Ⅱ 「公開作業部会」参加に関する外務大臣宛要請書 ―ピースデポ

公開日:2017.07.24

2016年2月16日 
NPO法人ピースデポ

【要請事項】
 標記国連公開作業部会(OEWG)に関し、次のことを要請します。
(1) OEWGに積極的に参加し、核軍縮議論の深化と前進に貢献すること。
(2)「核軍縮を実現するための具体的で効果的な法的措置」の概念を幅広く理解し、議論に加わること。
(3) 13年「ビルディング・ブロック」アプローチ作業文書を生かすとすれば、今回のOEWGの目的にそって改訂し、提案すること。
(4) 諸提案を同時並行に追求することを許す合意形成をリードすること。
(5) 日本自らが核兵器依存から脱却する方向を明確にし、その立場からの発言や貢献を行うこと。

§1.はじめに

 日本政府は、今年1月にジュネーブに設置され2月から8月の3会期(15日間)にわたり議論が行われる上記公開作業部会(以下「OEWG」)への参加を、検討中であると聞いております。
 OEWGには、第70回国連総会決議「多国間核軍縮交渉を前進させる」(A/RES/70/33)によって、次の2つのマンデートが与えられています。
1) 核軍縮を実現するための具体的で効果的な法的措置、とりわけ核兵器のない世界の達成と維持のために締結される必要のある具体的で効果的な法的措置、法的条項および規範について、実質的に議論する。(決議本文第2節、これを「第1マンデート」と呼びます)。
2)多国間核軍縮の前進に寄与するであろう、他の諸措置についても、勧告の策定に取り組む。(例)現存する核兵器に関わるリスクに関連する透明性措置;事故、過誤、無認可によるあるいは意図的な核兵器爆発の危険性を低下、除去するための措置;核爆発がもたらす人道上の結末に関する認識や理解を促進させるための追加的措置。(同第3節)。
 さらに、OEWGには「実質的作業と合意された諸勧告に関する報告書を提出すること」が求められています(第7節)。同報告書は国連事務総長を通じて軍縮会議(CD)、国連軍縮委員会(UNDC)及び2018年までに開催される、核軍縮に関するハイレベル国際会議に送付されます(第8節)。
 マンデートの中で特に重要なのが第1マンデートです。「法的拘束力のある核兵器の禁止」の希求はもはや押しとどめることのできない世界の趨勢であり、その岩盤には核兵器使用による「壊滅的な人道上の結末」への懸念が存在しています。
 私たちは、唯一の戦争被爆国であり核軍縮において大きな国際的影響力を持つ日本が、公開作業部会に参加し、積極的かつ主導的な役割を果たすことを願い、この要請書を提出します。

§2.日本がOEWGに参加することの意義

 核軍縮議論の停滞の中で明確になってきているのが、<核兵器保有国・依存国>と<核兵器に依存しない国々>との間に深い溝が存在するという図式です。
 総会決議A/RES/70/33の投票結果は次のとおりでした。
賛成:138; 反対:12;  棄権:34
 138か国という圧倒的な多数(全加盟国の3分の2以上)が賛成した一方、5核兵器国はすべて反対、核兵器依存国(日本、韓国、オーストラリア、NATO諸国など)は反対もしくは棄権しました。
 5核兵器国は、第1委員会において連名の「反対理由」を発表し、核兵器国の支持や参画のない法的文書によって核兵器を廃絶することは不可能である、この決議は安全保障上の考察を無視しているなどと、決議を批判しました。
 この図式を視野に置きつつ、私たちはOEWGに日本が参加し、積極的な貢献をなすことには、次のような大きな意義があると考えています。
1)「『核兵器のない世界』の実現に向け、国際社会の取組を主導していく」という従来からの政府の方針からみて、不参加はありえない選択だと考えます。
2)核兵器使用による壊滅的な人道上の結末を誰よりも知っている戦争被爆国の歴史的使命として、具体的提案と議論によって核兵器のない世界の実現に貢献する絶好の機会です。
3)<核兵器国保有国・依存国>と<核兵器に依存しない国々>の間に「橋をかける」ことを旨としてきた日本の政策の蓄積を十全に活かしたユニークな貢献をすることができます。
4) 日本政府が、すでに平均年齢が80歳を超えた被爆者の悲願に応えるための回答を準備する場となります。
5) 日本が積極的に関与し議論に加わることによって、会議の成果の正統性と説得力が高められることを、国際社会は期待しています。

§3. 2013年から16年へ―目に見える前進を

 2013年に開催されたOEWGのマンデートは「核軍縮交渉を前進させるための諸提案を作り出す」ことでした。これに対して16年のOEWGは「核兵器のない世界の達成と維持のために締結される必要のある具体的で効果的な法的措置、法的条項及び規範について、実質的に議論する」ことをマンデートとしています。従って今回のOEWGに日本が参加するにあたっては、次のような観点から、13年OEWGに提出した「ビルディング・ブロック」作業文書を基礎にして今回のマンデートに合致した提案を行うことが考えられます。その場合、次のような要件が加わることが求められると思います。
1)核兵器国、日本のような核兵器依存国などすべての国が「核兵器のない世界」の平和を追求する準備をする必要があることを前提にした「ビルディング・ブロック」を構想すること。
2)「ビルティング・ブロック」アプローチが、ベンチマークと時間軸(固定的である必要はない)をともなった提案になること。

§4.提案されている「法的枠組み」の 諸オプションの整理

 ピースデポは、核兵器を禁止し廃棄するための「効果的な諸措置」を含む法的枠組みの交渉開始を追求するという観点から、「核兵器禁止のための法的枠組みの諸オプション」に継続的に関心を注ぎ、諸文献の調査を通して概念と課題の整理を行ってきました。
 別添の「<表>核兵器禁止・廃棄の法的枠組みの諸オプション」※に、以下の5つのオプションの概要、利点と課題をまとめました。この整理は、OEWGにおいて「法的枠組み」を検討する際の指針として有用であると考えています:
オプション1 包括的核兵器禁止条約
(Nuclear Weapons Convention:NWC)
オプション2 簡易型核兵器禁止条約
(Nuclear Weapons Ban Treaty:NWBTまたはBan Treaty)
オプション3 「枠組み合意」アプローチ
(A Framework Agreement Approach)
オプション4 「ビルディング・ブロック」アプローチ(Building Blocks Approach)
オプション5 混合型組み合わせ
(A Hybrid Arrangement)
 

§5. OEWG参加に関する要請事項

 私たちは、次のとおり要請します。

(1) OEWGに積極的に参加し、核軍縮議論の深化と前進に貢献してください
①「『核兵器のない世界』の実現に向け、国際社会の取組を主導していく」という政府の従来の方針にたつならば、不参加はありえない選択だと考えます。
②OEWGは、核兵器使用による壊滅的な人道上の結末を誰よりも知っている戦争被爆国として、具体的提案と議論によって核兵器のない世界の実現に貢献する絶好の機会です。
③<核兵器国保有国・依存国>と<核兵器に依存しない国々>の間に「橋をかける」ことを旨としてきた日本の政策の蓄積を十全に活かしたユニークな貢献が期待できます。
 OEWGは、日本政府が、すでに平均年齢が80歳を超えた被爆者の悲願に応えるための回答を準備する場ともなるでしょう。日本が積極的に関与し議論に加わることによって、会議の成果の正統性と説得力が高められることを、国際社会は期待しています。

(2)「核軍縮を実現するための具体的で効果的な法的措置」を幅広く理解し、議論に加わってください
 核兵器を禁止する直接的な法的枠組みが存在しない現状を、核兵器保有国は「核兵器は合法的である」ことの証左であるかのようにとらえ、禁止のための議論を回避しています。第1マンデートにおける「具体的で効果的な法的措置」には、適切に改訂されるならば、13年に日本が提案した「ビルディング・ブロック」アプローチも含まれます。是非、「具体的で効果的な法的措置」の概念を幅広く理解して議論に参加してください。世界から集まるNGO、市民、専門家の意見に耳を傾けてください。

(3) 13年「ビルディング・ブロック」アプローチ作業文書を生かすとすれば、今回のOEWGの目的にそって改訂し、提案してください
 13年OEWGに、日本がオーストラリア、ベルギーなど11か国とともに提出した作業文書「核兵器のない世界に向けたビルディング・ブロック」(2013年6月27日)は、兵器用核分裂性物質の禁止、CTBT発効、核実験モラトリアム、核兵器保有国による消極的安全保証等、核兵器の総数の削減、安全保障における核兵器の役割の低減、さらには非核兵器地帯の強化・新設などを例示しながら、「必要性も可能性もある」行動を列挙しています。この文書を生かすとすれば、今回のOEWGの目的にそって改訂し、提案してください。改訂にあたっては、例えば次の事項に留意してください:
①ベンチマークや時間軸を明示すること。「中間的目標」であっても時間軸への言及が必要と思われます。たとえば、核兵器の総数の削減においてそれが求められます。
②「非核兵器地帯の強化」の項目には、「北東アジア非核兵器地帯の設立」が明記されるべきです。
③「核兵器の役割の低減」は、②との関連において日本自身が核兵器依存から脱する誓約と行動によって裏うちされるべきです。
 現状のままの「作業文書」では、「ステップ・バイ・ステップ(漸進的)アプローチ」と同様に、核保有国などによる現状維持のための口実になりかねません。

(4) 諸提案を同時並行に追求することを許す合意形成をリードしてください
 先に示した「法的枠組み」の5つのオプションは、いずれも現段階では、その態様に関する確定的な共通認識は存在しません。したがって、OEWGには、特定のオプションを排他的に採用するよりもむしろ、議論を通して各オプションの整理が進み、理解が深まり、より良い提案になってゆくことを促進する役割が期待されます。
 ベンチマークや時間軸によって補強・改訂された日本の「ビルディング・ブロック」作業文書はその材料の一つとなりうるでしょう。

(5) 日本自らが核兵器依存から脱却する方向を明確にし、その立場からの発言や貢献を行ってください
 補強・改訂された「ビルディング・ブロック」作業文書の提案を含め、OEWGにおける日本の主張が、信頼性と説得力を持つためには、日本自身が核兵器に依存しない安全保障政策に転換する準備に入るとの誓約が、OEWGにおいて示されることが必要です。
 第70回国連総会で採択された日本提案の決議「核兵器完全廃棄に向けた新たな決意のもとでの団結した行動」(A/RES/70/40)の主文第10節は次のようにいっています。「関係する加盟国が、核兵器の役割の重要性や一層の低減のために、軍事・安全保障上の概念、ドクトリン、政策を継続的に見直していくことを求める。」
 日本が、OEWGにおいて自らこの見直し過程を断固として進めると表明し、その立場からの発言や貢献を行えば、同じように核兵器に依存している他の国々に大きな勇気を与え、核兵器に依存しない国々は日本の発言に対する信頼を高めるでしょう。
 北東アジア非核兵器地帯構想の協議を呼びかけることは、その具体的な一歩になるでしょう。

※編集部注 「別添」の〈表〉は、ピースデポ・ウェブサイト内に掲載のPDFファイル<www.peacedepot.org/media/pcr/160216_mofayousei_oewg.pdf>の最終ページを参照。