【2020年NPT再検討会議 第1回準備委員会(ウィーン)参加報告】

公開日:2017.09.14

 5月2日から12日にかけて、2020年NPT(核不拡散条約)再検討会議第1回準備委員会がオーストリアの国連ウィーン本部で開かれた。ピースデポからは研究員の山口(筆者)がこの前半部分(2~5日)と各国政府やNGOのサイドイベントに参加した。
 5月2日午前10時、準備委員会が時間通り開始された。400人は入る会議場は満席で、立ち見の参加者も出ていた。
 オランダ大使のファンデルクワスト議長から開会の辞でこの会議の狙いが述べられた。1995、2000、2010年再検討会議の結果を参照しつつ、共通する意見・共有できる目標を探っていこうとされた。

岸田外相の発言

 一般討論に入り、最初の発言者は日本の岸田外相であった。他国にはないハイレベル政府高官としての出席に対し、議長より謝意が述べられた。岸田外相の発言は核廃絶へのステップ・バイ・ステップ・アプローチなど、これまでの政府の立場の繰り返しで、ほとんど新しいものはなかった。外相は、核軍縮に関して日本がとる次の3つの行動を示した。
1. 今年、核兵器国・非核兵器国の両方から核軍縮の専門家を招へいし、賢人グループを設置する。その提案を次回準備委員会(18年4月、ジュネーブ)に提出する。
2. 今年、CTBT(包括的核実験禁止条約)の発効に寄与するために東南アジア・太平洋・極東地域の国家を招いて地域会議を開催する。
3. 国境と世代を越えて原爆の人道的影響の認識を広げるため、若者と「CTBTユースグループ」のネットワークを設置する。広島と長崎に1,000名を招待する。
 北朝鮮核問題に関しては、国連安保理決議と2005年6か国協議共同声明の遵守、核・ミサイルプログラムの放棄、NPTへの復帰を求めるだけでなく、核兵器保有の動機減少のために安全保障環境を改善する、朝鮮半島非核化に向け日本が外交努力を主導する、と発言していたのは少しは期待できるのだろうか。しかし現実には、例えば韓国のメディアでこの問題での日本の役割を期待している論調はほとんど存在しないことを認識しておかねばならない。また、日本が米国の核の傘の確認、ミサイル防衛の強化、米韓合同軍事演習への協力を通して北朝鮮の核保有の動機を増大させていることとの整合性の説明がつかない。

北朝鮮核問題はいかに語られたか

 引き続き、核兵器国、NATOなどの核依存国、非同盟運動の非核兵器国、非核兵器地帯を構成する非核兵器国などの大使が順不同で発言していった。この中で北朝鮮核問題がどのように語られるのか、注意深く聞いていた。ほぼ全ての国が北朝鮮核問題について言及していく中で、多くの国が北朝鮮の核・ミサイル開発を非難し、北朝鮮に国連安保理決議の遵守とNPTへの復帰を要求し、各国に北朝鮮への制裁を要求するだけに終わっていた。一般討論を聞くことのできた4日の午前中までに発言した82代表(国家以外も含む)のうち、明確に対話を呼びかけていたのはわずかにオランダ、スロベニア、中国、アイルランド、スイス、タイ、イギリス、カナダ、リトアニア、シンガポール(発言順)のみであった。(発言原稿を後で確認したところ、日本同様、米ロも外交圧力について触れていた。)特に日米は自らの行動も地域の安全保障環境の悪化に寄与しているという認識を示さないまま、北朝鮮の核問題を理由に核抑止の重要性を語っていた。この点は、それぞれの国の安全保障に対する懸念が等しく取り扱われず尊重されていない、国際社会は二重基準を放棄せよ、として中ロの代表に批判されていた。
 日本のミサイル防衛や米韓軍事演習に関連して、4日の昼休みに仏韓政府主催のサイドイベント「北朝鮮の核・ミサイルの脅威とNPT」に参加し、韓国の大使と外務省幹部の発言を聞く機会があった。そこでは、北朝鮮は関係国との交渉を欲していないという認識が示されたほか、米国が韓国に配備するTHAADを始めとするミサイル防衛システムはもっぱら防御的なものであるという認識も示された。一方、合同軍事演習については、次のような認識が示された。北朝鮮の核・ミサイル実験は国連安保理決議に反する非合法なものであるのに対し、合同軍事演習は非合法なものでないから何も問題はないとした。米韓合同軍事演習が北朝鮮への脅威になっているという認識は示されなかった。どこの国でも外務省の人間は、政府(行政権)の決定事項の忠実な執行者であり、非難するのはお門違いであるのは承知している。しかし、問題解決のための方法を計画する際に基礎となる事実の認識に公平さを欠いていて理性的で建設的な提案を政府に対してできるのだろうか。それだけに政治の重要性を再度痛感させられた。
 米国の代表は北朝鮮核問題を重大なものとしてとらえ、この準備委員会の中心的課題(central issue)として議論されるべきであると提起した。日程上ほんの一部しか参加することができなかったこの後に行われたクラスター1(核不拡散・軍縮・国際平和と安全保障)、全く参加できなかったクラスター2(核不拡散・保障措置・非核兵器地帯)の声明をウェブサイトで確認してみたが、この点について深められた形跡はない。
 この問題に関して中国から提案があった。これは今回の準備委員会前から中国により語られていた「複線的アプローチ(dual-track approach)」と「凍結対凍結(suspension for suspension)」である1。前者は朝鮮半島の非核化と平和機構の設立を並行して行うもの、後者は北朝鮮の核・ミサイル実験の凍結を条件に米韓合同軍事演習の凍結をするものである。これは15年にRECNA(長崎大学核兵器廃絶研究センター)が提案している、「北東アジア非核化のための包括的枠組み合意」2と親和性の高い提案である。

NGO発言

 5月3日午前中の時間枠の終了時点では、一般討論を行う予定の74代表中51代表だけが発言を終えていた。これを中断して午後は予定通りNGO発言が行われた。全部で19のNGOが発言した。最初の5名は日本のNGOからの発言であった。児玉さん(被団協)、小溝広島平和センター理事長、田上長崎市長(以上平和首長会議)、土田さん(原水協)、河合さん(創価学会インターナショナル)が発言した。13番目の筆者を含めて日本からの発言は6名。日本の核廃絶への熱意を示せたと思う。核兵器国と核兵器依存国の発言の中にある核ドクトリンに基づいた安全保障が、人類の生存と地球環境の保全を全く考慮しない非現実的な空疎なものに聞こえるのに対し、NGOからの発言は核兵器による非人道的体験と世代を越えた影響、核抑止への疑問、NPT6条に定められた核軍縮義務不履行への疑問、NPTで5か国に核兵器保有が認められている二重基準への疑問など、地に足のついた熱のこもった議論であった。ピースデポの発言「北東アジアにおける核リスクの低減と軍縮」(資料)も日米韓による核抑止政策、アメリカによる核保有の正当化を名指しで強く批判するものであり、発言の間中、場内がざわめいているのを感じた。国家代表の多くは代名詞を用いて核兵器国を遠回しに批判していたのに対し、NGOは国名を名指しで直接的に批判していたのが印象的だった。(山口大輔)


1 「中国国際電視台」17年4月29日。https://news.cgtn.com/news/3d49544f32597a4d/share_p.html
2 以下のサイトから全文を閲覧可能。www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/asia