【連載「いま語る」67】 「核と原子力の歴史を一枚の絵に描く」 ロメイ・小百合さん

公開日:2017.04.14

 この春、博士論文の準備のため日本でフィールドワークを行っています。それで、3・4・5月は国会図書館で1960年以降の核兵器、原発関連の雑誌を読み漁りました。そして、4月に行われたG7外相会議に合わせ、初めて広島を訪れ1週間滞在、そこで、専門家、有識者、政治家、被爆者の方々にインタビューを行い、NGOのシンポジウムにも参加しました。その時印象に残っているのは、被爆者の方々が自分達の声が次世代に伝わらないかもしれないという強い危機感を持っていることに、ピースシーズのような若い世代が反応して、伝え継ごうとしていることでした。彼らは中国新聞広島平和メディアセンターのウェブサイトに平和や命の大切さを広げていく記事を執筆しています。又、紹介してくれた団体からのアドバイスで、遠方から広島へインタビューを受けに来てくれた被爆者の方に交通費を渡そうとしたところ、強く拒絶され、被爆者の中にも考え方が様々で個々に違いがあることを実感しました。
 南イタリアのカラブリア州ヴィボ・ヴァレンツィア市で、日本人声楽家の母とイタリア人建築家の父との間に生まれ、ローマで育ち、日本人学校幼稚部からフランス校の幼稚部へ移り、そのまま小、中、高校へと進みました。母からは日本語を厳しく教えられましたが、土曜日には補習校にも通っていました。仏校を選んだのは、日、伊、英語以外の言語も使えた方がいいとの両親の考えからでした。ソルボンヌ大学英文学科を卒業しましたが、言語だけでは物足りなく感じ、イタリアに戻りローマ・ラ・サピエンツァ大学で国際政治学を専攻しました。ちょうど卒業の年に東日本大震災が起こり、原発の問題に強く興味を持ち始めました。翌年、山口県の上関原発建設に反対する纐纈あや監督のドキュメンタリー映画『祝の島』の伊語字幕を作成し、シチリアの環境問題をテーマとする映画祭で紹介し、1位に輝きました。イタリアでは、2011年に原発の是非を問われる国民投票があり、日本の原発事故への関心が高まっていました。
 大学院では、イタリアで唯一、核を専門としているローマ第三大学、歴史学のレオポルド・ヌーティ教授に師事し、『日本の核政策』という題で修士論文を執筆し、現在 “Japanese Nuclear Mentality(日本人の核の精神性)”という題で博士論文を準備中です。日本の戦後史において、日本人の精神性がどのように核兵器と原子力発電所との間に相互に及ぼし合い形成されていったのかを一枚の絵にまとめ、それを俯瞰し、評価する試みです。この中で、日本は唯一の戦争被爆国であるのにアメリカの核の傘による安全保障政策を取る矛盾、ひとたび事故が起こればその被害は甚大であることが明白であるにもかかわらず原子力発電を推進し、日本中に原子力発電所が林立する矛盾がどのように生まれていったかを解き明かしたいと考えています。加えて、日本人以外の被爆者についても論究する考えです。
 2014年にローマ近郊アルミエーレ元米軍基地で行われた、ワシントンD.C.のシンクタンク「ウィルソンセンター」の Nuclear Proliferation International History Project(核拡散国際歴史プロジェクト)と大学共催のNuclear Boot Camp(核新兵キャンプ)に参加できました。そこでは、核の研究をする歴史、政治、文学、社会学の博士課程に在学中、又はこれを志望する学生が参加し、核専門家の指導の下、核に関するありとあらゆるテーマを議論し発表し、学ぶことができました。この経験により、アカデミックの世界に目が見開かれ、この世界で生きていく決意を固めました。
 今秋11月には韓国のソウルでAsia Pacific Nuclear Boot Campが行われます。昨年8月にこの準備のためのワークショップがソウルで開かれた際、中国人、韓国人の学生や研究者たちに出会う機会が多かったのに、日本の学生は言葉の壁のせいか、出会うことが少なく、世界的に孤立している感を受けたので、もっと積極的な参加を希望します。
 趣味のフィギュアスケートやバレエの他、絵も描いており、ウェブサイト(www.sayurimvromei.deviantart.com)で発表しています。技法は墨絵とデジタルを用いたものです。パリで禅の本3巻で、アメリカでは子どものためのバレエのe-bookで挿絵として採用され、出版されています。
 来る9月にスタンフォード大学に渡り、来年6月までスコット・セーガン教授の下、博論の準備と執筆を続けます。博士号取得後はアメリカでこの分野の仕事を見つけたいと願っています。
 最後に、明後日から再び広島を訪れ、オバマ大統領の歴史的スピーチを現地で感じ取る予定です。(5月24日にインタビュー。まとめ、写真:山口大輔)