【日本のプルトニウム政策を検証】 18年「日米原子力協定」延長にらみ国際会議 原子力資料情報室 松久保 肇

公開日:2017.09.14

背景とねらい

 原子力資料情報室は米国の「憂慮する科学者同盟」と共催で、2月23日・24日の2日間にわたり、「日米原子力協力協定と日本のプルトニウム政策国際会議2017」(以下PuPo2017、なおPuPoはPlutonium Policyの略)を東京の国連大学にて開催した。国際会議には米国、韓国、台湾、中国、フランス、ドイツ、そして日本から23人のスピーカーを招き、参加者は150人を得た。
 日本ではこれまで、使用済み燃料を再処理して取り出されるプルトニウムを、高速増殖炉で燃料として使うとともに、増殖させて再び使うことを方針としてきた。一方で、再処理は計画通りには進まなかった。2014年に廃止が決定された東海再処理施設は、1981年の稼働から2012年までで1,140トンウラン分の使用済み燃料を再処理したが、年間210トンウランと称した処理能力には遠く及ばなかった。1993年に着工した六ヶ所再処理工場も23回の稼働延期を重ねて未だ稼働できていない(現在は2018年稼働予定)。さらに2016年には高速増殖炉原型炉もんじゅの廃炉が決定されるなど、高速増殖炉計画も進んでいない。
 日本は2014年のハーグ核セキュリティサミットでの安倍首相ステートメントにある通り、「『利用目的のないプルトニウムは持たない』との原則」を持ち「プルトニウムの回収と利用のバランスを十分に考慮」することを国際公約としている。プルトニウム利用が進まない中、政府と電力会社はウランとプルトニウムの混ざったMOX(Mixed OXide)燃料を軽水炉で使おうとしてきた(プルサーマル)。しかしこの計画も順調ではない。
 こうした環境下で、2018年には1988年に締結された現行の日米原子力協力協定が期間満了を迎えることとなる(ただし期間満了後は自動延長され、日米いずれかが6か月前に事前通告することにより協定終了となる)。これに対して日本の私たちは何ができるのか。国際会議の主な狙いはそれを考えることにあった。そのため、必ずしも原子力に否定的ではない方、日本のプルトニウム政策を堅持するべきだという立場の方にもご登壇いただいた。この種の会議でこのような多様なスピーカーが一堂に参加する機会はこれまでなかったのではないかと考えている。
 もう一つの狙いは日本のプルトニウム政策の世界への広がりを考えることにあった。
 1988年に締結された現行の日米原子力協力協定では米国が日本に使用済み燃料の再処理に関する包括事前同意(協定に定められた特定の施設における再処理の実施を事前に認める)を行っている。1988年に現行協定が締結される際には、米国政府・議会に強い反対が存在し、この反対は今なお存在する。なぜなら、日本が再処理を行うことは、近隣諸国を刺激することにつながるからだ。
 日本は日本のプルトニウムは平和利用目的にしか使わないと説明する。しかし、日本は国内外に48トンのプルトニウムを保有し、それを使うあてもないまま、年間8トンのプルトニウムを分離する六ヶ所再処理工場を稼働させようしている。その姿を周辺諸国は、平和利用というだけでは説明がつかない、日本はいざとなれば核兵器を保有できる体制を維持しようとしているのではないかとみている。
 米国は日米原子力協力協定締結以降、非核兵器保有国には再処理の包括事前同意を認めていない。しかし日本にみとめてなぜ自国に認めないのかという声は絶えない。例えば2015年に締結された米韓原子力協力協定の交渉時、韓国はそのように主張し、実際にプルトニウムを取り出す前段階までの技術研究を認められることとなった。日本のプルトニウム政策は国内の経済性・安全性問題にとどまることなく、国際安全保障問題に直結する課題なのだ。

成果と課題

 2日間の議論を通じて、日本のプルトニウム政策が行き詰まりを迎えていることが改めて確認された。国際会議の登壇者の一人で原子力も核燃料サイクルも推進するべきだとする遠藤哲也元原子力委員会委員長代理も、例えば16~18基の原発でMOX燃料を使うことで余剰プルトニウムを減らそうとする「プルサーマル計画」の実施に見通しが立たないことなど、日本の核燃料サイクル政策は問題を抱えており、その推進には再処理と高速炉の将来像を描き出す司令塔が必要だと主張した。司令塔が必要だという主張は、逆説的に司令塔が存在しない、誰も日本のプルトニウム政策を積極的に進めたがっていない、ということを示している。さらに会議では日本政府が主張するエネルギー安全保障に資するプルトニウム政策という点も偽りがあることが明らかになった。ウラン資源は枯渇する状況にはなく、プルトニウム利用は極めてコスト高なのだ。
 2日間の国際会議で改めて確認されたのは、日米原子力協力協定は自動延長路線が濃厚であること、しかし、米国議会など協定を変更するための手掛かりは存在するということだった。米国からの登壇者から、米国で同趣旨のシンポジウムを開催してはどうかとの提案もあった。また、会議の終了に際して国際会議参加者有志でPuPo2017声明を発表した(資料)。なお現在、原子力資料情報室では米国への代表団の派遣を検討している。