【資料】  歴代カナダ軍縮大使が提言「新政府は核軍縮前進へ積極的外交を」

公開日:2017.07.15

ダグラス・ロウチ氏ら1984年から2011年にかけて(94~99年を除く)カナダの軍縮大使を務めた5人の連名によるインターネット投稿記事が、反核運動家らの間で注目を集めている。地域ニュースサイト「オタワ・シチズン」に、「カナダはこうして核兵器廃絶に寄与することができる」と題し、5人によるコラムが16年6月21日付で寄稿された。元軍縮大使らは最近の米ロ中による新たな核開発競争を憂慮し、「核軍縮を元の道に戻すため」、昨年11月に就任したトルドー首相の率いる「カナダ新政府に何ができるか」と問いかけている。NATO原加盟国であり核兵器依存政策をとってきたカナダは、日本と同様、核兵器禁止条約の交渉開始には消極的な立場である。元軍縮大使らは、カナダ政府がそこから一歩踏み出し、外交を通じて核軍縮を前進させるよう、行動を促しており、核兵器禁止をめざす国々のハイレベル会合の主催といった具体的な提案を行っている。以下、全訳を掲載する。(編集部)


 共著者のマリウス・グリニウス、ペギー・メイソン、ポール・マイヤー、ダグラス・ロウチ、クリストファー・ウェストダルは、4人の首相の下でそれぞれカナダ軍縮大使の任に就いていた。 
 30年前、アイスランド・レイキャビクで、ロナルド・レーガン米大統領とミハイル・ゴルバチョフソ連書記長は、核兵器の全廃につながったかもしれない合意に達するまであと少しという所に迫った。議論は、レーガンが米国の弾道ミサイル防衛システムの開発を認めるべきだと言い張ったことで、頓挫した。
 1986年の失敗にもかかわらず、レイキャビク会談は歴史上最も重要な首脳会談の1つであった。1年後、米国とソ連は中距離核戦力全廃条約(INF条約)に調印し、初めて1つの種類の核兵器を全廃した。数年後に戦略兵器削減条約(START)が調印された。
 レイキャビク会談は核兵器のない世界への展望を示してみせた。それは、世界中の人々にとってのより確かな安全を築くため、指導者たちが敵対関係を超えて未来を描きうることを示した。間もなく冷戦終結が訪れ、平和とは言わないまでも世界的安定がもたらされるという希望が生まれた。
 それから早30年。4月17日、「ニューヨーク・タイムズ」は1面で、米国、ロシア、中国が今や新世代核兵器を「果敢に追求している」と報じた。「これらの軍備増強は冷戦時代の軍拡競争を再燃させる恐れがあり、半世紀以上も核による平和を保ってきた国々の破壊力のバランスが崩れる」と同紙は報じた。ウィリアム・ペリー前米国防長官は、「今日、核による壊滅的事態が起こる危険性は、冷戦期よりも高い」と述べた。引退して久しいゴルバチョフは、「新型核兵器」に遺憾の意を表す声明を発表した。
 どうしてこのようなことが起きたのか。どのようにして、世界の「下向き」だった核兵器の潮流が「上向き」に転じたのか。非難すべき事柄は多いが、カナダの元軍縮大使としての我々の脳裏を占めているのは、核軍縮を元の道に戻すため何ができるか、そして特にカナダ新政府が、プロセスを前に進めるため何ができるか、という問いである。
 最近、キム・ウォンス国連軍縮担当上級代表がオタワでの議会の会合で、カナダは核軍縮の前進のため、核兵器国と非核国の間の橋渡し役を果たしうる独特の位置にいる、と語った。
 何年ものあいだ政府に行動を迫ってきた核廃絶カナダ・ネットワークは、この考えを一歩先に進めた。同ネットワークはこのほど「行動の呼びかけ」を発表し、カナダ政府が今秋、国連総会で「核兵器を禁止し検証可能な廃絶を義務づける法的拘束力ある包括的な条約を交渉する」決議を提案するよう、要請している。
 ジュネーブで現在進行中の国連での作業を通じて、核兵器を禁止する新たな国際条約の土台が築かれている。だから、もしカナダが行動しても決して孤立することはない。1万5,800発の核兵器のどれか1つを使用することで生じる壊滅的影響を深く憂慮する国々による、人道主義に基づく新たな動きが拡大している。厄介なのは、その「戦略概念」の中で核兵器は安全に対する「至高の保証」だと主張するNATOの存在である。
 カナダ新政府は、国連の取り組む幅広い諸課題の前進を明らかに望んでいる以上、時代遅れのNATO政策への忠誠を、加盟国が核兵器廃絶に向けた「明確な約束」をしている核不拡散条約への肩入れよりも強いものにするのかどうか、決めなければならないだろう。
 政府は前進を望む兆候を見せている。このほど、政府は「中堅国家構想」との共催により、22か国の政府による円卓会議をジュネーブで開催した。会議では、核の脅威を減じ新たな核軍拡競争から方向転換するため、外交、協力、高レベルでの政治的誓約が必要であることが指摘された。
 我々は、カナダはこの外交活動を広げるべきだと考える。イランの核開発をやめさせるための最近の合意が示したように、核外交はまだ効果を有する。
 カナダがとり得る1つの積極的な行動としては、核兵器の禁止と廃絶のための法的文書についての交渉を直ちに始めたい国々によるハイレベル会合を主催することが考えられる。核兵器のない世界への道筋をつけるべく、同様の志を持つ中堅国を集めれば、新たな核兵器の危機の緩和に向けた絶大な貢献となるだろう。それは第2のレイキャビクにつながるかもしれない。
(訳:ピースデポ)
原文: http://ottawacitizen.com/opinion/columnists/disarmament-ambassadors-heres-how-canada-can-help-eliminate-nuclear-weapons