【資料】「北東アジア非核兵器地帯に進むべき時」文正仁・延世大学名誉教授「原子科学者会報」(BAS)に寄せた論考の全訳。

公開日:2017.04.14

 7月、韓国政府は米国が高高度防衛(THAAD)として知られるミサイル防衛システムを配置することに合意した。この決断は野党に加え、中国政府の猛烈な反対を引き起こした。野党メンバーは政府が直ちにこの決定を撤回し、国会の審議にかけるよう要求した。中国は配備の中止を要求し、対抗措置をとると警告した。しかし朴槿恵(パク・クネ)大統領はこれら要求をきっぱりと拒絶し、北朝鮮の高まる核とミサイルの脅威がTHAADの配備以外の選択肢をなくさせた、という彼女の立場を再確認した。
 北朝鮮に関する朴大統領の戦略は、より厳しい制裁、国際的孤立化、ミサイル防衛からなる全面的圧力によって構成される。対話、交渉、相違の平和的解決という語彙は彼女の辞書から消えた。彼女はすすんで対立のエスカレーションという危険を冒しているようにすら見える。しかし金正恩(キム・ジョンウン)に核兵器を放棄するよう説得する可能なアプローチは残されている―北東アジア非核兵器地帯を追求することだ。

 北朝鮮は核の脅威の減少や除去に関わる国際法の下での平等な取り扱いを長く要求してきた。北朝鮮政府はまた、武装の解除の条件として、他の国が北朝鮮に対していかなる核による威嚇も与えないという、法的拘束力のある保証を受けることを要求した。これらの要求はこの地域に非核兵器地帯を設置する多国間条約を通じて満たすことができるだろう。そのような条約の下で核兵器国は先行不使用政策を採用し、非核兵器国に対して核兵器の使用や使用による威嚇をしない保証を行うという、消極的安全保証を与えるだろう。一方非核兵器国は核兵器を持たないと誓約する、もしくは北朝鮮のような核武装国の場合、核戦力の撤去を誓約する。
 北東アジア非核兵器地帯の概念は古くは1972年に米国の軍備管理サークルの中で初めて紹介された。1996年、軍縮専門家・梅林宏道氏がスリー・プラス・スリーの公式を組み込んだ非核兵器地帯のビジョンを明確に表明した。このモデルの下で日本と二つの朝鮮は非核兵器地帯を設立し、一方中国、ロシア、米国は地域の非核兵器国に消極的安全保証を与える。

 2010年、北朝鮮の核実験に対して、ノーチラス研究所とその所長ピーター・ヘイズは、これをツー・プラス・スリー公式へと発展させた。このモデルの下では非核兵器地帯条約は韓国と日本を非核兵器国とし、米国、中国、ロシアは核兵器国として参加する。北朝鮮は条約の初めには核武装国だが、のちに非核兵器国として条約に従う。このアイディアはその後、磨きあげられ、安全保障問題を審議する地域協議会、地域的友好合意、朝鮮戦争休戦協定の最終的な平和条約への変更、北朝鮮への制裁の終結、北朝鮮での非軍事的核関連活動に関する付帯合意を含みうる北朝鮮政府への経済援助パッケージなどを包含するものとなった。
 それ以上にそのような合意の下で設立された地帯は、査察組織、監視・検証機構、北朝鮮への消極的安全保証(これらの保証は北朝鮮政府による非核化マイルストーンの達成状況に歩調を合わせて与えられる。)の確立を伴う。

 このアプローチは真剣な考慮に値する―このアプローチがこの地域全体の核の脅威を公平なやり方で取り扱うからというだけではない。行き詰まっている6か国協議は対照的に地域の他の安全保障問題に対して低い役割しか果たさず、北朝鮮から発せられる脅威に焦点を置いてきた。
 ノーチラスのアプローチへの明白な挑戦は、核武装国としての北朝鮮の地位が近年高まったことである。しかし、それは、核兵器国が消極的安全保証を提供し、先行不使用政策を確立した場合にのみ、北朝鮮が一定のペースで非核兵器地帯条約の必要条件に従い、前進することを妨げるものはない。それどころか、そのようなアプローチは北朝鮮政府が7月6日の非核化についての提案(筆者がラウンド2で議論した提案1)の中で出した要求を満たすことにさえなるかもしれない。

 非核兵器地帯設立の第一歩は6か国協議が国連事務総長と国連軍縮局に地帯の基礎となる概念を精査するための専門家会議を招集することを要求することであろう。核不拡散・軍縮アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク(APLN)のような市民社会組織による努力も並行して実施されうる。
 北東アジアに非核兵器地帯を設立することは極端な理想主義に聞こえるかもしれない。しかし、半島での深刻な軍事的対立や破滅的な戦争の脅威の中で、行き詰まった交渉の終わりのないサイクルのどこが現実的なのだろうか?
(訳:ピースデポ)
原注
1 “A basis for a breakthrough in Pyongang Statement”, 14 July, Chung-in Moon, http://thebulletin.org/north-koreas-nuclear-weapons-what-now