み」戦略も討議―国連会議3月会期の議論から

公開日:2017.08.01

 本誌前号でも述べた通り、核兵器禁止条約を交渉する国連会議の3月会期(3月27~31日、ニューヨーク)では、政府代表と市民社会から条約の目的や内容などに関する様々な具体的提案が出され、活発な意見交換があった。
 会議では事実上「禁止先行型」条約を前提に議論が進み、条約の基本的な形態などを話し合う時間は特に設けられなかった。ただ、いくつかの発言の中にこの点に関わるものが見られた。
 例えば07年にモデル包括的核兵器禁止条約(NWC)を国連に提出したマレーシアは、「最も好ましいのはモデルNWCだが、この会議では国連決議に従い、禁止を目的とする条約の交渉という義務を果たす」とした。同趣旨の発言はバングラデシュや平和首長会議からもあった。
 南アフリカは、NWCに関わって「国連決議の下では核兵器削減の詳細な検証は適切でないとの幅広い合意があるように思われる」とし、さらに「枠組み条約の検討はすべての国が参加する場で行われるほうがよい」と述べて、「禁止先行型」への支持を表明した。

「人道的視点、完全廃棄の目標、NPT補完・強化を前文に」

 参加国の発言は、禁止交渉開始への原動力となった人道的視点を前文に盛り込むべきとの点でほぼ一致していた。また、核兵器完全廃棄の目標にも何らかの形で触れることで一致していた。さらに、条約がNPT特に6条を補完・強化するとの位置づけについても、参加者間でほぼ合意されており、前文でもその点を明記すべきとの意見が多く寄せられた。引用すべき他の法的文書としては、国連憲章の目的と原則、核軍縮についての国連決議1号、1996年ICJ勧告的意見などが挙がった。なお、非常に多くの国が非核兵器地帯条約の有用性を語り、これを前文にも明記すべきとの声もあった。
 前文について「野心的に廃棄への具体的道筋を示しては」「条約が将来『枠組み合意』的役割を果たせるよう、追加議定書などへの展望を示したい」といった提案の一方で「本体に入れないものを入れすぎるべきではない」との指摘もあり、前文に盛り込む内容の多寡で意見が分かれた。

「使用の威嚇」「実験」の禁止で議論

 禁止事項については、総論として生物・化学兵器の各禁止条約と同様の包括的な禁止を求める声が相次いだ。大部分の発言者が、核兵器の「開発」「生産」「取得」「保有」「使用」「移転」「備蓄」を挙げた。「通過」と「配置・配備」、禁止行為への「援助・奨励・勧誘」も、多数が禁止事項に挙げた。
 「融資」も多くの参加者が挙げた。融資は「援助」の一形態とも言えるが、この点に関し「融資の明示的禁止で核兵器産業に資金が回らないようにしうる」「非国家主体による大量破壊兵器(WMD)関連活動への融資を禁止した安保理決議1540を国にも広げたい」との意見があった。
 「使用の威嚇」については、国連憲章2条4項でより広い「武力による威嚇」が禁止されていることその他を理由とした不要論に対し、「使用の威嚇」はこの条約で克服が目指されている核抑止概念と密接に関わる行為であり明示的に禁止すべきとの反論があった。
 「実験」を挙げた者も少なくなかったが、すでにCTBTに規定されていることを理由とする不要論や、「開発」に含めて考えればよいとする見解もあった。これに対し、「CTBTでは禁じられていない、爆発を伴わないコンピュータ上のものや未臨界核実験なども明示的に禁止すべき」「戦略上、実験と開発を別々に類型化している保有国もあるので、実験が開発に含まれるかは一考を要する」といった反論があった。
 なお、禁止に関するものを含めた検証体制を考えるべきとの意見も出され、その関連でIAEAの関与にも言及された。逆に、マレーシアは「検証は詳しく決めなくてよい」と述べた。
 核被害者の権利保障、環境回復、教育啓発などの「積極的義務」を盛り込むことについても幅広い合意があった。

「CTBTの教訓」を発効要件に活かす

 条約運用のための「制度上の取り決め」に関わって、参加国は、発効後も履行状況などを定期的に話し合う再検討会議ないし締約国会議の開催を求める点でほぼ一致した。そうした会議の運営などを司る履行支援機関そして事務局の必要性を求める声がある一方、国連軍縮局(UNODA)が事務局機能を担えばよいとする意見もあった。
 発効要件については軒並み、「CTBTなどの轍を踏まないよう、特定国の批准を要件とすべきでない」との声が挙がった。数についてスウェーデンは「国連決議の賛成国数113などにかんがみ80」、マレーシアは「35~40」とした。
 留保は、これを認めないとする意見がほとんどだった。「条約の目的に反しない限り認めてよい」との意見に対し、「この条約では目的に反しない留保を考えるのが難しい」との反論があった。脱退は、認めないとの複数の意見の一方で、「厳格な基準を設定する」「全保有国の加盟後に改正し脱退不能とする」という提案もあった。

核保有国・依存国をどう巻き込むか

 今会期は結局すべての核保有国が欠席し、核依存国はオランダと日本以外は欠席した(日本も「交渉には不参加」)。「彼ら(保有国)だけが軍備を撤廃できる」「武装解除の済んだ国による軍縮交渉なのが残念」「違う意見を持つ者を説得せねば」という声にも表れているように、核兵器の禁止を廃絶につなげるため核保有国の条約加入が今後の重要課題だとする問題意識は、広く共有されていた。そしてそのために、抜け穴を作らないよう注意しつつ「いま交渉に参加していない国々のため扉を開いておくような法的文書を作りたい」との意識も、少なくない参加者が持っていたように思う。
 南アフリカは、「核保有国が一定期間内の核兵器廃棄を誓約して条約に加入することを認める条項を導入したい。そのために何らかの検証条項を置き、当該国による核兵器廃棄完了の保証を得たい」と提案し、多くの国が同趣旨の発言を行った。保有国の加入方法につき条約締約国と保有国が別途交渉するとの提案もあった。他方、保有核兵器の廃棄を条約加入の要件とすべきとの主張もあった。
 核依存国についても条約への巻き込みが重要との認識が示され、その際に条約の文言や精神を弱体化させないことが至上命題だとされた。オランダは「核同盟NATOの一員としての義務と条約参加とを両立させたい」と述べたが、大半の参加者にとりそのままでは受け入れがたい発言だったといえよう。
 「禁止を廃絶につなげるには、核兵器国と非核兵器国の実りある対話と交渉が不可欠だ。次のNPT再検討サイクルが、国際社会の分断を乗り越えて共同作業を推進するまたとない機会だ」とアルゼンチンは訴えた。その2020年NPT再検討会議に向けた第1回準備委員会が、5月2~12日にウィーンで開かれる。今回の交渉参加国と核保有国・依存国との間でどのような「対話」がなされるのか、注目される。(荒井摂子)