【特別連載エッセー「被爆地の一角から」94】
「誰にでもできる政治参加へ」土山秀夫
公開日:2017.07.24
年明け早々の1月11日、その種の集会としては珍しい「キックオフ集会」と銘打った集まりに出席した。学生を主とした若者の参加があったためか、サッカーかラグビーの催しかと見まちがえる呼び名は、実は政治的な、極めて今日的なテーマに続くものであった。
『戦争法廃止を求める2000万人統一署名キックオフ集会』が正式な名称なのである。呼びかけ団体は「戦争への道を許さない!ながさき1001人委員会」「憲法改悪阻止長崎県共同センター」「女の平和in長崎」「N-DOVE(学生団体)」であり、これら4団体が共同して統一署名活動を始めようというのだ。もともと東京で大江健三郎さんらを中心とした「戦争をさせない1000人委員会」と他の3団体が話し合って『総がかり実行委員会』を立ち上げ、2000万人戦争法の廃止を求める統一署名を行おうと全国に呼びかけたのが始まりで、被爆地ながさきが逸(いち)早くこれに呼応して、県下で20万人を目標に活動を開始したのだった。
筆者はこれまで各種の署名活動の要請を受け、その趣旨に賛同の場合はなるべく応じてきたつもりである。しかし甚だ不謹慎な言い方であるが、署名の効果についていつも頼りなさを感じていたことを告白しなければならない。政治家が署名目的や署名人の名簿にいちいち目を通す保証はなく、よほどのことがない限り、秘書や取り次いだ人間の手で処分されてしまうのが落ちではないか、との疑念を捨て切らないでいた。だが今回ばかりは今までにない衝動めいた意欲が起こり、積極的に取り組んでみようと決心した。署名位しなければ、と追いつめられた心境とも言えた。
今年の1月4日、安倍晋三首相は年頭の記者会見で質問に答えて、夏の参院選時に「衆参同時選挙を行うことは全く考えていない」と全面否定した。ところが直後の1月6日には自民党の佐藤勉国対委員長が、「衆参同日選は全くないという話ではない」と発言。その3日後には自民党の二階俊博総務会長が、「安倍首相が衆参同日選をしたいと思っているのは間違いない。そう思っているのだから同日選があるかも知れない」と何とも思わせぶりな発言をしている。一方、首相は1月10日のNHK番組で「一部野党の協力を得て、参院で憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を目指す」と発言するや、1月21日には参院審議の中で、「いよいよどの条項について憲法を改正すべきか、改正論議も現実的な段階に移ってきた」と更に踏み込んだ。そして2月3日の衆院予算委員会では、遂に「国防軍」設置を盛り込んだ自民党憲法改正草案を引用しつつ、9条2項(戦力不保持)改正の必要性にまで言及したのだ。
これら一連の首相発言をどう読み解くか。筆者なりの解釈を以下に述べてみたい。衆参同日選に関しては、多分に政府と連動した自民党側の陽動作戦であり、野党の動揺や分断を図ろうとしたものであろう。首相自身は与党に加えて、政権に擦り寄るおおさか維新の会など“エセ野党”勢力を抱き込めば可決できる、とかなりの確信を持つに至っていることはほぼ間違いない。問題は後段の国民投票に対する民意である。首相の不安は、改憲に向き合う国民の意志が奈辺に在るのか、そこが掴みかねているからこそ、今回、自らの積極姿勢を示してそれへの国民の反応を探ろうとしたのではなかったのか。国民投票でもし敗れるようなことがあれば、自己の政権時代に改憲することは絶望的となるのを恐れているからだ。
私たちの今回の署名活動が、想定以上の多数を結集できれば、参院選での野党協力と勝利に大きな弾みとなるばかりでなく、不幸にして国民投票に持ち込まれたとしても、否決の確固とした礎になることは疑いない。
さあ、私たちの一筆で国の命運を決する意志を示そうではないか。