国連総会第1委員会禁止条約交渉開始の中での「日本決議」   歴史的転換点に従来のままでは立ち行かず    

公開日:2017.04.13

国連総会第1委員会では今年も、日本の主導で提案された決議「核兵器の全面的廃絶に向けた、新たな決意のもとでの結束した行動」(以下「日本決議」)が採択された。禁止条約交渉の開始が現実のものとなる中、まず気づくのは決議が禁止の動きに結び付く要素を不自然に避けていることだ。他方、従来の核軍縮措置に関わる若干の変化もあったが、その真意は慎重に見極める必要がある。核軍縮の大きな転換点を迎え、日本決議も従来のままでは立ち行かなくなっている。

OEWGへの言及を不自然に回避

 今年の国連総会第1委員会は、核兵器禁止条約交渉を来年開始するという歴史的な決議が採択された(本誌前号参照)点で昨年以前の委員会とは大きく異なっていた。そのような中、禁止条約の早期実現に否定的な核兵器国や核兵器依存国の主張する、従来からの「段階的な核軍縮措置」を象徴する存在ともいえる日本決議がどのような内容になるかが注目された。
 この観点から見たとき、最初に目を引くのは次のような点だ(2~3ページ資料に決議主文の訳)。
 まず、決議は今年開かれた国連「核軍縮」公開作業部会(OEWG)に一切言及していない。これまでの日本決議は、過去1年の主要な核軍縮・不拡散関係の出来事に一言触れるのが常であった。今年の日本決議でも前文で、署名開放20年記念などCTBT関連会合、オバマ米大統領はじめ各国首脳の被爆地訪問や、核保安サミットには触れている。これら行事と規模や重みを比べても、OEWGはどう評価するにせよ何らかの形で触れるべき会合である。現に13年OEWGは同年の日本決議前文で「留意する」と言及されており、今年に限り無視するのは不自然だ。新アジェンダ連合(NAC)決議1が、OEWGの開催とその報告書を「歓迎」し、核軍縮の効果的な法的措置の交渉への努力を呼びかけつつ、最近の関連する取り組みをも「歓迎」しているのとは対照的である。
 次に、今年の決議では、核軍縮の効果的措置を探究する「適切な多国間協議の場」への参画を奨励する条項が消えている。「多国間協議の場」だった16年OEWGが禁止条約への動きを加速し、またL.41決議2が設置する禁止交渉会議もこの「協議の場」に該当するように読めるとの判断から、意識的に取り下げられたと考えられる。
 さらに、昨年に続き今年も、一昨年まではあった「市民社会が軍縮・不拡散に果たしている建設的な役割を称賛し奨励する」条項がなかった。市民社会の強い声が禁止の動きを形作ってきたことを意識したためではないだろうか。
 このように、今年の日本決議では禁止条約実現につながる要素への言及が避けられている。禁止条約をめぐる諸国間の分岐が鮮明になる中で、日本が追い詰められている様子がうかがえる。

禁止の動きに対抗した実績作り?

 他方、今年は前文に「軍縮会議(CD)における20年にわたる行き詰まりを克服する可能性を引き続き探る必要を強調」する段落が新設される一方で、FMCT交渉を「直ちに開始」するよう促す条項(20節)から、昨年はあった「CDで」の文言が削除された。これを裏打ちするように佐野利男・軍縮大使は「CDが長らくFMCT交渉の場と考えられてきたが(……)交渉開始を促進する他の方法を真剣に検討し始めるべき」と発言している3。日本はOEWGに提出した作業文書4などでFMCT交渉のための公開作業部会の設置を提案しており、そうしたことも念頭にあると思われる。
 もう1つ、核兵器国と非核兵器国に核軍縮・不拡散措置を促進する「有意義な対話を一層進めることを奨励する」条項(7節)が新設された。FMCTも含め「禁止条約」の動きに対抗した何らかの実績作りが企図されている可能性もある。停滞していた核軍縮の諸措置が動き出すこと自体は歓迎すべきとも思えるが、その真意について日本の行動を慎重に見極めていく必要がある。

分断を広げているのは「禁止反対派」

 日本決議の委員会投票数は賛成167・反対4・棄権17で昨年とあまり変わらなかった。他方、NAC決議は賛成141・反対24・棄権20で、昨年と比べ反対が大幅に増えてその分棄権が減った。棄権から反対に転じた17か国は東欧やバルト諸国を中心とするNATO加盟の核依存国である。原因は明らかに、同決議がOEWGや法的禁止への動きを明示的に肯定していることにあるといえよう。なお日本はNAC決議には昨年同様、棄権した。
 OEWGや禁止の動きに言及したNAC決議が反対を増やし、これらに言及しない日本決議への支持状況が変わらないのは何を意味するだろうか。核兵器国や日本を含む依存国は、禁止の動きは国家間の分断を進めるとしてこれを批判する。しかし、禁止推進諸国の大半が日本決議に賛成し続けていることを考えると、むしろ分断を作り出しているのは「禁止」を頑なに拒み続ける核兵器国・依存国ではないか。そして日本が今後、仮に禁止条約交渉の進展について今年のように無視を続けるか否定的な評価を下す場合には、禁止推進諸国からこれまで通りの支持が得られる保証はなくなり、“接着剤”だったはずの日本決議が分断を助長する事態が生まれるかもしれない。

核の役割、自ら見直しを

 日本決議とそれが表現する日本の核軍縮政策は、従来通りではもはや立ち行かなくなっている。日本が今年「禁止交渉決議」に反対したことで、米国の核の傘の確保と引き換えに「被爆国」の看板に自ら傷をつけてしまったことを思えばなおさらである。核兵器の非人道性の認識と核依存政策とは本質的に相容れない。この両方を一国レベルで抱え続けることの限界が、露呈したといえるのではないだろうか。禁止条約交渉が始まろうとしている今こそ、日本は核依存政策からの脱却に着手すべき時である。具体的には自らの決議の13節に基づき、核兵器の役割を低減させるべく自国の安全保障政策の見直しを開始すべきだ。また、16節に基づき、北東アジア非核兵器地帯の設立に向けた検討を始めるべきである。失った「被爆国」としての信頼を回復するためにも、率先して決議を履行することを求めたい。(荒井摂子)


1 「核兵器のない世界へ:核軍縮に関する誓約の履行を加速する」(A/C.1/71/L.35)。
2 「多国間核軍縮交渉を前進させる」(A/C.1/71/L.41)。本誌前号(508号、16年11月15日)に全訳。
3 16年10月17日、テーマ別討議「核兵器」にて。
4 「核兵器のない世界に向けた効果的措置」(A/AC.286/WP.22)。