【戦争を欲する「軍産学複合体」を作らせない】 武器開発と輸出に市民の監視を 武器輸出反対ネットワーク(NAJAT)代表 杉原浩司

公開日:2017.07.14

 これは確信を持って言えるのだが、現在日本は「軍産学複合体」形成のとば口に立っている。その2つの柱が、武器輸出と軍学共同研究だ。ここで踏みとどまることが出来なければ、日本は「戦争できる国」から「戦争を欲する国」へとさらに変質するだろう。私たちは今、歴史的な分岐点に立っている。
 2014年4月1日、安倍政権は「国是」とされた武器輸出三原則を国会審議を経ない閣議決定のみで撤廃し、「防衛装備移転三原則」を策定した。それ以降、各国の軍幹部や軍需企業の日本詣でが相次ぎ、日本は国際武器見本市への参加と国内開催を解禁した。防衛装備移転三原則により、最初に、米国向けのPAC2ミサイルの輸出と英国との空対空ミサイルの共同技術研究が認可された。ともに、第三国への武器拡散につながる案件だ。

難航する武器本体の輸出

 しかし、武器輸出の解禁から3年近く経つのに、武器本体の輸出はうまくいっていない。英国へのP1哨戒機輸出の失敗、豪州への潜水艦輸出商戦での敗北に加えて、有望と見られていたインドへの軍用救難飛行艇US2の輸出も難航している。こうした状況に、森本敏・元防衛大臣は昨年10月に開催された国際航空宇宙展で「アジアにそっくり装備品を移転するのは難しいのではないか」「日仏、日米などで共同開発した武器の供与を考えるべきだ」と述べた。新たに浮上したニュージーランドへの川崎重工製のP1哨戒機、C2輸送機の輸出案件も、米国や欧州の軍需企業との一騎打ちが予想され、輸出はそう簡単ではないだろう。
 一方で、共同研究や共同開発は着実な進展を見せている。武器輸出の「先がけ」とも言うべき日米の「ミサイル防衛」共同開発は、イージス艦から発射するSM3ブロック2Aの海上での迎撃試験「成功」(17年2月3日(ハワイ時間))を受けて、生産段階へと移行しつつある。日本は21年度から調達する予定となっており、能力改修型のあたご型イージス艦への搭載が想定されている。また、三菱電機が参画している日英の空対空ミサイル共同研究は、17年度中に共同研究が終了する見込みと報じられており、開発に進むことは必至と見られる。日本も導入を始めているF35戦闘機などへの搭載が見込まれている。さらに、17年1月5日の日仏防衛相会談で、機雷探知技術を共同研究することも決まった。

日米武器開発の一体化が加速

 武器本体の輸出が難航する中で、この間明確になってきたのは、日本の得意とする民生技術(デュアルユース技術)を、自衛隊のみならず米軍をはじめとする他国の武器開発に提供しようとする動きだ。それが、日本版「軍産学複合体」の形成を実質的に促進するものとして作用している。
 昨年8月31日、防衛装備庁は20年先を見すえた武器開発に関わる3つの文書を公表した。「防衛技術戦略」1は米国防総省による武器開発計画に日本を組み込もうとするもので、日米新ガイドラインの「装備・技術協力」に基づいて民間企業や大学・研究機関を丸ごと動員し、日米による武器開発の一体化を図ろうとしている。
 同戦略の付属文書である「平成28(2016)年度中長期技術見積もり」2では、今後優先すべき武器開発分野として、無人化(ロボット化)、スマート化(人工知能)、高出力エネルギー技術(レールガン)などをあげている。これらは「第3の相殺(オフセット)戦略」(民間技術の取り込みで武器を革新することで軍事的優位を確保)を掲げる米軍が、まさに重視している分野に重なる。
 そして、同時に公表された「将来無人装備に関する研究開発ビジョン」3では、初めて「戦闘型無人機」の開発に踏み込み、中長期技術見積もりでは、それをアフリカなどの紛争地域で運用することさえ構想している。これらの文書のキーワードである「技術的優越」は米軍の戦略文書のコピーである。

ITが主導する「戦場の革命」

 米国防総省傘下のDARPA(国防高等研究計画局)のアラティ・プラバカール長官は、「最新の民間技術にアクセスし、それを国防総省の持つ秘密資源にしっかり統合すれば、驚異的な戦闘能力の向上が実現するはずだ」と述べている4。IT産業が新たな「戦場の革命」を主導する構図であり、そこに日本の民間企業や学術の現場が組み込まれつつあるのだ。この動向は、軍備増強を掲げるトランプ新政権の登場により、さらに加速するだろう。安倍・トランプ会談後の日米共同声明(2月10日)には「防衛イノベーションに関する2国間の技術協力を強化する」と明記された。
 そして、それを裏づけるような露骨な動きも発覚した。昨年11月下旬、米国防総省関係者が日本の民間技術を米軍の武器に採用できるかどうかを調べるために、経済産業省の仲介で、日本企業を対象とした秘密説明会(約60社が参加)を開催、12月上旬には個別面談(18社が参加)さえ行った(1月9日、共同通信)。

学術界に及ぶ軍事化の波

 学術界に関しては、2015年度に防衛省が創設した「安全保障技術研究推進制度」5の拡充が図られている。研究費不足に悩む大学・研究機関の弱みにつけ込む形で、税金を投入して軍事研究へと誘導しようという制度である。15年度3億円、16年度6億円から、17年度政府予算案では、なんと18倍の110億円が満額で認められた。1件あたり5年で数億から数十億円もの大規模研究課題の採択が狙われている。
 こうした軍事研究推進制度に対してどう向き合うかという日本学術会議の議論も大詰めに差しかかっている。3月7日に「安全保障と学術に関する検討委員会」の声明案がまとまった。過去の軍事研究禁止声明を「継承」し、防衛省の制度への応募を強く抑止する内容になっている。4月13日からの総会で、声明が確定することになるだろう。今後、大学や研究機関に対して、応募しないよう働きかけることが必要だ。
 さらに、日本の科学技術政策の軍事化の動きも著しい。日本の科学技術政策の「司令塔」とされる「総合科学技術・イノベーション会議」に、昨年9月から稲田防衛相が臨時議員として参加し、3月には軍民両用技術の開発を推進するための研究会さえ設置される。宇宙政策においても、1月に海外派兵を支援するための防衛省初の軍用通信衛星が打ち上げられた。また、今国会に、中古武器を無償または安価で輸出するための防衛省設置法改悪案も提出されている。
 安倍政権が前のめりに推進する「軍産学複合体」の本格的な形成=「死の商人国家」への変質を食い止めるには、企業が消費者に「死の商人」と見られることで企業イメージがダウンすることを恐れる「レピュテーションリスク」を最大化することが必要だ。消費者としての市民一人ひとりの意思表示こそが力になるだろう。


1 www.mod.go.jp/atla/soubiseisaku/plan/senryaku.pdf
2 www.mod.go.jp/atla/soubiseisaku/plan/mitsumori.pdf
3 www.mod.go.jp/atla/soubiseisaku/plan/vision.html
4 『Newsweek日本版』、16年12月13日号。
5 www.mod.go.jp/atla/funding.html