姿を現した「トランプ軍拡」路線  国防予算を10パーセント増、同盟国には防衛負担増要求

公開日:2017.07.14

トランプ米大統領は2月28日の両院議会演説で「歴史的な国防予算の増額」を宣言し、3月16日には国防予算を10%増額するとの18会計年「予算方針」を提示した。大統領はこの軍拡予算を背景に、同盟国への防衛費負担増の圧力を強めている。「アメリカ第一」を標榜するトランプ路線は、同盟国のみならず「敵対国」をも巻き込んだ軍拡の嵐を巻き起こそうとしている。安倍政権はこの路線を歓迎し、「防衛費GDP1%枠」を公然と捨て去って積極的に一端を担うことを示唆した。地域の軍拡と相互不信を増幅するこの愚行を止めるのは日本市民の役目だ。


国防予算10%増額を提案

 2月28日の演説1の抜粋訳を2ページの資料に示す。ここで大統領がまず示したのは、「軍再建のために史上最大級の国防費増額予算案を議会に提出する」方針であった。実際、3月16日に議会に提出された「アメリカ第一:再び偉大な国にするために」と題された18会計年(17年10月~)「予算方針」2では、「債務拡大なき国防費の歴史的増額」が重点施策の筆頭に挙げられた。その結果、18会計年度の国防総省予算額は6,390億ドル(対17会計年比520億ドル増)になる。内訳は基礎予算5,740億ドル(同10%増)、海外非常事態作戦予算が650億ドル(同4.3%増)である。
 国防予算は、国家財政再建のためにオバマ政権が施行した「2011年予算管理法」の下で削減措置を受けてきた。18会計年の予算増は、この「強制削減」を全面的に撤廃することによって「オバマ大統領の下で劣化した軍を再建する」ことが目的であると「予算方針」は述べる。予算の使途の詳細は5月提出予定の予算案で明らかにされるが、「予算方針」では対ISIS戦費、部隊の効率・即応性の向上、老朽化した装備・インフラの改善、退役軍人手当、陸軍、海兵隊、海軍、空軍の人員や装備の増強などが例示された。
 このような国防費増額を「債務拡大なしに」賄う財源は、対外援助を含む国務省予算、環境保護庁予算などの大幅削減によって捻出する。これらの重要政策を犠牲にした大軍拡に対しては、共和党内部からさえ異論が出されている。

同盟国への負担増額要求

 トランプ演説で打ち出されたもう1つの方針は、「同盟国に米国の予算増額に見合った公平な負担を求める」ことである。
 演説に先立つ2月15日、NATO外相会議に出席したマティス国防長官は、記者団に対して次のように語った。「アメリカに掛け値なしの同盟上の義務履行を求めるならば、共通の防衛努力への支援を示すべきだ」3
 これは選挙キャンペーン中から繰り返されてきた要求である。NATO加盟国には「国内総生産(GDP)2%相当」の国防費を予算化するとの申し合わせがある。しかし現状では、加盟国28か国の中でこの目標を達成しているのは英、エストニア、ギリシャ、米の4か国に過ぎない。有力国でさえ、仏(1.78%)、トルコ(1.56%)、独(1.19%)、カナダ(0.99%)という現状である4。トランプ政権自らの大軍拡に加えて、加盟国が負担増に応じれば、ロシアも軍拡で対抗するだろう。トランプ軍拡はこうして増幅、波及してゆく。

日本も防衛費増額で呼応か

 安倍首相は、3月2日の参議院予算委員会において、トランプ政権の軍拡方針をアジア太平洋の軍事バランスを考慮した適切なものだと評価した。さらに首相は、米との防衛協力を強化してゆくとした上で、防衛費「GDP1%枠」にこだわらず必要な防衛費を確保してゆくとの考えを示した。首相は、トランプ氏から「負担増要求」は来ていないとも言ったが真偽はわからない。 
 1976年、日本が軍事大国にならないための「定量的規制値」として三木内閣によって定められた「GDP(当時はGNP(国民総生産))1%枠」は、87年に中曽根内閣で撤廃されたが現在も結果的には維持されている。トランプ軍拡に呼応するだけでなく、「1%枠」を超えて軍備拡張を進めるならば、それは地域に相互不信と軍拡競争の種をまく重大な誤りである。(田巻一彦)


1 毎年1月の議会開会から約2か月後に大統領が行う演説は「一般教書演説」と呼ばれるが、新大統領の就任直後に行う演説は慣習的にこのように呼ばれる。
2 www.whitehouse.gov/sites/whitehouse.gov/files/omb/budget/fy2018/2018_blueprint.pdf
3 『ワシントン・ポスト』(電子版)、17年2月25日。
4 同上。