国連公開作業部会17年「禁止条約交渉」開始を勧告 投票による多数決で波乱の幕切れ―議論の舞台は国連総会へ

公開日:2016.12.16

8月19日、ジュネーブで最終(第3)会期が開かれていた国連核軍縮公開作業部会(OEWG、議長:タニ・トングファクディ・タイ大使)は、国連総会に対して「核兵器を禁止し全面的廃棄に導く法的拘束力のある文書」を交渉するための会議を2017年に開催することを、「幅広い支持のもとに勧告する」報告書を採択して閉幕した。2月から8月にかけての正味20日近くに及ぶ議論は、核兵器禁止交渉の開始を求める非核兵器国の勝利で終わった。最終日には、全会一致での採択という大方の予想に反して、報告書が投票に付されるという波乱があった。議論の舞台は9月13日に開会する国連総会に移る。

最終日のドラマ―全会一致から一転、投票に

「法的拘束力のある核兵器を禁止する文書の交渉を2017年に開始するべき」と主張する「核兵器禁止推進派」(多数派)と、「そのような交渉は時期尚早。安全保障上の懸念を考慮して現実的な諸措置を取るべきである」と主張する、日本を含む核兵器依存国=「前(漸)進的アプローチ派」の間の溝は、最終日を迎えてもついに埋まることはなかった。議長の努力と各国政府代表の協力でギリギリまで非公式の折衝が続けられた結果、報告書最終案の「V.結論と合意された勧告」のうち第67節は「核兵器禁止交渉の2017年開始」と「現実的な諸措置」の両論を併記し、作業部会は2つの「勧告があったこと」を「認識した」という文面になっていた。これは、全会一致での採択を追求する立場からなされた苦肉の妥協案であった。「禁止推進派」の国々も不満足ながらこれが全会一致できる最善であり、これで採択されることもやむなしという認識にほぼ到達していた。

 ところが、採択手続きに入る前の最終討論で、「前(漸)進的アプローチ派」24か国中の14か国を代表して発言に立った豪州が「、2017年に禁止条約交渉の会議を開催するとの提案を行っており承認できない」と報告書案に異を唱えた。そして、いよいよ議長が採択手続きに移ろうとしたその時、豪州は今度は「一国の資格での発言」と断った上で次のように「報告書全体の投票」を求めた。
「我々はこの報告書の採択を支持できない。報告書全体の投票を行い、立場を明らかにしたい。国家的・国際的安全保障の深い問題が争点になっている。妥協できる文言を探る真摯な努力は十分理解するが、この状況では明快さが必要だ」。

「禁止推進派」の歴史的勝利

 この予期せぬ事態を受けて、2段階の投票による採決が行われた。投票方式は総会の通常の方法である挙手によった。
 第1段階は、グアテマラから口頭提案された報告書の修正案に対する採決である。この修正案は前記の「勧告があったことを……認識した」を「勧告した」に変更するものであった。これは、賛成62、反対27、棄権8で可決された。
 続いて第2段階として、修正された報告書案全体に対する投票が行われ、結果は、賛成68、反対22、棄権13であった。3分の2近い賛成多数で採択された報告書の第67節を資料に示す。「核兵器禁止条約の交渉のための会議を2017年に開催するよう、国連総会に勧告する」旨が明記されている。
 これまでの議論の流れから、投票にかければ、報告書の両論併記的部分が「禁止推進派」の意向に沿って修正されて真の「勧告」に「昇格」し、それが圧倒的多数で採択されることは十分予測可能であった。相手方を利するリスクを冒してなお「投票」を主張した豪州の真意は不明である。禁止条約交渉開始に反対した事実を鮮明にして記録に残したかったということだろうか。
 その点がどうあれ、「禁止条約交渉2017年開始」の勧告が勝ち取られたことが、「禁止推進派」の国々およびそれと共同歩調を取ってきた被爆者、NGOや市民にとって歴史的な勝利であることは間違いない。この勧告を背景にして国連総会で新しい交渉開始決議が採択されれば、2017年には「禁止条約交渉」を主題とする会議が開かれることになる。
 ただ、OEWG報告書が全会一致ではなく多数決で採択されたという事実が、総会における新決議の議論にどのような影響を与えるかについては、不透明さが残ることも事実である。多数決採択によって「核兵器禁止交渉」に中間的な国々が「反対」もしくは「棄権」に追いやられた側面は否定できない。特に、挙手による投票は記名投票とは違うものの、いったん反対を表明した国々は、総会で一転、賛成に回ることが難しくなるかもしれない。禁止推進派が多数派であるとの事実が明記されている以上、両論併記的なものであったとしても全会一致の報告書のほうが多数決採択のものより事実上の重みをもち、総会に提出される禁止条約交渉開始決議へのより強力な支えになりえたと考えられなくもない。いずれにせよ、禁止条約の早期締結を目指す国々や市民が今、目指すべきなのは、勝ち取られた「2017年交渉開始」の勧告を含むOEWG報告書を最大限生かしつつ、国連総会での禁止条約交渉開始決議の内容を熟議し、これを採択に持ち込むことだろう。

露わになった日本の偽善的態度

 豪州と共に報告書に異を唱えた13か国に日本は加わっていない。「前(漸)進的アプローチ派」 24か国の間に何らかの方針の食い違いが発生した可能性がある。だが私たちが見過ごしてならないのは、OEWG各会期を通じて「禁止のための交渉は時期尚早」「安全保障上の懸念を考慮すべき」と同派の先頭に立って主張してきた日本が、採決で反対でなく棄権票を投じたことだ。日本政府代表は投票後の説明で「日本は核軍縮に関する基本的立場から棄権した」とし「核兵器のない世界を創るには核兵器国と非核兵器国の協働が不可欠だと信じる」と述べた。しかし、事実は国連総会が「すべての国が作業部会に参加することを奨励した」(報告書13節)にもかかわらず「核兵器国、核兵器保有国は参加しなかった」(同節)のである。この事実を無視してあたかも核兵器国の代弁者のように振舞いながら、全会一致ができなくなった途端、「棄権」によって自称・橋渡し役の体面を取り繕ったことは偽善であり欺瞞という他はない。
(田巻一彦、荒井摂子)

付記:ピースデポは、8月第3会期の後半(8月16 ~19日)に荒井事務局長をジュネーブに派遣しました。現地報告がウェブサイトに掲載されているのでご参照ください。
www.peacedepot.org/menunew.htm

注1:ポーランド、ブルガリア、ハンガリー、韓国、イタリア、ベルギー、スロバキア、ルーマニア、ラトビア、エストニア、ルクセンブルク、トルコ、リトアニア、そして豪州。